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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第35章 新潟市中央区~秋葉区
401/669

第35章幕間

 午後二時五十七分。


 新潟市中央区の街中を、全力疾走する黒い人影があった。


 人工種のっぺらぼう科レイパーだ。


 その姿を見て、悲鳴を上げる人々。その中には、人工レイパーに攻撃しようとする大和撫子もいた。


 最も、各々がアーツを振り回す前に、のっぺらぼうの人工レイパーは走り去っていたのだが。


 騒ぎを聞きつけ、集まって来る大和撫子。連絡を受け、やって来る警察。


 しかし人工種のっぺらぼう科レイパーは、彼女達を一切気にしない。


 否、気にしないというのは不適切な表現か。『気が付いていない』というのが正しいだろう。


 のっぺらぼうの人工レイパー……鬼灯淡は、自分の視界に入ってくるものが、正しく認識出来ていなかった。そんなことが出来る精神状態ではなかった。


 今、自分がどこにいるかも分からない。新津丘陵から逃走した彼女は、ただひたすらに走りっていただけだ。


「……ッ!」


 不意にフラッシュバックする、先程の光景。


 腕を斬られ、体から鮮血を溢れさせる四葉の姿を、あまりにも鮮明に思い出してしまい、それを遠くへ追いやろうと、人工レイパーは必死で頭を振る。


 その時だ。


「ウッ、ァ……!」


 脳内に、激痛が走る。


 この痛みは、彼女もよく知っていた。翁のお面を取り込んだ後から、頻繁に発生するようになっていた痛みであり、彼女は常にこれに怯えて生きていたのだから。


 刺の生えた蟲が、頭の中で暴れているような感覚だ。ここ三日程は発生しなくなり、体も慣れてきたのだろうと思っていた。それが不意に襲いかかってきたのだから堪らない。


「ァァ……ッ!」


 思わず膝を付きそうになってしまうが、その足を無理矢理動かして、人工レイパーはその場を移動していく。


 視界はグチャグチャで、胃から込み上げてくるような気持ち悪さもある。


 それでも足は止めない。


 そして、どれ程逃げただろうか。


「……?」


 そこでのっぺらぼうの人工レイパーは、自分がどこにいるのか、やっと気が付いた。


 ここは、新潟県立大和撫子専門学校附属高校。


 知らない内に、人工レイパーは自分の通う学校までやって来てしまっていた。


 塀に背中を預けてズルズルと崩れ落ちる、のっぺらぼう。痛みはまだ治まらないどころか、段々と酷くなってくる。こんなに長時間続くのは、初めてのことだ。


 この場で倒れ込んでしまえば、どれだけ楽か。


 しかし、休んでいる暇は無かった。


「――ッ」


 遠くから、誰かがやって来る音が聞こえてきたから。


 人工レイパーを追ってきた警察や大和撫子だ。


 このままでは見つかってしまう。


 痛む頭でぼんやりとそう考えながら、のっぺらぼうの人工レイパーはその場からヨロヨロと立ち去っていく。


 向かう先は、学校の屋上だった。




 ***




 ここは、新潟県のとある空き家。


 真っ暗な一室に置かれたソファに腰掛けるのは……スーツ姿の男性。


 見た目は五十代そのものの風貌だが、こんなところにいるにも拘わらず、身なりは清潔で、ビシっとした印象を受ける。


 久世浩一郎。人工レイパーを創った張本人だ。この空き家は彼のアジトである。


 そんな久世の視線の先には、ULフォンによって起動された、一つのウィンドウ。


 そこに映っているのは、学校の屋上――より正確に言えば、そこで頭を抱えて蹲る、のっぺらぼうの人工レイパーの姿だ。小型のドローンを使い、上空から撮影している映像である。


 久世は小型のドローンを使い、彼女のことをずっと監視していた。淡はこのことを知らない。


 久世は眉一つ動かすことなく、苦しむのっぺらぼうの姿を眺めていた。


 しかし、


「……ほぅ」


 ふと、久世は独り、驚いたような声を漏らす。


 苦しんでいる、のっぺらぼうの人工レイパーの体が、突然鈍く光り出したのだ。


「お面の力を中々コントロール出来んと思っていたが、よもやこちらの能力の方が、先に開花するとはな」


 この現象は、久世も予想していたものだ。これから何が起きるのか、彼は全てを知っている。


 のっぺらぼうの顔に出現するのは、目を伏せるお婆さん……姥のお面。


 刹那、のっぺらぼうの人工レイパーの姿が歪み……変身が解かれ、鬼灯淡の姿がそこに現れ、しかしすぐにまた、人工種のっぺらぼう科レイパーへと戻る。







 そして――







 のっぺらぼうの人工レイパーの背中から溢れ出すように、大量のお面が飛び出すのだった。

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