表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第37章 ノースベルグ②
421/669

第325話『日常』

 翁、般若、姥、火男のお面の事件……そして、浅見(あさみ)四葉(よつば)の死から、時が流れること三ヶ月半。


 二二二二年、一月十二日土曜日。時刻は午前十時五分。


 ここは異世界の国、アランベルグの北にある街、ノースベルグ。


 そこにある、レーゼ・マーガロイスの自宅にて。


「……さて。これで全部ね」


 青髪ロングの少女……この家の主のレーゼが、庭先で洗濯物を干し終わり、伸びをする。


 ほんの僅かに青空を覗かせた、曇り空。ノースベルグではよく見る天気だ。洗濯物を乾かすには少し難があるが、この街で「もっと天気が良くなったら」等と贅沢を言う者はいない。


 さて、次の家事は……と、レーゼがそんなことを考えていた、その時。




「レーゼお姉ちゃん。庭の掃除、終わったよ」




 透き通った綺麗な声が、後ろから聞こえてきて、レーゼは顔を綻ばせて振り返る。


 そこにいたのは、声に負けないくらい綺麗な白髪の、美しい少女。まだ十にも届かないような年端の彼女は……ラティア。


 いや、ちゃんとフルネームで呼ぶべきか。




 ラティア・ゴルドウェイブである。




 記憶と声を失っていたラティア。しかし四葉の死が切っ掛けとなったのか、ようやく声を取り戻したのである。その後間もなく、自分のファミリーネームだけではあるが、記憶も取り戻した。それが、『ゴルドウェイブ』だ。


 声と記憶を取り戻したラティアは、少し変わった。


 ――良い方向に。


 昔は無表情だったラティアだが、今はそんな様子は無い。少なくとも、レーゼに声を掛けてきたラティアの顔は、見る者を虜にするような、控えめながらもはっきりとした笑みを浮かべている。


 病弱そうだった雰囲気も、今は無い。活発とまではいかないが、ちゃんと健康そうな印象を与えられるまでに、彼女は回復していた。


 首元には、四葉から貰ったリボンがある。チェック柄があしらわれた紫色のリボン……あれから毎日欠かさず、彼女はこれを身に着けていた。


「ラティア、ありがとう。大変だったでしょ?」


 ラティアの土に汚れた手を見て、レーゼが苦笑しながらそう尋ねると、ラティアは曖昧な笑みを浮かべ、遠慮がちに頷く。


 レーゼが雅達の世界に転移してから七ヶ月近く。その間放置されていた庭は、雑草まみれになってしまっていたのだ。


「やっぱり、除草剤を使うべきだったかしら?」

「んー……それは、ちょっと可哀そう。抜いて埋めれば、草はちゃんと土に還るし、そっちの方がいい」

「拘るわね。まぁ、良いことだけど。後は掃除の方だけど……()()()なら、そろそろ終わらせそうね。向こうがひと段落したら、お茶にしましょ。ラティア、先に手を洗ってきなさい」

「うん。ありがとう」


 そんな会話をしながら、家の中に戻ったレーゼとラティア。


 すると、




「お、そっちも終わったんですね。ベストタイミング! こっちも掃除、終わりました!」




 そんな声と共に、家の奥からやって来たのは……アホ毛の生えた桃色のボブカットに、白いムスカリ型のヘアピンを着けた少女。


 束音(たばね)(みやび)だった。


 一見、いつも通りの雅に見えるが……彼女の首には、少し前までは着けていなかった黒いチョーカーがある。


「お疲れ、ミヤビ。そっちが終わったら、お茶にしようってラティアと話していたの。丁度良かったわ。今淹れるから、ラティアと一緒に手を洗って座ってて」

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか、ラティアちゃん」

「うん」


 そう言って一緒に洗面所へと向かう二人の後姿を見つめ、微笑ましい顔になるレーゼ。


 そして始まるお茶会。


 お菓子をつつきながら、一休みする三人の姿は、平和そのものだ。


 だが、


「…………」

「あれ? どうかしました?」

「……いえ。ただ、昔はお茶なんて淹れられなかったけど、我ながら上手くなったなって感慨に耽っていただけよ」


 ふとリビングの奥に掛けられたカレンダーが目に入り、ほんの……ほんの少しだけ、寂しそうな、それでいて少し厳しそうな眼になったことを雅に勘付かれ、レーゼは咄嗟にそう誤魔化した。


 しかし、それは雅にも伝わったのだろう。途端に雅は、バツの悪そうな顔になる。


 そしてレーゼもまた、自分の嘘が雅にバレたことを悟り、自分の顔を隠すようにお茶を煽った。


 ラティアは、気まずくなった二人を、少し不安そうな眼で見つめている。


 平和は平和。


 しかし、どこか不安定な危うさのある平和だ。


 ……さて、どうしてレーゼや雅、ラティアがノースベルグにいるのか。雅は今、こっちで何をしているのか。優やセリスティア達は、今、どこで何をしているのか。


 そこら辺の事情を、まずは語ろう。


 事の発端は、これ。


 レーゼが先程、あんな眼をした理由の大きなところ。




 雅が高校……新潟県立大和撫子専門学校附属高校を、辞めたことだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