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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第34章 新潟市江南区
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第299話『烏賊』

 ダンボールの山の中から飛び出てきた者。


 そいつが何か、三人が認識するより早く、その化け物は近くにいた希羅々へと攻撃を仕掛けていた。


「――っ!」


 完璧な奇襲。


 初撃を躱せたのは、今までの過酷な戦闘を経験してきたが故か。


 希羅々の体スレスレを通り抜ける、触手のようなもの。


 背筋に走る、凍り付くような感覚を覚えながらも、希羅々は見た。敵の姿を。


 細い腕を八本生やした人型の化け物。希羅々を攻撃してきたのは、その腕の内一本だ。体色がダンボールの色から、真っ白な物へと変わっていく。


 足も含めれば、手足は合計十本。目だけが赤く、それが異様に目立っていた。


 頭に(ひれ)もあり、まるでイカを人型にしたような姿形である。


 頭の下の方が抉れたように凹んでいること、そしてこの倉庫にいること……その二つから、ほぼ間違いなく人工レイパーだ。三人が探していたバイヤーと見て間違いない。


 分類は『人工種イカ科レイパー』といったところか。


「希羅々ちゃんっ?」

「二人とも! お逃げなさい!」

「待てミヤビ!」


 三人の声が、物置の中で同時に轟く。


 だがその刹那、人工レイパーは腕を伸ばし、無茶苦茶に攻撃しだす。


 普通にしていれば、一メートルも無い長さの腕。それが、四メートル程まで伸びていた。


 棚を砕き、あるいは隙間を抜けるように迫り、三人に襲い掛かる。


 腕に弾かれた、部屋の中の物品。それが宙を舞い三人にぶつかるも、腕の直撃だけは奇跡的に避け、何とか物置から脱出することに成功。


 しかし、


「――しまった!」


 希羅々の手から零れ落ちる、指輪。秘密兵器として用意していたものだ。


 敵の攻撃から逃げながら、ポケットに入れていたそれを取り出そうとしたのだが、ついうっかり落としてしまったのである。


 カランと音を立てて落ちた指輪が転がる先は、物置がある方向。取りに行こうとして……すぐに自身のその行動が、迂闊なものだったと悟る希羅々。


 物置から出てきた敵が、指輪を拾いに行こうとしている希羅々の顔面を貫こうと、勢いよく腕を伸ばす。


 サーっと、希羅々が顔から血の気が引いた――その時。


「っと、危ねぇ!」


 横からセリスティアが来ており、希羅々を抱えて横っ跳びする。


 空を切る、敵の腕。


「ファ、ファルトさんっ? す、すみません!」

「ったく! だから着けてろっつっただろう! ――って、うぉっ?」


 休んでいる暇は無い。再び敵が腕を四方八方に伸ばし、三人を仕留めにかかった。


 何とか攻撃を回避し、それぞれがアーツを出しながらも、雅達は顔を苦悶に歪ませる。


 どうにかして反撃に移りたいが、そのタイミングを計りかねていた。


 絶え間なくやって来る、腕の攻撃を避けるので精一杯というのが一つ。


 そしてもう一つ……攻め込むには、敵の情報が足りない。


 人工レイパーは、二種類以上の生物を掛け合わせて創られているはず。


 ならば、この人工レイパーも、イカ以外の他の特性があるはずなのだが……パッと見ただけでは、それが分からない。


 うっかり敵に近づいたが最後、思わぬ反撃に遭うかもしれないと思えば、反撃に二の足を踏んでしまうのも致仕方無かった。


 そんな中、人工レイパーが腕を振り上げる。


 鞭のように叩きつけてくる腕。狙いは雅だ。


 雅は自身のスキル『共感(シンパシー)』で、レーゼの『衣服強化』のスキルを発動する。


 全身の強度を上げ、それで敵の攻撃を防ごうとしたのだ。


 だが――


「ぅっ?」


 腕が体に触れた直後、全身に襲い掛かる、痺れるような感触。


 まるで感電したかのようなそれに、床に崩れ落ちた雅は、この時やっと理解する。


(この腕、電気が……!)


 イカにしては細すぎる腕。


 触れると痺れるところを見るに、恐らくは電気エイの尻尾だろう。これが、掛け合わされたもう一種類の生物と思われた。


 歯を喰いしばる雅。これが分かっていれば『帯電気質』を発動させたのだが、時既に遅し。


「た、束音さんっ?」

「ミヤビっ!」

「ぅ……」


 動けなくなった雅へと迫る、敵の腕。セリスティアも人工レイパーの攻撃を避けるのに必死で、今度は助ける余裕は無い。希羅々も同様だ。


 あわや、雅が貫かれてしまう……と、その瞬間。


「ッ?」


 雅の横に、もう一人の雅が出現する。雅がライナのスキル『影絵』で出現させた、分身雅だ。


 分身雅が、敵の攻撃が届くより先に、本体の雅を抱えてその場から離れたことで辛うじて敵の攻撃から逃れた。


 突如現れた分身に、一瞬人工レイパーが動揺し、攻撃の嵐が止んだ……その瞬間を、セリスティアは逃さない。


 自身のスキル『跳躍強化』を発動し、何倍にもパワーアップした脚力で、地上を水平に跳ぶようにして一気に敵に接近。


 そして、その無防備なボディに、爪型アーツ『アングリウス』で攻撃する。


 しかし――


「何っ?」


 爪で傷つけたはずの体。人工レイパーは一瞬仰け反ったものの、その傷はすぐに、見る見る内に塞がってしまった。


 軟体生物らしい、驚異的な再生力。


「にゃろぅ、一撃で仕留めないとってことかよっ?」


 お返しと言わんばかりに伸ばしてくる腕をバックステップで回避しながら、セリスティアは苦悶の声を上げた。


 またしても始まる、腕の乱打。


 リーチも手数も多いそれを、いつまでも回避し続けることは出来ない。


 未だ体の痺れが抜けず、動くことのできない本体雅を庇う分身雅は、尚更。


「っ!」


 ついに、分身雅のボディを、敵の腕が貫いてしまう。


 分身が消えていくと同時に、倉庫内に轟く雅の悲鳴。


 本当にヤバい……そう思った、その時だ。




 何者かが、倉庫の窓を割って入って来た。

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