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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第34章 新潟市江南区
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第34章幕間

 雅達が驚愕の事実を知った頃。


 新潟市江南区の街……それも人目に付かない建物の陰を、どこか行く当ても無い様子でフラフラと歩く、黒い化け物の姿があった。


 人工種のっぺらぼう科レイパーだ。


 もう少しでバイヤーを始末出来そうだ、というところで突然、脳みその中を、刺を生やした生き物に暴れ回られたような痛みが走り、撤退せざるを得なかったこの化け物。


 倉庫を焼き、逃げ出したのっぺらぼうの人工レイパーは、自身も知らぬ間に、こんなところまで来ていた。


 行く当ても無く彷徨っていた、そんな時。


「……ッ」


 ふと、太陽の光が目に入り、その場に膝を付いてしまう。うっかり日陰から日向に出てしまったのだ。


 僅かに治まってきたとは言え、未だ頭は痛む。そんなところに太陽光というのは、些か刺激が強い。


 早く隠れなければ誰かに見つかってしまう……激しい痛みの中で、そんな考えがようやく脳裏に浮かび、人工レイパーは慌てて日陰へと隠れる。


 長距離を全力疾走した後のように肩で息をし、壁に寄りかかってその場にズルズルと崩れ落ちた。


 意識が朦朧とする中、何気無く視線を向け……刹那、呼吸が止まる。


 やっと気が付いたのだ。自分が、どこにいるのかを。


 公園の近くだ。人は少ないが、誰もいないわけではない。


 四葉とラティアが、ベンチに座っていた。その背後に、のっぺらぼうは来てしまったのである。


 体の不調も忘れ、焦るのっぺらぼう。


 四葉とは、ティップラウラで一度戦っている。彼女の強さは、こののっぺらぼうの人工レイパーもよく分かっていた。こんな体調で戦って、無事で済む相手では無いことを。


 咄嗟に逃げようとするが、それより早く、四葉が辺りを見回し始めてしまう。


 人工レイパーが後ろに退いた直後、四葉が今までのっぺらぼうがいたところを見るのは同時。


 だがそれでも、四葉は第六感で何かを感じ取ったのだろう。


「ラティア、ちょっとごめんなさい」


 眉を顰めてそう言うと、四葉は警戒した様子でのっぺらぼうの人工レイパーのところへとやって来る。


 このままでは見つかってしまう。


 奇襲を仕掛けるべきか……否。警戒されている今、それは通じないだろう。


 逃げるべきか……否。今いるところから逃げようにも、他の大和撫子に見つかってしまうだろう。そうなれば騒ぎになり、四葉が駆け付けてくる。


 ジリジリと近づいてくる四葉に、考えを巡らす人工レイパー。


 後少しで気付かれる……と、その時。


「……!」


 人工レイパーは、別の道を見つける。細い道で、今まで分からなかったのだろう。


 音を立てないようにそちらの道に入り、ひたすらに四葉から距離を取る。


 呼吸も止め、無我夢中で、しかし慎重に道を進み……曲がり角に姿を隠し、こっそりと様子を伺うのっぺらぼう。


 四葉は警戒しながら歩いているが、のっぺらぼうがいる方の道に気が付かなかったらしく、通り過ぎてしまう。


 のっぺらぼうはそれを確認すると、四葉から逃げるべく曲がり角を進む。


 だが、最大のピンチを切り抜けたことで、どこか気を緩めてしまったのだろう。


 虚ろな意識を何とか保っているような状態で、自分の進む道がどこに行きつくのか、のっぺらぼうにはよく分かっていなかった。


 自分の視界に、再び光が差し込む。


 その瞬間、


「ッ?」


 足から力が抜け、その場につっぷしてしまう、のっぺらぼう。


 極度の緊張に、眩しい太陽。あらゆる悪条件が重なり、のっぺらぼうの変身が遂に解けてしまう。


 その時、変身者は気が付いた。自分がどこに出てしまったのか。


 四葉を撒こうと必死だったせいで、公園の方に再び戻って来てしまっていたのだ。


 それはつまり……ラティアがいる、ということ。


 ラティアの目が、フッと変身者の方に向けられる。







 見つかった。







 霞む視界で、サーっと青褪める変身者。


 ラティアと目が合い、ラティアは小首を傾げてベンチから降りて自分に近づこうとしてくるが、変身者は慌ててその場から逃げ出す。


 ラティアはそんな変身者を見てキョトンとしたが、変身者には追いつけないと分かったのか、またベンチへと腰かけた。




 ***




 痛む頭に、重い体。いつ吐いてもおかしくない程の気持ち悪さを覚えながら、それでも逃げる足は止めない、のっぺらぼうの変身者。


 すれ違う人が何事かと変身者を見ていたが、そんなことを気にする余裕は無い。


 ただひたすらに逃げ、ここがどこかも分からず、適当なところで裏道へと入ると、そこでようやく立ち止まり……胃液を地面に吐いてしまう。


 酸の強い臭いが鼻を抜け、壁に手を付いていなければ、眩暈で倒れてしまっていたに違いない。


 心臓は未だ激しく軋み、手足の先は凍ったように冷たい。脂汗も浮かべている。


 それでも、一度吐いたことで、頭も少し冷えたのだろう。今までグルグルと回っていた思考は、驚く程に落ち着いてくる。




 あの子供を、殺さなければ。




 口元を拭いながら、変身者はそう決意するのだった。

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