表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第40章 デルタピーク
460/669

第355話『浮上』

 人に変身出来るだけが、『メタモルフォーゼ種レイパー』の能力に非ず。


 変身出来るということは即ち、自分の体を変化させられるということ。その力を使えば、自分の体の一部を武器に変形させることも出来るのだ。


 ――例えば、腕を全長二メートルもの剣に変化させる、といったように。


「ほらほら! もっと頑張らないと、二人とも死んじゃうよぉ!」

「ちぃっ!」

「くぅっ!」


 レイパーの狂気の声が洞窟に響くと共に、剣の一振りを受けたアングレーと雅が吹っ飛ばされる。


 怒り任せに戦い始めたアングレー達だが、戦況は劣勢。


 ナックルソード型アーツ『サーベリック・シンバル』と、剣銃両用アーツ『百花繚乱』による攻撃を、レイパーはものともしない。


 さらに、


「貴様……貴様……っ!」

「アングレーさん! 落ち着いてください!」

「はぁぁぁあっ!」


 アングレーは雅の言葉を無視し、レイパーへと突っ込んでいく。


 完全に頭に血が上っている彼女の攻撃は、力任せで単調。そうなるのも無理も無いが、これでは敵を倒すことは出来ない。


 アングレーと上手く連携が取れないのも、ピンチに陥っている原因の一つだった。


「そぅら!」


 レイパーの、殺し合いを楽しんでいるような大声。それと共に振るった腕から、洞窟の出入口へと斬撃が飛んでいき――


「っ?」


 轟音と共に壁が砕ける。


 幸いだったのは、出入口が塞がることなく、寧ろ広がったこと。


 閉じ込められる事態になれば絶望的な状況だった故に、一瞬だけホッとする雅。


 しかし――


「えっ?」


 雅は気が付く。外の異変に。


 やたらと薄暗いのだ。


「アングレーさんっ! 何か変ですっ!」


 雅が呼びかけるが、アングレーはレイパーとの戦いに集中し、それに気が付かない様子。


 そちらも勿論放ってなんておけない。……が。


「…………くっ!」


 半ば本能的に、雅は外の様子を見に行った。


 何が起きているのか、正確に把握せねばマズい……第六感が、そう叫んでいたから。


 そして――


「……えっ?」


 洞窟の外に出た雅の口から、驚愕の声が漏れる。




 まるで台風の目のように渦巻く、黒橡(くろつるばみ)色の雲。




 それは雅達の時間軸で、およそ三ヶ月前に発生した謎の現象と、全く同じものだ。


 肌を撫でるぬめりとした風は冷たく、気持ちが悪い。


 そして、雅は見た。







 遠くの海の方……その海中から、巨大な黒い影が浮上してきたのを。


 そいつが水面を盛り上げ、津波を起こして海上に姿を現したのを。







 それを見た瞬間、雅はユリス・コンコルモートの『あの言葉』を思い出す。


『私、その日は海岸沿いを散歩していたんだけど、海の底からおっきな黒い影がふわーっと上がってきて、すぐに消えちゃったの』

(まさか……ユリスちゃんが見たのは、あれのことっ? いや、だけどあれは――)


 唖然と口を開き、恐怖に瞳を揺らす雅。




 水面を盛り上げて海から浮上した巨大な『そいつ』の正体を、雅は知っていた。




 姿を見せたのは、巨大な白いレイパーだ。


 だがそれを見ても、雅は俄かに自分の視界に映った光景を信じることが出来なかった。


 それほどまでに、現れたのは信じられないレイパーだったから。




 ゾクリと、背中が嫌な震え方をした。




 震えたのは、巨大で不気味なレイパーだから? ……それもある。


 だが、雅が恐れおののいたのは、もっと別の理由だ。


 シロナガスクジラと見間違えてもおかしくない程の、巨大なレイパー。


 日本海沖、佐渡島の隣……およそ百年前からそこに、こいつと同じレイパーが佇んでいる。







 そいつの分類は、『ラージ級ランド種レイパー』。







 雅が生まれた時から目にしていた化け物。今ここで見ることになるなんて、雅は全く思ってもみなかった。


「あ、あいつ、の……目的は……っ! あれを呼び出すこと、だったんですか……っ?」


 メタモルフォーゼ種レイパーが杭を抜いたことが、これと全く無関係とは思えない。奴も「すぐに分かる」と言っていたから、間違いない。


 そして雅達の世界の時間軸で、全く同じことが起きている。そしてラージ級ランド種レイパーは、既に佐渡の隣にいて、その上でユリスは『黒い影を見た』と言った。


 これはつまり、どういうことか。




「まさか……今の私達の世界には、二匹いるんですかっ? あの巨大生物が……っ!」




 佐渡の隣で動かぬランド種レイパー。


 そしてエンドピークの海で、影だけだが姿を見せたランド種レイパー。


 全く同じ姿をした二体の巨大な怪物が、海にいる。


 一体だけでもどうやって倒せば良いか分からないのに、そんな奴がもう一体いるのだ。


(どうすれば……一体、どうすれば……っ!)


 百花繚乱を握りしめ、絶望に顔を歪ませながら必死で頭を回転させる雅。


 だが、その時だ。


「――っ!」


 突如、上空から殺気が降り注ぐ。


 半ば本能的に雅が横っ跳びしてその場から離れた直後、『奴』は今まで雅がいたその場所に落ちてきて、爆音と共に大地を抉り飛ばし、巨大なクレーターを作る。


「ぁ……ぁぁ……っ」


 雅の口から漏れる、恐怖の嗚咽。


 メタモルフォーゼ種レイパーとの戦闘騒ぎを聞きつけたのだろう。アングレーと共に何とか撒いた、あいつがやってきた。


 ドラゴンと悪魔を足して二で割ったような生物……の巨大な石像。




 そう――『ミドル級ガーゴイル種レイパー』が。




(ヤバい……ヤバいっ!)


 顔を青褪めさせた雅の前で、ミドル級ガーゴイル種レイパーは再び牙を剥くのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