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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第34章 新潟市江南区
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第298話『隠家』

 人間を人工レイパーに変える薬。


 そのバイヤーが見つかったと、レーゼから知らせがあった。


 きっかけは、葛城(くずしろ)――『アサミコーポレーション』の元専務で、久世の仲間だった男――だ。


 少し前まで警察病院にいた彼だが、体調もある程度回復したことで、改めてきちんとした取調べが行われた。


 そこで葛城が、自分以外のバイヤーの存在を白状したのだ。そして、そのアジトの場所も。


 葛城が偶然知った情報ということで、未だバイヤーはそのアジトを使っている可能性が高い。


 そしてアジトはいくつかあり、手が必要。


 そこでレーゼが、皆に助けを求めたのである。


 皆で手分けをして、バイヤーを捕まえようというのだ。そのバイヤーの中には、あののっぺらぼうの人工レイパーに薬を売った者もいると思われた。


 そういう訳で雅とセリスティアは、()()公園から南東……江南区の()ノ子にやって来ていた。


 江南区の外れにある倉庫が、敵のアジトとのことだ。


 時刻は午後三時二十分。


 倉庫まで、歩いて後十分といった辺りにて、


「あ、いた! 希羅々ちゃーん!」

「大声で希羅々ちゃん言うな! ですわ!」


 雅とセリスティアが、先に待っていた少女を見つける。


 ゆるふわ茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々だ。


 レーゼからは、希羅々と合流して、一緒に倉庫へと向かうように指示があった。そこで、途中で待ち合わせすることにしたのである。


「わりぃ、待たせたか?」

「いえ、(わたくし)も今来たところですわ。ところで――」


 希羅々は怪訝な顔をして、二人の体に視線を落とす。


「なんですの、その服は? アジトに潜入するから着てきた……という訳ではなさそうですわよね?」

「これですか? 実はですね――」


 雅が、今日一日のことを掻い摘んで説明すると……希羅々は呆れたように溜息を吐く。


「無粋ですわよ、全くもう……。しかし意外ですわ。ファルトさんも付き合うなんて」

「いや、俺はミヤビのお目付け役っつーか……妙な事したら力づくで止めるつもりでだな……」

「……それで? どうでしたの?」

「……ん?」

「いえ、ですから……あの二人、上手くやれていまして?」

「ええ。それはもうバッチリでした!」


 グッとサムズアップしてみせる雅に、希羅々は「なら良かった」と呟いた。


「なんだ、キララも気になってたんじゃねーか」

「先日の一件は、(わたくし)の耳にも入っていますし。べ、別にいいではありませんの、気にするくらい」


 少し顔を赤らめてそっぽを向く希羅々に、雅とセリスティアもクスリと笑みを浮かべる。


 すると、


「あれ? 希羅々ちゃん。それ、何ですか?」


 雅が、希羅々が手の平で転がして遊んでいる『それ』を見て、尋ねた。


 彼女がこんな風に手悪戯をしているところは、初めて見た。


 希羅々は「あぁ、これですの?」と言うと、『それ』を雅とセリスティアに見せる。


「これ、指輪か? お前らがいつも着けているやつと、同じように見えるが……」

「ファルトさん、正解ですわ。(わたくし)達がアーツ収納に使っている指輪……まさにそれですのよ」

「んん? でも希羅々ちゃん、既に着けてますよね?」


 希羅々の右手の薬指……そこには確かに、いつも希羅々が着けている指輪が嵌められていた。そこに、彼女の使うレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』が収納されているはずだ。


 雅の質問に、希羅々はふふんと得意気な顔をする。


「ちょっとした秘密兵器……とでも言いましょうか? (わたくし)も、そろそろレベルアップが必要ですし」




 ***




「ここか?」

「ええ、マーガロイスさんの情報によると、ここのはずですが……」

「……バイヤー、いるんですかねぇ?」


 倉庫に来た三人は、揃って首を傾げる。


 確かに、密かに何かをするには打って付けのように思えるが、それにしては人の気配が無さすぎる気がした。


 葛城が捕まったため、念のため引き上げたのだろうか。


「……外れ引いちまったかな? まぁ、しゃーねぇか。取り敢えず調べんぞ」


 セリスティアの言葉に、無言で頷く雅と希羅々。


 しかし、どこから入れば良いのか……入口は、当然の如く鍵がかかっている。雅と希羅々が頭を悩ませていると――セリスティアの腕に着いた小手が肥大し、銀色の爪が生える。


 彼女のアーツ『アングリウス』だ。


 そしてセリスティアの目は、鍵のかかった扉へと向けられており……二人の顔が、強張った。


「あ、あの、セリスティアさん?」

「二人とも、ちょっと下がってな」

「お待ちになって? もっと冷静にですね――」

「大丈夫、任せとけって」


 一旦落ち着いて、と雅と希羅々が言う前に。


「おぅらっ!」


 セリスティアの剛腕が振るわれる。


 爪が扉を抉り、重々しい響きと共に吹っ飛ばされた。


 あんぐりと口を開き、冷や汗を浮かべる雅と希羅々。


 そんな二人に、セリスティアは「よし、行くぞ!」と言って、中に入っていくのだった。




 ――五分後。


「……ちっ、やっぱもういねぇか」


 薄暗い倉庫の中を調べる三人。


 しかし奥まで行っても誰も見つからず、セリスティアは憮然とした顔になる。


「まぁまぁセリスティアさん。何も手掛かりが無いわけではありませんし」


 雅は辺りを見回して言う。


 今三人がいるのは、物置として使われていたと思わしき部屋。


 棚が並んで列を作っており、段ボールがいくつも置かれている。


 中を見れば、証拠となりそうな物品の数々。慌ててトンズラしたからか、これらを隠す時間は無かったのだろう。


 これを調べれば、ここにいたバイヤーに繋がるものも見つかりそうだ。


「それにしても、入口は整理されておりますが、こっちはひどいですわね……」


 部屋の奥まで来た希羅々は、苦い顔になる。


 棚に収まりきらなかったからか、ダンボールが煩雑に積まれ、山になっていた。


 それも地震で崩れたかのような、そんな有様だ。


「ま、しゃーねぇさ。一つ残らず持って帰りたいから、レーゼ達に連絡――って、おいキララ。指輪、ちゃんと着けておけよ。下手すると落っことすぞ」


 セリスティアが、希羅々の左手を見て渋い顔をする。


 秘密兵器と称していた指輪を嵌めていないのが、セリスティアには不用心に思えたのだ。


「これは失礼。ただ何と言うか、左手に指輪があるというのが、未だ慣れませんのよ……」

「あのなぁ……それだと――」


 いつになっても慣れねぇぞ、と言いかけた時だ。




 崩れたダンボールの山の中が弾けたと思ったら、中から誰かが飛び出してきた。

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