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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第32章 新潟県警察本部
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季節イベント『焼芋』

「ねぇ、前から気になっていることがあるんだけどさ」


 ウラで葛城を倒した次の日、皆でノストラウラの宿に泊まった時のこと。


 夜も更け、後は寝るだけ。そんな中、アーツを収納する指輪を着けたまま布団に潜る雅達を見たファムが、ふと口火を切る。


「その指輪をずっと着けたまま生活するのって、どんな感じなの? 邪魔になる時とか無い?」

「邪魔になること?」


 答えたのは、ファムに一番近いところにいた優だ。


「いやほら、私のシェル・リヴァーティスは、普段は体の中にしまわれているからさ。常に指輪を着けていないといけない生活って、どんな感じなのかなって」

「うーん……私、最初のアーツの頃からずっと指輪に収納するタイプだったから、違和感とか全然無いんだよね」


 故に、どんな感じと聞かれても、答えようがない。優は困った顔になる。


 すると、


「邪魔だナァ、と思うことならあったゾ。昔一度、指輪を外してエラい目にあっタ」


 志愛が、苦笑いを浮かべてそう答えた。


 そして話始める。三年前に起きた、とある小さな出来事を――。




 ***




 二二一八年十一月の、ある昼下がり。


 紅葉で彩られた、寺尾中央公園にて。


「ウゥ……見ツからなイ……」


 地面を這い、半べそをかく少女がいた。


 中学一年生の、権志愛である。


 彼女の右手の薬指には、いつも嵌っているはずの指輪――アーツを収納しているものだ――が無い。


 志愛が必死になって探しているのは、この指輪だ。


 志愛はこの公園にトレーニングに来ていたのだが、指輪が邪魔になったため外し、ポケットに入れたつもりだった……のだが、どこかで落っことしてしまったのだ。また嵌めようと思ってポケットの中を探ったが、見つからなかった。


 アーツを収納するギミックは様々。指輪にしまうのが一般的だが、ネックレスや足輪、チョーカー等のタイプもある。


 志愛は、元々はネックレスにアーツを収納していた。子供用の盾型のアーツだ。それが中学入学と同時に棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を買ってもらい、それからは指輪を着けるようになった。


 そのため、どうしても『右手に指輪が嵌っている』ことに違和感があり、時折外してしまう悪癖があったのだ。


「まズイ……どこニあるんダ?」


 最早お手上げだと、空を仰ごうとした志愛。


 すると、


「……ン?」


 公園の外を、泣きながら歩く少女の姿が目に飛び込んできた。


 ぱっと見、五歳くらいか。何があったのか分からないが、泣いている以上、ただごとではないのだろう。流石に見過ごせなかった。


「おーイ!」

「ぐす……。……えっ?」


 駆け寄ってくる志愛を見て、少女は目元をごしごしと擦った。


「どうしたんダ? 何かあったのカ?」

「ひぐっ、ひぐっ……あのね――」


 聞くところによると、少女は両親と買い物に来ていたようなのだが、はぐれてしまったらしい。


 うっかり外に出て歩き回っていたら、自分がどこから来たのか分からなくなってしまったのだとか。


「そっカ……そレは大変だったナ。アーツはあるカ?」


 その質問に少女がコクンと頷いたのを見て、志愛はホッと息を吐く。


 このくらいの歳の子に持たされているアーツには、殆どの場合GPSが搭載されている。子供がいなくなったことに気が付けば、ご両親はすぐにここまで飛んでくるだろう。


 念の為にアーツを確認すると、ちゃんとGPSも付いている上に、


(オ、電話番号まであるナ)


 志愛はULフォンを起動させ、少女の両親に連絡を入れる。ここにいることを伝えると、ひどく恐縮した様子でお礼を言われ、しばらくしたら来てくれるとのことだった。


 一先ず、ここで待っていれば問題は無さそうだ。


「私は志愛。この近くに住んでいルんダ。君の名前ハ?」

「……かえで」

「楓ちゃんカ。いい名前ダ」


 すると、少女のお腹が鳴った。


「お腹空いているのカ?」

「……うん」

「私のお弁当で良けれバ、あげるゾ。それを食べながラ、お父さんンとお母さンを待とウ」


 志愛は、朝から夕方までトレーニングをするつもりだったため、お弁当を持ってきていた。だが指輪を無くすトラブルのせいで、まだお昼ご飯を食べていなかったのだ。


(まさカ、こンな時に役に立つとハ……)


 志愛の提案に、少女は少し顔を明るくさせるのだった。




 ***




 十五分後。


「ごちそうさまー! おねえちゃん、ありがとー」

「うン。どういたしましテ」

「ねぇ、いっしょにあそぼー?」


 お腹が膨れたら元気が出てきたようで、先程までの様子から打って変わり、快活そうな笑顔で志愛にそう言ってくる楓。


 志愛は少し考える。


 自分は今、落とした指輪を探している最中だ。レイパーがいつ出てくるか分からない今、本来ならすぐに探すべきものである。


 だが……志愛は自分のポケットに手を添えた。


 そこには、ネックレスが入っている。小学生まで身に着けていたものだ。


(……一応、今まデ使っていたアーツはあル。レイパーが出てモ、身を守れなくは無イ)


