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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第31章 ティップラウラ~ノストラウラ
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第275話『謝意』

 午後五時五十二分。


 ティップラウラを出る、雅とレーゼ。


 そしてその隣には、おかっぱの目つきの悪い女性、冴場伊織の姿もある。


 街が復旧作業中のため、宿はノストラウラでとってあり、三人はそこへと向かっていた。


「そっか。じゃあ日本から、ボランティアの人がたくさん来てくれるんですね」

「そうっす。うちの署長がNPO法人の代表に話をして、そんで決まったみてーっすよ。明日の午後には到着するみてーっす」

「対応が早くて助かるわ。私達も、流石に帰らないといけないし……」


 葛城やのっぺらぼうの人工レイパー、他にも強力な人工レイパーと毎日のように戦い、ティップラウラの復旧の手伝いまでしている。皆、あまり自覚は無いのだが、精神的にも体力的にも限界に近い程疲弊しているはずだ。


 これ以上無理はさせられないと、レーゼも伊織も思っていた。


 それに、優や愛理達はそろそろ学校が始まる頃だ。そういう意味でも、日本に帰還しなければならない。


 レーゼや伊織にしても、捕えた葛城達を新潟県警に引き渡さなければいけない以上、戻る必要もある。


 ボランティアが来てくれるという話は、ありがたいものだった。


 因みに葛城は未だ目を覚まさないものの、部下の男達は意識を取り戻し、今日伊織達に取調べされた。


 分かったことと言えば、人工レイパーになる薬は葛城から購入したこと。そして、人工種コビトカバ科レイパーに変身した男は、葛城の裏切りを久世に教えたことくらいか。久世の潜伏先や、のっぺらぼうの人工レイパーの正体までは不明のままだ。


 その後もあれこれ会話しながら歩き、宿に着く三人。


 中に入ると、


「あ、四葉ちゃん」


 背中まで届く黒髪を、ハーフアップアレンジさせた少女、四葉の姿があった。


 四葉は雅を見ると、「やっと戻って来た」とボソリと呟く。


 どうやら雅のことを待っていた様子。


 すると、


「束音。あなた、異世界のお金、持っているわよね?」


 まるでカツアゲする不良のような目つきで、そんなことを宣うのであった。




 十数分後。


 ここは、宿の近くにある食堂。


 四人掛けのテーブルに座る四葉と、三人の少女の姿があった。


 どこか興奮気味のファムに、緊張した面持ちのノルン。


 そして、もう一人はエアリーボブの髪型の、なよっとした少女……橘真衣華だ。


 ファム達は、四葉に、夕飯に連れてきてもらっていた。


 エントラウラで、葛城の部下の一人……人工種キンシコウ科レイパーと戦った時のこと。四葉はファムとノルンに、敵の攻撃から助けてもらったことがあった。


 その際に、ファムに『後でご飯をおごる』と約束したのだ。


 ファムはただ単に、その場の勢いで適当にそう頼んだだけだったのだが……四葉はちゃんと覚えており、守ろうとしたわけである。


 ファムだけにおごっては、その時に一緒に戦ったノルンと真衣華に悪い気がしたため、二人もついでに誘ったのだ。


「ねぇ、本当に良いの? ここ、結構な値段するよ?」

「大丈夫よ。社会人の財力を舐めんじゃないわ」


 言いつつも、四葉は少し目を逸らす。


 確かにお金はあるが、それは日本円。会社から宿代や食事代として、ウラで使えるお金はいくらか貰ってはいるものの、人にご馳走出来る程ではない。


 そして外貨両替の仕組みは、まだきちんと整ってはいないため、自分のお金をテューロ――異世界のお金の単位だ――に変えることも出来なかった。


 故に四葉は、雅を頼った。円もテューロもどちらもある程度持ち合わせがある雅に、お金を両替してもらったのである。


 宿に来た雅に声をかけたのは、そのためだった。


(……いや、大丈夫。この三人なら、そうそう高くはつかないはず)


