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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第35章 新潟市中央区~秋葉区
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第310話『四葉』

 響き渡る、雅の悲鳴。


 四葉から噴き上がる、夥しい量の血。


 唖然としたラティアの眼。


 微動だにしない、のっぺらぼうの人工レイパー。


 この場にいる全員は、まるで時が止まったかのような錯覚を覚えていた。反射的に悲鳴を上げてしまった雅も含め、誰もがこの状況を理解出来ずにいたのだ。


 斬り飛ばされ、弧を描いて飛んでいく四葉の左腕。それが、鈍い音を立てて地面に落ちる。


 しかしそれでも、雅もラティアも、人工レイパーでさえも動かない。


 膠着した空気が再び流れ出したのは――四葉が背中から地面に倒れた時。


 一歩、二歩と後退る人工レイパー。


 僅かだが体は震えている。


 だから反応が遅れた。


 雅が自身のアーツ『百花繚乱』で、攻撃してきたことに。


 雅も無我夢中だった。自分の行動が最適だったのかなんて、気にもしていられない。


 頭の中を埋め尽くしていたのは、とにかくまずは、この人工レイパーを四葉達から引きはがさなければ……そういう気持ちだけ。


「あぁぁぁっ!」

「ッ?」


 雅の初撃が敵のボディに直撃し、のっぺらぼうの人工レイパーをよろめかせる。


 素早く二撃目を放つ雅だが、それは流石に回避する人工レイパー。


 それでも雅は、さらに斬撃を繰り出していく。


 傍から見れば乱暴な一撃だ。戦闘慣れしている者なら、避けて反撃するのは容易だろう。


 しかし、のっぺらぼうの人工レイパーは、雅の攻撃に対処しきれないでいた。


 何とかギリギリのところで直撃は免れているものの、百花繚乱の刃が皮膚を掠り、小さな傷を付けていく。


 堪らず鉤爪で反撃する人工レイパー。


 だが、


「ッ!」


 鉤爪に怯むことなく、雅はスキル『共感(シンパシー)』でレーゼのスキル『衣服強化』、そして防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動し、一歩前に踏み込む。


 頑丈になった雅の肩に鉤爪が食い込むが、怪我は無く、雅は顔を顰めるだけ。


 痛みを気にすることなく、のっぺらぼうの腹部に強烈な突きを叩き込み、大きく仰け反らした。


 そして、雅の必死な猛攻は止まらない。


 攻撃を躱されれば愛理の『空切之舞』を使って瞬発力をアップさせ、一気に敵の背後に回り込んで、優の『死角強打』を乗せた斬撃を命中させる。


 敵との距離が少し離れたところで、希羅々の『グラシューク・エクラ』を放つ。


 空から降り注ぐ巨大な百花繚乱の攻撃。人工レイパーがそれを跳躍して回避すれば、セリスティアの『跳躍強化』で空高く跳びあがり、地面を蹴った時に足に掛かった強烈な衝撃を利用して志愛の『脚腕変換』を発動。


 重い一撃を受け、地面に叩きつけられる人工レイパー。


 そして着地した雅は、素早く百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにすると、のっぺらぼうの人工レイパーに銃口を向ける。


 だがそこで、雅は人工レイパーから、目を逸らした。


 信じられないものを見たような、愕然とした眼。


 戦闘中に敵から目を離すなんて愚行を犯すつもりなんてない。


 だが、たまたま目に飛び込んできた光景を、全くと言っていい程に無視出来なかったのだ。




 それは、未だ血を流し、倒れたままの四葉の姿。


 胸元のプロテクターは抉られ、胸元はパックリと傷が開いている、そんな姿。




(どうしてっ? スキルで治らないっ? なんでっ?)


 四葉のスキル『超再生』は、負った怪我を治すはずのスキル。それが一向に、発動する気配が無い。


 斬り落とされた左腕が完全に再生しないのはまだしも、傷口すら塞がらないなんて、雅は思いもしなかった。


 倒れた四葉自身でさえ、スキルが発動しないことには驚いたような呻き声を上げる。


 いつも無表情のラティアですら、この時ばかりは恐怖した表情を浮かべていることからも、事態が如何に切迫しているか理解できるだろう。


 三人は知らなかった。『超再生』が治せる怪我に、実は限界があったことを。


 胴体から切り離されたり、傷が重要な臓器まで達していたりすると、流石の『超再生』も治せないのである。


 スキルを得て、まだ間もない四葉。怪我をしなければ発動しない、という効果の都合もあって、きちんとした性能の検証は出来ていなかったことが仇となった。


 そして雅も、どこか楽観的だった。四葉には怪我を治すスキルがあるから、最悪の状態にはならないはず、と、無意識の内にそう思っていた。現実から目を逸らすため、逃げた思考をしてしまっていた。


 故に気を取られる。雅の浅い考えを否定する真実を突き付けられたから。


 必然、隙が出来る。


 だが、


「――ッ」


 のっぺらぼうの人工レイパー……鬼灯淡は、その隙を、雅やラティアを殺すためには使わない。


 背中を向け、その場から逃げ出す人工レイパー。


 しかし、雅はその後を追わない。


『しまった』とも『逃がしてたまるか』とも思わない。


 人工レイパーと戦うことなんかよりも、もっと優先すべきことがあったから。


「四葉ちゃぁぁぁあんっ!」


 ゾッとする程に絶望に染まり切った雅は、発狂しているかのような声を上げて、四葉の元へと駆け付けるのだった。

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