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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第41章 エンドピーク(過去)
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季節イベント『写真』

「さぁ、観念してください! ――ミヤビさん!」

「そんな……ライナさん! どうして!」


 とある日の昼下がり。新潟市内の、とある袋小路にて。


 壁を背に、肩で大きく息をする雅の、悲痛な声が木霊する。


 雅の目の前には――十人以上ものライナ・システィアの姿。


 ライナのスキル『影絵』で呼び出された、分身ライナ達である。


 かつてシェスタリアでライナに追い詰められた時のような絶体絶命感だ。


「ひどいですライナさん! どうしてこんなことをするんですか!」

「そんなの……決まっているじゃないですか!」


 まるで大悪党を糾弾するかのような声色の雅だが、ライナはまるで怯むことなく言い返す。


 ライナの視線は、雅の胸元。


 雅が胸に抱きしめる、何枚もの写真……僅かに顔を赤らめたライナが、それを視界に収めていた。




「ミヤビさん……その『写真』、絶対に奪ってみせますからね!」

「そんなことさせません! 私は絶対……この『写真』を守り抜いてみせます!」




 そんな言い合いの元、激突する大量のライナ達と、雅。


 鎌型アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』に、剣銃両用アーツ『百花繚乱』が激しく剣戟の音を鳴らす、激しい戦闘が繰り広げられる。


 二人が何やら揉めているのは、雅が持つ『写真』が原因のようだ。


 一体何が映っているのか……それを知っているのは雅達のみ。


 そしてライナは、絶対にそれを他の人に見られるわけにはいかなかった。


 相手を殺さぬよう手加減はされているとは言え、アーツまで出して激しく斬撃の応酬を繰り広げるとは、余程のこと。


 そしてそんな戦闘は、長くは続かない。


「うぉぉぉぉおっ!」

「くっ! ミヤビさん、なんて動きを……!」


 大量の分身達の攻撃の合間をすり抜ける、ともすれば非常に気味が悪いくらいにヌルヌルとした雅の動き、体捌きに、ライナが驚愕に目を見開いた。


 最後に、本物のライナが雅を捕らえようとするのだが、


「し、しまった……!」


 それも易々と躱し、雅はあっという間に遠くへ逃げ去るのだった。




 ***




「あ、危なかった……まさかライナさんが敵に回るなんて……!」


 何とかライナから逃げ切り、広めの道に出た雅。


 偶然にも人がいないその道で、抱えていた写真が一枚も欠けていないか気にしながら、ただひたすらに進んでいくと、


「おわわっ!」


 スイカ程の大きさの火球が、雅のすぐ後ろに着弾し、その衝撃でつんのめる雅。


 攻撃が飛んできた方向に目を向ければ……予想通りの人物がそこに。


「見つけたわよ……ミヤビちゃん! さぁ、その写真を渡しなさい! 全部燃やすわ!」


 多分の羞恥が含まれた赤面で……金髪ロングの女性、ミカエル・アストラムが建物の屋根――きっと許可を取って上がったのだろう――から、杖型アーツ『限界無き夢』を振り上げ、怒鳴り声を発する。


