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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第39章 新潟市南区杉菜
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第341話『無茶』

 雅がキャピタリークで異変の調査をしている時、新潟では。


 一月二十三日水曜日、午後五時五十七分。


 新潟市秋葉区にある、矢代田(やしろだ)駅付近で、爆発音が鳴り響く。


 そこにいたのは、二人の少女。


「フゥ……ナ、なんとか倒せタ……!」

「志愛、お疲れ」


 ツリ目をした、ツーサイドアップの髪型の少女……権志愛が肩で息をしながらも、ホッとしたような声を上げると、黒髪サイドテールの女の子……相模原優がサムズアップしながらも、無機質な声でそう言う。


 二人とも頬や腕に怪我や痣があり、ボロボロだ。


 実は今の今まで、二人はレイパーと戦闘していた。先の爆発音は、レイパーを倒した際のもの。


 志愛の手には、銀色の棍。先端が紫水晶を咥えた虎の頭部になっているそのアーツは、『跳烙印・躍櫛』……なのだが、いつもと様子が違っていた。


 志愛の手元からポッキリと折れ、ささくれが痛々しい。辛うじて皮一枚で繋がっているような、そんな有様だ。志愛のアーツは、手に持った棒状の物を変化させる。故に壊れても大きな痛手は無いのだが……それだけ、今の戦いが激しかったということが分かる。


 ……最も、志愛のアーツが破損したのは、それだけが理由ではないのだが。


 志愛は一度大きく空を仰いだ後、折れた跳烙印・躍櫛をペンの姿に戻して軽く溜息を吐き、未だアーツを手にピリピリとした雰囲気を醸す優に向けて、口を開く。


「優、最近少し無茶をし過ぎじゃないカ?」

「無茶?」

「このとこロ、戦闘漬けだろウ。週一くらいのペースじゃないカ」

「……月に三体前後だから、ギリ週一になってないし、大丈夫」


 志愛の言葉に、優はやや申し訳なさそうな顔でアーツを仕舞いながら、減らず口を叩く。


 そんな優に、志愛は少しだけ眉を吊り上げた。


「自分から奴らを探しテ、戦いを挑みに行っているじゃないカ。これを無茶と言わずしテ、なんて言うんダ」


 今倒したレイパーも、優がどこからか目撃情報を入手して、わざわざ学校が終わった後にここまで来て見つけた相手である。


「いや、まぁ、うん……ほらさ、ちょっと前まで、みーちゃんを探すために積極的にレイパーと戦ってきたわけだし……やってることは、あんま変わんないって」

「……そうハ、思えないがナ……」


 あの時と今とでは、状況が違う。世界が融合してから、出現するレイパーは強敵ばかりだ。それが分かっているから、志愛は小さくそう呟いた。


(まァ、優も強くなったガ……)


 魔王種レイパーやお面を被ったレイパー、葛城(くずしろ)達と戦ってきたことで、優の戦闘力は確かに上がっている。実力のある者とペアを組めば、多少積極的にレイパーと交戦したとて、勝ち目は充分にあろう。


 しかしそれは、決して無茶をして良い理由にもならない。


(せめテ、もっと戦いやすそうなレイパーに絞るとカ、安全を意識して欲しいナ……。心配だシ、ヒヤヒヤするシ……)

「ん? 何か言った?」

「……いヤ、なんでもなイ」


 そこら辺の自分の気持ちを上手く伝えたいのだが、今の優にはどう言えば素直に聞いてもらえるのか……その答えを出すには、志愛はまだ人生経験が足りていなかった。


 最も、何を言ったところで素直に聞いてくれるほど、優も大人ではないが。


「……さーて、志愛。『BasKafe』で夕飯にしようよ。折角ここまで来たんだし。『今日は遅くまでやっている日』だから、真衣華もシャロンさんもいるでしょ。うちもお父さんとお母さん、今日は警察署に泊まり込みって言っていたから、夕飯作る必要もないし」

「今の時間、バスはあるのカ? マァ、いいゾ。おっト、それなラ、ママに連絡を入れないとだナ……」


 あからさまに話題を変えに来た優に呆れながら、志愛はULフォンを開き、母親に電話するのだった。




 ***




 そして、午後七時五分。


 新潟市南区杉菜にある喫茶店『BasKafe』に到着した二人。


 基本的に喫茶店としての役割は十六時で終わるのだが、水曜日と土曜日だけは、夜の八時まで営業している。十八時以降はディナーセットがメニューに追加されるだけなのだが、これが中々人気で、ここで夕食を済まそうとする人も割と多いのだ。


 扉を開けると、鈴の音が響く。


 まだ客がそこそこ残る店内を見回しだすと、


「遅いですわよ。もうすぐラストオーダーの時間ではありませんの」


 ピシャリとした声がする。


 寧ろ毎日じゃないとは言え、こんな時間まで営業している喫茶店とか珍しいでしょ、と心の中で突っ込みを入れながらそっちに目を向けると、そこにはティーカップ片手に優雅に烏龍茶を飲む、ゆるふわ茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々がいた。