 小さな娘を放って失せ物探しにかまけるのは、どうにも気が咎める。


 指輪を探すのは急務だが、ここら辺で失くしたのは間違いないのだ。遊んでいれば、いずれ見つかるかもしれない。


「分かっタ。お父さンとお母さンが来るまデ、一緒に遊ぼウ」

「わーい! じゃあおにごっこ!」


 言うやいなや、楓は走り出す。


 随分元気な娘だと、苦笑いを浮かべつつも志愛は追いかけ始めた――のだが。




 二分後。


「うぅ……おりられないよぅ……」

「どうシてこうなっタ……?」


 志愛から逃げるために、木に登った楓。


 彼女を見上げつつ、志愛は顔を青くする。


 志愛から楓までの距離は、三メートル。とても志愛の手が届くところではない。


 志愛が木に登って助けに行こうにも、二人分の重さに木が耐えられるかも不明だ。折れでもしたら大惨事なことこの上無い。


 せめて何か長い棒……跳烙印・躍櫛でもあれば少女を助け出せそうなのだが、生憎指輪を紛失中。


 何か無いかと辺りを見回す志愛だが、使えそうなものは無い。


 ヤバいヤバいヤバい、どうしようと、志愛はパニックになる。


 泣き出す楓。


 親御さんが来るまでしっかり面倒を見ていなければならないのに、これでは何のために自分が側にいたのか。


 混乱する頭の中でも、志愛はしっかり自分を責める。


(イ、今あるのはこれしカ……)


 ポケットから、昔着けていたネックレスを取り出したその時。


「アッ!」


 コロンと地面に落ちたものを見て、志愛が声を上げる。


 失くしたと思っていた指輪だった。どうやら、ネックレスに絡まって一体化していたらしい。落としたと思っていたが、そうではなかった。


 自分はなんて無駄な時間を過ごしたのだろうか……と一瞬呆然としかけるが、志愛はすぐに 手頃な木の枝を拾うと、それを銀色の棍、跳烙印・躍櫛へと変化させる。


「掴まレ!」

「う、うん……!」


 こうして、なんとか楓を降ろせたのであった。




 ***




 それから少しして。


「楓ちゃーん!」

「あっ! ママ! パパ!」

「ン? あア、お迎えが来タんだナ」


 遠くから走ってくる両親の姿を見て、楓が満面の笑みで駆けだす。


「もう、こんなところに――うちの娘を、本当にありがとうございます……!」


 娘を抱きかかえる母親。心底ホッとしたような父親が、志愛にペコリとお辞儀をする。


「いエ、大したことは何モ……」

「おべんとうももらった! キムチおいしかった!」

「あぁ、お昼まで貰ったようで……大変お世話になりました。あぁ、これ、お礼にどうぞ」

「エ? ア、ありがとウございまス。――オォ、焼き芋がいっぱイ!」


 差し出された袋の中を見て、志愛が声を上げる。焼き芋は志愛も好きだった。


 特別なことは何もしていないどころか、ちょっとしたトラブルまであったことを思うと、寧ろ恐縮してしまうくらいだ。


 申し訳なさを覚えつつも、志愛のお腹が鳴る。


「あー! わたしといっしょ!」

「カ、楓! いや私はそんナ……」


 楓にお昼ご飯を殆どあげてしまったため、彼女もお腹が空いていたのだ。


 正直な体に、志愛は恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向く。


「本当にお世話になりました。では、私達はこれで」

「おねえちゃん、ばいばーい!」


 そう言って、去っていく三人の家族。


 手を振りながら、志愛はその背中を眺め……姿が見えなくなると、深く息を吐く。


「……さテ、私もお昼にするカ」


 母に多く持たせられたキムチ。


 楓がパクパクと食べてしまったが、子供が食べきるには多すぎる量で、タッパーに少しだけ残っていた。


 焼き芋にキムチを乗せて、頬張る志愛。


 甘辛い風味が、口一杯に広がるのだった。




 ***




「――ト、こんなことがあってナ。その日かラ、滅多なことでは指輪を外さないようにしたんダ。あの時は無事に見つかったガ、時と場合によっては大惨事になるからナ。マァ、慣れれば平気だゾ」


 時は現代。昔話を終えた志愛が、そう言って一息つく。


 だがそこで、話を聞いていたファムと優が、怪訝な顔になっていることに気が付いた。


「どうしタ?」

「あぁいや、シアって、焼き芋にキムチ乗せるの? キムチって確か、辛いんだよね? 私の世界の焼き芋って甘いんだけど、そっちの世界の焼き芋は違うの?」

「いやいや、甘くて美味しいよ。え? それにキムチ? 焼き芋に合うの?」

「そこが気になったんかイ!」


 話の本筋とは違うところが気になったらしい二人に、志愛は思わずそう突っ込む。


「全ク……今度、一緒に食べよウ。二人もきっと気に入るはずダ」


 やれやれと苦笑いを浮かべ、志愛はそう言うのだった。

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