 そしてその横には、もう一人――


「ア、アストラムさん。程々に」


 三つ編みをした、長身の女の子、篠田愛理が、苦笑いを浮かべ、やんわりとミカエルを諫めた。


 しかし、


「こほん――悪いが束音。写真は貰うぞ!」


 刀型アーツ『朧月下』を手に、屋根から飛び降りて、雅へと向かってきた。


「くっ……ミカエルさんはともかく、まさか愛理ちゃんまで!」

「ええい、あたりまえだ! あんなもの、没収するに決まっているだろう!」

「そうよ! 絶対に奪い取ってやるから!」

「あわわわわっ!」


 道がどうなるかも気にせず、我武者羅に火炎弾を連射してくるミカエルに、目を白黒とさせる雅。下手をすれば直撃しかねない。


 そしてそんな中、愛理が写真を取ろうと突っ込んでくる。


 手を伸ばしてくる愛理、それを躱す雅……なのだが、


「ちょ、アストラムさん! 危ない! 危ないです!」

「ミヤビちゃん! あなたという人はほんとにもぉぉぉっ!」

「あわわわ……ミカエルさん、話が聞こえていないですよぉ!」


 怒りで我を忘れたようで、魔法を乱射してくるミカエルに、雅は勿論、愛理も思うように動けなくなってしまう。


 さすれば必然、


「ちょ、ちょ、アストラムさん! 抑えて! 一旦抑えて! 爆煙がヤバい!」

「はぁぁぁぁ!」


 火炎弾の作り出す白煙、それが雅の姿を覆い隠してしまう。


 このチャンスを逃す訳にはいかないと言わんばかりに、雅は「今だ!」と叫んで、脱兎の如く逃げていくのだった。




 ***




 そして、道を進んでいくこと五分。


 流石にミカエルも愛理も、もう追ってこないであろうところまで来た。


「はぁ、はぁ……写真……よし、全部無事です!」


 先の火炎弾で燃えていないか心配だったが、奇跡的に無傷の写真を見て安堵する雅。


 だが、その時だ。




「とぉ!」

「おおっ?」




 空から突然、急降下してくる人影に気が付いた雅。


 慌ててその場を跳び退き、直後に地面に落ちてきたのは――薄紫色の、ウェーブの髪型をした少女、ファム・パトリオーラ。


 そして、




「隙ありです!」

「――っ! しまった!」




 雅は気が付かなかった。……物陰に潜んでいた、もう一人の少女の存在に。


 前髪が跳ねた、緑髪ロングの女の子、ノルン・アプリカッツァ。彼女は自身のスキル『未来視』で雅の行動を予知していたのである。


「よし、ナイスだよノルン! そのまま写真を奪っちゃえ!」

「ちょー! なんでファムちゃんまで敵に回っているんですかー! ノルンちゃんはしょうがないにしても、何ならファムちゃんは私に協力してくれるって思っていたのに―!」

「いや、その写真をミヤビが持っているの、普通に困るし。私も撮られたこと、知ってんだからね!」


 何言ってんの、という顔のファムに、ノルンも雅を羽交い絞めにしながら、うんうんと頷く。


「勿論、私も許しません! さぁ、観念して写真を下さい、ミヤビさん!」


 奥歯を噛み締める雅。


 ファムが説得出来そうもないとならば……と視線をノルンへ向ける。


「……ノルンちゃんノルンちゃん、どうか私を助けて下さい!」

「駄目に決まっているじゃないですか! 何言ってるんですか!」

「……ミカエルさんの写真、欲しくないですか?」

「…………」


 まさに悪魔の囁き。


 一瞬動揺し、腕の力が緩んだ隙を見逃さず、雅は「今です!」と叫んでノルンの腕から抜け出してしまう。


「ちょっと! ノルン、何やっているのさ!」

「あぁっ? ご、ごめんファム!」


 珍しいノルンのポカミス。


 すたこらさっさーと、雅は逃げていく中、ノルンがファムに平謝りしまくるという珍しい光景が繰り広げられていた。




 ***




「……成程、あなた達が立ちはだかりますか……!」


 ファムとノルンから逃げ切ったと思った直後、雅は足を止めて、険しい顔になる。


 目の前には、二人の少女が腕組みをして立っていた。


 片や憮然とした顔の幼女。山吹色のポンパドール姿の彼女は、シャロン・ガルディアル。


 シャロンとは対照的に、どこかこの状況を楽しんでいるかのような顔をしているのは、ツリ目をしたツーサイドアップの髪型の少女、権志愛である。


「タバネ……お主も懲りん奴よのぉ……。あんなことをすれば、こうなるのは目に見えておったじゃろう」

「私の性には、抗えないんですよ。……それにしても、志愛ちゃんまで邪魔しにくるなんて……」

「私は別に構わなかったんだガ、シャロンさん達に頼まれてナ。それニ、偶にはこういうのも楽しいものダ。――サァ、雅。ちょっと相手をして貰うゾ!」

「大人しくすれば、痛い思いはせんぞ」

「……仕方ありませんね!」


