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季節イベント『贈品』

 これは、まだ人工種のっぺらぼう科レイパーとの戦いに、ケリがつく前の話。


 浅見四葉とラティアがデートした、丁度次の日のこと。


 九月十六日日曜日、午後一時ジャスト。


 束音家の庭にて、クラッカーの音が鳴る。


 そして、こんな声が響き渡った。




 ――レーゼさん、お誕生日おめでとう――と。




「えーっと……ありがとう、皆」


 今日は、レーゼ・マーガロイスの、十七歳の誕生日。


 これは、彼女の誕生日会である。


 仲間達に囲まれ、恥ずかしそうに、くすぐったそうにはにかむレーゼ。こういった経験は、初めてだった。


「なんだか、照れるわね。こんなに大きなケーキまで用意してもらって」


 テーブルの上に置かれた、三段もの高さのある豪華な誕生日ケーキ。葡萄や梨、シャインマスカット、無花果などがふんだんに使われたショートケーキだ。


 用意してくれたのは――


「イオリ、ありがとう。こんなに大きなケーキ、用意するのは大変だったでしょう? ユウイチさんとユウカさんにも、お礼を言わないとね」


 レーゼにそう言われると、目つきが悪いながらも、柔らかい表情を浮かべるおかっぱの女性、冴場伊織がビシっと敬礼してみせる。


 なお、優一と優香はこの場にいない。あまりにも歳が離れすぎている自分達がいると、無駄に気を遣わせてしまうだろうという配慮からだった。


「どういたしましてっす。雅ちゃんにも、お礼を言っておくっすよ。知り合いにパティシエがいるって紹介してくれたの、雅ちゃんっす」

「ふふ、ミヤビ、ありがとね」


 流石の交友関係だと舌を巻くレーゼに、雅はドヤ顔でサムズアップをしてみせた。




 ――みんなでワイワイ話をしたり、軽食やケーキを食べたりして一時間後。


「――むぐ。それじゃ、そろそろプレゼントターイム! トップバッターは私ねー」


 エアリーボブの女の子、橘真衣華が、口一杯に頬張っていたケーキを飲み込み、元気よく手を上げてそう宣言する。


「誕生会だけじゃなくて、プレゼントまで……」

「いいのいいのー、受け取ってー。レーゼさんには、いつもお世話になっているからねー」


 そう言いながら、真衣華は、綺麗に包装された包みをレーゼに渡す。


「開けてみて―」と促され、レーゼが丁寧に梱包を解くと、そこには――


「これは……研ぎ石?」

「そうそう。最も、面直し用の砥石……つまり、研ぎ石を直すための砥石なんだけどねー。ほら、レーゼさんが使っている砥石、結構凹んでいるじゃん? あれじゃ研ぎ辛いでしょ?」


 レーゼの使う剣型アーツ『希望に描く虹』……激しく戦えば、あれだって刃こぼれしてしまう。レーゼはそれを研ぐのに、いつも研ぎ石を使っていた。


「砥石を直す砥石なんてものがあるのね……。私、今まで砥石が駄目になったら、買い替えていたわ。今使っているのも『新しいのに変えないと』と思っていたのだけど……」

「経済的じゃないでしょ? 後で使い方、教えてあげるねー」

「……ふふ、マイカらしいプレゼントね。ありがとう。大切に使わせてもらうわ」

「ふむ、橘がいいスタートを切ったところで、次は私だな」


 得意気な顔でレーゼの方へやって来たのは、長身の三つ編みの少女、篠田愛理。


 手に提げているのは、白い紙袋だ。


 中を見て、レーゼは目を丸くする。


「あら、このお菓子……」

「ええ。前に送った時、気に入られたようでしたので」


 中に入っていたのは、クッキーの詰め合わせ。


 雅が異世界から何とか自分の時代に戻り、愛理が久しぶりに束音家に招かれた際、手土産として持ってきたものだった。


「ええ、とっても美味しくて、機会があれば、また食べたいと思っていたのよ。ありがとう。……他にも入っているけど、違うお店のお菓子かしら? んー……ろしあんるーれっと?」

「篠田さん、あなたまたベタなものを……」


 ジト目になる希羅々に、愛理は「はっはっは」と快活に笑う。


「変わり種が入っていた方が、面白いだろう? ……これ、チョコレートなんですが、実は一個だけ……あぁ、いや、これは知らない方が面白いかもしれない。……くっくっく、後で動画を取りながら、皆で一緒に食べましょう」

