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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第39章 新潟市南区杉菜
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第343話『闇紛』

「お母さんっ!」

「出血が酷イ! 止血……ッ! あと救急車ッ!」


 人型種ヤマアラシ科レイパーが逃げた直後、倒れた春菜の元に駆け寄る真衣華と志愛。


 流れ出る血は止まる気配が無く、呼吸も浅い。一刻も早く手当をしないといけない状況だ。


 シャロンや優、希羅々と協力しながら春菜の怪我の応急処置や救急車、警察への連絡をすること二分――


「……よシッ! 血は何とか止まっタ!」

「場所、移した方がいいかなっ? あ、いや、無闇に動かしちゃ駄目か! でも厨房のままだと……ええっと……」

「真衣華、落ち着ケ! 救急車はすぐ来ル! ここで安静にさせルのがベストダ!」

「ああ、そっか! ごめん志愛ちゃん、ありがとう!」


 そう言う真衣華の背中を、志愛はポンポンと叩き、無言で何度も頷く。


 シャロンは一度大きく息を吐くと、窓の外を見ながら口を開いた。


「タチバナとクォン、サガミハラは、ここでハルナさんを見ていてくれ。キキョウイン、儂らは奴を追うぞ! 敵の力が分からんから、儂からあまり離れないようにの!」

「待って、私も行く! レイパー探すなら、人手は多い方がいいでしょ!」

「いや、しかしお主は今日……」


 シャロンは優を一瞥し、何か言いかけるが、首を振って途中で止める。今は問答している場合では無い。


「なら、サガミハラとキキョウイン、儂の三人で行くぞ! 着いてこい!」

「オッケー!」

「分かりましたわ!」


 そう言うと、三人は窓から外へと出るのだった。




 ***




 シャロン、優、希羅々の三人が外に出て五分後。


「あー! もう! 奴はどこっ?」

「相模原さん、ちょっと静かになさい! 大声なんか出していたら、見つかるものも見つかりませんわ!」


 逃げたはずの人型種ヤマアラシ科レイパー。しかし三人で探しているにも拘らず、一向に影すらも見つからない。


「手分けした方がよくない? 私と希羅々ちゃんで別れて、どっちかにシャロンさんが付けば連絡も――」

「それだと、誰かが単独行動せねばならんじゃろう。それは駄目じゃ! 多分奴は気配を隠すのが上手い。単独行動したら最後、奇襲されて殺されるぞ!」


 厨房で春菜が襲われた時、近くにいた五人は誰もレイパーの気配に気が付かなかったのだ。それが、シャロンの思考を慎重なものにさせていた。


「ぐぬぬ……」

「ガルディアルさんの言う通りですわ! 兎に角、もっと注意深く奴の姿を――あら?」


 話している途中で、不意に希羅々は後ろを振り返る。


(今、そこを何かが通ったような……気のせいかしら?)


 何となく、嫌な予感がした。




 ***




 希羅々が嫌な予感を覚えてから、一分後。


 『BasKafe』の厨房で春菜を見ている、志愛と真衣華はというと。


「……うぅ……」

「真衣華……大丈夫ダ。そろそろ救急車が来る頃だかラ……」

「……あぁ、ごめん。無駄にウロチョロしてた」


 そう言って、ガリガリと頭を掻く真衣華。応急処置のお蔭で、春菜の容態は少しマシになってきている。慌てても事態は好転しない……そう自分に言い聞かせるも、真衣華の心はやはり落ち着かない。


「お母様がこんな目に遭ったんダ。無理も無イ。――ところデ、優達は大丈夫だろうカ?」


 志愛が話題を変えながら、窓の外を見る。自分の頬の傷が疼き、そこにそっと指を添えて。


「……特に優ハ、今日レイパーと一戦交えていル。無茶が祟らないといいんだけド……」

「優ちゃん、最近ちょっと気が立っているしね。心配……」

「……マァ、シャロンさんと希羅々ガ、上手くコントロールしてくれると思うガ……」


 と、志愛がそう呟いた、その時だ。


「――ッ!」

「あいつ……っ!」




 窓の外を、黒い影が猛スピードで通り抜けた。




 ほんの一瞬だったが、真衣華も志愛もすぐに直感する。あれは、人型種ヤマアラシ科レイパーだと。


 慌てて窓から身を乗り出し、レイパーの姿を追うが……どこにも見当たらない。


「あいつ……戻ってきたのっ?」

「どこダッ? どこに逃げタッ?」


 その刹那。


『BasKafe』の入口の方から、ドアを開けるような小さな物音がした。


「ヤバい……あいつ、入って来た! ど、どうしようっ?」

「兎に角、厨房に入らせないようにしないト! 作戦を練るゾ!」


 慌てて厨房の中へと身を戻した志愛と真衣華。


 だが――




「ウッ?」

「ぇっ?」


 突如、背中に強い衝撃を受け、意識を持っていかれる二人。


 その背後には……人型種ヤマアラシ科レイパーがいた。


 先程の小さな音は、フェイク。二人の気をそちらに逸らし、厨房の窓から中に忍び込んで、背後から奇襲を仕掛けたのである。


 床にドサリと倒れた真衣華と志愛を一瞥し、レイパーは背中の刺を一本抜き――笑みを浮かべた。


 無抵抗の相手を、自分の針で貫くこと……それがこのレイパーには、何よりの楽しみだ。


 しかし、倒れた二人に、レイパーが止めを刺そうとした瞬間。


「――ッ?」


 サイレンが、『Baskafe』の前で停まる。


 直後、救急隊員と警察が慌ただしく中へと入って来た。


「春菜! 真衣華! 無事かいっ?」


 真衣華の父親、蓮の声も聞こえてくる。


 このまま見つかれば、面倒なことになる……そう思ったレイパーは、再び窓から外へと出る。


 しばらく時間を置いて、また来ようと、『BasKafe』から離れだしたのだが、




「見つけましたわっ! こっちです!」

「ッ!」




 道を二本離れた辺りで、突如横から響く、鋭い声。


 レイパーにとっては運の悪いことに、そこに偶然、希羅々がいた――。

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