 ほとんど同時に戦闘の構えをとる二人に、最早話し合いの余地はないと思った雅も構えだす。


 一瞬の沈黙が、辺りに緊張を創り出す。


 が、次の瞬間――


「ハァッ!」

「ほっ!」


 志愛の鋭い蹴りと、シャロンのタックルが同時に雅に襲い掛かる。


 竜人であるシャロンは勿論だが、志愛の動きも、よく鍛えられた人のそれだ。「くぅっ!」と声を上げる雅は、直撃を避けるだけで精一杯である。


 無論、二人の攻撃は一発では終わらない。


 回し蹴りや足払い、アッパーやボディへ迫る拳など、志愛とシャロンの攻撃は一撃一撃が速く、雅が反撃に出ることを許さない。


 二対一というのもあるが、それに加えて雅は写真を守りながら相手をしなければならないのだから、尚更に不利な状況だ。


 志愛とシャロンのコンビネーションも、中々のもの。常に雅を挟むように立ちまわられては、雅は逃げることも出来なかった。


 ……のだが、


「フッ!」


 志愛が、雅の腹部へと放った左ストレートを、雅が横に体を反らして躱す。


 しかし雅の背後には、手刀を繰り出そうとするシャロンがいた。


 さすれば必然、


「うごはっ?」


 空を切った志愛の拳が、完全にうっかり、シャロンの腹部へと抉り込む。


 志愛が「しまっタ」と思った時には、もう遅かった。


「あァッ? モ、申し訳ありませン! シャロンさン!」

「ク……権……お主……!」


 腹部を抑え、恨みがましそうに志愛を見るシャロン。


 今の一撃は、シャロンが油断していたというのもあるが、志愛的にも結構体重が乗った、いい一撃だったのだ。……シャロンをここまで悶絶させる程に。


「今ですぅ!」


 シャロンが志愛にどついた隙を見計らい、雅は急いでその場から離れるのだった。




 ***




「あ、危なかった……!」


 シャロンと志愛の猛攻を潜り抜け、何とか窮地を脱した雅。


 だが、安堵するにはまだ早い。


「――っ?」


 前方から聞こえてくる、サイレンの音。明らかに、パトカーが鳴らすそれだ。


 徐々に自分の方に近づいており、「いや、まさかそんな……」と思いながら、雅は凍り付く。


 そして――




「雅ちゃん! 止まるっす!」




 拡声器から発せられる知り合いの声、そして姿を見せた白バイに、雅は目ん玉が飛び出んばかりに驚いた。


「いや、もう止まってますけど……伊織さん、何してるんですかっ?」

「うるせーっす! 写真、寄越すっす!」

「うわ、そこまでしますか普通っ?」


 やって来たのは、目つきの悪いおかっぱの女性、冴場伊織だ。


 彼女が、ガチ警察官の服装で、ガチな白バイで、まさに大悪党を捕らえに来たと言わんばかりの勢いでやって来たのだから、雅が驚愕するのも無理は無い。


「写真寄越すっすよ! ぜってー逃がさねーっすからね!」

「公私混同ぉ! 後で絶対怒られますよ!」


 とてもじゃないが、雅の足では逃げきれない速度で迫る白バイ。


 それでも後ろを振り返り、元来た道を戻ろうとするが――


「おっと、行かせねーなぁ!」


 一体どこから来たのか。


 赤髪ミディアムウルフヘアの女性、セリスティア・ファルトが立ちはだかる。


「よっしゃおらミヤビてめぇ……覚悟は出来てんだろうなぁ?」

「な、なんてことですか……」


 挟み撃ちの形になり、前方と後方をチラチラ見る雅。


「さぁ雅ちゃん! お縄につくっすよ!」


 白バイから降り、指をポキポキと鳴らして近づいてくる伊織。


「年貢の納め時ってやつだな! 逃げ切れると思うなよ!」


 好戦的に、しかし威嚇するような笑みを浮かべ、肩をグルグル回して歩み寄るセリスティア。


「くっ……!」


 前門の虎、後門の狼とはまさにこのこと。


 まさに絶対絶命……そう思った、その時。




「何をしているんだ!」




 横から稲妻のように轟いた、不意を突く男の一喝。


 その声に、三人は揃って跳びあがる。


 特に伊織は、サーっと青褪めていた。


 やって来たのは……厳つい風貌をした、短髪の男性。警察官の、相模原優一だ。


「サイレンが聞こえて、何事かと思えば……冴場君に、セリスティア君……これは一体、どういうことかね?」

「――ひっ?」


 隠し切れぬ怒気を含んだ、優一の重みのある言葉に、伊織が小さな悲鳴を上げる。セリスティアは何も言わないが、顔を強張らせていた。


 質の悪い悪戯を知られた子供と、叱ろうとする先生の図のよう。


「いや、警部。これには事情があるっす。事件じゃねーですけど、やむにやまれぬ事情が――」

「事件でも無いのに、サイレンを鳴らして公道を走るなど言語道断だろう! 何を考えているんだ!」

「いや、ユウイチさん、一応こっちにも言い分というか、行動の正当性というか、そういうのがあって……」

