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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第37章 ノースベルグ②
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第331話『実体』

 護身用のアーツしか持たないラティアが、雅やレーゼ達から一番徹底的に叩き込まれた『身を守るためのいろは』とは何か。


 盾や『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』の使い方……ではない。それの指導も確かにあったが、実はこれ以上に、もっとしっかり教わったことがある。


 それは『助けを呼ぶこと』。


 護身用のアーツというのは結局のところ、他の大和撫子がやって来るまでの()()でしかない。このアーツを使いながら、自らのSOSを誰かに伝えることが何よりも大事なことだ。


 亡霊コボルト種レイパーと戦闘になったラティアは、半ばパニックになりながらも何とかULフォンを操作し、雅とレーゼに空メールを送っていた。この空メールが、自らの危険を伝えるためのメッセージである。雅と優の間で決めたルールと同じだ。


 雅が駆け付けたのは、このSOSを受け取ったからである。


「ぐっ……!」

「ミヤビお姉ちゃん……!」


 剣銃両用アーツ『百花繚乱』で亡霊レイパーの棍棒を受け止め、鍔迫り合いになっている雅の顔は苦悶に歪んでいた。敵のパワーが、想像よりも遥かに強かったからだ。


 雅は自身のスキル『共感(シンパシー)』――仲間のスキルを一日一回だけ使えるスキルだ――により、(たちばな)真衣華(まいか)の『腕力強化』発動している。にも拘らず、この鍔迫り合いは押し負けそうになっていた。


 だが、


「ラティアちゃん……! 大丈夫、です……っ!」


 ここに雅が駆け付けたということは、だ。




「はぁぁぁぁっ!」

「レーゼお姉ちゃん……っ!」




 雅と行動を共にしていた、レーゼもいるということである。


 雅が敵の棍棒を受け止めている間に、横から迫っていたレーゼが、斬撃を繰り出した。


 虹の軌跡を描きながら放たれたその一撃は、亡霊レイパーの腕に命中。


 亡霊故に血を流すことこそないが、棍棒に込められていた力が一気に緩み、雅との力関係が逆転。気迫の籠った雅の声と共に、大きく突き飛ばされる。


「ラティア、無事っ?」

「う、うん。だけど……動くのは、ちょっと無理、かも……!」


 命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)で身を守っていたとは言え、敵の一撃をモロに受けたのだ。体に力が入らない。


