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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第41章 エンドピーク(過去)
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第361話『驚愕』

(くっ……なんでここにレイパーが……。しかも、よりにもよってあいつは――)


 真っ先に目に飛び込んできたレイパーに、雅とエスカは身を硬くする。


 真っ黒な肌に、赤い瞳。黒いマントを靡かせたそいつは……紛れもない、『魔王種レイパー』だ。


 先程の第六感は、心のどこかで、ここでまた魔王種レイパーと遭遇してしまうことを予想していたからなのかもしれない。


「私達を逃がしてしまった後、ナリアまで来ていたのね。だけど何故、奴がピラミダの中に? アイザ様の加護を持つ物を持っているとは思えない……」

「分かりません。もしかすると、他に中に入る方法があったのかも――って、んっ? あいつは……っ?」


 魔王種レイパーがいることについて、小声で会話していた雅だが……魔王種の陰に隠れていたレイパーの顔が偶然見えた瞬間、大きく目を見開く。


 こちらも、見覚えがあるレイパーだったのだ。


 黒いローブを纏う、人型のレイパーである。ヤギの頭蓋骨のような形状をした頭部に、細い腕や足。Tの字型の長い杖を支えにするような形で、気だるげに立っていた。


 姿は若干若いが、間違いない。つい先日、雅と愛理が遭遇した『ネクロマンサー種レイパー』だ。


 魔王種レイパーがいるだけでも驚いたが、よもやネクロマンサー種レイパーを見かけることになるとは全く、夢にも思っていなかった雅。


「ミヤビ殿、奴を知っているの?」

「え、ええ。実は先日戦って、逃がしてしまった敵なんですけど……でも、あいつこそ、なんでここに? あの魔王と知り合いなんでしょうか?」

「様子を見るに、初対面って感じじゃないわね」


 何やら会話をして、時折下品な声で笑いあう魔王種レイパーとネクロマンサー種レイパー。雰囲気的には、付き合いの長い友達といった感じだ。


 ここで一体何をしているのか、あるいはしようとしているのか、ジッと観察する雅とエスカ。すると……


「……エスカさん、奴らの、もっと奥の方、見えますか?」

「ええ。もう一体いるけど……様子が変ね」


 二人が見たのは、毛むくじゃらの、まるで黒熊のような化け物。だがこいつは魔王種やネクロマンサー種とは違い、どこか苦しそうにもがくばかり。


 頭に『?』を浮かべながら観察するエスカだが、やがてハッとしたような顔になる。


「あいつ……怪我をしているわ。傷を見るに、多分竜の攻撃によるものね」


 腹部から、僅かながら緑色の血が見えたのだ。よく見れば、爪か何かで抉られたような傷口もある。


 遠目だからはっきりとは分からないが、様子を見る限り、どうやら致命傷に近いのかもしれないと、エスカは思った。


「怪我をしている奴を助けようという気は、あの二体には無さそうね。手当でもしてあげれば、少しは生き永らえそうなのに……」

「基本的に、助け合いとかしない連中ですから。私は寧ろ、魔王みたいな奴と、ネクロマンサーみたいな奴が仲良く喋っている方が驚きです。それにしても奴ら、ここで何をしているんでしょうか?」

「見たところ、ただ話しているだけだけど。……あら? ねぇ、もう一体いるわ」

「……えっ?」


 エスカが示す方向を凝視する雅。そして――小さく「あっ」と声を上げる。


 確かにいた。ピンク色のスライムみたいな、形容しがたい妙な奴が。


「レイパーというか……生き物? なんですかね?」

「あの二体が笑うと、あいつも震えているように見えるわ。笑っているようにも見えそうだけど……」

「あー、言われてみると。――ん?」


 眉を顰めてあれこれ思考を巡らせていた雅とエスカだが、急に魔王種レイパーとネクロマンサー種レイパーが背筋を正した瞬間を見て、目を丸くする。


 一体何事か……そう思った、次の瞬間。


「――っ」

「――っ」


 不意に、この空間が、重圧に支配される。


 息が詰まり、脂汗が滲み、眩暈や立ち眩みさえ覚えるような感覚は、まさにプレッシャーと呼ぶにふさわしいものだ。


 直後、その『プレッシャー』を放つ主が、神殿の扉から現れてくる。




 そいつは、なんと形容して良いのか悩む姿をした……しかし、明らかに『レイパー』だと分かる、そんな化け物だった。




 人型であり、身長はおよそ170センチ。肌や目玉は無を思わせるような黒さがあり、唯一白いのは瞳だけか。その瞳の色も、背筋が凍るような、破滅的、そして悪魔的な白さだ。


