表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第32章 新潟県警察本部
365/669

第284話『会稽』

「レ、レーゼさん! 大丈夫ですかっ?」


 犬種レイパーに逃げられてからほどなくして。


 大音量の吠え攻撃によりクラついた頭も治まってきたライナが、未だ片膝立ちのレーゼへと駆け寄る。


 レーゼが纏っていた鎧や小手は、レイパーが逃げた直後に霧散しており、今は元の姿のままだ。


「ご、ごめんなさい……。ちょっとまだ耳とか頭が……」

「少し休んだ方が良いですね……」


 そう言うと、ライナはレーゼに肩を貸し、建物の壁際に寄りかからせる。


「ありがとう……。そうだ、セリスティア達に連絡しないと……」

「私がやっておきますよ」


 警察署の付近でレイパーの捜索をしていたライナとレーゼだが、他のメンバーもまた、別の場所で捜索にあたっていた。レイパーを発見した時に連絡は入れておいたが、逃げられてしまったことの報告が必要だ。


 ライナが全員に連絡をし始めると同時に、遠くから警官が数名姿を現したのが見えた。先程のレイパーの声が、彼らにも聞こえたのだろう。


 ――数分後。


 やって来た警官に状況を説明し、さらにセリスティア達に一通り連絡を入れ終わったライナ。彼女達は今、逃げたレイパーの再捜索をしている。


「……あいつ、なんで逃げたのかしら?」


 少し休んだことで体調も良くなり、レーゼはボソリとライナにそう尋ねる。


 最後の吠え攻撃で、大きな隙を見せてしまったレーゼ。レイパーにその隙を突かれれば殺されていたかと思うとゾッとした。


 だからこそ分からない。何故レイパーが自分達を見逃したのか。


 ライナは少し考え込んだが、ゆっくりと首を横に振る。


「多分ですけど、レーゼさんの鎧があまりにも頑丈だったからではないでしょうか? 時間を掛ければ殺せたかもしれませんが、ここは警察署。戦える人も多いですし……」

「援軍が来ることを警戒したってわけね。……よく考えれば、あいつの目的はサルモコカイアの廃液よね。そっちの入手を優先したってこともあるのかも」

「廃液でパワーアップしてから、きちんと殺しにくるつもりかもしれませんね」


 と、そんな話をしていた時だ。




「あら、あなた達。いたのね」




 そんな声が聞こえてそちらを向けば、そこにいたのは黒髪ハーフアップの少女、浅見四葉がいた。


 バイザーや銀色のプロテクターを纏っている。彼女の使う装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』である。


「ヨツバさん! なんでここに?」

「……たまたま通りかかったら、凄い音がしたのよ。何かあったの?」


 サルモコカイアの廃液を狙っていると思われるレイパーが出現し、今し方交戦したが逃げられてしまったことを伝えるライナとレーゼ。


 最も、警察署内に侵入していた四葉は全て知っていたが。


 事情を聞いた四葉は、少し考え込んでから、


「それなら、良い方法があるわよ」


 そう言って、二人に作戦を提示するのだった。




 ***




 午後六時十二分。


 警察署の隣にある県庁、そこの北東に、『県庁の森』と呼ばれる場所がある。


 県庁舎と千歳大橋の間に広がる森であり、広さは一万五千平方メートル程。クロマツやケヤキ等の樹木が多くあり、狸が住んでいるという話もある。


 毎年苗を植え、春に顔を覗かせる雪割草が最も有名だろうか。もう少しすれば彼岸花を見ることが出来るだろう。


 そんな森の中で、犬種レイパーは身を潜めていた。


 レーゼとライナから逃げたレイパーは、警察官達の目を掻い潜り、一度ここへと逃げ込んだのだ。


 しかし……人の目も、再び少なくなってきたことで、レイパーは森からゆっくりと出てきた。


 サルモコカイアを求め、警察庁へと向かうレイパー。辺りを警戒しつつも、その足を止めない。


 また誰かに見つかり、騒ぎになるのを嫌がったレイパーは、街路樹の陰に体を隠しながら、慎重に目的地へと向かっていく。


 意外にも、レーゼ達や警察所属の大和撫子の姿を見かけることも無く、建物の南側、廊下のある辺りまでたどり着くレイパー。


 窓を割って入ろうとすれば、たちまち誰かがやって来るだろう。故にレイパーは爪で窓を切って穴を作り、外から鍵を開け、最小限の物音で中へと侵入した。


 誰にも気が付かれていないことを確認しつつ、臭いを辿って廊下を歩き、階段を見つけると上っていくレイパー。


 その時だった。


「ッ!」


 ドタドタという重い足音が突如聞こえてきた。


 レイパーが何事かと思っている間に、階段の下から、警察所属の大和撫子が現れる。


 それも、一人二人では無い。五人、十人……いやさらに増えていく。


 侵入者に気が付き、集まって来たという人数では無い。待ち伏せでもしていたかと、レイパーはそう思った。


 レイパーの考えは正しい。この大和撫子達は、空き部屋に隠れ、レイパーが来るのを待っていた。


 大和撫子達の手には、小型のライフル型アーツ。揃った動きでその銃口を、レイパーへと向ける。


「撃てぇっ!」


 大和撫子のリーダーが叫ぶと同時に、嵐のようにエネルギー弾が放たれる。


 慌てて逃げ出すレイパー。


 エネルギー弾が階段の壁を破壊する音を聞きながら、レイパーは一気に階段を上り、二階の廊下に出る。


 ――が、その瞬間。


「……ッ?」


 レイパーの前に、誰かが立ち塞がった。


 それは……黒いウィッグを外し、元の銀髪フォローアイに戻ったライナ・システィア。


「今度は逃がしません!」


 自らの影から伸び出てきた紫色の鎌、『ヴァイオラス・デスサイズ』を握ると、軽く振り回してから中段に構え、白い光を身に纏い、ライナはそう叫ぶのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