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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第38章 キャピタリーク
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第339話『海影』

「ふぅ、やっと終わったな」

「なんやかんや、結局結構遅くなっちゃいましたね」


 もうしんどくて仕方ないという顔をする愛理に、力無く微笑む雅。


 時刻は夜の十時半を過ぎている。


 レーゼとミカエルには早く休むよう言われたものの、バスターの人達には治療が終わったら今回の件を詳しく報告すると約束していた。ネクロマンサー種レイパーや亡霊レイパーについてレーゼ達とした考察も含め、あれこれと話をしていたら、こんな時間になってしまったのである。


 逃げたレイパー達はバスターが今もなお捜索しているが、影も形も見つからないらしい。既に近隣の街にも連絡がいっており、夜遅くにも拘わらず、どこもかしこも大騒ぎになっていた。


 いかがしたものか非常に頭を悩ませる事態だが、一先ずはユリスを無事に家まで送り届けるのが先であり、二人はラティアとユリスの待つ場所――街の中央にあるコンサート会場の入口だ――へと向かっている。


「あ、二人とも! こっち!」

「ラティアちゃん! ごめんなさい、遅くなっちゃいました!」

「待ちくたびれたー!」

「許してくれ。思いの外時間が掛かった」


 普通の子供なら寝ていてもおかしくない時間帯だが、ラティアもユリスもまだ元気そうで、雅と愛理の顔も少し明るくなる。


「ねぇ、あのお化けのレイパー達、見つかった?」

「ごめんなさい、まだ見つからなくて。でも、今バスターの人達が頑張って探しています。きっと見つけて退治してくれますよ」

「うん。でも、やっぱりちょっと怖いね……」

「しばらくは、夜に出歩くのは止めた方が良いだろう。奴らと出くわさないとも限らない」

「えー? ……んー、でも、そうだね……」


 一瞬渋った顔になるユリスだが、それでも亡霊レイパー達に追いかけられたことが余程怖かったらしく、すぐに素直になる。


「……それにしても、とんだ一日になってしまったな。よし、急いで帰ろう」

「そうですね。家に帰って、ぐっすり寝ましょう。少なくとも朝になれば、あの亡霊達に襲われることなんて心配しなくてもいいでしょうし」


 光が苦手なレイパーなら、朝はどこかに身を潜めているに違いないと思った雅。実際、全国で出現した亡霊レイパー達も、発見されたのは決まって日が落ちてからだった。


「……ねぇ、流石に私、パパとママに怒られるかな? うー……」

「まぁ、内緒で外出していたわけだしな……。だが今日の外出は、私達が無理矢理連れ出したと言っておけば大丈夫だろう」

「ええ。どっちかと言えば、怒られるのは私達でしょうから」


 そう言って、うへぇ、という顔になる雅と愛理。怒鳴られるくらいで済めば良いが、最悪殴られるくらいは覚悟しておかなければならない。


「私も一緒に謝る。だから、あんまり気落ちしないで」

「ラティアちゃん……ありがとう」


 弱々しく笑みを浮かべた雅が、ラティアの頭にポンと手を乗せる。


「……よし、早く行くか。何にせよ、これ以上遅くなれば余計に怒られる」

「待って。……あの、私の話、信じてくれてありがとう。誰も信じてくれなかったのに……正体がレイパーだったなんて、思いもしなかったけど……」


 歩き始める前に、ユリスがそう言ってペコリとお辞儀をしてきた。


「いや、こちらこそありがとう。そしてすまない。君を危険な目に遭わせてしまったな」


 元々、ユリスが見た幽霊のことを探しに来た愛理達。見たものが何か、本人に教えてもらわないと、と思って連れてきた。今にして思えば、幽霊の捜索が多少困難になったとて、ユリスは置いてくるべきだったと反省する。


 そして、帰り始める四人。


 騒ぎのせいでどこの家も灯りが付き始めたお蔭で明るくなった夜道を、何気無い話をしながら歩いていく四人。


 会話が途切れることはない。なんとなく話をしていないと、落ち着かなかったから。


 そんな中、


「あ、そう言えばユリスちゃん。三ヶ月くらい前に、変なことが起きましたよね? 空に黒い雲が集まって、すぐに消えたっていう事件」


 ふと思い出したように、雅がそう尋ねる。


「空に黒い雲? ……あー、あれ。うん。でも、それがどうしたの?」

「実は私、それを調査しに来たんです。詳しく話すと長くなっちゃうんですけど、それもこれも全部、あの幽霊みたいなレイパーの出現と、何か関わりがあるんじゃないかなーって。ユリスちゃん、何か知っていたら教えて欲しいんですけど……」

「ふーん? んーと……それは私も見たけど、本当に一瞬のことだったから、よく分かんない。ただ、なんかこう……嫌な風が吹いていた気がする」


 ユリスの、あくまで個人的な感覚だ。嵐が来るとかそういう次元ではなく、なんとなく肌を撫でる風がぬめっとしていたのである。本能的に恐怖を感じる……とでも言えばよいのだろうか。


「あとね、海がなんか変だった」

「海?」


 雅が聞き返すと、ユリスはコクンと頷く。


「私、その日は海岸沿いを散歩していたんだけど、海の底からおっきな黒い影がふわーっと上がってきて、すぐに消えちゃったの」

「おっきな黒い影……クジラでしょうか?」

「んー……分かんない。でも、多分違うと思う。おっきなクラゲっぽかった気がしたけど……」


 自信が無さそうに言うユリス。


 津波や渦潮が発生するわけでもなく、本当にただ何かが浮かんできて、すぐに消えてしまったのだ。何を見たのか、ちゃんと確認出来なかった。


 挙句、波も荒ぶっていたのだ。何かと見間違えたということも、充分あり得た。


「でも、本当にそれだけだった。それから変なことが起こることもなくて、いつも通りだったし。……あ、そう言えば、山の方で、変な杭が見つかったなんて話があったっけ?」

「杭?」


 聞き返した雅に、ユリスはコクンと頷き、指を差したのは――エンドピークの西、丁度ウラとの国境沿いにそびえたつ、大きな山だ。


「黒い雲に、海中のおかしな影、そして杭……」


 山を見つめながら呟いた雅の言葉は、夜闇にふぅっと消えるのだった。

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