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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第41章 エンドピーク(過去)
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第358話『紫竜』

 この場に魔王種レイパーがいると、何故思わなかったのか……雅は己を呪う。


 ミドル級ワイバーン種レイパーがいるのだから、想像することくらいは出来たはずなのだ。


(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!)


 走りながら、雅は顔を強張らせる。


 レイパーと戦っていた紫の竜。そいつは今、ミドル級ワイバーン種レイパーと魔王種レイパーに、一方的に攻撃をされていた。


 攻撃をされる度にドラゴンの悲鳴のような咆哮が轟き、雅の心を貫いていく。


 その気になれば一撃で仕留められるのだろうが、どちらも獲物を甚振(いたぶ)ることを楽しんでいるのだろう。


 故にすぐにドラゴンが殺されることは無いだろうが、急いで助けなければ手遅れになってしまう。


 もう遠目から見ても分かるくらい、ドラゴンの強靭な鱗は痛ましい姿になっていたのだから。


(あの魔王のレイパーに、生半可な攻撃は無意味。ならば――)


 ある程度まで近づいた雅は、近くの大きな岩に身を隠すと同時に、ライフルモードにした自身のアーツ、『百花繚乱』の銃口を空に向け……柄に力を込める。


 そして上空に放たれる、桃色のエネルギー弾。


 それが、空で激しい光と共に、大きな音を立てて爆ぜる。


 必然、音の方を向く二体のレイパー。


(今だ!)


 そして雅は素早く百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードにすると、自身のスキル『共感(シンパシー)』を発動させながら、剣を勢いよく前に突きだす。


 一日一回だけ、仲間のスキルを使える『共感(シンパシー)』で発動させるのは――桔梗院希羅々の、『グラシューク・エクラ』。


 魔王種とワイバーン種、二体のレイパーの視線が同じ方向を向いている今、反対側は死角。


 空中に現れた巨大な百花繚乱が、敵の背後に迫る。


 狙うは、がら空きの背中――ではなく、地面だ。


 突然背後に出現した巨大な気配に、二体のレイパーは振り返るがもう遅い。


 切っ先が地面に激突し、その衝撃で地響きが起こり、さらに大量の土塊が爆ぜる。


 突然のことに怯む、魔王種とワイバーン種。


 この瞬間を逃さず……雅は物陰から飛び出すと、紫色のドラゴンの方へと走り出す。


「大丈夫ですか!」

「あなたは……」


 シャロンと同じように、ドラゴンの姿のまま、人の言葉で尋ねてくる紫竜。


 透き通るような美しい声……苦しそうな状態ながらも、どこか心を落ち着かせるような響きがある。


「いえ、今は聞いている場合ではないですね……。少し失礼!」

「おぉっ?」


 ドラゴンに掴まれる雅。


 呆気に取られている間に、ドラゴンは翼を広げると、大空へと舞い上がるのだった。




 ***




 だが、逃げ出してから程無くして。


「……奴ら、追ってきます!」


 ドラゴンに掴まれた雅が、後方をちらりと見て叫ぶ。


 ミドル級ワイバーン種レイパーと、その背中に乗る魔王種レイパー。二体のレイパーは、全身から『獲物は絶対に逃がしてなるものか』というオーラを溢れさせていた。


 距離は縮まることこそないが、広がることも無い。ほぼ一定の距離を保っているという状況。


 しかし、


「大丈夫。それで良いのです!」


 ドラゴンは、慌てていなかった。


「人間の女の子……あなたは不思議な魔法を使うようです。なら危険を承知でお願いしますが、少しばかり私に協力してくれませんか? 奴らを、街からなるべく引き剥がしたい!」

