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第378話『急行』

「ん……んぅ?」


 ジャリっとした感触に、雅は目を覚ます。


 ゆっくりと起き上がり……辺りを見回して、気が付いた。


「ここ……元の世界?」


 見覚えのある風景。


 ここは、関屋浜海水浴場。時刻は夜の九時半だ。


 雅が、元の時代にタイムスリップを試みたあの場所に、雅は倒れていた。


「……っ! カレンさん! カレンさんっ!」

【……ぅん? ぁー……ん? ここは……?】

「良かった! カレンさん目を覚ましたんですね! 多分、元の時代です! 新潟です!」

【……っ! ミヤビ! あいつはっ? あの巨大なレイパーはっ?】

「……いる! 佐渡の隣に!」


 夜空の下、黒く光る日本海……その遠くに薄ら見える島、佐渡。


 そしてその隣には、白い物体が、相も変わらず佇んでいた。


 それを見た雅が、乾ききった唇を噛む。


 見せられた未来の光景がフラッシュバックし、嫌でも体が凍り付く。


「あ、あの巨大なレイパーを放っておいたら……あんなことになるんですか? 現代からたった三日で、あんな……」


 声は掠れ、震える。とても信じられる話では無い。今だって、海はいつもと何も変わらないのだから。


 だが、


【なる……のだろうね。きっとあれは、『逆巻きの未来』からの警告……いや、SOSなんだと思う】


 時計型アーツ『逆巻きの未来』が伝える、映像のメッセージ。


 このまま何もしなければ、人類に未来はなくなる……そう伝えてきているのだ。


「だけど、なんであんなことに……あいつは今まで、百年以上もあそこで動かなかったのに、急に暴れ出すなんて――あぁっ!」


 雅は思いだす。




 自分の時代では、既にラージ級ランド種レイパーの封印が解かれていたということに。




 今、世界の海の中には、二体のラージ級ランド種レイパーが存在しているのだ。


「ま、まさかあれが切っ掛けなんですかっ? 私達が封印のために打ち込んだ杭を、三ヶ月前に誰かが抜いてしまったから……」

【そ、そうか、一体だけじゃ何もしないけど、二体揃うと暴れ出すのかもしれない! ……なら、どっちか片方をもう一回封印すれば、あの未来を防ぐことが出来るんじゃないかなっ? 封印が解かれたもう一体の行方は分からないけど、佐渡の隣の奴はそこにいるんだし!】


 雅がエネルギーを注入した杭は、三本。


 一本はガルティカ遺跡の装置を動かす媒体に使用し、一本はデルタピークで封印に使用した。


 だから、まだ使っていない一本がある……が。


「で、でもどうすればっ? 封印しようにも、杭は手元に無いですよっ? 楽器店の倉庫の裏に置きっぱなしです!」

【あぁっ! そうだった! ならラティアちゃんに取りにいってもらって……いや、でも駄目か! 封印しようにも、キャピタリークからじゃ距離が遠すぎる! こっちに送ってもらうか……いや、時間が掛かり過ぎるし……! ならもう一回タイムスリップして、杭が抜かれるのを阻止するしか……!】

「だ、駄目です、カレンさん……タイムスリップしようにも、もう逆巻きの未来が……!」


 逆巻きの未来を見た雅が、愕然とした声を上げる。


 何度もタイムスリップをして、カレンの過去や、絶望の未来を見たからだろうか。


 逆巻きの未来は、プスリと煙を吐き、発熱していた。


 そして雅が見ている前で、バキっと派手な音を立てて、本体に亀裂が入ってしまう。


 誰もが見て分かるくらい、壊れてしまったのだ。


【ど、どうすれば……!】

「…………」


 雅はカレンの言葉に眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、すぐに「あっ」と小さく声を上げる。


「杭はキャピタリークのバスターの人に頼んで、魔法でこっちに送ってもらえればいいんじゃないですかっ? 向こうにお願いすれば、やってくれるんじゃ……」

【でも、ラティアちゃんが頼んで、動いてくれるかどうか……あ、そうか! レーゼさんに事情を説明して、向こうに協力を要請してもらえばいけるか!】


 元々雅がキャピタリークで色々調べごとをしたり、バスター署の資料を見せてもらえるようにしてくれたのはレーゼだ。一般人のラティアが頼んでも駄目だろうが、レーゼの依頼であれば聞き入れてもらいやすいはずである。


 グッと拳を握り、遠くにいるラージ級ランド種レイパーを睨みつける雅。


「三日後の世界は、もう既に多くの被害が出ていました。……奴が暴れ始めたのが何時からなのかは分からないけど、のんびりしている暇はありません!」

【やることを整理するよ! まずはレーゼさんに連絡して、キャピタリークのバスターに協力を要請する! 杭はラティアちゃんに取りに行ってもらおう! 今なら向こうは午前の十一時頃のはずだから、ラティアちゃんにも連絡がつくはずだ!】

「うちに、セリスティアさんがいます! 杭は彼女宛に送ってもらえばいいですね! 杭はどこに打ち込むか……」

【ミヤビの家の、どこかにしよう! 位置的には、多分封印出来るはずだよ!】

「うちなら、抜かれないか監視もしやすいし、いいかもしれない!」


 そんな会話をしながら、雅はULフォンを起動し、レーゼに電話を掛ける。


 ワンコールもしない内に、レーゼは出る。


 すると――


『ミヤビ! 良かった、繋がった! そっちは無事っ?』

「レーゼさんっ? えっ? 無事って……っ?」

『今、地震があったでしょ! 地震っていうには、変な揺れだったと言うか……』

【ミヤビ! 多分、私に化けたレイパーが過去で色々やったことが、現代に響いているのかもしれない!】

「そういうことですか……! ――レーゼさん! ごめんなさい、詳しく説明している時間が無いんですけど、キャピタリークのバスターの人に、超特急で協力を要請したいことがあるんです!」

『ミ、ミヤビっ?』


 相当に切羽詰まった様子の雅の声に、困惑するレーゼ。


 そんな彼女に、雅は要点を掻い摘んで説明しながら、自宅の方へと走り出す。




 破滅の未来まで、後三日――。

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