第40話『再飛』
一方その頃。雅は、魔王種レイパーに苦戦を強いられていた。
最初こそ『帯電気質』のスキルにより強化された肉体と、この雨のお陰で魔王種レイパーにダメージを与えられていたものの、それでも自力はまだレイパーの方が上。雅の強化に驚いたような顔をしていたのは最初だけで、その後はまたあのニヤけ顔を取り戻していた。
レイパーが少し本気を出せば、雅の動きの上をいく事等、造作も無い。
果敢に攻撃を仕掛けるも、全て空振りに終わっていた。
それでも雅は諦めない。
最初にレイパーに斬りつけた時に出来た傷。それはまだくっきりと残っている。再生する様子も無い。
あの傷跡に攻撃を叩きこみ続ければ、いずれ活路が見える。そう信じて、雅は必死に攻撃を続けていた。
そしてもう一つ。
数秒前に後方で聞こえた爆音は、ミドル級ワイバーン種レイパーが爆発四散したものだということは分かった。シャロンが、レイパーを倒したのだ。
ここで彼女が助太刀にくれば二対一。
踏ん張りどころだ。
雅はレイパーに、Xの字を描くように素早く四連撃を放つと、間髪を入れずに回転斬りを仕掛ける。
その全てを余裕の表情で躱されるが、雅の真の狙いはそこでは無い。
最後に放った回転斬りにて、アーツの切先を地面に落とす。
ぬかるんだ土が大量に爆ぜ上がり、レイパーの視界を覆った。
そしてレイパーの背後に素早く回りこみ、アーツを振り上げると、がら空きの背中に本命の一撃を放つ。
が――
「――っ!」
それが命中する前に、レイパーの姿は消える。
直感で後ろを振り向けば、そこにはレイパーの姿が。
その刹那、レイパーのニヤけ顔が若干強張る。
咄嗟に後方に飛び退くと、今までレイパーがいたその場所に、雷のブレスが着弾した。
「シャロンさん!」
「すまぬ! 遅れた!」
駆けつけたシャロンの援護だった。
そして雅は地上から。シャロンは空中から、それぞれレイパーへと接近する。
シャロンが上空から尻尾を叩き付けるも、レイパーは最小限のステップでそれを躱す。だがその動きを先読みしていた雅が、真横に力一杯に斬り付けた。
それをレイパーが跳躍して避ければ、空中で自由に動けなくなったところにシャロンのブレスが放たれる。
レイパーはそれを黒い衝撃波で相殺し、衝撃を利用して一瞬の内に着地するも、そこには雅の姿が。
真上からぶった斬ろうと、全力で放った一撃。
雷の力が乗ったこの攻撃。濡れた体ではまともに喰らう事は勿論、受け止めることすら不可能だ。
雅には、この一撃でレイパーに大ダメージを与えられる未来が明確に見えていた。
しかしその瞬間。
まるで白刃取りするかのように、両手で百花繚乱を挟みこむようにして抑える魔王種レイパーに、雅の顔は驚愕に染まる。
それだけでは無い。
「なん……で……っ?」
力を込めているつもりなのに、どんどんと体から力が抜けていく。いくら押し込もうとしても、これ以上レイパーの方に入っていかないのだ。
その時、彼女は知った。『帯電気質』の効力が切れたのだと。
このスキルを初めて使う雅は知らなかった。リアロッテと違い、雅の『帯電気質』の効果時間は二分しかないことを。
不気味な笑い声が、下から聞こえてくる。レイパーの声だった。
「タバネっ! 急いでそ奴から離れよ!」
シャロンの叫び声が聞こえる。
雅とレイパーとの距離がかなり近いため、シャロンは攻撃を仕掛けることが出来ないでいた。出来るのは、警告を発することだけだ。
刹那、雅の腹部に強烈な一撃が打ち込まれ、声も無く彼女の体は宙に舞う。
背中から思いっきり地面に叩き付けられ、泥が跳ね、痛みにもがき苦しむ雅。
そんな彼女に止めを刺さんと、近づこうとしたレイパー。
その時。遠くで眩い光が発生する。
魔王種レイパーはその光の方をちらっと見ると、名残惜しそうに二人を見て、その光の方へと体を向ける。
そこに打ち込まれる、雷のブレス。
魔王種レイパーはそれを黒い衝撃波で相殺すると、その隙にもの凄い速度で光の方へと走り出し、あっという間に姿を消してしまう。
シャロンは低く唸り声を上げながら、倒れた雅の近くに降り立つ。
「タバネっ! 大丈夫かっ?」
「な……何とか……。それより、早くあいつを追わないと……! 何だか嫌な予感が――」
攻撃を受けた箇所を押さえながら、雅はゆっくりと上体を起こしつつもそう言う。
刹那、地面が揺れる。よろめく雅とシャロン。
轟音と共に、遠くでゆっくりと天空島が上昇するのが見えた。
その天空島一点から、黒い衝撃波が雅達の方へと飛んでくる。魔王種レイパーのものだ。
シャロンが雅を抱えて急いでその場を離れると、そのすぐ後に、今まで彼女達がいた場所に攻撃が着弾する。
揺れが収まり、その後も攻撃を警戒していた二人だが、何も無く、飛び上がった天空島は別の場所へと移動を始めた。
向かう先は、シェスタリア。
魔王種レイパーがこの島に来た目的は、想像通り、天空島のエネルギーの充電だったのだと、二人は確信した。
「ぐぅ……攻撃を始めるつもりかのぅ……!」
「行きましょう! じゃないとたくさんの人が殺される!」
「うむ! 乗れ!」
シャロンはそう言うと、雅を掴んで背中に乗せ、翼を広げて飛び上がった。
そして想像以上に速いスピードでシェスタリアへと向かっている天空島の跡を追う。
***
時刻は午前十時四十二分。
強かった雨も小雨になり、もう少しすれば止むだろうといった頃。
シェスタリアの上空で動きを止める、天空島。
その様子は、遠くにいる雅とシャロンも分かった。
天空島の、ある一点。そこから強烈な殺気が溢れ出し、嫌な予感がする二人。
そして、シェスタリアのいたるところの地面に、妖しい光を放つ『ある物』が出現する。
それに見覚えがある雅は、目を見開いた。
「あれは……っ!」
「何じゃっ? あれは何じゃっ? 何をするつもりじゃっ?」
「シャロンさんっ! 一度シェスタリアに降ります! あれは……あれは……っ!」
焦るシャロン。しかし雅はもっと焦っていた。
彼女が見た物。それは――
「レイパーを召喚する、魔法陣です!」
イーストナリアのガルティカ遺跡。階段ピラミッドの地下で、魔王種レイパーがミドル級ゴーレム種レイパーを呼び出したあの魔法陣。
あれと同じ物が、いくつもシェスタリアの地面に出現していたのだ。
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