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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第39章 新潟市南区杉菜
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第344話『引際』

 夜の八時十分。


『BasKafe』のある南区杉菜の隣町……そこの畑内で、戦闘音が鳴り響く。希羅々達三人と、人型種ヤマアラシ科レイパーが交戦中だ。


 レイパーを見つけた希羅々が先制攻撃を放ち、希羅々の声を聞いたシャロンと優が直後にやって来て戦闘開始。争っている間に、希羅々達にとって戦いやすい開けた場所へと移動してきたのである。


「はぁっ!」


 希羅々の鋭い声と共に、金色のレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』が空を裂き、レイパーの腹部にヒットする。


 しなり、軋むレイピアに顔を顰める希羅々。敵の筋肉は、彼女の想像以上に硬かったのだ。


 それでも敵が軽く怯んだことで、希羅々の()()()()()に嵌った指輪が光を放つ。刹那、右手に持っていたレイピアが左手へと移動した。


 アーツをもう片方の手に移動させる、『アーツ・トランサー』が発動したのだ。


 レイピアはどうしても、攻撃する時に腕を引く動作が必要となるが、これがあればその動作も必要ない。


 それにより、間髪入れない程の速度で二撃目を繰り出そうとした――のだが。


「ちっ!」


 軽く舌打ちをした時にはもう、希羅々はバックステップで敵と距離を取っていた。


 そしてレイパーの体を掠める、弾丸型の白いエネルギー弾。


 背後で、優がレイパーを狙撃したのだ。手に持つは、白いスナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』である。


 あのまま希羅々が二撃目を放っていたら、今のエネルギー弾は希羅々に命中していたかもしれない場面だった。


 しかし優はそれを意に返さず、二発目をレイパーへと放つ。


 レイパーは頭部に生えた、鹿のような角を振り、それを弾こうとするも――


「させん!」


 背後からシャロンの声が響いたと思ったら電流の鞭が伸びてきて、レイパーの角を絡めとる。


 鱗に覆われ、爪の生えた腕、そして羽と尻尾。体の一部分だけを竜化させたシャロンの腕の周りには、十二個もの雷球。アーツ『誘引迅雷』……そこから迸る電流を操り、鞭を創り出しているのだ。


 その鞭を引き、仰け反るレイパーの胴体に、今度こそエネルギー弾が命中し、緑色の血が僅かに噴出する。


 流石に痛みを覚えたのか、呻くレイパー。


 シャロンは鞭を解くと、一気に敵へと接近し、爪の一撃を繰り出した。


 しかし――ガキンと言う、爪の阻まれた音が鳴り響く。


「ぐっ?」


 レイパーは背中に生やした針を素早く引っこ抜き、シャロンの爪を受け止めたのだ。


 その瞬間――レイパーはいきなり、体を捻る。


 その直後にチリっとした痛みが走る、シャロンの頬。


 優が敵の背後から放った弾丸が、頬を掠めたのだと分かったのは、そのすぐ後。


 優としては敵の隙を突いたはずの攻撃だったのに、それを躱されたことで却って味方に被害をもたらしてしまったのである。


「シャロンさん! ごめん!」

「ちょ、あなた! 先程から少し攻め過ぎですわ! やり辛いではありませんのっ!」


 青褪める優に、怒鳴る希羅々。


 だが、レイパーは一気に三人から距離を取ると、背中の針を向け、そして――




 その無数の針を、勢いよく飛ばしてきた。




(奴め、こんな攻撃までっ?)

「下がれお主ら!」


 戦慄の表情を浮かべつつ、シャロンが優と希羅々の前に飛んで行きつつ、電流を広げて盾を創り出す。


 バチバチと激しく放電しながら、盾に触れた針が勢いよく消し炭となっていった。


 地面に突き刺さっていく針が、土の塊を撒き散らし、三人は反射的に目を閉じかけてしまう。


 攻撃が止み、電流の盾が消えた後……


「あぁ、もう!」


 優が、悔しそうに地団駄を踏む。




 レイパーの姿はどこにもない。逃げられてしまった。




「まだ遠くへは行っていないはず……! 早く追いかけないと!」

「いや、待てサガミハラ。止めておこう」

「ええっ? なんでっ?」


 シャロンは優の質問に答える前に、空を仰ぐ。


 そして、軽く息を吐き出すと、


「もう、夜も遅い。さっきの戦闘も、暗くて敵の姿が見にくかった。……それに、対策も立てんといかん。今戦っても、返り討ちにされるのがオチじゃろう」

「ヤマアラシは夜行性。その特徴を持っているのなら、暗い方が敵にとっては戦いやすいですものね」

「いや、でもさ……こうしている間にも……」

「気持ちは分かるが、それでお主らを無闇に危険に晒すわけにはいかん。特にサガミハラ、お主は、今日はもう休むべきじゃ。夕方に別のレイパーと戦ったのじゃろう?」

「そ、そりゃそうだけど……でも――」




「いい加減になさいっ!」




 希羅々の雷と共に、優の後頭部に拳骨が落ちる。


 激しく脳みそを揺さぶられるような衝撃。呻き声を上げるより先につんのめり、そこでようやく痛みが襲ってきた。


 ジンジンする後頭部を手で押さえ、少し涙目になった目で希羅々を睨み、文句を言いかけるが、それより先に希羅々が口を開く。


「全くあなたは……何をそんなに焦っているのですか? やる気があるのは結構ですが、それと無茶をするのは別問題ですわ!」

「…………」

「よく考えてごらんなさい! あなたが無茶をして大怪我をすれば、誰が一番悲しむのか! 両親や親友、その顔を少しくらい思い浮かべなさい!」

「……ぐ、ぐぬぬ……!」

「……ほら、分かったら帰って、とっとと対策を立てますわよ! 春菜さんのことも気掛かりですし!」


 吐き捨てるようにそう言うと、希羅々は踵を返す。


 スタスタと足早に歩きだす希羅々の背中を見ながら、優は唇を噛んだ。そんな彼女の背中に、シャロンはそっと手を添える。


「……まぁ、お主は少し冷静になった方がよい。儂もキキョウインも、お主のことは頼りにしておるんじゃ。……あまり思いつめるでないぞ」


「ほら、行くぞ」とシャロンは優の手を引いて、『BasKafe』へと向かうのだった。

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