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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第32章 新潟県警察本部
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第32章閑話

 九月四日火曜日、午後九時三十七分。


 ここは、相模原家のリビング。


 そこのテーブルの椅子に並んで座るのは、優と優香だ。


 空中にはウィンドウが広がっており、そこには小難しい式や図が並んでいる。


 それを見つめる優は辟易としており、今にも死にそうな目になっていた。


 娘とは対照的に、腕組みをする優香の目はギラギラと燃えている。


「…………うー」

「唸ってないで、さっさと終わらせなさい。全く、お母さん恥ずかしいわよ。夏休みの宿題がまだ終わっていないだなんて」


 その言葉に、優は母に聞こえないように舌打ちをした。昨日、学校の先生に散々叱られたのだから、これ以上誰かにとやかく言われるのは面白くない。


 それが例え、自業自得だとしてもだ。


 最も、ただ宿題が終わっていないだけなら、優香ももう少し穏やかな態度で優のことを窘めたであろう。それが大きな角を生やしているのは……これも優が原因である。


 本当ならば今日の放課後は、学校に居残り宿題を終わらせなければならなかった優。しかし雅が復学しない理由を問い詰めるために、こっそり学校を抜け出していたのだ。それで学校の先生から両親へと連絡が入ってしまった。


 カンカンになった優香は、帰って来るやいなや優をこっぴどく叱り、自らの監視の元、優に宿題をさせているというのが今の状況である。


「大体あなた、昨日だって居残りさせられたんでしょう? なんでまだ終わっていないのよ」

「いや……だって、終わらなかったんだから仕方ないじゃん」

「理由になっていないわよ、もう!」

「……はーい。すみません」


 これ以上グズグズ言っていると、終いには大きな雷が再び落ちそうだと悟り、優は渋々ながらも宿題に集中する。


 そして、それから一時間ちょっと。


「あー! だめ! 疲れた!」

「……はぁ。仕方ないわね。ちょっと休憩にしましょ」


 限界を超えた優が半泣きになり、優香は溜息を吐きつつもそう許可を出す。


 しばし与えられた休息に、優は心底安堵した表情を浮かべ、大きく息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかった。


 そして、優は口を開く。


「そう言えばさ、あののっぺらぼうの人工レイパーについて、何か分かったこととかある? 弱点とかさ」

「すぐに分かるわけないでしょう。まだ調査中よ」

「……あいつ、まだ強くなるのかな? 変なお面を三枚も身に着けて、パワーアップしたみーちゃんやレーゼさんとも互角だったし……またさらに別のお面を取り込んで、これ以上強くなったら――」

「大丈夫よ」


 不安そうな優の言葉に、優香はきっぱりとそう断言する。


「あののっぺらぼうの人工レイパーは、結局人間が変身した存在よ。葛城は人工レイパーの中でも特に強い部類だけど、お面二枚で暴走してしまったでしょ? 限度よ、三枚が」


 これは、優香が葛城や、他の人工レイパーの変身者達の体を調べて分かったことだった。


 お面を直接分析していないが、雅達の戦闘データを解析すれば、おおよそのことは分かる。お面一枚だけでも、普通なら自我を失ってしまうはずなのだ。


「三枚のお面を被った直後、今までのように戦ったことすら驚きよ。制御するには、かなり時間がかかるはずなんだけど……。でも、もしもこれ以上お面を取り込めば、葛城のように暴走するか、体がお面の力に耐えられずに崩壊するか、どっちかになる可能性が高いわ」

「……そうなの?」

「今の状態を維持出来ているだけでも奇跡的なものだと私は思う。これ以上お面を取り込めば、必ずどこかで綻びが出るはずよ。だから大丈夫。……さて、そろそろ休憩は終わり。さ、宿題やるわよ」

「えー? 五分も経ってないし! もうちょっと――」


 と、そこまで優が言いかけるが、優香にギロリと睨まれ、大人しく口を噤む。


 優香、そして帰宅してきた優一にも監視されることになった優は、日付が変わる寸前で、ようやく夏休みの宿題を終えることが出来たのだった。




 ***




 九月五日水曜日。夕方六時四十四分。


 ここは、新潟市中央区稲荷町にある墓地。


 時間的に、辺りはもう薄暗い。場所が場所なだけに陰鬱な雰囲気だ。


 そんな中、とあるお墓の前に立つ二人の女性の姿があった。


 浅見四葉と、彼女の母親の杏である。


 二人が見つめる先は……四葉の妹の、黒葉のお墓。


「……四葉。本当に大丈夫なの?」


 杏がお墓から目を離さずにそう尋ねると、四葉は無言で頷き……懐から、底の尖ったガラス容器――スピッツだ――を取り出す。


 中には、少量の琥珀色の液体。




 これは、サルモコカイアの廃液である。




 先日、犬種レイパーで起こった騒ぎのどさくさに紛れて警察署に侵入した四葉。彼女の目的は、最近起こったお面絡みのレイパー事件の資料……そして、この廃液だ。


 四葉があの日、レイパーを倒すための作戦で敢えてこの廃液がある部屋にレイパーを誘き寄せようとしたのは、自分がこれを手に入れるためだったのだ。


 レイパーが侵入してくる部屋から物を運び出す際は、実は四葉も協力した。その時に、隙を見てサルモコカイアを盗んだのである。


 四葉がこれを欲した理由。それは、


「これがあれば、お面を誘き寄せることが出来る。葛城との一件が、こんな風に役に立つとは思わなかったわ」


 サルモコカイアの廃液を注入し、パワーアップした葛城。しかしその後、その廃液の臭いに釣られたお面に憑りつかれてしまった。


 それを、逆利用しようと思ったのである。


 黒葉を殺したレイパーは、お面を被っていた。そいつの出てきそうなところで廃液の臭いをばらまけば、きっと誘き寄せられるに違いない。


 警察の押収品を盗み出すことは、間違いなく犯罪。しかしそれを承知の上で、四葉はやった。


 全ては、妹の仇をとるため。


 四葉はスピッツを仕舞うと、ゆっくりとしゃがみ込み、目を閉じる。




「待っていて、黒葉。もうすぐ、あなたを殺したレイパーを私の手で……必ず始末してみせるわ」




 彼女のその呟きは、溶けるように闇に消えていくのだった。

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