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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第39章 新潟市南区杉菜
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第348話『遣瀬』

 倒したはずの人型種ヤマアラシ科レイパー……そいつが、突如亡霊となって出現したことは、優と希羅々にとっても大きな衝撃だった。初めてだったのだ。亡霊が出現する場面に遭遇したことなど。


 だから亡霊レイパーが背中の針を、二人の方へと向けたとて、咄嗟に反応出来るはずも無かった。


 ヤバい、殺される――そう思った、その時。




 二人の真上に黒い影が差し込んだと思ったら、空から雷のブレスが放たれ、亡霊レイパーに直撃した。




 激しい衝撃と轟音と共にスパークするブレス。そして直後、巻き起こる煙。


 二人が驚愕に包まれている間にブレスは止み、煙は晴れ……すると、もうそこに亡霊レイパーは影も形も無くなっていた。


 そこでようやく我に返った二人は上を見て、安堵の溜息を漏らす。


 そこにいたのは、山吹色の巨大な竜。シャロン・ガルディアル、本来の姿である。


 シャロンは地響きと共に着陸し、人間態の姿へと変わると、二人の元へと駆け寄りながら口を開く。


「すまぬ、遅くなった! 二人とも、無事かっ?」

「うん……シャロンさんが来てくれたお蔭で、なんとか」

「シャロンさんこそ、無事ですの? 結構ダメージを受けていたみたいですが……」

「なに、もう平気じゃ。ところで、ヤバそうな雰囲気じゃったからブレスで攻撃したが、もしや今の奴は……」

「うん。例の亡霊レイパー。よく分かんないけど、あいつを倒したら、亡霊として復活……復活でいいのかな? まぁとにかく、復活したの」

「ですが、多分倒せましたわね。今まで色んなところに出没しては、追い払うのが精一杯でしたのに」

「亡霊レイパーを見たのは、儂は今日が初めてじゃな。どんなものかと思っておったが、なんじゃ、儂のブレスでどうにかなるではないか。少し安心したわい……」


 シャロンはそう言うと、大きく息を吐き、額に浮かべた汗を腕で拭う。


 そして遠くから聞こえる、パトカーのサイレンの音。


 警察やセリスティア達がやって来て、辺りは騒がしくなる――。




 ***




「――それで、その後事情聴取になってさ。解放されたのが十時なわけよ。もうマジで疲れた」

『そ、それは大変でしたね。本当にお疲れさまでした』


 次の日、一月二十五日金曜日、夜九時二分。


 優は自室のベッドの上で横になりながら、雅と電話をしていた。


 思い出すだけでもぐったりする、と言った様子の優に、雅は苦笑いを浮かべたような声で労いの言葉を掛ける。


『まぁでも、さがみんに大きな怪我が無くて、本当に良かったです。春菜さん達も無事なんですよね?』

「うん、そうそう。まぁ三人とも入院しないといけないんだけど、明後日には退院出来そうなんだって。流石に数日はお店閉めなきゃみたいだけど。厨房、結構壊れちゃったからさ」

『でも、再開出来そうなんですよね? ならちょっと安心です』

「分かる。あそこのキャラメルマキアート好きだから、飲めなくなったら悲しいし。それにシャロンさんの大事なバイト先だしね」


 言いながら、優は上体を起こす。


「あのさ、さっきもチラっと話したけど……こっちでも、また出たよ。亡霊レイパー」

『さがみん達が倒したレイパーが、その場で亡霊になって襲い掛かってきたんですよね?』

「うん。今までいっぱいレイパー倒してきたけど、あんなの初めてだった。でも、どうやら私達が最初じゃないみたい。お父さんからこっそり教えてもらったんだけど、亡霊レイパーが出るようになってから、私達と同じような光景を見たって報告が全国でほんの二、三件だけだけどあったみたいだよ。まだ裏は取れていないみたいで、正式に発表はされていないんだけどね」

『全国で数件……なら、さがみん達が戦ったレイパーだけが特別ってわけじゃなさそうですね。じゃあ私達が見た、あのネクロマンサーみたいなレイパーが亡霊を召喚しているって線は無しか……』


 悩むような、雅の声。


 雅的には、ネクロマンサー種レイパーが亡霊レイパーと一切関係が無いとは、到底思えなかった。


「もしかするとみーちゃんが戦った、そのネクロマンサーみたいな奴は、亡霊を操っているだけなのかもね。だとすると、目的が分からないんだけど……」

『レーゼやミカエルさんには、このことは――』

「うん、伝えてあるよ。二人とも、大分頭を悩ませていたけど」

『もうちょっと、奴らについて調査しないといけませんね……。うーん、分かんないことが多くて困りますねぇ……。せめて、亡霊レイパーが出現するメカニズムだけでも分かればいいんですけど……』

