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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第35章 新潟市中央区~秋葉区
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第303話『忘物』

 九月二十四日月曜日。午前九時六分。


 束音家にて。


「ねーミヤビ。これ何?」


 ウェーブがかった薄紫色の髪の少女のファムは、リビングに入って来ると、テーブルの下に置いてある荷物を指差して尋ねる。


「あ、珍しく早く起きてきましたね。おはようございます、ファムちゃん」


 キッチンで洗い物をしつつ答えたのは、桃色のボブカットにムスカリ型のヘアピンを着けた少女。家主の雅だ。


 隣では、美しい白髪の少女、ラティアも家事の手伝いをしており、雅と一緒にテーブルのところまでやって来た。


 ラティアが着ている服の襟元には、紫のリボン。チェック柄のそのリボンは、先日四葉からプレゼントされたもので、ラティアはそれを、常に身に着けている。


「んー? ……あ、これさがみんの体操着だ。忘れていっちゃったんですね。届けてあげないと」


 実は昨日、雅の親友の優は、束音家にお泊りしていた。今朝はちょっと寝坊して慌てており、うっかり置いていってしまったのだろう。


 雅はULフォンを起動させ、優にメッセージを送る。


 程無くして、優からの返信が届いたのだが、


「げ。体育、二限ですか。今から届けに行って、間に合いますかね?」

「あれ? これもしかして、私がひとっ飛びしないと駄目な感じ?」


 面倒だなー、という雰囲気を出し始めるファム。


 しかし、雅は「んー」と唸り出す。


「ファムちゃん一人で行かせるのはちょっと……。ほら、のっぺらぼうの人工レイパーに、顔が割れているじゃないですか」

「ん? ……あぁ、そういうこと」


 一瞬、雅の言葉の意味が分からず首を傾げたファムだが、理解すると渋い顔になる。


 先日、人工レイパーに変身出来るようになる薬を販売していたバイヤーの一人を捕まえた雅達。そいつは、のっぺらぼうの人工レイパーに、薬を売っていたことが分かった。


 バイヤー曰く、のっぺらぼうの人工レイパーの変身者は女性。しかも、優達が通う新潟県立大和撫子専門学校付属高校の生徒だと言う。


 優達がいるとは言え、彼女達は授業中で身動きが取れないだろう。一方で人工レイパーの方は、そんなことを気にせず行動するかもしれない。敵に万が一襲われた場合、ファム一人で対処できるような相手では無いとなると、彼女一人にお使いを頼むのは躊躇われた。


「……今、家に私達しかいませんよねぇ」

「え? そうなの?」

「ええ。皆、仕事やらなにやらで。……まぁ、仕方ありません。三人で行きましょう」


 ファムと一緒に雅が行くことは確定として、しかしラティアを一人お留守番させるわけにもいかない。


 雅だけが届けに行く手もあるが、ファムとラティアだけを家に残すというのものも不安がある。


 のっぺらぼうの人工レイパーがいる場所にラティアを連れていくことには疑問を覚えるが、この際仕方が無いだろう。


「待っていてください。今、ファムちゃんの朝ごはんを詰めますね。支度が出来たら、すぐに行きましょう」


 そう言って、雅はキッチンの棚にしまわれている、弁当箱を探しに行った。




 ***




 午前十時一分。


 学校の前までやって来た雅達。


「ふーん。ここがユウ達の学校か。道を挟んで、校舎が二つあるって言っていたけど、本当だったんだね」

「ええ。さがみん達がいるのは、海側にある方の校舎ですね。さて……ここまで来ておいて難ですけど、私って入っていいんでしょうか?」

「忘れ物を届けに来たんだし、大丈夫じゃない?」

「いえ、一応私、休学中じゃないですか。なのに入ってもいいのかなって」

「本当に今更じゃない? ……って、あれ?」


 そんな会話をしていると、一人の少女を見つけて声を上げる。


 そこにいたのは、雅とラティアもよく知っている人物だ。


 ハーフアップアレンジの、黒髪の少女……浅見四葉である。


 彼女はまるで張り込みでもするように、物陰からこっそり学校――優達がいる校舎と反対の校舎の方だ――を見つめていた。


「おーい、ヨツバー!」

「っ! ――あ、あなた達、なんでここに?」


 後ろから声を掛けられ、跳びあがらんばかりに驚いて振り向く四葉。


 背後に迫る気配に全く気が付かなかったようで、彼女らしくない。


「実はさがみんが家に忘れ物をして、三人で届けに来たんですよ。今日は平日ですけど、四葉ちゃんはどうしてここに? あ、もしかして、のっぺらぼうの人工レイパーの正体を探りにきたんですか?」


 先日のアジトでの一件は、四葉にも話をしてある。


 のっぺらぼうの人工レイパーの正体が女性だということを話したところ、四葉は酷くショックを受けた。


 何度も何度も「それは本当に確かなことなのか」と確認をしたことから、余程信じられなかったのだろう。バイヤー自身がそう証言していると聞かされても、今一つ信用しきれていない様子を見せていた。


 故に雅は、今ここに四葉がいるのは、そのバイヤーの話の裏付けを取りに来たのだと思ったのである。


 しかし、


「え、ええ。まぁ……そんなところよ」


 煮え切らない様子の四葉に、雅達は目を丸くする。


 四葉は本当に困った様子だ。今の言葉は嘘ではなさそうだが、本当のこととも思えない。もっと重要な『何か』を隠している……雅はそう直感していた。


(なんだろう? 四葉ちゃんのこの感じ……何か既視感があるというか……)


 心の中で首を傾げる雅。


 後になって思えば、これは前触れだったのだろう。




 これから起こる、大きな事件の。

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