「だけど、あなたの体は……」

「私はまだ動けます! まだ、何とかなる……!」


 その言葉とは裏腹に、相当にキツそうな声。恐らく、飛んで逃げるだけでも精一杯なのだろう。


 しかし……ドラゴンのその声には、雅が何を言っても曲げそうにない『意志』が、確かにあった。


「このまま、あの山……デルタピークへ向かいます! 山の裏側辺りなら、人が住んでいるところは無い! あの辺りで撒ければ、しばらくは街までは来ないはず……!」

「……分かりました!」


 ドラゴンの進行方向に聳え立つ、デルタピーク。


 確かにあそこなら、レイパーを撒くことも出来そうに思えた雅は、頷く。


「……っ! ドラゴンさん! 後ろから来ます!」

「くっ!」


 背後から迫る殺気。それを感じたドラゴンが咄嗟に体を捻れば、すぐ横を、深緑色の禍々しいブレスが通り過ぎる。ミドル級ワイバーン種レイパーの攻撃だった。


 そして、飛んでくるのはブレスだけではない。魔王種レイパーも、高笑いしながら黒い衝撃波を放ってくる。


 それらを何とか躱しながら、必死で逃げるドラゴンと雅。


 いつ直撃してもおかしくない状況。まともに受ければ、ドラゴンも雅も死んでしまうだろう。


 それでも雅は、慌てない。


 思い出すは、シャロンと共に、ミドル級ワイバーン種レイパーと戦った時の記憶――。


「ドラゴンさん! 一瞬でいいんです! 奴の……ワイバーンの方に、少しだけ隙を作って下さい! 視界を塞いだり、怯ませたり、何でもいいから!」

「何か策があるのかしら? ――分かったわ!」


 そう叫ぶと、ドラゴンは顎門を開く。


 後ろから迫り来る攻撃を回避しながら、エネルギーを集中させていく。


「――っ!」


 ドラゴンの口元で、紫電がバチバチと激しくスパークするその光景に、息を呑む雅。


(これは――シャロンさんみたい! だけど――)


 このように顎門にエネルギーを溜めるのはシャロンもよくやっている。だがこのドラゴンのそれは、近くにいる雅が、全身の毛を逆立たせる程に強力なもの。


 ドラゴンというのは、人間よりも圧倒的に高次元の存在なのだと分からされるような、一種の神々しさすら覚える程のエネルギーであった。


 それを、ドラゴンはブレスにして、遠くの地面に向けて放つ。


 直撃すると同時に、爆ぜる地面。そして撒き上がる土塊や煙。


 その中に、ドラゴンと雅は突っ込んで、姿を消す。


 必然――一瞬、二人の姿を見失う二体のレイパー。


「今よ!」


 轟く、ドラゴンの声。


 ここが、決定的なチャンスだった。


「お前の弱点はもう、知っている!」


 そう叫ぶと同時に、雅は発動する。ミカエルの妹、カベルナ・アストラムのスキル『アンビュラトリック・ファンタズム』を。


 雅とミドル級ワイバーン種レイパーの尻尾の近くに出現する、丸い穴。雅がそこに剣を勢いよく突っ込めば、繋がっているもう一つの穴から切っ先が飛び出て、ワイバーン種レイパーの尻尾に突き刺さった。


 刹那、激しい悲鳴と共に、悶えるワイバーン種レイパー。このレイパーは、尻尾が弱いことを、雅はよく覚えていた。背中に乗る魔王種レイパーは振り落とされることこそ無かったが、それでもバランスを崩すことは免れない。


「効いたっ?」

「さぁ、今の内に!」

「ええ!」


 紫色の竜は雅の言葉に頷くと、もう一度、雷のブレスを二体のレイパーに放つ。


「マタラヤトザカキィッ!」


 魔王種レイパーは体勢を崩し、苛立ったような声を上げながらも、黒い衝撃波を放ち、ブレスを相殺する。


 必然、辺りに巻き上がる白煙。


 だが、それは雅とドラゴンの狙い通り。




 土煙と白煙……二つの煙に身を隠し、二人は一気に山の森の中に飛び込んで、レイパー達の視界から完全に消えるのだった。

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