「動画……? まぁ、いいけど……変なアイリね」


 ロシアンルーレットチョコ。一個だけ激辛ハバネロ味が混ざっている、オーソドックスなパーティ用のお菓子。


 ……後で皆で食べた際、何も知らないレーゼに見事的中して悶絶。愛理は初めてレーゼにどつかれることになったのだが、それはまた別のお話である。




 ***




「えっと……じゃあ、恐縮ですけど、次は私です」


 愛理の後にプレゼントを持ってきたのは、銀髪フォローアイの少女、ヒドゥン・バスターのライナ・システィアだ。


 レーゼが、渡された袋の中を見てみれば――


「あっ、このアイマスク!」

「そうそう! バスター必須の睡眠道具です!」


 ライナも愛用している、アイマスク。


 他にもアロマや耳栓等の、安眠用のグッズがたくさん入っていた。


「優秀なバスターの人は大体皆、このアイマスクを持っているのよね。私もいつか買いたいって思っていたのよ」

「なんだかんだ、私達の生活って不規則ですし、眠れる時にちゃんと寝ておかないと、戦えませんからね。こういうのがあると、短い睡眠時間でも効率的に眠れるんです。勿論こういったグッズを使う以外にも、例えば睡眠時間を一・五の倍数にすると――」

「ラ、ライナ?」


 睡眠について熱弁し始めたライナに、呆気にとられるレーゼ。考古学や骨董品以外で、こんな風に語る彼女は初めて見た。


 すると、


「おいおいライナ、その辺にしとけ。そろそろ俺の番だ」

「起きる時間は一定に――って、ああっ、ごめんなさい!」


 赤髪ミディアムウルフヘアの女性、セリスティア・ファルトに肩をポンポンと叩かれ、そこでライナはやっと止まる。


 恥ずかしそうに顔を赤くし、すごすごと逃げるようにレーゼから離れるライナに、辺りから生暖かい目が向けられる中――


「俺はこれだ! トレーニンググッズ!」


 セリスティアは、リボンで簡単にデコレーションしたプレゼントをレーゼに見せつける。


「これは……ボール? 結構大きいわね」

「メディシンボールっていうらしいぞ。俺も初めて見た。レーゼの髪色に合わせて、水色のやつを選んだんだ。ほいよ」

「おっと……っ!」


 バスケットボール程のサイズのボールを受け取ると、その重量感にレーゼは目を見開く。


「使い方も後で教えるな。まぁ、なんつーか……もっと可愛いプレゼントとか選べりゃ良かったんだが……俺にはどうも、女らしいプレゼントなんて思いつかなくてなぁ……」

「いや、全然嬉しいわ。ありがとう、セリスティア。折角だし、一緒に使いましょ」


 レーゼの嬉しそうな声色に、セリスティアはVサインをしてみせながら、内心でホッとする。実は相当に悩みに悩み、何とか自分でも納得できるプレゼントを選んだのだ。喜んでもらえたのは、相当に嬉しかった。


