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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第34章 新潟市江南区
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第302話『僻見』

 人工種イカ科レイパーを倒してから程無くして。


 未だパチパチと燃える倉庫から離れた雅、セリスティア、希羅々……そして人工レイパーに変身していたバイヤーの男。


 男は未だ気を失っており、希羅々が、さてこれから叩き起こそうかと思った直後……後ろから拳骨が落ちる。


「いだっ!」

「ったく……無茶しやがって馬鹿野郎……!」


 セリスティアの怒りの鉄拳だった。


 セリスティアが怒っているのは、希羅々が落とした指輪を拾うため、燃え盛る倉庫からすぐ出なかったが故。今回は無事で済んだが、あまりにも危険な行為だった。


「次やったら拳骨じゃ済まさねーから覚悟しろよ」

「ま、まぁまぁセリスティアさん、落ち着きましょう。――そうだ希羅々ちゃん、最後のあの乱打は……?」


 雅が聞いているのは、希羅々が敵に放った、レイピアによる超速の突き攻撃のことだ。まるで両手にレイピアを持って突きを放っているかのような速度で、ずっと気になっていたのである。


 雅の質問に、希羅々は後頭部を擦りながら、ふふんと得意そうな顔で、左手の中指に嵌った指輪を見せた。


(わたくし)の秘密兵器の力ですわ。名付けて『アーツ・トランサー』……最も、アーツ収納の指輪を応用しただけのものですが」


 そう言うと、希羅々の右手の薬指に嵌った指輪が光を放ち、金色のレイピア『シュヴァリカ・フルーレ』が右手に出現する。


 すると、次に希羅々の左手の中指の指輪が薄ら光ったと思ったら、右手に握っていたシュヴァリカ・フルーレが消え、一瞬の内に左手に再び出現。


「御覧の通り、アーツを反対の手に移動させる効果がありますの」

「……そうか。突き攻撃は、腕を引く動作と伸ばす動作が必要だもんな。これを使えば――」

「右手に持ったレイピアで敵を攻撃して、その後すぐにアーツを左手に移してまた突き攻撃。これを連続で繰り返していたから、あんな速度で攻撃出来たってことですね」

「ええ。これなら片方の腕を引いている間に、もう片方の腕で攻撃が可能。シュヴァリカ・フルーレ一本で、実質二刀流という訳です。……まぁ、苦労しましたわ。シュヴァリカ・フルーレ一本で二刀流をやりたい、と言ったら、真衣華と相模原さんにイラっとくる顔をされましたし」


 スキルで二挺流になる真衣華からは両手にアーツを持った戦い方を学び、左利きの優には左手でアーツを操る方法を教えてもらった。


 日々訓練を重ね、まだ荒い部分も多いとは言え、ようやく実戦で使えるレベルまで持ってこられたのだ。


 それが、まさか肝心の指輪を落とす失態を演じることになるとは思わなかったが。


 すると、


「う……」

「お、こいつやっと起きたぞ。……おい、話せるか?」


 三人が倒した、人工種イカ科レイパーに変身する男が、目を覚ます。


 男は雅達の顔を見ると、自分の置かれた状況を理解したのか、全てを諦めたかのように深く溜息を吐く。


 その様子に、問題無く会話が出来そうだと判断したセリスティアが、指をコキコキと鳴らして口を開いた。


「お前が人工レイパーに変身出来る薬を売り捌いていたことは調べが付いてんだ。知っていることを洗いざらい吐いてもらうからな。もし口を噤んだら……分かってんだろうな?」

「あぁ、全部話す。俺も命を狙われたんだ。今更奴らの味方なんてしない」


 人工種のっぺらぼう科レイパーに攻撃されたことが余程腹に据えかねたのか、男は力強く頷いて、自分から話を始めた。


 この男がバイヤーになったのは、去年。自身に薬を打ちこんだのも、丁度その頃らしい。


 その頃から、あの倉庫をアジトに使って活動していたという。


 だが、


「少し前から、他のバイヤー連中が襲われているって話を聞いて……俺もヤバそうだから、別のアジトに移ろうと思っていたんだ。だけど俺も何度かあののっぺらぼうの奴に狙われて……まぁ、何とか逃げきったんだが……」