 テーブルには空いた皿がある。彼女もディナーセットを注文したのだろうと、優も志愛もすぐに分かった。


「なんだ、希羅々ちゃんもいたのね。相席良い?」

「希羅々ちゃん言うな、ですわよ。ほら、どうぞ」

「仲が良いんだカ悪いんだカ……。希羅々はまタ、烏龍茶を飲みに来たのカ?」


 相変わらずのやりとりに苦笑いを浮かべながらも、志愛がそう尋ねると、希羅々は「ええ」と言って頷く。


 ここはやたらと飲み物の種類が多く、烏龍茶も勿論ある。希羅々が無性に飲みたくなる時があるくらいには美味しいのだ。今日も学校が終わり、何となく一杯やりたい気分だったので、ここまで足を運んでいた。


「あ、水貰ってくるね。ついでに注文もしてくる。志愛もディナーセットでいい?」

「ありがとウ」


 お礼を言いながら、志愛は席に座る。


 すると、


「あなた達、怪我していますわね。……また、レイパー探しですの?」


 優が離れたタイミングで、希羅々はこっそり、志愛にそう尋ねてきた。


「あア。さっきも一体倒したところダ。随分頑丈な奴デ、倒すのに苦労しタ」

「お疲れ様。全くあの子は……。束音さんが学校を辞めてからですわよね、こんなことするようになったの。一過性のものかと思いましたけど、ここまで続くとは……」

「そうだナ。……今はまダ、ちゃんと誰かと一緒に戦っているかラ、あまり強くは止めていないけド……」

「うるさく言い過ぎて独りで行動しだすと困りますし、どうしたものか、ですわね……」

「おまたせー。……ん? どうしたの二人とも? 内緒話?」

「あなたの悪行を、権さんから聞かされていましたの。……お疲れ様ですわ」

「あ、その話? まぁいいじゃん、生きているんだし」

「あなたねぇ……。あぁ、そうですわ。権さん、()()の調子、どうですの? レイパーと戦ったのなら、使ったのでしょう?」


 言いながら、希羅々は志愛の左腕に着いた『腕輪』に目を向ける。


 それは、少し前までは無かったもの。『StylishArts』が開発した、新しい武器の一つだ。


 いつぞやのウラで入手した植物、『サルモコカイア』。それを煮詰めた際に出る煮汁に含まれるエネルギーを利用して作ったものだった。


 しかし聞かれた志愛の方はというと、若干困ったような、渋い顔をする。


「……出力が大きすぎル。強力だけド、アーツの方が耐えられなかっタ」

「今日は跳烙印・躍櫛、折れちゃったもんね。まぁあれは敵の体が硬過ぎたってのもあるけど」

「ふむ……。前に調整した時は効果が弱すぎて使い物になりませんでしたし、中々難しいですわね……」

「真衣華のお父様ニ、また調整をお願いしないト。私ももっト、使いこなせるように努力すル。……そうダ。話は変わるけド、セリスティアさン、最近伊織さンと勉強しているみたいだゾ」

「勉強? 何のですの?」


 あの二人が勉強している姿などとても想像出来ないが、それを表に出すのはあまりにも失礼だと思った希羅々。大層驚愕する己の心を何とか内に隠そうとし、目を瞬かせるにとどめる。


「詳しくは私も知らなイ。聞いたけド、秘密と言われタ。……でモ、あれは多分バイクの免許取得の勉強だと思ウ。持っていた本ガ、そんな感じだったかラ」

「バイク? ファルトさんが? またどうして?」

「あー、そう言えばこの間、うちのお母さんに何か聞きに来たみたい。セリスティアさん、強くなろうって色々考えているみたいだよ?」

「……だガ、何故バイク?」


 志愛の質問に、優は首を傾げる。同じ質問を優もしたのだが、その回答の中身が今一つ頭に入らなかったのだ。聞いている内になんだか理解するのが面倒になって、『後でセリスティアさんに聞こうっと』となったものの、未だそのチャンスが無くて分からないままとなっていた。


「まぁでも、バイクですか……。意外とファルトさん、ライダースーツ姿が似合いそうですわね」

「あ、分かる。多分かっこいいよね」

「海岸沿いの道路とカ、かっとばす姿見てみたイ」


 真面目な話をしていたと思ったら、いつの間にか雑談が始まる三人。


 ディナーセットが来て、それを食べながらお喋りに夢中になっていると、お客さんもだんだん減っていき――気づけば店が閉まる時間になる。


 これはつまり、


「おっまたせー」

「いやぁ、今日も働いたのぉ」


 バイトが終わった真衣華とシャロンが、三人のお喋りに混ざる時間だ。

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