「ええいやかましい! 言い訳は署で聞いてやる! さて、雅君にもちょっと話が――む?」

「あ、あいつ逃げやがった!」


 二人が優一に叱られている間に、雅はこっそり姿を消していたのだった。




 ***




「あっぶな……優一さん、ありがとうございます!」


 後で絶対自分も叱られるんだろうな、ということは考えないようにしながら、雅は優一に感謝の意を唱える。


 何はともあれ、窮地を脱せたのは事実なのだ。写真も無事。ならば良しである。


 そして、


「ふっふっふ……そろそろ家です! 部屋に閉じこもれば、誰も邪魔できまい!」


 悪い笑みを浮かべ、足早で先を行く雅。


 しかし――


「はーい、雅ちゃんストーップ!」

「随分な快進撃なようですが、それもここまでですわよ、束音さん」


 自宅の前で待っていた、二人の少女。


 なよっとした体つきの、エアリーボブの髪型の女の子、橘真衣華。


 お嬢様言葉の方は、ゆるふわ茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々である。


「ど、どうして私がここに来ると分かったんですかっ? GPS信号は切ってあるはずなのに!」


 こっそり家に向かっていたことは、決して悟られぬように逃げていたはず。


 まさか先回りされているなんて、夢にも思わなかった雅の顔が、戦慄に染まる。


 すると、真衣華が得意気な顔を浮かべた。


「ふっふーん、私を甘く見てもらっちゃ困るなー。実は雅ちゃんのULフォンに、特殊な電波を発するアプリを遠隔で仕込んでおいてあって――」

「ちょ、ちょー! それって法的にアウトじゃないですかー!」

「気にしない気にしなーい! さぁ! 大人しくするよーに!」

「ええ、(わたくし)のあのような写真、決して表に出すわけにはいきません……! さぁ、とっととお渡しなさい!」


 刹那、希羅々の手に出現する、金色のレイピア『シュヴァリカ・フルーレ』。


 雅と真衣華の頭に『!?』が同時に浮かぶ中、希羅々はその先端を思いっきり前方へ突き出すと――空に巨大なシュヴァリカ・フルーレが出現し、雅の方へ向かう。


「ひょえええっ!」


 希羅々の必殺スキル『グラシューク・エクラ』に、雅が素っ頓狂な声を上げる。こんなものが直撃したら、体がバラバラになってしまうだろう。


「ちょ、希羅々なにやってんのー! グラシューク・エクラ使うのは駄目だって!」


 慌てて逃げる雅と、迫りくる巨大レイピアのポイントに、真衣華が希羅々をどつく。


「大丈夫ですわ! どーせ、一時間経てばまた使えます! その間に都合悪くレイパーなんて出てきませんわよ!」

「馬鹿! 阿保! そういう問題じゃなーい!」

「ばっ……あ、あなた、(わたくし)に向かってなんて口を……! 大体真衣華だって、色々アウトなことをしでかしたではありませんか!」

「ちょわー!」


 二人が言い争いを始める中、間一髪レイピアが、雅のすぐ後ろの地面に直撃。


 地面が絶妙な加減で抉れ、とんでもない衝撃とともに、雅はまるでア〇パンチを受けたバ〇キンマンの如く、遠く彼方へと吹っ飛ばされていくのだった。




 ***




「――あいたっ?」


 希羅々のグラシューク・エクラによりぶっ飛ばされた雅は、幸運にも草むらに落下したことで、大きな怪我などは無かった。


「てて……おっと、それより写真写真……おぉ! 全部無事ですぅ!」


 自分の身体よりも、写真の心配をする雅。


 だが、その瞬間。


「――っ?」


 雅の頬を、何か白いものが掠める。


 血こそ流れなかったものの、ヒリヒリとした熱を帯び、雅の背筋が凍り付いた。


 硬いものではなく、もっと違う……そう、エネルギーの塊のような、実体のないものが通った、否、実体のないもので攻撃された感触だ。


 一体誰からのものなのか、すぐに悟った雅は、壊れたブリキの人形のように首を動かし、そちらを見て――直後、悲鳴を上げてその場を跳び退く。


 刹那、今まで雅がいたところを通り抜ける『虹』の斬撃。


 打ち上げられた魚のように口をパクパクとさせた雅の視線の先にいたのは――全身から恐ろしいほどに殺気を醸し出す、二人の少女。


 一人は青髪ロングの異世界人、レーゼ・マーガロイス。


 そして黒髪サイドテールで、雅の親友の相模原優だ。


 優の手には、白いスナイパーライフル、『ガーデンズ・ガーディア』。最初の攻撃はこれによる狙撃だ。


 レーゼの手には、振るえば斬撃の軌跡に虹が出来る長剣『希望に描く虹』。


「わ、わーお、くれいじー……」


 先の攻撃は、かなり大真面目に命の危険を覚えた。


 ヤバい、これは本気だ……と、雅はダラダラと冷や汗を流す。


