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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第4章 イーストナリア
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第31話『石像』

 何故魔王種レイパーが、雅達が見つけた鏡を奪っていったのか。


 どうして自ら止めを刺さないのか。


 分からないことは多い。


 しかしその理由を考えている余裕は、今の雅とミカエルには無かった。


 魔王種レイパーによって召喚された、ミドル級ゴーレム種レイパー。


 石で出来た巨体から、拳が繰り出される。


 二手に分かれてそれを躱す雅とミカエル。


 空振った拳が、部屋の壁を砕く。その衝撃で、天井にまで亀裂が入り、床も揺れた。


 パラパラと、天井の破片が落ちる。


 二人は悟った。このレイパーは早急に倒さなければ、と。放っておけば、いずれこの場所は破壊され、生き埋めになってしまうと。


 雅はライフルモードにした百花繚乱でレイパーの右側から、ミカエルは落とした自分のアーツとエナン帽を拾って左側に回りこんで火球を作り、それぞれ攻撃する。狙いはゴーレム種レイパーの頭だ。


 だがレイパーはその巨体に見合わぬ俊敏な動きで体を反らし、二人の攻撃を躱してしまう。


 そして腕を振り上げ、トゲのついたナックルで我武者羅に地面を叩きつけはじめた。


 次々に出来上がるクレーター。二人は攻撃の合間を縫うように走り、それらを躱していく。隙を見つけて攻撃を打ち込む余裕は無く、必死な形相で二人は回避行動に専念していた。


「――きゃっ?」


 そんな中で、ミカエルの足が縺れてしまう。長時間の探索と、魔王種レイパーとの戦闘で、本人の思った以上に体が言う事を聞かなくなってきていたのだ。


 そして、体勢を崩したミカエルに、レイパーの拳が襲いかかる。


「ミカエルさんっ!」


 慌てて雅がミカエルの方へと向かって地面を蹴るが、間に合わないことは明らかだ。


 拳はもう、ミカエルの体一個分程度の距離にまで迫っていた。


 ヤバい。


 二人がそう思った、その時。


 何かが猛スピードでミカエルの方へと突っ込んでくる。


 そして拳がミカエルに直撃する直前で彼女を抱え、そのまま拳の範囲から脱出した。


 ミカエルを助けたのは、薄紫色の髪の少女。


 彼女はミカエルをお姫様抱っこにして、そのまま空中へと飛翔する。


 悠々と羽ばたく、白い翼が雅の目に映った。


 そう――


「ファ、ファムちゃんっ!」

「ファ、ファムちゃんっ? あなた……生きてっ? でもどうしてここにっ?」

「うぃっす二人とも。話は後」


 魔王種レイパーの囮になっていた、ファム・パトリオーラだった。


 無事ではあるものの、顔や服のあちこちが汚れており、ところどころ多少ではあるが怪我もしている。彼女も慢心創痍に近かった。


 攻撃を外したレイパーは、新たに出現したファムに目を向けると、空中にいるファムとミカエルに向かって拳を繰り出す。自らの敵と認識したようだ。


 ファムはさらに上昇してその攻撃を躱すと、一気にレイパーの側まで加速し、レイパーの黄色い眼目掛けて羽根を飛ばす。


 が――


「ん? 駄目か……」


 放った羽根はレイパーの目には突き刺さらず、弾かれて地面に落下。レイパーには効いた様子は無い。


「任せて!」


 抱かれたミカエルが杖をレイパーへと向ける。


 作り出したのは、巨大な炎の針。敵に当てるのは少し難しいが、当たれば火球以上の威力が出せる魔法だ。


 直線状に飛ばされた炎の針は、レイパーの左眼を正確に貫いた。


 痛みに悶えるレイパー。


 そしてその巨体が、ガクンと膝をつく。


 雅がレイパーの右の足元に近づき、足首にあたる部分を後ろから斬りつけたのだ。間接部分は比較的軟いようで、思いっきり剣を叩きつけたら効果があった。


 そして雅はセリスティアのスキル『跳躍強化』を発動し、跳び上がる。ゴーレム種レイパーの肩に着地すると、頭がある方まで走り、そのままレイパーの右眼を思いっきり斬りつけた。


 同時に、ミカエルの放った巨大火球がレイパーの左足の膝に直撃する。


 両目を失い、足を負傷したことで、さらに激しくもがき苦しむレイパー。


 その反動で、雅はレイパーの体から振り落とされてしまう。


 だがファムはミカエルを地上に降ろすと、雅に急接近して、彼女が地面に直撃する前にキャッチした。


 視界と機動力を失ったことで、レイパーは今隙だらけになっている。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。


 ミカエルは自身のスキル『マナ・イマージェンス』を発動。魔王種レイパーやミドル級ゴーレム種レイパーとの戦いで失った魔力を、一気に回復する。


 雅に向かって小さな火球を一発放り投げると、終わり無き夢をレイパーに向け、自身の足元に巨大な魔法陣と、上空に五枚の星型の赤い板を出現させた。


 板が、円を描くように高速で回転を始め、その中心にエネルギーが集中する。アーツの先端についた赤い宝石が、激しく輝きを放つ。


 雅はミカエルから投げられた火球を、百花繚乱で受け止める。すると、アーツの刃に炎が宿った。セラフィのスキル『ウェポニカ・フレイム』だ。


 ファムは雅の左手を引っ張り、彼女を吊り下げるような格好にして上空に舞い上がり、そしてそのまま雅をレイパーの方へと放り投げる。


 放物線を描くように飛んでいく、雅の体。


 投げられた格好で雅は両手で百花繚乱の柄を握り、振り上げる。


 そして絶叫と共に、レイパーの左肩の間接部分に剣を叩きつけた。


 ゴリゴリと音を立てて、砕けていくレイパーの体。


 刃が肩の上から下を通過し、抵抗が無くなった雅は落下の勢いを加速させる。


 そんな彼女をファムが空中で拾い、急いでその場を離れた瞬間。


 ぐらりと傾くレイパーの体の中心に、ミカエルの最大魔法である巨大レーザーが命中した。


 レーザーはレイパーの体を破壊し、レイパーの体のあちこちからは炎が噴出する。


 しばらくはくぐもったような声を上げ、攻撃を堪えていたレイパーだが、すでにボロボロになった体では耐え切れず、最終的には体に風穴が開く。


 そしてついに、爆発四散した。


 体の破片があちこちに撒き散らされ、部屋の温度が急上昇する。三人とも汗びっしょりになっていた。


 ホッとするのも束の間。


 地響きとともに、何かが砕けるような、派手な音が鳴り響く。



 魔王種レイパーが向かっていった、出入り口の先からだった。

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