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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第41章 エンドピーク(過去)
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第360話『君知』

 現地時刻にて、午後一時。


 紫竜となったエスカの背中に乗った雅は、エンドピークを出発して海を渡り、遠くの国ナリアのガルティカ遺跡へと向かっていた。


 その道中にて。


「今から三ヶ月前、奴ら……ミヤビ殿が『レイパー』と呼ぶその存在は突然現れた。何故か女性ばかりを狙い、普通の攻撃はまるで効かない生き物なんて、初めて見たわ」


 雅からレイパーが初めて出た時のことを尋ねられ、エスカは語る。


「魔法は僅かに効いたけど、奴らを殺すには至らず。我々竜の攻撃は比較的まともに通じたけど、それでも倒した数は片手で数えられる程度ね」

「今、この世界に奴らは何体くらいいるんですか?」

「……百は超えているわね。二百まではいないと思うけど……ミヤビ殿の世界では、何体に膨れ上がっているのかしら?」

「二百万かそこら……いや、もっといるはずです」


 世界融合する前の雅達の世界で、およそ百万体と言われていた。レーゼ達の世界でも同数いたとして、二倍。そこに、人工レイパーも含めればもっと、という計算である。


 得も言われぬような声を上げるエスカ。


 未来では、自分の想像を遥かに超える数の化け物がいると言われたのだ。反応に困るのも無理からぬことだった。


「……でも奴ら、増えているんですよね。やっぱり、生殖活動とか隠れてしているんでしょうか?」

「そういうことをしている姿は、私は見たことがないけど……それにしてもミヤビ殿は、随分と奴らのことを知りたがるのね」

「『全てのレイパーを倒し、皆が明るく、安心でき、希望を持って人生を歩んでいける世の中を取り戻す』……これが、私の目標なんです」

「大きな目標ね。……きっと、険しい道のりよ」

「それでも、やりたい。そう決意したから。……レイパーを滅ぼすためには、あいつらのことをもっと知らないと。とんでもない目に遭いましたけど、考えようによっては、私の時代では知ることの出来ない奴らのことを知るチャンスでもあるんです」

「……ふふ」

「エスカさん?」

「いえ……シャロンは、未来の娘は、ミヤビ殿と一緒に凄いことをやろうとしているんだと思って。大したことは話せないかもしれないけど、何でも聞いて。――それと、あなたのことも、もっと聞かせて欲しい」

「私のことですか?」

「そうそう。後、あなたの世界の話にも興味があるわ。例えばあなたの着ているその服、さっき見せてもらった写真だと、同じものを色んな人が着ているじゃない。一目見た時から、なんだかいいなって思ってしまって。あなたにもよく似合うし……ふふ」

「制服ですね。これ、ブレザーっていうんですけど、実は色んな種類があって――」


 どうせ、ガルティカ遺跡に着くまで四時間以上も掛かる。


 レイパーについてのえぐい話や、雅自身や雅の世界のこと、そして雅のこれまでの戦いのこと等を話す二人は――会話の内容に反して、意外にも和気藹々とした雰囲気だった。




 ***




 そして、現地時刻にて午前九時を少し過ぎた頃。


「着いたわ。ミヤビ殿、時差ボケとかは大丈夫?」

「今のところは、何ともないです。――いやぁ、それにしても」


 エスカの背中から降りて、一回大きく伸びをしてから、雅は辺りを見回す。


 久しぶりのガルティカ遺跡……流石に、かつてミカエルやファム達と共にガルティカ遺跡に来た時とは少なからず様相が違う。


 二百軒以上もの、石造りの家。妙な生き物の石像、様々な模様を刻んだ柱等のオブジェクト。以前来た時も同じようなものを見たが、ここのどれも、当然ながらその時よりも石が新しい。


 そして――雅が視線を向けた先にあるのは、高さ六十三メートルの巨大な階段ピラミッドだ。


「ピラミッド……こっちの世界では、『ピラミダ』って名前でしたっけ? 確か頂上に、石板がありましたよね」

「よく知っているわね。そうそう、アイザ様が描かれた石板があるの。アイザ教のことを知っている人でなければ、見たところで分からないくらいに風化してしまっているけれど」

「ああ、やっぱりあそこに描かれていたの、アイザ様だったんだ。……でも、来たはいいですけど、どこでエネルギーを補充すればいいんですかね?」

「エネルギーを補充する『何か』があるとすれば、まさか外には置かないはず。となると……ピラミダの中なら、何かあるかもしれないわ」

「成程。確かにそうかも。問題は、どうやって中に入るかですね。前に来た時は、何だかよく分からない内に中に転移させられてしまったんですが……」


 当時のことを思い出しながら、雅は首を傾げる。ファムと一緒にピラミッドの頂上まで行き、ミカエルが遅れて到着した直後、三人の持つアーツが光を放ち、地下へと吸い込まれたのだ。


 あまりにも突然のことで、ただただ驚くことしか出来なかった。勿論、どうしてそんな現象が起きたのか、雅は今でも分からない。


 これは困った……と思っていたのだが、


「多分、大丈夫。ミヤビ殿のアーツと、その杭があれば問題無いはずよ。中に入るためには、アイザ様の加護がある人や物が、いくつか必要だと聞いたことがあるわ。最低三つだったかしら?」

