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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第40章 デルタピーク
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第353話『君誰』

 雅とアングレーが最初に違和感を覚えたことは何かと問われれば、まず『カレンの足元』だろう。


 ファイアボールの灯りでは薄らとしか見えないが、何やら大人の身長程の長さの棒が二本落ちていた。そしてカレンの手に、同じものが一本握られている。


 よく見れば……それは、杭。


 雅とアングレーは、見覚えがある。







 二二二二年十月六日……このデルタピークにて見つかった、古い杭。空の異変が起きた後、山で見つかった謎の杭。……カレンが持っているのは、まさにそれだ。







 近くには穴もあり、そこに埋まっていたものなのだろうというのは、二人にも何となく分かった。


「カレン? 何をしているの?」


 元々、三人はカレンのアーツ『アーク・ヴァイオリカ』を探しに時を超え、ここまでやって来たはずだ。


 しかしどう見ても、カレンがここで、自分のアーツを探しているようには見えない。




 何か他の……もっと違うことをしていたような、そんな様子。




 状況から、アングレーは思う。


 カレンはこの杭を、抜いていたのではないか……と。


 背中に嫌な汗が伝い、アングレーはブルリと体を震わせる。


 そして、雅はここで気が付いた。自分が最初に感じた大いなるエネルギーとでもいうべき『何か』……それが、どことなく弱く、ともすれば消えてしまいそうになっていることに。


「…………」


 アングレーの問いかけに、カレンは二人の方を見る。


 カレンは一瞬だが何かを呟いたような口の動きをしたが、何を言ったのか、雅とアングレーには分からない。


 しかし、


「あー、いや、ごめんごめん。なんか私、やらかしたっぽい」

「やらかしたって、カレン――」

「どこかで道を間違えたっぽくて、違う洞窟に来ちゃったみたいだね。あのアーツ、ここには無いや」

「いや、そうじゃなくて――」

「一回戻る? 『逆巻きの未来』があれば、いつでもこの時代に来られるわけだしさ」


 そう言いながら、「あはは、やっちゃったなー」と呑気にそう言いながらカレンは二人に近づいてくる。


 その足音がやけに大きく、そして鈍く聞こえて、アングレーは思わず一歩、後退る。


 底知れぬ嫌な直感……自分の中の第六感が、アングレーの中の警報を激しく鳴らしていた。


 すると――雅がアングレーを守るかのように、一歩前に出る。


 その瞳に宿すは、強い殺気。


 普段は穏やかな雅がその殺気を発するのは……『とある生き物』と対峙した時のみ。


 光を放つ、雅の指輪。出現するは、剣銃両用アーツ『百花繚乱』だ。


 その切っ先を――未だ杭を抱えるカレンへ向ける。


「ちょ、ミヤビちゃん……何々、どうしたの? なんかおっかない顔してるけど……」

「あなた……ここで、何をしていたんですか? その杭、あなたが抜いたんですよね?」

「あー、うん。まぁ、ね。いや、入ってみたらこの杭が突き刺さっていてさ。全部抜けば、アーク・ヴァイオリカが出てくるのかなー……なんて。まぁ、全然検討違いだったんだけど」

「…………」


 アングレーが雅の後ろで、ごくりと唾を飲み込んだ。


 呑気にそう言うカレンが、今は何故か、無性に怖かった。


 アングレーは雅のように、洞窟の入口のところで大きな力を感じたわけではない。


 だが、彼女が持っている杭を見れば、本能的に『何かヤバそうだ』と悟る、不思議な迫力があった。実際に地面に埋まっていれば、もっと近寄りがたい雰囲気があっただろうと、容易に想像できる。


 カレンは……自分の親友は、それでも本当にこの杭を抜こうと思ったのだろうかと、甚だ疑問を覚えた。


 そして彼女のそんな回答に、雅の視線も、鋭さを増す。


 今この瞬間、雅は確信を持った。自分が何故、カレンを最初に見た時に『仲良くなれそうにない』と思ったのか。


 心の深層で、雅は悟り、自分に知らせていたのだ。


 覚えがある。つい最近……そしてそれより少し前に、雅は類似した経験をしていたのだから。


 だから雅は、口を開く。――己の考えが正しいことを、確かめるために。







「あなた……カレン・メリアリカさんじゃありませんね?」







 その場の空気が、凍り付く。


 アングレーは顔を強張らせ、何を聞いているんだという目を雅の方に向ける。


 そして……雅の言葉に目をパチクリとさせる、杭を抜いた者。


「誰ですか、あなた? いや……そもそも『人間』ですか?」

「い、いやだな……ミヤビちゃん、何を――」

「答えろぉっ!」


 普段の雅からは決して出ない……きっと雅の人生、最初で最後と確信出来る程の、激しい怒声。




 かつて、天空塔でライナの父、ジョセフと会話した時。


 まだ喜怒哀楽のお面を取り込んでいた時の鬼灯淡と会話した時。




 あの時と同じような違和を、雅は確かに、今目の前にいる者から感じ取っていた。


 故に、雅の問答は鋭い。生半可な嘘で誤魔化せるような問いかけではないと、『そいつ』も分かったのだろう。







 カレン・メリアリカ……その姿をした『そいつ』は、一瞬観念したような顔になってから――ニヤリと、口元を不気味に吊り上げた。

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