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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第35章 新潟市中央区~秋葉区
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第304話『荒事』

 学校で四葉を見かけた雅達。


 雅が、四葉の妙な反応に首を傾げていると、


「ミヤビ、私、ユウに届け物してくるよ。三人は一緒に学校を見て回ってきたら?」


 ファムがそんなことを言いだした。


「え? でも――」

「あー、大丈夫大丈夫。近くに二人もいるんでしょ? 何かあってもすぐに駆け付けられるじゃん」

「うーん……」


 チラっと四葉に目を向けながら、言い淀む雅。


 しかし、ファムは雅の手から優の忘れ物を強引に奪い取ると、「じゃ、行ってくるー」と玄関の方へと走って行ってしまった。


「あぁ、ファムちゃん!」

「……変に気を遣われちゃったわね。……ところでラティア、そのリボン、着けてくれているのね。ありがとう」


 ファムの行動に少し申し訳なさそうな顔になる四葉だが、ラティアの首元が視界に入ると、少し柔らかい笑みを浮かべる。


「ラティアちゃん、嬉しいみたいで、毎日着けているんですよ。ねー?」


 雅がそう言うと、ラティアはコクンと頷く。


「なんだか、ちょっと恥ずかしいわね。……あら?」


 恥ずかしいのか目を逸らすと、もう一つの校舎の奥の方が目に入り、眉を顰めた。


 体育館の裏手に、三人の学生が固まっているのだ。だが、


「様子が変ね。揉めている……のかしら?」


 一人の女子学生に対し、二人が詰め寄っている、そんな感じだ。


 すると、


「……あれは……! ごめん二人とも! ちょっと行ってくる!」

「ええっ? 四葉ちゃんっ?」


 血相を変えた四葉が、猛ダッシュで校舎へと向かいだした。


 直後、詰め寄っている二人の学生が、相手の子を突き飛ばしてしまう。


 これはあまりにも穏やかではない。雅とラティアも、慌てて四葉の後を追うのだった。




 ***




「ちょっとあなた達! 何をしているのっ!」


 四葉の鋭い声が飛ぶ。


 尻餅を付いた女の子が一人、そして彼女の前に立ちはだかる二人の女子学生。


 近くまで来て、これは苛めの現場だと、流石に確信する雅達。


「やば、見つかった……! ええい!」


 四葉と雅、ラティアを見て一瞬怯んだいじめっ子。


 だが、それでも四葉達に向かってきた。


 指輪が光り、ロングソード型のアーツが出現し、二人ともそれを振り上げて襲い掛かって来た。


 剣を振り回せば、雅も四葉も逃げるだろうと、そう考えているようだ。


 しかし、


「おっとっと! 駄目ですよー!」

「ふん!」


 雅も四葉も、アーツを出すこともなければ逃げることもしない。ラティアが怪我をしないように、素早く物陰に隠れるようハンドサインを出すと、雅は相手の腕を掴み、合気道の要領で相手の体勢を崩し、四葉は一気に相手との距離を詰めると、容赦なく腹部に膝を打ち込んで怯ませる。