「今までは、あんな奴ら出てこなかったもんね。出るようになったの、最近だし……」

『まぁでも、一個さがみん達のお蔭で収穫もありました。奴ら、シャロンさんのブレスで倒せるんですよね? ブレスが効くなら、魔法とかでも倒せそう』


 今まで倒すことが出来ず、追い払うだけしか出来なかった状況が、これで少しは好転する。これは、大きな発見だった。


「シャロンさんやミカエルさん、ノルンちゃんや……あと愛理に期待だね。何にせよ、倒せるなら良かったし……あ、そうだ。私が新しく得たスキル、使えるようになった? ほら、みーちゃんの『共感(シンパシー)』でさ。流石に私のスキルが、みーちゃんのスキルと相性悪いわけないと思うんだけど」

『『エリシター・パーシブ』ですよね? いや、使えないみたいです。レイパーの位置が分かるスキルなら、私も使えるようになりたいんですけど……』


 申し訳なさそうな、雅の声。


 新しく誰かのスキルを使えるようになれば、何となくの感覚だが雅には分かる。それが無いので、恐らくまだ『エリシター・パーシブ』のスキルは使えないのだろうと思われた。


「あれぇ? うっそ、マジで? んー……私の二つ目のスキルだから、覚えられないとかなのかな?」

『いや、それはないでしょう。真衣華ちゃんのスキルは二つとも使えるわけですし』

「もしかして、動画で見せただけじゃ駄目なのかな……?」

『あー、それはあるかも。私の近くでスキルを使ってもらわないと、『共感(シンパシー)』が使えるようにしてくれないのかもしれません。でも何にせよ、二つ目のスキルの獲得、おめでとうございます』

「ふっふーん、ありがと。正直、私もこんなに早く貰えるなんて思わなかったけど。ただ……」


 ここで一旦、優は言葉を濁す。


 未だスキルを貰えない、()()の顔が思い浮かんだのだ。


「……シャロンさんが、大分ショックを受けちゃったんだよね。『サガミハラが先にスキルを貰えるとは……何故儂はまだ……』って」

『あぁー……でも、言うて私達もスキルを貰うのに、三、四年掛かったじゃないですか。シャロンさん、まだ半年も経っていないなら、案外スキルが貰えないのも、時期尚早だと思われているからなのかもしれませんよ? 焦り過ぎない方が良い気もしますけど……』

「うん……そうだよね? うちのお母さんや伊織さんだってスキル無いんだし、焦ることないよね? シャロンさんはスキルが無くても充分強いし頼りになるし、私からもそう言っておく」


 そこで優は一旦言葉を切って、天井を仰ぐ。


 一息吐いて、少し悩んだが……優は『ある話』をするために、口を開いた。


「あのさ、みーちゃん。ちょっと聞いてほしんだけどね……んー、あんま気分のいい話じゃないんだけど、なんか話さないとやってらんなくて――」


 それは、母親を殺された、あの少女の話。


 人型種ヤマアラシ科レイパーとの戦いが終わり、事情聴取も済んだ後、優達は警察署で、あの少女と会って、少しだけ会話をしていた。


 あの少女は、祖父母の家に引っ越すそうだ。母子家庭で、父親は昔、事故で亡くなったらしい。あのくらいの歳頃の子が独りで生きていけるわけはないから、当然の流れだった。


 ……そして優は、それが堪らなく悔しかった。


「――それで、なんていえば良いか分かんなくなってさ、結局、『お母さんの仇、とったからね』ってだけ伝えて別れた。それ言うのにも、凄く時間掛かった。会いに行く前は色々考えていたはずだったんだけど、本人目の前にしたら全部吹っ飛んじゃって……」

『…………』

「……ねぇ、みーちゃんなら、なんて声を掛けた?」


 優は聞きたかった。女好きで誑しの親友なら、一体どんな言葉を掛けるのか。聞いたところで、同じことをやろうとしても出来ないだろうが、それでも。


 近くて遠い未来、あの少女と同じ目に遭った人と出会ってしまった時、少しでも心の支えになってあげたかったから。


 雅は優の言葉に、長い沈黙で返し、優も雅の回答を、ただ黙って待つ。


『……私も、何も言えなかったですね。きっと言葉が見つからなくて、でも何か言ってやりたくて……仮に何か言えたとしても、ありきたりな励ましの言葉しか言えないと思います』

「そっか……」

『でも……私がその女の子の立場なら、それでもきっと、少しくらいでも、そうやって声を掛けてくれたことは……すぐにはそう思わなくても、遠い将来、凄く救われたなって、そう思うんじゃないかな?』

「……みーちゃん……」

『……いつか……こんなこと、言ったり悩んだりしなくても良くなる世界にしましょう』

「うん……そうだね。やっぱ、そうだよね。あー、なんかモヤモヤしていたんだけど、結局あいつらを全滅させないと、なんも解決しないってことかー!」


 髪の毛を手でワシャワシャとしながら、優は控えめに絶叫するのだった。

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