表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第36章 新潟県立大和撫子専門学校付属高校
418/669

第36章幕間

 九月二十五日火曜日、午前十一時二十四分。


 新潟県警察本部にある、科捜研にて。


「感情が、無くなった……?」

「あぁ。本人も認めているし、明らかに様子もおかしい」


 優一と優香は、人の少ない部屋の中で、そんな話をする。


 優一の顔は、いつもに増して険しい。


 四葉を殺した、鬼灯淡。


 あの後警察に捕まった彼女は、その日の夜、意識を取り戻した。だが――


 無くなっていた。彼女の、感情が。


 生きている。今はもう、喋ることも歩くことも、食事をすることも出来る。まだ治療は必要だが、日常生活を送るのに、身体的な障害は無い。


 しかし、淡は表情を変えることが無くなった。


 表情がまるで変わらない、完全な能面。


 本人曰く、心がざわついたり、揺らいだりすることはあると言う。しかしそれが、どんな感情から来るものなのか、分からないというのだ。


 元々の鬼灯淡でさえ、もっと感情があったに違いないと分かるくらい、彼女は人として大事なものを、失っていた。


「原因は……お面、よね……。あれに、感情を吸い取られてしまった……」

「最初の一枚を取り込んでから、凡そひと月……。雅君は、久世からこう言われたそうだ。『彼女は、お面の力にどっぷりと漬かり過ぎた』と。間違いないとみていいだろうな」


 感情を求めるあまり、淡は元々もっていたはずの感情さえも失ってしまった。


 それを悲しんだり、ショックを受けたりすることも、もう彼女は出来ないのである。


「結局、この事件で得をしたのは、久世ただ一人……。優達になんと話せば良いか……特に、雅君やラティア君には……」


 深く息を吐く、優一。


 彼の顔は、まるで十歳は老けてしまったと思う程、疲れ切っていた。




 ***




 時は少し経ち、九月二十九日土曜日。正午ジャスト。


 ここはウラの最北端にある街、ティップラウラ。


 ひと月前、巨大な人工レイパーによる事件で、大きな被害が受けたこのティップラウラ。時折レイパーがやってくることはあれど、概ね大きな騒動もなく、街は順調に復興が進んでいた。


「ふぁぁ……やっとお昼ですー」

「キリもいいし、休憩にするか。お弁当、そこの鞄に入っているからな」


 街の一角で、直した河川や道路の点検作業に勤しんでいた二人のバスターが、そんな会話をしながら休憩に入る。


 のんびりとした喋り方をしている、金髪のパイナップルヘアーのバスターはパフェ・ザレフシア。


 もう一人の、キリっとした喋り方の、深緑色のクラウンブレイドヘアーのバスターは、ルーナ・モラルタだ。


 二人とも、事件の際に、雅とセリスティアと一緒に戦ってくれたバスターである。彼女達の『重心看破』と『バックアタッカ―』のスキルは、雅がのっぺらぼうの人工レイパーと戦う際にもお世話になった。


 二人とも、今日の朝から仕事で忙しく、お腹の虫が食料を求めて悲鳴を上げている。


 早くご飯を食べたい……そんなことを考えていた、その時だ。


「……ん? なんだ?」

「向こうの空、曇ってきましたねー。ですが……」


 東の方が、どんよりとした雲で空が覆われてきた。あまり良い色ではない。あの事件の時の、黒橡(くろつるばみ)色の雲……まさに、あの時と同じだった。


 だが、それだけではない。


 雲が、まるで台風の目のように、渦巻き始めてきたのだ。


 嵐でも来そうだ……そんなことを想っていたのだが、


「……ん?」

「消え……た?」


 集まっていたはずの雲が、嘘のように霧散し、また青空が戻ってきたのだ。これにはルーナもパフェも、眉を顰めるより他無い。こんな光景、見たことが無かった。


 言いようのない不安に襲われる二人。


 二人の視線の先にあるのは――ウラの東にある国、エンドピークである。




 ***




 そして、そのエンドピーク。


 とある山の頂……そこに、三体のレイパーがいた。


 内二体は、西洋鎧、そして和製鎧を身に纏ったレイパー……『騎士種レイパー』に、『侍種レイパー』だ。


 そして侍種レイパーに抱えられている、赤子のような姿をした、真っ黒い化け物。まるで胎児のようだが、他の二体のレイパーとは比べ物にならない不気味さを醸し出していた。


 かつて、サウスタリアの首都、カームファリアを壊滅状態にしたレイパー達。そんなレイパーが、何故こんなところにいるのか。


 騎士種レイパーの手には、禍々しい黒色に満ちた、杭。


 先程、ルーナやパフェが見た不思議な現象……それは、この杭を抜いたことで発生したものだった。


 そして三体が見つめる先にあるのは――荒れ狂う海だ。


「ホロ、デバムタソデコエゾ……」


 そう呟く侍種レイパー。


 騎士種レイパーはそれを聞いて、低い声で笑う。


 無言ながらも、レイパーの胎児も、どこか愉快そうだ。







 海の中で、何か巨大なものが蠢く。新たな事件が、また起きる――。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