 鋭い爪や牙も生えており、それも相当にヤバそうな感じだが、このレイパーそのものから感じられる『身の毛がよだつような恐怖』に比べれば些細なものだった。




 その姿を見ただけで、一瞬にして雅は悟る。


 こいつは、今まで戦ってきたどんなレイパーとも、格が違うと。




「……あ、あ奴は……最初に現れた、化け物っ」


 そんな不気味なレイパーを見て、震える声でエスカはそう呟く。


「最初に現れた?」

「ええ……」


 今までこの世界に存在していた、どんな恐ろしい魔物や怪物とは根本的に違う生き物、レイパー。


 今、神殿から出てきたあのレイパーが、最初にこの世界に現れたレイパーだったと、エスカは言う。


「僅か一日弱で、何万という数の女の人が殺され……あらゆる人間に恐怖を与えた化け物。竜でさえ怖気づき、何体も殺されたわ。それ程の力をもっているのよ、あいつは。……最初に姿を見せてから、少しもしない内にどこかへと姿を消してしまったのだけど、まさかここに隠れていたなんて……!」

「……っ、何かするつもりです!」


 突如、その黒いレイパーの頭上に出現する、巨大な穴。


 穴の先は、真っ白だ。一体どこに繋がっているのかも分からない。


 だが――


「……ひっ」


 雅は、小さく悲鳴を上げる。


 てっきり白い空間が広がっているのだろうと思われた穴の先。だが、その空間が、やけに生き物らしい動き方をしたことで、そうでは無かったのだと理解する。







 穴の先にいるのは、巨大な化け物。そう……『ラージ級ランド種レイパー』だったのだ。







「あ、あれもあなたの言う、レイパーなの……?」


 エスカも、穴の向こうにいるランド種レイパーの存在に気が付いたのだろう。言葉を震わせてそう尋ねる。


「ンッナヌムエゾヒノ。マレヌタヒレタルユノヘモキノレ。ンイ」


 雅とエスカの耳にも届く、真っ黒なレイパーの声。


 その声の威圧感たるや、雅とエスカが思わず膝を付いてしまう程。


 ネクロマンサー種レイパーは、一度恭しく頭を垂れた後――衝撃の行動に出た。


「っ?」

「えっ?」




 杖の先から溢れたエネルギーをコントロールし、まるで鎌のような刃を創り出したと思ったら――それまで、二体のレイパーの近くで苦しんでいた、黒熊のようなレイパーの首を刎ねたのだ。




 頭部が無残に宙に跳び、力を無くした胴体がごろりと地面に転がる。


 跳んだ頭が地面に落ちたことによって発生した鈍い音が、やけに大きく二人の耳に届く。


 何故同族を……そう思った次の瞬間。


「……っ!」


 黒熊の頭部から湧き出てくる、靄のようなもの。


 それを見た雅が、わなわなと口を開けた。


 それは、ここ最近、雅がよく見ることになっていた『あいつ』だったから――。


「亡霊……!」

「ミヤビ殿、知っているのっ?」


 エスカの質問に、頷く雅。


「あの亡霊は、私の時代で最近見かけるようになったレイパーなんです。倒したはずのレイパーが、まるで蘇ったみたいに……亡霊だから物理的な攻撃も通らなくて、厄介なんですけど……。でもまさかこんなところで、亡霊レイパーが出現する現場に出くわすなんて」


 言いながら、雅は眉を寄せる。


 雅達が亡霊レイパーの存在を確認し始めたのは、ごく最近の話。しかし、ここは二百年前だ。こんな昔から亡霊レイパーがいたのなら、どうしてこれまでは姿を見せなかったのか、分からなかった。


