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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第34章 新潟市江南区
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第297話『黒葉』

「私ね、友達が少ないの」


 午後二時三十九分。


 ショッピングモールから少し歩いたところにある()()公園にて。


 ラティアと一緒にベンチに腰掛け、二人揃ってカップアイスの蓋を開けたところで、四葉がそう言った。


「昔から、人と交流するのが苦手で……あなた達と知り合う前は、二、三人……いえ、今でも付き合いがあるのは一人だけね。それだけしか友達がいないのよ」


 四葉はアイスにスプーンを突き刺し、ひと欠けら口に放り込む。


 九月限定の、マロン味だ。


 口の中を突き刺すような冷たさが覆い、その後すぐに、栗の香ばしさをまろやかにした甘い風味に包まれた。


「母もちょっと刺がある性格だから、あまり仲の良い人がいなくて……そんな私達に囲まれて育ったからかしら? 妹……黒葉(くろば)も、学校で友達がいなかったの」


 性格がキツかったという訳では無い。ただ表情が薄く、口数が少ない子だった。大人しい子……と言えば聞こえはいいだろう。


 しかし黒葉は体が弱く、学校を休みがちだった。


 そうなると、どうしても友達グループというものに入れない。いじめられているという訳ではないが、孤立していた。


「友達がいないから、学校が終わると真っ直ぐ家に帰って来て……それは私も同じ。だからだと思うけど、私と黒葉って、よく一緒に遊んでいたの」


 もうひと欠けらアイスを口に入れ、昔を懐かしむように空を仰ぐ四葉。


「自分で言うのも難だけど、仲の良い姉妹だったと思う。黒葉は私や母なんかよりも穏やかな子で、思いやりのある子だったから、喧嘩とかも殆どなかった」


 厳しめの両親から生まれたとは思えない、そんな優しい子だったと四葉は思う。


 何か嫌なことがあり、つい周囲にキツく当たってしまうことは誰にでもあるだろう。四葉も例外ではなく、その当たる対象が黒葉だったということも、残念ながらあった。


 そんなことをされても黒葉は怒るどころか、四葉の話を聞こうとしてくれるような、そんな子だったのだ。


 ウラ行きの船でのラティアのように、飲み物やアイスを持って……。


「黒葉はインドア派だから、一緒にWaytubeを見たりゲームしたり、本を読んだり……そんな風に過ごしていたわ。それで偶に、今日みたいに一緒に出掛けたり……そう言えば黒葉と遊びに出る時は、今日みたいなショッピングモールじゃなくて、映画館とかカフェとか、そういったところだったけどね」


 そこまで言ってから、ふと四葉は思う。


 誰かと一緒に服屋を回るなんて、今日が初めての経験だった。黒葉と遊ぶ時は、選択肢に出えなかったチョイスだ。


 そして、四葉はラティアが食べているアイスを見つめる。ラティアが食べているのは、四葉と同じマロン味のものだ。


「ラティアは、私と一緒の味を選んだのよね。……黒葉は、バニラが好きなの」


 考えてみれば、当たり前のこと。


「見た目は勿論違うけど……雰囲気とか、ちょっと体が弱そうなところとか、思いやりのあるところとか……ラティアは、黒葉に似ているところがいっぱいあるわね」


 でも、と四葉は続ける。


「アイスの味の好みとか、何して一緒に遊ぶかとか……同じくらい、黒葉とは違うところがある。やっぱりあなたはラティアであって、黒葉じゃない」


 どうして今まで気が付かなかったのだろうかと、四葉は思う。


 こうして一緒に過ごしてみて、改めて分かったのだ。心底、自分が愚かだと痛感した。


「ごめんなさい……勝手に妹と重ねて、避けてしまって。ラティアをラティアだと思ってあげられなくて。ごめんなさい……本当に、ごめんなさい」


 そこまで呟いた、その時。


「……ラティア?」


 スッと、ラティアは四葉にくっつく。


 言葉が話せないラティアには、これしか伝える手段が無かった。


 もう謝る必要は無いのだと。


 四葉の気持ちも、妹と重ねる想いも、何もかも……全部、受け止めてあげるのだということを。


 伝わる温もりに、四葉は思わず、唇を噛む。


 この時四葉は、やっと赦されたような、そんな気がした。




 ***




「良かった……二人とも、仲良さそうですね」

「おい、あんま身を乗り出すな。見つかんだろうが」


 物陰から四葉とラティアを見つめる、二人の人影。


 雅とセリスティアだ。


 変装した二人は、今日一日、離れたところから二人の様子を伺っていたのである。


 仇は討ったとは言え、四葉の中で『黒葉とラティアが似ている』という事実は未だに残っているだろう。その上ラティアは喋れないから、何かトラブルにならないかと心配していたのだが……杞憂だったようで、雅はホッと胸を撫で下ろす。


 雅に注意しつつも、安堵したというのはセリスティアも同じ。


 セリスティアも、四葉がラティアを避けているということには、何となく気が付いていた。事情を聞いた時も驚きはなく、「やっぱりか」と納得したくらいだ。


「ま、これでおめーも満足だろ。そんじゃ、帰んぞ。邪魔しちゃ悪い」

「えー? どうせなら、最後まで見ていきません? この後どこに行くんだろ?」

「おいおい……」


 と、その時だ。雅のULフォンに、着信が入る。


「あ、レーゼさんからです。――もしもし?」

『ミヤビ、仕事よ! ちょっと向かって欲しいところがあるの! 人工レイパーに変身する薬を売っていた奴のアジトが見つかったわ!』

「ええっ?」


 レーゼの言葉に雅が驚きの声を上げたことで、セリスティアも事態を把握したらしい。


 そして、レーゼの説明が始まった。

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