「あっ! そう言えば、アーツが勝手に反応しましたねぇ」

「取り敢えず、行ってみましょう!」

「はい!」


 エスカに手を引かれ、階段を上っていく雅。




 ――十分後、頂上が見えてくる。


 四隅にある四本の柱で支えられている、ドーナツ型の円盤。そして中央に置かれた石板。雅が前に来た時と、殆ど変わらぬ風景がそこにあった。


 そして、雅とエスカが頂上の床に足を踏み入れた瞬間。


「っ! まただ!」

「あら、派手なこと」


 円盤が七色に輝き、雅の嵌めた指輪も光を放つ。


 勝手に出現する、剣銃両用アーツ『百花繚乱』。ポケットにしまってある時計型アーツ『逆巻きの未来』と共に、眩く光る。


 だが、今回はそれだけではなかった。


「っ? 杭が光をっ?」


 持っていた三本の杭。


 それも、輝き始めたのだ。


 さらに、


「熱っ?」

「ミヤビ殿っ?」


 持っていられなくなる程に熱を帯びる杭。


 雅が反射的に杭を投げ捨てた、次の瞬間。


「きゃっ!」

「っ! 指輪が……っ!」


 杭がエネルギーを発し始め、かまいたちのように放たれたのだ。それが雅の指輪のリングの破壊してしまったのである。


 ほんの一瞬の、あまりにも危険な事象。


 吹っ飛ばされる指輪を取りに行く雅だが――拾う前に、雅の意識は遠ざかってしまうのだった。




 ***




「――……どの! ……ヤビ殿! ミヤビ殿!」

「ぅぅ……?」


 体を揺すられる感触に、意識を取り戻す雅。


 自分を心配そうにのぞき込むエスカの顔……そして、煉瓦の天井が目に飛び込んでくる。


「エ、エスカさん、ありがとうございます……」


 見覚えのある光景に、雅はエスカに礼を言いながら上体を起こし、辺りを見回す。


 煉瓦の壁で囲まれた小部屋。


 以前ピラミッドの中に吸い込まれた時、転移した場所と同じところだ。


 近くには百花繚乱や、三本の杭もある。ポケットには、逆巻きの未来もちゃんとあった。


「中々起きないから、心配してしまったわ! でも、良かった……」

「エスカさんは、目が覚めるの早かったですね。今何時だろう?」


 ULフォンを起動させて時間を確認し、雅はホッと息を吐く。ここに来てから、まだ三十分も経っていなかった。


「ここが、ピラミダの内部。話には聞いていたけれど、本当に入れるなんて……」

「私は二回目です。あの時と同じ部屋なら、多分そっちの通路を進むと、凄く広い部屋に出るんですよ。――それにしても、そっか……あれ、私の指輪だったんですね……」


 納得がいった、と言うような口ぶりの雅に、エスカは頭に『?』を浮かべる。


「ああ、いえ。前にガルティカ遺跡に来たって言ったじゃないですか。その切っ掛けは、ピラミダの頂上で指輪が見つかったって話があったからなんです」


 雅が元の世界に戻る方法を探していた時のこと。ミカエルが昔発行された情報誌を見つけ、そこに書かれていたのだ。ガルティカ遺跡で謎の装飾品が見つかった、と。


 それが雅の嵌めていた指輪とそっくりだったことで、ガルティカ遺跡に行ってみようという話になったのである。


「いやぁ、まさか自分が過去に戻って落としてしまったものだなんて、あの時は思いもしなかったなぁ……。きっとあの指輪、他の考古学者が大事に保管しているんでしょうけど」

「ふふ。元の世界に戻れたら、返してもらわないとね」

「返してもらったとて、まだ使えるんでしょうか? 二百年の時を経ているわけですし……まぁそういうことは、無事に帰れたら考えましょう」

「……この部屋には、エネルギーを補充できそうなものは何も無いわね。ミヤビ殿の言う『凄く広い部屋』なら、何かあるかしら?」

「……そう言えば、神殿みたいなものがありました。ただあの時は――っ?」


 そこまで言った刹那、嫌な予感がゾクリと雅の背中を伝う。


 魔王種レイパー……奴と最初に出会ったのは、このガルティカ遺跡のピラミダ内部であった。


 そして、件の神殿から、奴は出てきたのだ。


(……そう言えば、あいつは何時ピラミッドの中に入ったんでしょうか?)


 考えてみれば、妙な話。


 そして雅の第六感が、こう訴えかけてくる。




 ――この先には、気を付けろと。




「……ミヤビ殿」


 エスカも何か気が付いたように、通路の先に、緊張の眼差しを向ける。


 恐る恐る、通路を進んでいく雅とエスカ。


 一歩、また一歩進む度に、嫌な予感は大きくなっていく。


 そして――神殿のあった、ただっ広い部屋に辿り着き、通路からこっそりと顔を覗かせた雅は、大きく目を見開く。


 部屋の様相は、かつて訪れた時とはかなり異なっていた。


(ここ……もしかして、住居スペースだった?)


 崩れた家らしき残骸の数々。それを見て、雅はこの広い部屋の意味を、ようやく知る。


 部屋の中心に聳え立つ大きな神殿だけは、あの時と変わらない。


「神殿、気になるわね。だけど……」

「……ええ」


 雅とエスカは、部屋に入れない。


 二人は感じ取っていたのだ。……何か強大な力が、部屋全体を埋め尽くしていることに。


 鳥肌が立ち、寒気すら感じる。絶対に、良い『力』では無い。


 それは何故か……その意味を、二人はすぐに知る。


 神殿の向こう側……そこから出てきた『化け物』を見て――




「っ!」

「そんな……奴ら……」




 レイパー。


 それも、一体では無い。複数いる。


 そいつらを見たことで、雅とエスカは思わず、小さく驚愕の声を上げるのだった。

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