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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第38章 キャピタリーク
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第335話『霊使』

「ね、ねぇ……」

「見ちゃ駄目!」


 女性の死体を見て顔色を変えたユリス・コンコルモートをラティアが抱きしめ、自分の胸に顔を(うず)めさせる。


 雅と愛理が視線でラティアに礼を言いつつ、二人揃って死体に近づいた。


「……腕や手が酷く冷たいです。まるで氷みたい」

「亡霊レイパーの仕業か……。肝心の犯人の姿がどこにも無いが……」


 ミカエルの推理では、亡霊レイパーは人間から熱のエネルギーを奪って殺すとのこと。故に死体が青くなり、体が酷く冷える。この女性の死体はまさに、これに合致していた。


「……愛理ちゃん、どうします? 逃げますか?」

「一旦落ち着こう。慌てて逃げて、もし不意打ちを受けたらそれこそ全滅だ。多少危険でも、敵の正体と位置だけは把握しておきたい。恐らく亡霊レイパーがいるのは――」


 そう言いながら愛理が見つめた先は――公園の奥の方。ユリスが昨日、たくさんのお化けを見たと言っていたその現場だ。


 最初はユリスの話を疑っていた愛理だが、死体を発見したとなれば考えも百八十度変わる。


「分かりました。とにかく、四人で固まりましょう。ラティアちゃん、ユリスちゃん、私達から絶対離れないように」


 そう言うと、雅は二人を抱き寄せる。


 ヤバい状況でこそ冷静に……自分達がパニックになれば、ラティアとユリスの身が危なくなるぞと言い聞かせ、何とか心を落ち着かせる雅と愛理。


 そのまま奥の方へと慎重に進んでいき――その光景を見た瞬間、雅と愛理は目を大きく見開いた。




 そこにいたのは、大量の亡霊レイパー。その数、ざっと数えるだけでも三十体。




 ユリスの話から敵の数が多いことは想定していたが、それを遥かに超える量に、雅も愛理も顔を青褪めさせる。


 こんなにたくさんの亡霊レイパーがいて、よく被害者が一人で済んでいたものだとすら思ってしまう。


 慌てて茂みの陰に身を隠す四人。雅と愛理は頬に嫌な汗を流しながらも、葉の隙間から様子を伺う。


(おい、まずいぞ? これは、バスターと連携したところで……)

(どうするにせよ、見つかる前に撤退です。物音を立てないように、ゆっくりと退きましょう)


 視線だけで、そう会話する二人。


 幸い、亡霊レイパー達はまだ四人には気が付いていない。


 ラティアとユリスも、込み上げそうになる悲鳴を必死で押し殺してくれている。


 今なら敵の隙を見て逃げることは出来そうだと、雅が周りを確認し、愛理は亡霊レイパー達の動きから目を離さずにチャンスを伺いだした。


 だが、その瞬間。


「……束音」


 何かに気が付いた愛理が、こっそりと雅に声を掛ける。


 愛理が静かに指を差した先を見た雅は、眉を顰めた。


 何かいるのだ。亡霊レイパーが集まる、その中心に。


 明かに亡霊どもとは違う、禍々しい生命体。


 そいつを覆う亡霊達が移動し、その顔を見た二人は息を呑む。


 そこにいたのは、頭がヤギの頭蓋骨のような形状をしている、黒いローブを纏った人型の化け物だ。腕や足は骨のように細く、Tの字型の長い杖を持っている。


 そいつが杖をフラリと揺らすと、それに合わせて亡霊達がゆらゆらと動いた。軍隊のような統率はとれていないものの、それでも傍目で分かるくらいには統一された動きである。


 まるで操られている……そんな様子だ。死霊使いのようだと言われれば、まさにその通りだ。


 分類は……『ネクロマンサー種レイパー』だろうか。


「なんだあいつは? この亡霊達の親玉……なのか?」

「見る限り、事の元凶っぽい雰囲気出してますよね。でも、なんだろう? 親玉と言うには、ちょっと様子が変な気が……」


 敵を観察しながら、コソコソと話し合う二人。


 すると、


「愛理ちゃん、あれを……」


 今度は雅が異変に気が付き、指を差す。


 愛理がそっちを見ると、そこには薄らとした靄が出ており――しばらくもしない内に靄が集まり、三つの角を持った人型の化け物の亡霊レイパーになっていく。


 そしてその亡霊レイパーがフラフラとどこかへ行こうとすると、ネクロマンサー種レイパーはそいつに杖を向けた。


 苦しみだしたような動きをする亡霊レイパーだが、やがてその動きも緩慢になっていき、徐々に他の亡霊レイパーと同じような動きをしだす。


(なんでしょう? あのネクロマンサーみたいなレイパーが、他の亡霊を無理矢理操っている……?)

(そんな感じ……だな)


 雅と愛理は今の光景に、揃って首を傾げた。


 もう少しよく観察したい……と思っていたのだが、


「…………」


 ラティアに袖をクイクイと引っ張られ、雅はハッとする。突然のネクロマンサー種レイパーの登場に気を取られていたが、今は悠長に敵を観察している場合ではなかった。


「二人とも、足音を立てないように。焦らず騒がず、少しずつ、身を屈めたままゆっくりと逃げますよ……」


 雅が小声でそう指示を出し、ラティアとユリスが震えながらも言う通りにし始める。


 しかし、


「……ッ!」


 誰も大きな音など立てていない。




 だがそれでも、本当に偶然――亡霊の一体が、不意に雅達の方へと目を向けてしまった。




 瞬間、その亡霊がゆらゆらと雅達の方へと近づきだし、それに釣られて他の亡霊達もやって来始める。


 さらにネクロマンサー種レイパーも雅達の方を向き、杖を向けだしたのを見て、雅と愛理は顔色を変えた。


「マズい! 見つかりました!」

「逃げるぞ! ラティア、コンコルモートを連れて先に行け! 私達が時間を稼ぐ!」


 そう指示を出すと同時に、雅と愛理の右手の薬指に嵌った指輪が光を放つのだった。

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