 次の潜伏先を探して外を出歩く最中、のっぺらぼうの人工レイパーと交戦する羽目になり、そのせいで中々雲隠れ出来なかった男。幸い、今のアジトの場所までは奴にバレていなかったため、未だにあの倉庫を使っていたと言う。


 それでもやっと隠れ家になりそうな場所が見つかり、いざそこに移動しようと思っていた矢先に、雅達がやってきたと言う訳である。


「あ、じゃあ物置に隠れていたのは……」

「大きな音がしたから、いよいよ奴に見つかったかと思ったんだ。奇襲するつもりで息を潜めて様子を伺っていたら……まさか奴では無く、大和撫子が来るとはな……」


 どの道放っておくわけにはいかなかったため、三人に襲い掛かったのだが……そこから先は、雅達の知っての通りである。


 その話を聞いていたセリスティアが、そこでふと首を傾げる。


「そういえば、何でお前らは狙われたんだ?」

「多分、口封じだ。最も、他のバイヤーと俺とでは、恐らく事情が若干違うと思うが……」

「どういうことだ?」

「他のバイヤーの口封じは、多分久世の命令だろう。奴の古参の仲間である葛城という男が捕まったと噂で聞いた。葛城からバイヤーの情報が警察にバレて、そこから久世自身に繋がることを恐れたんだと思う。だが……」

「…………」

「俺がのっぺらぼうの奴に狙われたのは、久世の命令も勿論あるだろうが、奴自身の意思でもあるはずだ。……今年の春先、奴に薬を売ったのは俺だからな」

「っ!」


 男の言葉に、思わず顔を見合わせる雅達。


 まさかこんな形で、人工種のっぺらぼう科レイパーの正体が分かるとは思わなかったのだ。


 だが、男は「お、おいおい!」と困った顔を浮かべる。


「悪いが、俺も誰に売ったのか、ちゃんとは知らないんだ! そいつは久世が連れてきたんだが、薬の受け渡しの時は顔を隠していた。久世も俺には『詳しいことは聞くな』って言われていたし……」

「な、なんだよ……ぬか喜びさせやがって……」


 そう言って舌打ちをするセリスティア。期待していただけに、落胆も大きい。


 だが、




「売った奴の顔なんて覚えていないが、ヤマ専付属高校の生徒なのは間違いない。制服を着ていたからな」




「……はぁ?」


 ヤマ専付属高校というのは、希羅々達が通っている学校だ。故に希羅々は男の言葉に、眉をピクリと動かし素っ頓狂な声を上げた。


 彼女の目は『何を仰っているのか分からない』と言いたそうだ。雅も、そして日本に来て間もないセリスティアでさえ、同じ目で男を見つめていた。


 無理も無い。何故なら、


「あなたねぇ……この期に及んで、ふざけたことを仰るのも大概になさいまし。ヤマ専は()()()ですわ。そんなはずが……」

「いや、女子校だから、なんだというんだ。関係無いだろう」

「女子校ですわよ。女子しかいないんですわよ? あなた、一体うちの誰に――」


 そこで、希羅々はピタリと言葉を止め、瞳を震わせる。


 希羅々の話を聞いている男の顔が、『お前は何を言っているんだ』と言っているのが分かったから。


 そこで希羅々は……いや、雅もセリスティアも、初めて自分の認識……前提条件か、そもそも間違っているという可能性に思い至った。


 勝手に決めつけていたのだ。人工レイパーに変身する者は、ただの例外なく男だと。


 これまで倒してきた人工レイパーも、全員そうだったから。


 久世も、いつまでもレイパーを滅ぼせない世の中の女性達に愛想を尽かしていたのだから、あるはずがない……そう思っていた。


 気が付けば、雅達の手は僅かに震えていた。


 男が口を開くが、その言葉を聞きたくない……そんな感情が、急激に膨れあがる。


 だがしかし、男は告げる。雅達が聞きたくない、衝撃の真実を。




「だから、そこの生徒に売ったんだ。のっぺらぼうの人工レイパーの変身者は女子高校生。つまり……()だ」

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