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第292話『敵狙』

「さて、あのレイパーを倒すと決めたはいいですけど、どうやって見つけ出しましょう?」


 難しい顔をしながら、雅は唸る。


 サルモコカイアはもう無い。四葉が優とレーゼに事情を説明した時に、没収されてしまったからだ。最も、未だに四葉が持っていたところで、使わせる気は毛頭ないが。


 だがそうなると、敵を見つけ出す手段がない。


「奴は子供を狙うレイパーよ。保育園や小学校辺りに出現しそうではあるけど……」


 優に殴られた後、人型種狐科レイパーを探し回っていた四葉だが、奴はどこにもいなかった。冷静な精神状態では探すことが出来なかったというのもあるかもしれないが、それだけあのレイパーが隠れるのが上手いということでもある。


 困ったように呟きながら、四葉は人差し指を空中でスライドさせた。


 ウィンドウを出し、そこに映したのは……数多の報告書だ。


「四葉ちゃん、なんですか、それ?」

「奴の事件に関する報告書。この間、警察署に侵入した時に入手したものよ」


 その言葉に、苦笑いを浮かべ、何か言おうと口を開きかけて止める雅。


 そんな雅に、四葉はバツの悪い顔になった。


「……まぁ、今は置いておきましょう。私もあいつを闇雲に探していたわけじゃないわ。これを参考に、いくつか回っていたわけで……おっと、これが、ここ最近の事件の報告書ね」

「あいつ、私が知らなかっただけで、ここ数日で何人も殺しているんですね。しかも、狙った人は逃がさない。一回で確実に殺していますよ……。あ、これ優一さんの書いた報告書だ」


 報告書の作成者欄を見て、雅が「おっ」というような顔になる。


「あの子のお父さんよね。他にもいくつか、彼が書いた報告書があったわ。色んな人が奴の事件に関わって、あれこれ報告書を作っていたけど、この人の報告書が一番分かりやすいわね」

「優秀な警察官ですからねぇ。ちょっとしっかり読んでみましょう。――それにしても、本当に目撃証言が少ないみたい。現場付近の防犯カメラとかも、場合によっては破壊しているんだ……厄介ですね」

「破壊するのも足が付く可能性があるから、そもそも、その手のカメラに映らないような移動ルートを使っているようよ。後半の資料に地図があって、カメラの死角になる道が示されているの。これを上手く使えないかしら?」

「トップシークレットな情報じゃないですか。絶対他言できませんね、これ。……でも、ここから敵の居場所を割り出すのは難しいです」

「そうよね……。せめて、次の標的が分かればいいんだけど……」


 子供を狙う、ということしか分からないと、それも難しい。


 優一の報告書を読み進めながら、二人は頭をフル回転させる。


 すると、雅が考え込みながらも、ゆっくりと口を開いた。


「もしかすると、あいつはラティアちゃんを狙うかも」

「はぁ?」

「ターゲットにした子供は、これまで一人残らず殺してきた奴ですよね? ……ラティアちゃんだけ見逃すなんてこと、あると思いますか?」


 その言葉に、四葉は大きく目を見開く。


 そう言われると、無いとは思えなかった。


 ラティアを見た瞬間、即座に標的を二人から彼女に変えたくらいなのだから。


「あいつの攻撃で怪我を負った私とラティアちゃんが、どこに行くか……あのレイパーは、それが分からない程馬鹿じゃないと思うんです。逆に言えば、居場所が分かっている内に殺しにくる可能性が高い」

「……襲うとしても、どうやると思う? 病院には大和撫子が大勢いるはずよ。防犯カメラだってたくさんあるし……」

「それは……」


 四葉の言葉に、どもる雅。確かに、レイパーがそうしようと思ったところで、実行が難しければ断念するだろう。


 だが雅も……そして今の質問をした四葉でさえも、レイパーがラティアを襲う計画を断念するという可能性を、直感的に排除した。第六感だが、何が何でもラティアを殺しにくるのではないか……そう思ったのだ。


 後は、敵がどう動くか。それが分かれば、レイパーを見つけることが出来るはずだ。


 必死に思考を巡らす雅。


 だが、幾何も無く、脳内に電流が走る。


「もしかして、ピエロのレイパーと同じ手法をとるのかも?」

「ピエロって、あの火男のお面を被ったレイパーよね?」

「ええ。あいつ、人の名前でクロスワードパズルみたいなものを作って、それに則って人を殺していたんです。それで、ターゲットを選ぶのに、中央区の市役所で住民の名前を調べていた……。あの狐のレイパーも、同じことをするのかも」

「そうか、入院するってことは、住所とかも聞かれているはずだから……」


 雅はコクンと頷く。ラティアは念の為に新潟万代病院に入院しているが、その時の手続きで、確かにラティアが今住んでいるところを記入させられた。


「病院の受付辺りなら、多分調べることが出来るはずです。そこまでなら、痕跡を最小限にして侵入出来るはず。ラティアちゃんの住所を確認して、後で殺しにいくつもりなのかも」