 それでも抵抗するいじめっ子達だが、強力なレイパーとの戦闘経験豊富な雅達には流石に敵うはずも無い。


 やがて、敵わないと理解したのだろう。


「うぐぐ……」

「お、覚えてなさいよ!」


 顔を顰め、逃げ出していった。


 四葉は舌打ちをするが、すぐに意識をいじめっ子達の背中から、へたり込んでいる少女へと向けた。


 いじめられていたのは、眉毛の上辺りまで前髪を伸ばした、ボブカットの少女だ。


(あわい)! 大丈夫っ!」

「あれ、四葉ちゃん、知り合いですか?」

「ええ。私の数少ない友達」


 淡と呼ばれた少女は「いてて……」と呟くも、普通に立ち上がった。外傷はない。


「一応、保健室に行った方がいいかもしれません」

「あ、大丈夫。ちょっと突き飛ばされただけだし。それより、ありがとう。でも、なんで四葉ちゃんがここに?」

「えっと……まぁ、ちょっと色々あって。仕事の都合みたいなものよ。ところで淡、本当に大丈夫なの? あの二人は……」

「あぁ、うん。クラスメイト。あんまり仲良くない人達で……何かと難癖付けてちょっかい掛けられるんだ。ほんと子供だよ!」


 頬を膨らませ、分かりやすく『私、怒ってます!』感を出す淡。


「ちょっかい……もしかして、映画館の時の人かしら? 思い出してみれば、あいつと似ているわね」

「あのぉ……」


 四葉と淡の会話に、雅がすーっと入ってくる。


 先の四葉の発言から、二人が友達だというのは分かったが、それ以上の情報が無いため説明が欲しかった。


 ラティアも、二人の関係が気になるようで、雅の後ろからひょこっと顔を出し、ジーっと淡を見つめている。


「あぁ、ごめん雅。この子は鬼灯(ほおずき)淡。さっきも言ったけど、私の友人よ。中学生くらいからの付き合いなの。少し前までは疎遠気味だったけど、最近、たまに道端でばったり会うようになって、また一緒に遊んだりするようになったわね。で、淡。こっちの二人だけど――」

「束音雅です! 私も四葉ちゃんのお友達なんですよー! 淡ちゃん、良い名前ですね!」

「え、えっと……」


 満面の笑顔で淡の手をとり、握手してくる雅に、淡は返事に困る様子。


 四葉は呆れたように溜息を吐くと、雅の背中を軽く小突いた。


「全く、いきなり迫るんじゃないわよ。大体、あなたと私は友達……なのかしら?」

「えー? そんな寂しいこと言わないで下さいよー! 激しい戦いを潜り抜けてきた仲じゃないですかー!」

「ごめんなさいね、淡。変な子だけど、悪い人じゃないの。友達というか……まぁ、戦友みたいな間柄よ」

「へ、へぇ」


 雅と四葉のやりとりに、無表情で傾げる淡。そんな彼女の視線は、雅からラティアへと移った。


「そっちの女の子は、束音さんの妹さん……じゃ、なさそうですね」


 雅とラティアを見比べ、淡は首を傾げてそう尋ねる。


「こっちはラティアちゃんです。うちで一緒に暮らしていますけど、妹じゃないですね。でも妹みたいな感じですよ」

「ふーん、そっか。……あ、そろそろ授業始まるし、戻るね。じゃあ四葉ちゃん、また遊ぼうね!」

「え、ええ」


 手を振りながら走り去る淡。そんな彼女に、四葉はひどく困惑したような、そして何かを言いたそうな、そんな顔をしていた。


 一方の雅も、困惑を隠せない様子だ。


「……彼女、大丈夫でしょうか? 怪我はしていない様子でしたけど……」


 そう聞く雅の言葉に、しばらく四葉は考え込んだまま、何も答えない。


 しかし、


「雅……あなたは淡を見て、どう感じた? 正直に答えて」

「……どう、とは?」

「そのままの意味よ。あなたの意見が聞きたいの」


 四葉の問いに、今度は雅が考え込む。


 ジッと、自分の手の平を……先程、淡と握手した手を見つめる。


 正直に答えて欲しいと言われても、それは中々に難しかった。何故なら、感じた『それ』をどう形容して良いか、自分でも分からなかったから。


 それでも、たっぷり一分後。


「……私、女の人に触れると、気分が高揚するんですよ」

「……は? あなたの性癖の話なんて、今はどうでもいいのだけど」

「違います違います、そんな話じゃありません。……何と言うか、この高揚って、多分私の性なんでしょうね。だから淡ちゃんと握手した時も、そうなるものだって思っていました。でも……」

「……そうじゃ無かった、と?」

「不思議と冷静なままだなーって。テンション上がんないなーって、そんな感じだったんです。あの、四葉ちゃん。変なこと聞きますけど……彼女、間違いなく女の子ですよね? 実は男の子だったりしませんよね?」

「女の子なのは間違いないわよ。アーツだって使えるし、体育の時の着替えで、あの子の体は見た事あるもの。でも、そう。雅も違和感を覚えたのね」

「……ってことは、四葉ちゃんも?」


 その言葉に、コクンと頷く四葉。


 そして、躊躇うように口を開く。


「雅。私も変なことを聞くわ。あの子……本当に私の友達の、鬼灯淡だと思う?」

「……え? どういうことですか?」


 今度の質問の意味は、本当に分からなかった雅はそう聞き返すも、四葉は無言で首を横に振るのだった。

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