「はーい、それじゃ、次は私! はい、どーぞレーゼさん!」


 黒髪サイドテールの少女、相模原優が、包装された箱を渡す。


 レーゼが中を見ると、中に入っているのは――


「ハンドクリームやリップ……それに香水じゃない」

「あと、簡単な化粧品とかもあるんですよ。バスターの仕事って不規則でしょ? 時間ない時でも使える、こういうのがいいかなって」

「そうね、バスターになってから、あまりお洒落とかすることが無くて……せめて肌の調子くらい気を配らなきゃって思ってはいたんだけど……」

「うぉぅ、レーゼさん、やっぱすっぴんだったんですね。……美人は素材から違うなんて……」

「ちょ、ユウ! 変なこと言わないで! 照れるじゃない!」


「そんなことないわよ、もう!」と言わんばかりに、恥ずかしそうな顔のレーゼは優の背中をバチンと叩き、笑いが起こる。


 そんな中……。


「……あれ? 希羅々が選んだのって――」

「こ、こら真衣華! 余計なことを言うんじゃないですわ!」


 そのやりとりを、顔を強張らせて見ていた、ゆるふわ茶髪ロングのお嬢様、桔梗院希羅々。


 真衣華に尋ねられると、慌ててその口を塞ぐが、時既に遅し。


 周りから「何だ何だ」という目を向けられ、逃げられないと悟った希羅々は、渋々プレゼント片手にレーゼのところへ行く。


「……これを」

「……あー」


 希羅々が躊躇いがちに渡してきた紙袋。レーゼが怪訝に思いながら中を見て、納得する。


「ま、まさか相模原さんと似たようなものをチョイスしてしまったとは……」


 スキンケア用品や化粧品……全部が全部同じでは無いが、割と優が渡したものと同じものだったのだ。何なら、箱か紙袋かの違いはあれど、買った店も同じである。


「はぁぁ? きーららちゃーん、まさか、私のチョイスをパクったわけじゃ――」

「そんな訳ないですわ! くっ……センスがあなたと同レベルだなんて……!」

「ちょいちょいちょーい、それどういう意味ぃっ?」

「はいはい、喧嘩しないの二人とも! ――ありがとう、どっちも大事に使わせてもらうわ」


 相変わらずの二人に苦笑しながらも、レーゼはありがたく、プレゼントを受け取るのだった。




 ***




「じゃ、次は私達からだね」


 そう言ってやって来たのは、紫髪ウェーブの少女、ファム・パトリオーラ。そして前髪の跳ねた緑のロングヘアーの、ノルン・アプリカッツァである。


「本当は一人一個ずつって思ったんですけど、ちょっと色々事情があって、ファムと私の共同で……」


 そう言って、ノルンが差し出したのは、リボンのついたバスケット。これを、二人でお金を出し合って買ったのだ。


「無理させちゃって、ごめんなさいね。学生のお小遣いは貴重でしょう? でも、ありがとう。――あら、可愛いぬいぐるみじゃない!」


 中に入っていたのは、犬と猫の小さなぬいぐるみ。実は学生達の間で密かに流行っているものだったりする。


「ん、私とノルンで選んだんだ。大事にしてね。まぁレーゼには、少し子供っぽ過ぎたかもしれないけど……」

「ぬいぐるみなんて、子供の時に触って以来かしら? 昔は私も、寝る時とかによく抱いていてねぇ……」


 当時を懐かしむように目を細めるレーゼ。


 早速中から猫のぬいぐるみを取り出して、優しく撫で始める。


「今のぬいぐるみって、こんなに撫で心地がいいのね。ふわふわしていて、柔らかい……」

「あー、レーゼ?」

「そう言えば、あの頃買ってもらったぬいぐるみ、どこに片付けたのかしら? 折角だから、一緒に飾りたいわ。それにしても、可愛い猫ちゃんね」

「……レーゼさん、もしかして猫好きですか?」


 何となく、いつものレーゼと反応が違う気がして、ノルンが控えめにそう尋ねる。


 すると、レーゼはハッとした顔になり――わざとらしい咳払いをしはじめた。


「ん、んんっ! や、その……別に、好き嫌いというか……ほら、猫って嫌いな人、いないでしょ?」

「いや、まぁ私も好きだけどさ」

「ほら、ファムだってこう言っているじゃない! そう、普通の反応! 普通の反応よ!」

「あ、いや、私も好きだけど、レーゼ程熱心じゃ――」

「あー、はいはいファム! そこら辺にしておこうっ? そ、そうだ! はい次! シャロンさんお願いします!」

「あ、あらシャロンもプレゼント、くれるのねっ? 嬉しいわー!」


 空気を読んで気を遣うノルンに、何となく生暖かくなってきた皆の視線を変えようと声を張り上げるレーゼ。


「もぐもぐ――ちょ、儂かっ?」


 それまでケーキを頬張っていた山吹色のポンパドールの幼女、シャロン・ガルディアルが、ほっぺについたクリームを拭うことも忘れて表情を強張らせた。


 慌てて周りを、そしてレーゼが持っているプレゼントを見て、どことなく気まずそうな顔になり、やたらゆっくりと――まるで母親に叱られにいく子供のような足取りで、レーゼのところへ向かう。


