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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第35章 新潟市中央区~秋葉区
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第308話『執念』

(やはり追ってくるわね……!)


 ラティアを抱えて飛翔し、束音家から脱出した四葉。だが下を向けば、当然の如く、人工種のっぺらぼう科レイパー……淡が、家の屋根を伝って追ってきていた。


 人工レイパーは飛ぶことが出来ないが、身体能力はすこぶる高い。時速百五十キロで逃走する四葉が振り切れない程だ。


 四葉の顔に、嫌な汗が伝う。このままでは不利だと、彼女は理解していたから。


 すると、のっぺらぼうの顔に、ほっかむりを被って口を窄めた男のお面――火男のお面が出現した。


 そして放たれる、火炎放射。


 周りの空気を熱し、迫る炎に、四葉は左手を向け、衝撃波を放つ。


 これで敵の攻撃を相殺するつもりだった。だが、


「――っ?」


 衝撃波と炎がぶつかり、白い煙が発生するも、それを突き破り、炎が四葉達に迫る。


 火炎放射の勢いは、完全には止まらなかったのだ。


 細い炎だが、スピードは殆ど落ちていない。もう一度衝撃波で相殺する余裕は勿論のこと、躱す余裕すらも無かった。


 せめてラティアが焼かれぬよう、右腕に抱えた彼女を体の後ろに隠すと同時に、四葉に炎が掠る。


「――つっ!」


 プロテクターが防御しているところであればともかく、関節部などのむき出しになっている部分は弱い。


 肌が焼かれる感触に、声にならない悲鳴を上げる四葉。


 しかしその瞬間、四葉のスキル『超再生』が発動する。体を一瞬にして回復させるこのスキルにより、火傷があっという間に治った。


 歯噛みする四葉。スキルで体を治したところで、戦況は変わらない。『超再生』が適用されるのは、当然ながら四葉だけ。ラティアが怪我をしても、治してはくれない。


 刹那、再び火炎放射が放たれ、それをローリングして間一髪のところで四葉は回避する。


 だが、敵の攻撃は終わらない。何発も繰り返し放たれる炎。それを、四葉は巧みな飛行技術を駆使し、全て何とかギリギリのところで避けていく。


(くっ……こんなの、何時までももたない! 何とかラティアを逃がさないと……!)


 そう思いながら南下し、新潟市秋葉区の方へと向かう四葉。


 遠くには新津(にいつ)丘陵が見える。


(あの辺りの地理には疎いけど、確かゴルフ場やキャンプ場があったはずよね?)


 頭の中で地図を思い浮かべながら、四葉は思考を巡らせる。


(木々にラティアを隠して、私が淡を引きつければ、何とか撒けるかもしれない……)


 近くにレジャー施設があるのなら、少し歩けば道に出られるはずだ。


 そこで何とかするしかない……四葉はそう思い、目一杯のスピードで飛んでいくのだった。




 ***




 そして新津丘陵の北側へとやって来た四葉とラティアは、細い道に降り立った。


 だが、


「くっ……」


 自分達の方にやって来る、のっぺらぼうの人工レイパーを見て、四葉は苦悶の声を漏らす。


 のっぺらぼうの顔面に貼り付いたお面は、火男から変化していた。笑ったお爺さん……翁のお面だ。手には金色の錫杖も握られている。


 親友が、妹の仇が被っていたお面を身に着けていることに、複雑な感情を持つ四葉。お面に入った小さな罅が、余計に四葉の心を搔き乱してしまう。


 それでも、四葉は頭を落ち着かせるように深く息を吐いてから、口を開く。


「ラティア。私が淡と戦っている間に、あなたは逃げなさい。木に身を隠して、何とかあいつを撒くの」


 その言葉に、ラティアはギュッと拳を握りしめ、小さく頷く。自分がいると、四葉が戦いにくくなるというのは理解していた。


 四葉はラティアの頭を撫でると、人工レイパーに向かって戦闘体勢を取る。


 そしてラティアが数歩、後ろに下がるが、


「逃がさないよ!」


 人工レイパーが錫杖の柄を地面に叩きつけた瞬間、ラティアの足元に魔法陣が出現し、そこから蔦の形状をした、無数の緑色のエネルギーウィップが飛び出してくる。


「ちいっ!」


 あくまでもラティアを狙うつもりらしい。四葉はラティアの手を引いて自分の側に引っ張って伏せさせると、回し蹴りを放ち、エネルギーウィップを破壊する。


(ぐっ……奴の攻撃よりも強いっ?)


 黒葉の仇……人型種狐科レイパーも同じ攻撃をしてきていたが、のっぺらぼうの攻撃は、それよりも高圧のエネルギーだ。プロテクター越しに触れたにも拘わらず、四葉の足に、激しい痛みを走らせていた。


 痛みの感触で分かる。あのエネルギーウィップに直に触れた時のように、肌が抉れているのだと。


 スキルで再生していなければ、今のエネルギーウィップだけで、四葉は完全に戦闘不能になっていた。


「四葉ちゃん……っ! この……っ!」


 錫杖を振り上げ、迫る人工レイパー。


 四葉諸共、ラティアを殴り倒すつもりだ。


 そうはさせまいと、四葉も右ストレートを放つ。


 四葉の拳と、のっぺらぼうの錫杖が激突。


 鍔迫り合いの如く拮抗する、二人の力。


 四葉の表情は苦しい。少しでも気を緩めれば押し切られてしまいそうなパワーだ。


 ラティアも動けない。今、四葉の側を離れれば、たちまち人工レイパーの攻撃の的となってしまうからだ。


 だがそれでも……四葉は、のっぺらぼうが被る翁のお面を睨みつけ、口を開く。


「淡っ! そのお面を捨てなさいっ!」

「いやだっ!」

「淡……っ!」


 切羽詰まったように叫ぶ四葉の言葉……それは真に懇願する人間の、必死さが滲んでいた。


 それに気圧されたのか、人工レイパーの、錫杖に込める力が揺らぐ。


 刹那、


「――っ?」


 その瞬間を狙い、放たれた四葉の蹴りが、錫杖を大きく吹っ飛ばした。


 一気に攻め込もうと、四葉は人工レイパーの腹部に左ストレートを放つ。


 人工レイパーは体を反らしてそれを躱すと同時に、顔面のお面が、翁のお面から、般若のお面へと変化。


 拳から生えた長い鉤爪を振り回し、四葉とラティアを攻撃する。


 ラティアを庇いながら、腕や足で必死にその攻撃を防ぐ四葉。


 戦況は、四葉が劣勢。


 それでも、


「ま、負けないわ、淡っ!」


 ラティアを守り、親友の目を覚まさせてみせる。


 苦しい状況の中でも、四葉の瞳には闘志が燃えていた。

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