 怒りの臨界点を越え、鬼の形相で迫ってくるレーゼと優は、それこそ下手なレイパーよりもよっぽど怖い。


「あ、あははは……お二人とも、どうしました? いやー、そんな怖い顔をしていては、可愛い顔が台無しじゃないですか」

「は?」

「ざっけんじゃないわよ」

「あ、はい。すみません」


 苦し紛れのおべんちゃらなど、今の二人に通じるはずも無い。


「ミヤビ……あんたって子は、本当に……!」

「今日という今日は、もう勘弁しないわよ。拳骨じゃすまさないし、写真もぶち抜くからね!」

「ま、待って! 落ち着いてください! 私達はきっと話し合える――」


 雅の言葉を遮るように響き渡る『問答無用っ!』の言葉。


 最早言葉は無意味と、雅も大慌てで剣銃両用アーツ『百花繚乱』を出し、襲い掛かってくるレーゼと優の攻撃を凌いでいく。


 だが……


「いやいやヤバいですヤバいですヤバいですってぇ!」


 激しい。レーゼと優の攻撃が、あまりにも。


 多分そうではないと信じたいのだが、本気で殺しにきているんじゃないかと思ってしまうくらい、斬撃や狙撃の一撃一撃が速く、重く、的確だ。アーツ同士がぶつかった際の衝撃音など、身が縮こまりそうな響きである。


 勢いの凄みもあり、あっという間に劣勢に立たされていく雅。


 このままでは、数秒もしない内に雅の手からアーツが弾き飛ばされ、速攻で無力化される未来がありありと見える。


(こ、これ出し惜しみとかしている余裕ないです!)


 雅はレイパーとの戦闘でも無ければ決して使わない『共感(シンパシー)』のスキルで、ライナの『影絵』を発動。


 創り出された分身雅が、レーゼと優の攻撃から雅を守り出す。


「あ、こら邪魔するな!」

「ちょ、逃げるなみーちゃん!」

「はーっはっは! さらばだっ!」


 優の放つエネルギー弾を華麗に回避しながら、雅は猛スピードで二人から離れていく。


 分身雅は長くは持たないだろうが、雅が逃げる時間くらいは稼いでくれるだろう。


 ならばヨシ! と、この時の雅は焦りから一転、余裕綽々だった。


 ――と、その時だ。




「っ!」




 優とレーゼから逃げられ、安心から油断が生じていたのだろう。


 雅は気が付かなかった。……近くの木の陰に隠れている、伏兵の存在に。


 雅の横から飛び掛かり、抱きついてきたのは――ラティア。


 突然の抱きつき。必然、雅は体勢を崩し、倒されてしまう。


「やぁーん! ラティアちゃん大胆ですぅ! ――って、あっ!」


 一瞬だらしない顔になるが、すぐに「しまった!」という顔になる雅。


 それと同時に、分身雅を振り切ったレーゼと優が、雅に追いつくのだった。




 ***




「ナイス、ラティア。お手柄じゃん。後でご褒美を上げる」

「よし、写真も回収したわ。すぐにミカエルに、塵も残らない程完璧に燃やしてもらいましょう」

「そんな! それだけはご勘弁を!」


 正座させられた雅が、レーゼの手に握られた写真へと手を伸ばすが、その腕を優が叩き落す。


「そ、それにしても――ほんと、呆れるくらい良く撮れているわね」


 写真を見て、顔から湯気が出そうになる程に赤面するレーゼ。


 隣では、優も恥ずかしそうに唇を噛む。


 一体、雅が持っていた写真は何なのか。


 何故皆が、この写真を躍起になって雅から奪おうとしていたのか。




 映っていたのは――レーゼや優達全員の、水着の写真。


 しかも、ただの水着写真では無い。ポロリだったり着替え中だったり……内容は、とても子供には見せられないような、中々にムフフなものだった。




 実は先日、皆で海に遊びに行き――この写真は、その時に雅が皆に内緒でこっそり撮ったものだ。それを現像し、一人で楽しもうとしていたところを偶然皆に見つかってしまい、こんな派手な追いかけっこが始まったのである。


「全く……せめてちゃんと私達に許可とれば、普通の写真くらい撮らせてあげるっていうのに、馬鹿なみーちゃん! てか、せめてULフォンに保存するだけに止めていれば、見つからずに済んだじゃない!」

「いや駄目なんです! ULフォンのウィンドウで見るのと、ちゃんと現像された写真を眺めるのとでは、興奮感に雲泥の差が――」

「やかましい!」


 何やら訳の分からないことを熱弁し始めた雅の頭に、優とレーゼの拳骨が落ちるのだった。


 その後、雅が捕まった報告を受けた他のメンバーが集まり、全員から拳骨を喰らわされたことは言うまでもないだろう。


 そして写真は、ミカエルが超特大の魔法で、いっそ清々しくなる程に焼き尽くされたのも、言うまでもない。

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