 どうしたのか……とレーゼが思っていると、シャロンは恐る恐るといった様子で、ポッケから何か封筒を取り出し、「……これを」と言って、その中身をレーゼに献上した。


 差し出された紙切れを見て、レーゼは表情を引き攣らせる。


「……シャロン、これは?」

「…………すまん! 金が無かった! これで許してくれ!」


 後生だ、と、悲痛な叫び声を上げるシャロン。


 紙切れには……『何でも言うことを聞く券』と書かれていた。


 それを側で見た雅が「ちょ! 私もこれ欲しいですぅ!」と叫び出したのを拳で黙らせ、レーゼはいよいよ困った顔になる。


「いえ、嫌ではないの。ただ、竜人に何でも言うことを聞かせられる券なんて、ちょっと恐縮というか何と言うか……」

「気にせず、何でも言ってくれ! 買い物の荷物持ちでも、肩もみでも、何でもやるぞ!」

「そ、それこそ恐れ多いわ!」


 雷球型アーツ『誘引迅雷』……それを購入するのに、ただでさえ雅からお金を借りているシャロン。プレゼントを買う余裕なんてものは当然なく、頭を捻った結果これだったのだが……かの竜人に、まるでパシリのようなことをさせるなんて、レーゼにはとても出来そうにない。


「無茶でも何でも言っておくれ!」と頼むシャロンに、「そんなこと出来ない!」と顔を青くするレーゼ。


 やんややんやと騒ぐ二人を、最初は笑って見ていた皆だったが……何時までも終わらず、雅達が止めに入り、最終的にレーゼが折れたことで、ようやく収束するのだった。




 そして、数分後。


「エー……落ち着いたところデ、私はこれでス!」

「あら、シアは漫画ね。あなたがオススメしてくれるのは、どれも面白いから期待しちゃ――んん?」


 漫画の表紙を見た瞬間、レーゼの目が点になる。


 剣を構えた少女の冒険譚……のようだが、主役らしき女の子は青髪ロングに翡翠の眼――どう見ても、レーゼ本人だ。


「シ、シア? これは、その……んー?」

「はイッ! レーゼさんを主役にした漫画を描きましタ! 作者は私! 私でスッ!」

「あ、ちなみにアシスタントは私がやりましたよ!」


 目を輝かせてレーゼに迫る志愛。そしてその隣で軽く胸を張る雅。どうやら二人の合作らしい。


 グイグイと迫る志愛の圧に、レーゼは完全に気圧されていた。


「漫画を描くなんて初めてでしたガ! 滅茶苦茶巧く描けた自信がありまス! 是非! 是非読んデ、感想を聞かせて下さイッ!」

「ち、チラっと見ただけでも、随分私が美化されて描かれている気がするのだけれどっ?」

「私の目から見たレーゼさんでス! 現実でも同じくらいかっこいいですヨ!」

「シアの目から見て、私ってどう映っているのっ?」


 顔を真っ赤にしながら、レーゼは目を白黒とさせる。自分が主役の創作物を見るのは、レイパーと戦う以上の勇気が必要だ。


 因みに志愛の描いた漫画は、ちゃんと面白かった。……主役が自分自身だから、気恥ずかしくて中々ページを捲れないのが勿体ないくらいには。




 ***




「さて、じゃあ私からはこれよ。ペン! お仕事で使うでしょう? バスターだって、書類仕事があるし……良いペンを使っていると、周りからも一目置かれるわよ? 心なしか、少し字も綺麗に書ける気がするし!」


 白衣のような形状をしたローブを身に纏う、金髪の美女ミカエル・アストラム。


 彼女のプレゼントは、レーゼも知っているブランドのペンだ。名入れもされている。ここまで熱弁している辺り、ミカエルが今日の為に、気合を入れて選んだのは間違いない。


 ……故に、レーゼは非常に申し訳なさそうな顔になる。何故ならば、


「あー、ミカエル。実はちょっと言いにくいんだけど……バスターの書類仕事って、決まったペンで書かないといけない決まりがあって……」

「……えっ?」


 バスターにも書類仕事は確かにあるが、基本的に重要書類のため、専用のペンとインクを使って書かなければならない。書類仕事をする際は、上長に申請し、厳重に管理されたペンとインクを借りる。このペンとインクには色々と魔法が掛けられており、何十年経ってもインクは消えずに残り、鑑定の魔法で調べると、何時、誰が書いたのか分かるようになっているのだ。