「一般家庭なら、防犯カメラも少ないし、障害となる人間も少ないわ。人目に付かず、そして確実に殺すのなら、そうするか……。ん? 待って、今は何時?」

「えっ? えーっと、もう九時過ぎです。結構時間、経っちゃいましたね」

「あの病院、面会時間は八時半までだったわね。……消灯の時間って、何時かしら?」

「――っ!」


 今度は雅が、四葉の言葉に大きく目を見開く番だった。


 病院なら、九時に電気を消すところも少なくない。受付からも、人がいなくなるだろう。


 これはつまり、人型種狐科レイパーが侵入しやすい状況になることを意味していた。


「行きましょう、四葉ちゃん! 流石に、病院が消灯してすぐ侵入してくるとは思いませんけど、近くで身を潜めているかもしれません!」

「辺りを探し回るか……いや、出入口を見張る方が確実ね!」


 そんな会話をしながら、二人は新潟万代病院の方へと走り出していた。




 ***




 午前〇時一九分。


 病院に到着した二人。未だ、人型種狐科レイパーは一向に姿を見せない。


 急いでやって来たものの、よく考えれば消灯時間になったところで、医者や看護師の人達はまだ働いているのだ。姿を見られたくないレイパーが、すぐに侵入など出来るはずもなかった。


「……四葉ちゃん。本当に正面から入って来ると思います?」

「……多分」


 雅の質問に、四葉は若干自信なさそうに答える。


 二人は駐車場に植えられている低木身を隠し、病院の表玄関口を見張っていた。


「入口は正面と裏の二つ。だけど裏は時間外受付がある。痕跡を最小限に抑えるなら、流石にそこから侵入しようとはしないと思うわ。どんな道から来るとしても、最終的にはここから入ろうとする……はず」

「うーん……やっぱりその結論になりますよねぇ。ごめんなさい、中々現れなくて、ちょっと変な事考えちゃいました。問題は、いざ奴が出てきた時に勝てるかどうか……。本当は、レーゼさん達の手も借りられれば良かったんですけど……。まぁ、他の場所をマークしているとなれば仕方ありません」


 二人が予想したレイパーの行動には、証拠が無い。あくまでも可能性の一つというだけだ。


 人型種狐科レイパーが他の場所に出る可能性を捨てきれない以上、レーゼ達がそちらを警戒しないわけにもいかない。


 ここにレイパーが現れれば、二人で戦うのみだ。


 雅の言葉に、四葉は苦しそうに唇を噛み締める。


 人型種狐科レイパーを倒すために鍛えてきたが、まるで歯が立たなかったのだ。無理も無いことだった。


「……ねぇ、あなたのアーツ、他のアーツと合体出来るのよね?」

「ええ。でも、『StylishArts』製のアーツとだけです。マグナ・エンプレス、アサミコーポレーション製ですよね?」

「当たり前でしょ。……となると、合体は無理か」


 困った、と言うように呟く四葉。


 すると、雅が「そうだ」と声を上げる。


「真衣華ちゃんから聞いたんですけど、マグナ・エンプレスのエネルギー、私の百花繚乱が放つエネルギー弾と同じものらしいんです。上手く利用出来ないですかね?」

「…………いや、どうかしら?」


 たっぷり三十秒考え込んだ四葉だが、力なくそう返した。


「確かに、エネルギーを注入するための『口』はあるわ。あなたのアーツのエネルギー弾をそこに撃ち込めば、マグナ・エンプレスの出力も上がるかもしれない。ただ、かなりの熱を持つと思う。過剰なエネルギーの注入で、どんな挙動をするかも分からない。私で制御出来ないかもしれないわね」

「ぶっつけ本番は、流石に厳しいですか……。ところで四葉ちゃん、腕は大丈夫ですか? 痛むんじゃ……」


 レイパーの攻撃により、四葉の左腕はダメージを受けていた。動かすたびに、若干顔を顰めることを、雅は見逃していなかった。


「まぁ、あなたを抱えて飛んだりすることには使えるわ。流石に奴を殴るのは難しいけど……」

「……中々、厳しい状況ですね」


 あれこれ頭を悩ませていた、その時だった。


 小さな、シャン、という音が、二人の耳に飛び込んでくる。


 夜の闇に紛れ、聞こえてくるその涼しい音。背筋が凍る、そんな音。


 喋っていた二人は口を噤み、音が聞こえてきた方を見て――険しい顔になる。


 そこにいたのは、きつね色の体毛をした、人型の化け物。


 手には、ニメートル程の錫杖を持ち、顔には笑ったお爺さんのお面が着いている。


 そう、そいつは――




 お面を被った、人型種狐科レイパーだった。

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