 後ろの女性も腰を抜かしている。避難は不可能そうだ。


 そんな二人を見て、雅とレーゼは肺の中の空気を深く吐き出し――激しい怒りの炎を瞳の中に燃やし、斬りつけられた腕を再生させている亡霊コボルト種レイパーを睨みつける。


「ミヤビ……一気にケリを付けるわよ!」

「はい!」


 その会話を置き去りにするかのような勢いで、その場にただ漂っているだけの亡霊レイパーの方へと走り出していた二人。


 レーゼが一切無駄の無い動きで一閃を繰り出せば、それに続くように雅も斬撃を放つ。


 その連撃の勢いたるや、亡霊レイパーが一切反応出来ないほど。


 しかし――


「何っ?」

「えっ?」


 二人の攻撃は確かに敵の胴体へと命中したはずなのに、まるで空気を斬ったかのごとく、一切の手応えを感じさせずに刃がすり抜けてしまう。


「くっ!」


 つんのめりそうになる雅だが、スキルを発動すると同時に足に力を込める。


 一瞬にして敵の背後に回り込んだ雅。使ったのは、篠田(しのだ)愛理(あいり)の『空切之舞』だ。これは攻撃を外した時、瞬発力を一気に上げる効果がある。


 無防備な背中に、横一閃を放つ雅。


 だが、この攻撃も敵の胴体をすり抜けてしまい、ダメージを与えることは出来なかった。


「なんでっ? さっきは当たったのにっ!」


 レーゼも敵に斬りかかるも、結果は同じ。身じろぎしない亡霊の体は、二人の攻撃を透かしてしまう。


「くっ……!」


 雅が百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにすると、銃口を敵に向ける。


 先程逃げるこいつにエネルギー弾を放った時、わざわざ棍棒で弾き飛ばして防いでいた。斬撃は駄目でも、こちらなら効くはずだ。


 そう思い、柄を握る手に力を込めた瞬間、桃色のエネルギー弾が亡霊レイパーへと一直線に飛んでいく。


 すると、今まで動くことの無かった亡霊レイパーが、今度は棍棒を振ってエネルギー弾を弾き飛ばしながら、近くにいたレーゼを叩き潰しにきた。


 縦に振り下ろされるその一撃を、レーゼは僅かに体を反らして躱すと、お返しと言わんばかりに剣型アーツ『希望に描く虹』を、まるでアッパーをするように振るう。


 斬撃が効かないと頭で分かっていても、日々の弛まぬ鍛錬が、反射的にその一撃を放たせた。


 これもすり抜ける……そう思ったのだが、


「っ?」


 当たった。


 確かに、この斬撃の刃が敵の体に食い込む感触がしたのだ。


 一気に力を込め、下から上へと振り上げるレーゼ。


 大きく仰け反り、明らかにダメージを受けた亡霊レイパーに、彼女は目を丸くする。


 そして、気が付いた。


「――ミヤビっ! こいつ、自分が攻撃する時なら、実体があるのよ!」


 考えてみれば、分かる話だ。


 敵の攻撃を、雅はアーツで防げていた。その前はラティアが盾で防いでいたのだ。原理はともかくとして、その時なら敵に触れることが出来るということである。


 体勢を整えた亡霊レイパーが、再び棍棒を振り上げた。


 声を上げることもしないが、激昂しているのだろうというのは、何となく伝わってくる。


 真上から勢いよく叩きつけられる一撃を、レーゼは至って落ち着いた様子で、剣で受け止める。


 衝撃が刃から腕を伝い、足にまで響く。その威力はかなりのものだ。


 それでもレーゼは、その重い一撃を耐える。


 雅に、決定的なチャンスを与えるために。


 今この瞬間なら、攻撃が可能だから。


 刹那、雅の横に、穴が出現する。


 そこにアーツを突っ込む雅。


 その直後、




「――ッ」




 これまで一切声を発さなかった亡霊レイパーから、驚愕の吐息が漏れる。


 いつの間にか、敵の左側にも穴が出現し、そこから百花繚乱の刃が飛び出していたのだ。


 カベルナ・アストラムのスキル『アンビュラトリック・ファンタズム』。ワームホールのような構造になっている穴を作りだすスキルだ。


 そして雅はもう一つ、スキルを使っていた。敵が視認していない攻撃の威力を上げる効果を持つ、優の『死角強打』のスキルを。


 重い音が鳴り響き、吹っ飛ばされる亡霊レイパー。


「レーゼさん!」

「ええ!」


 雅の声に呼応するレーゼ。刹那、背中に巨大な虹のリングが出現し、同時に彼女の体が空色に輝きだす。


 そしてその輝きが弾けると共に、レーゼの体に纏われるは、空色を基調とした鎧や小手。


 レーゼの強化形態だ。


 これで一気に止めを刺すべく、敢えて威圧するようにガシャリと鎧の音を立てながら、敵に近づいていく。


 だが、


「……なっ?」




 亡霊レイパーはレーゼが変身したことに怯えたのか、僅かに後退し――ゆらりと、姿を消してしまうのだった。




 雅とレーゼが辺りを調べるも、敵の姿はどこにも無い。どうやら逃げられてしまったらしいと結論付ける他無かった。


 現れた謎の亡霊レイパー。


 一体何が起きているのだろうか……?


 拳を握りしめる雅とレーゼの胸の中に、言いようのない不安が渦巻くのであった。

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