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第33章幕間

「……勝った」


 人型種狐科レイパーを倒し、爆発四散した際の煙も収まってきた頃。


 妹の黒葉の仇……その姿が完全に消え去ったことがようやく実感できたのか、四葉はボソリとそう呟いて、その場に仰向けに倒れて空を仰ぐ。


 どこまでも暗い空に、ほんのりと輝きを帯びる月。


 それが、四葉には途方もなく温かく思えた。


「勝った……黒葉……やったよ。お姉ちゃん、やったよ……」


 自分でも何が何だか分からない感情が、言葉……そして涙と一緒に溢れ出る。


「四葉ちゃん! 大丈夫ですかっ?」

「あぁ、雅……ええ、大丈夫よ。ただ、ちょっと力が抜けて……」


 心配して駆け寄ってきた雅。差し出された手を掴むと、グッと上体を起こされる。「痛むところとかありませんか?」と、尚も不安そうな顔で聞いてくる雅。


 新たに得た『超再生』のスキルにより怪我が治ったとは言え、一時は体が動かせない程に痛めつけられたのだ。四葉程ではないが、雅だって体のあちこちが悲鳴を上げている有様。大丈夫だと言われたところで、心配するのも無理からぬことだった。


 そんな彼女に「平気。心配しないで」と微笑む四葉。その顔も声も、今まで雅が見たことが無い程、柔らかい。


 ホッと息を吐き出す雅。


 しかし、すぐにハッとすると、


「そうだ……お面はっ?」

「……しまったっ!」


 レイパーを倒したからといって、お面も一緒に消える訳ではない。


 人型種狐科レイパーを倒す直前、四葉が顔面を殴り飛ばしてお面を吹っ飛ばした。それが、まだ辺りに落ちているはずなのだ。


 まだ終わりじゃない。安心するのは、まだ早い。


 疲れた体に鞭を打ち、慌てて探そうとする二人。




 だが。




「――っ?」

「――っ!」




 顔を青くして、息を呑む雅と四葉。


 妹の仇を目の前にして、余計なことを考える精神的余裕を失っていた四葉は兎も角として、 少なくとも雅はこれを、まるで予想出来なかったわけでは無い。お面を被ったレイパーが現れたのだ。『こういう事態』が起こる可能性は念頭に置いていたつもりだった。


 しかし、今は深夜。


 可能性は念頭に置きつつも、まさかそんな事態が起こるわけがないと、勝手に思っていた。


 故に二人の驚き様は、筆舌に尽くしがたい。


 それが例え、過去に二度、同じことを経験していたとしてもだ。









 暗闇の中、そこにいたのは――のっぺらぼう。









 全身黒いタイツを着たような、顔の無い人型の化け物が、そこにいた。


 火男のお面を被った、ピエロ種レイパーを倒した時。


 般若のお面と、姥のお面に憑りつかれた葛城を倒した時。


 シチュエーションすら同じ。


 二度あることは三度ある、とはよく言ったものか。


 そして、のっぺらぼうの手には……罅の入った、翁のお面。









 二人が止める間もなく、それを……四枚目のお面を被る、のっぺらぼう。









 お面が体の中に吸い込まれた刹那、


「――ッ?」


 頭を抱え、激しく苦しみだす人工種のっぺらぼう科レイパー。


 それはまるで、薬物依存症の人間が、禁断症状にもがく様。


 そのもがきようは、雅も四葉も、呼吸するのも忘れて、青い顔で見つめることしか出来なかった程だ。ともすれば、敵に先制するには打って付けの大チャンスだが……あまりののっぺらぼうの様子に、体が動かなかった。


 どれくらいの時が経っただろうか。


 数時間、数分、数秒……雅達には、途方もない時間が経ったように思えていた。


「…………」


 苦しさも少しは落ち着いたのか、フラフラとした……しかし雅達では追いつけない速さで、その場から逃げ出す人工レイパー。


「ま、待てっ!」


 やっと体が動くようになり、慌てて追いかけようとした雅。


 だがその肩を、四葉に掴まれて停止させられてしまう。


 焦った顔で振り向いた雅に、四葉は小さく首を横に振った。


「四葉ちゃん……でも……っ!」

「いいの。私達、満身創痍よ。深追いすべきじゃない」


 走り去った人工種のっぺらぼう科レイパーは、もう見えない。


 時刻は深夜一時を回っている。月明りを頼りに探すのは、あまりにも不可能で、危険だ。


 四葉は深く息を吐く。悔しいという気持ちは確かにあるが、黒葉の敵討ちを成功させたからか、これ以上の無茶をしようという気持ちは、不思議と無かった。


 雅は未練があるように、敵の逃げた方を見つめていたが、やがて仕方が無いという風にその場にへたり込む。


「あいつ、何でここが分かったんでしょうか?」

「結構派手に戦っていたし、様子を見に来たのかもしれないわ。ただ……」

「ただ?」

「……いえ、何でもない」


 言いかけた言葉。




 もしかすると、のっぺらぼうの人工レイパーに、自分はずっと監視されていたのかもしれない。




 思わず言いかけたそれを、四葉はグッと飲み込む。


 翁のお面を被ったレイパーを見つけるのなら、それをずっと追っていた自分を見張る方が楽だろう。見つける手間も、お面を剥ぎ取る手間も、全部自分が負うのだから……そう思ったのだ。


(いえ、流石に考えすぎね。奴の気配はまるで無かった……そう、全部偶然よ。そっちの方が自然だわ。第一、私がお面を着けたレイパーを探していたなんて、あいつは知らなかったはず……)


 そうであって欲しい、そうあるべきだと、四葉は自分を納得させる。


 本心では、『のっぺらぼうの人工レイパーに監視されていた』という自分の考えに、確信めいたものを感じているにも拘わらず……。

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