「亡霊レイパーが発生するところ、初めて見ました。殺したら、幽霊みたいに出てきた……?」


 見たものを、見たまま表現する雅だが、それならやはり何故今までその場面に出くわさなかったのか、不思議でならなかった。


 すると――


「ん? あの亡霊、なんか様子が……」


 亡霊レイパーが、まるで吸い寄せられるように穴の方へと向かい――一瞬の間の後、


「――吸い込まれたっ?」


 エスカの驚愕の言葉通り、ランド種レイパーの体に、亡霊レイパーが吸収されたのだ。


 そして――


「っ!」


 ランド種レイパーの体から、『何か』が飛び出してくる。


 それは、先程の黒熊とは対照的な、白い獣。まるで熊のような見た目をしたそいつは――雅は話でしか聞いたことが無かったのだが――かつてライナとノルンが、天空島で倒した『白熊種』レイパーだった。


 産声のような咆哮を上げる、白熊種レイパー。


 それを見て、真っ黒なレイパーも、ネクロマンサー種や魔王種レイパーも、感心したように頷く。


 そしてエスカは、全身をガタガタと震わせ、口を開いた。


「……まさか、輪廻転生?」

「り、輪廻転生?」


 エスカの言葉を復唱して、雅は今出てきた白熊種レイパーと、穴の向こうにいるラージ級ランド種レイパーに、交互に視線を向ける。


「死んだ者の魂が、新たな命として生まれ変わる……今の光景は、まさしくそれそのものよ! 奴ら、なんてものを……!」

「そ、そんな……!」


 震える瞳で、雅は改めて穴の向こうに目を向ける。


 もしエスカの言葉が本当だとすれば……雅の時代、そして百年前のエンドピークでメタモルフォーゼ種レイパーが、どうして杭を抜いてランド種レイパーを呼び出したのか、その理由も理解できる。


 輪廻転生なんていう能力があれば、例え自らが誰かの手によって殺されたとて、蘇ることが出来るのだから。


 そして――そんな力を持ったランド種レイパーが、今の雅の時代には、二体いる。


 雅は、はっきりと悟った。




(あ、あの巨大なレイパーを倒さない限り……私達の戦いは終わらない……!)




 ラージ級ランド種レイパーがいる限り、いくらレイパーを倒したとて、輪廻転生……つまり、新たなレイパーという形で復活させられてしまう。


 雅やレーゼ、他の仲間達、そしてバスターや大和撫子、アーツを製造したり、事件を調査してくれる人達サポーター……レイパーと戦う者達がいくら頑張ったとて、無意味に終わってしまうのだ。


「デッミヤソヒレマル。ヘモヘ、マタヒモレテソフマヘララメフベウモ。コロワレ」


 真っ黒なレイパーがそう言って、低く笑う。


 そして、着いてこいというように、ネクロマンサー種レイパーを手招きする。


「マタヒモレタルケテ、マレヌユヒッネフウ。ニヌゾリ。ハヘニマレユデヘヤソルバミツ。ラコリボ、ノコヘレユケネゲレニンイ」

「ソッ!」


 そんなやりとりをして、ネクロマンサー種レイパーと妙なスライムのような奴は、ランド種レイパーのいる穴へと飛び込んだ。


 そして真っ黒なレイパーも、その後に続こうとして――一度足を止めて、魔王種レイパーの方へと顔を向ける。


「……トヂモソヘオツボ、ラアモトラヤトザカボ、ネモムテモムイニレウ。ヘコヌヘニラミ」

「ヘワルネヘノ」


 魔王種レイパーそう言って頷いたのを見ると、改めて真っ黒なレイパーは穴へと飛び込んだ。


 収縮し――消える穴。


 残ったのは、魔王種レイパーと、白熊種レイパーのみ。


「……ザルサルキ、ライテ、リオハルテホヘヅヘンボッニ。メホコカ、レヌモヘコヌヘニンウワ」


 魔王種レイパーは、穴が完全に消えたのを見ると、つまらなそうに鼻を鳴らしてそう呟く。




 そして――雅とエスカの隠れている方に、徐に顔を向け……口角を不気味に吊り上げた。




「エヲルナマクフキキ! ライボデメデメテマアヘニンアル!」


 耳を劈くような声と共に、勢いよく雅達の方へと迫ってくる、魔王種レイパー。


「ヤバい! あいつ……私達に気が付いている!」

「逃げるわよ!」


 言うが早いか、雅の答えも待たずに彼女の手を引き、エスカは走り出すのだった。

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