「も、もしかして、レーゼちゃんがこのペンを使う機会って……」

「えっと……実は殆どない、かもしれない。――ああ、いやでも、日常なら使うかも! 多分! きっと!」


 言いながら、レーゼは思う。


 日常の書き物も、大抵はULフォンのメモ機能などを使っているため、きっとこのペンは観賞用になるのではないか、と。


「で、でも本当にいいペンよ、これ! 確か、有名なペン職人さんのやつよねっ? 機会があれば、使ってみたいって思っていたのよ! 本当よっ?」

「うぅ……リサーチ不足だったわ……ごめんなさい……!」

「ああミカエル! そんなに落ち込まないで! 使う! 絶対使うから!」

「そ、そうですよ師匠! レーゼさんもこう言ってくれていますし! 来年! 来年リベンジしましょう!」


 地面に『の』の字を書き始めたミカエルを、レーゼとノルンが必死で慰めるのだった。




 その後、ミカエルがやっと落ち着いてきた直後。


 レーゼの服の裾が、ちょいちょいと引っ張られる。


 後ろを振り返れば、そこにいたのは、白髪の美しい少女、ラティア。


 その後ろには、ハーフアップアレンジがされた黒髪を背中まで伸ばした女性、浅見四葉が、柔らかい表情で立っている。


 ラティアの手には、リボンと包装紙でラッピングされた大きめの箱だ。


「私達からもプレゼントよ。受け取りなさい」

「しょ、正直あなた達から貰えるとは思わなかったわ……」


 ラティアはまだ子供だし、四葉とはお世辞にも良い関係を築けているとは思っていなかったこともあり、言葉以上にレーゼは驚いていた。


 四葉自身もそれを自覚しているのか、レーゼの言葉に苦笑いを浮かべる。


 ラティアが「早く開けてみて」と急かすようにジェスチャーしてきて、レーゼも「分かった分かった」と苦笑しながらリボンを解いた。


 入っていたのは――


「タンブラー?」

「昨日、ラティアと一緒に選んだのよ。まさか、直接渡すことになるとは思っていなかったけど」


 本当は、四葉は昨日、家に帰る予定だった。選んだプレゼントを渡す仕事はラティアに任せ、自分はULフォンで祝電でも贈ろうかと思っていたのだが……昨日はなんやかんやあって束音家に泊まることになり、それならば自分とラティアの二人で一緒に渡そうと思ったのである。


「気を遣わせちゃったみたいで、何だか悪いわね。でも、ありがとう」

「……あぁ、そうそう。あなた、お酒は飲めるのかしら? 異世界では、十五歳以上なら飲酒が可能と聞いたけれど」

「実は飲んだことが無いのよね。酔っぱらうのが嫌で、誘いとかも全部断ってきたから。でも……ちょっと、チャレンジしてみようかしら?」

「なら、冴場さんと飲んだらどう? 彼女、酔っぱらうと中々面白いらしいわよ」

「ちょっ、四葉ちゃんっ?」

「いいわね。イオリ、何時にする?」

「レーゼちゃんまで、何言ってるんすかっ? 絶対駄目っす! また醜態晒す羽目になるっすぅっ!」


 かつてのエントラウラでの酒の失敗を思い出し、伊織は真っ赤になって絶叫するのだった。




 ***




「それじゃ、最後は私ですね!」

「大取りはミヤビなのね。期待するわ」

「やー、ハードル上がっちゃいますねー!」


 全くプレッシャーなど感じていないような、雅の快活な笑い声。レーゼも釣られて、小さく笑い声を上げてしまう。


「てなわけで、これです! どうぞ! 開けてみてください!」

「……これは、包丁?」

「ええ。少し悩んだんですけど、そう言えば、今使っている包丁って、適当に買ってきたものじゃないですか。折角なら、ちゃんとしたものを使って欲しいかなって」


 それまで仕事一筋だったレーゼ。趣味なんてものは何もなく、ただバスターとしての務めを果たすためだけに生きてきた。


 そんなレーゼに、『料理』という趣味が出来たのは、雅の言葉が切っ掛けだ。


 折角出来た趣味なら、少しでも楽しんで欲しい……そう思って、雅はこの包丁を贈ったのだ。


「綺麗な包丁……」


 柄は美しいスカイブルー。柄には刻印が彫られており、傾けると七色に輝くようになっていた。刃紋は、まるで空に佇む雲のようにも見える。


(……握りやすいわね。これ、もしかしてオーダーメイドなんじゃ……?)


 自分の手にジャストフィットする形状の柄に、レーゼは敢えて言葉には出さず、そう思った。


「レーゼさん、これでたくさん、料理してくださいね!」

「ええ。そしたら、食べてくれる? 何なら毎日、美味しい料理、作ってあげるわよ」

「わーい!」


 レーゼと雅は、互いに満面の笑みを浮かべ、そんな会話をするのだった。

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