 助けてもらった礼にご馳走する以上、安いお店に連れていくわけにもいかない。


 若干高めの食堂を選んだのは、わざとだ。


 真衣華はあまり食べるタイプに見えず、ファムとノルンも食べ盛りの年齢とは言え、体型を見れば大食いとも思えない。


 手持ちのお金を超えることはないはず……四葉はそう考えていた。


「んー、そういうことなら、ご馳走になっちゃおうかな? ありがとね」

「ご馳走様です、ヨツバさん」

「サンキュー、ヨツバ。そんじゃ、私はこれとこれと――」

「ちょっとファム! 少しは遠慮しなさい!」


 ここぞとばかりにたくさん頼もうとするファムを窘めるノルン。


 四葉は顔にこそ出さなかったが、内心はひやひやしながら、その光景を眺めていた。




 ***




(ギ、ギリッギリね……)


 頼んだメニューが全て届き、こっそり伝票を見た四葉が、ホッと息を吐く。


 復旧作業を頑張ったことで、お腹が空いていたのだろう。ファムとノルンがそれぞれ一・五人前くらいの量を食べるのだ。


 最初からたくさん頼む気マンマンだったファムはともかく、遠慮しようとしていたノルンも空腹には抗えなかったのか、「すみませんっ」と謝りつつも、ファムと同じくらいの量を頼んだのは予想外だった。


 真衣華が四葉の財布を気にして、比較的安いものを頼んでくれたから何とか払える、といったところである。


 おごると言っておきながら、何とも情けない有様ではないかと、四葉は心の中で頭を抱えた。


「うまっ。このステーキ、めちゃ美味い」

「あ、ファム。一口頂戴」

「ノルンの唐揚げと交換で良ければねー」


 ノストラウラとティップラウラの間の森には、ラウラエレファンという動物がいる。マンモスのような見た目で、食肉として、この辺りではよく食べられる肉だ。食感は鶏肉、味はラム肉に近い。やや癖があるものの、ファムとノルンの舌には合ったようである。


「あ、そう言えば」


 ファムからハンバーグを貰いながら、ノルンの目が真衣華に向けられる。


「ちょっと聞いたんですけど、マイカさんのお母さんって、カフェを経営されているんですよね? やっぱり毎日のご飯、美味しいんですか?」

「んー……どうだろう? 生まれた時からその味に慣れているからねー。でも、お父さんが作るご飯よりは、やっぱり美味しいよ。いやお父さんのご飯がマズいわけじゃないんだけど」

「おー、羨ましい。私ら、食事は基本自炊なんだよね。ある程度の食材は学校が提供してくれるんだけどさ、そんな新鮮でも無くて」

「お金の問題で、お店とかには出せない食材を格安で入手しているんですよね。なのにそれで自炊しないといけないんですよ。これも学生の自立を促すっていう学校の方針みたいなんですけど……」

「なんか適当に切って焼くか煮る。後は調味料で何とかする。うちらの料理って大体これだから、ぶっちゃけ美味しくないし、飽きるんだよね」

「学生の食事がそれで良いのかしら……」


 ファム達の苦労を聞いて、同情したような表情になる四葉。真衣華も苦笑いを浮かべることしか出来ない。


「ヨツバの家は、どうなの? お母さん、確か社長さんなんだよね?」

「ミヤビさんから聞きましたけど、妹さんもいるんですよね? お母さんが忙しい時は、お父さんが作ってくれるんですか? あ、もしかして、ヨツバさんが作ったり?」

「…………」


 ノルンの言葉に、四葉のフォークを動かす手が止まる。


 咄嗟に雅に吐いた嘘が、こんなところで牙を剥くとは夢にも思わなかった。


 自分には、父も……妹も、もういない。父親は病死し、妹はレイパーに殺されたからだ。


「四葉ちゃん、どったの?」

「……いえ、何でもない。うちは大体、出来あいのもので済ませるわね。――そんなことよりパトリオーラ、口の周りにソースが付いているわよ。拭いてあげるから、ジッとしていなさい」

「い、いや……自分で拭くよ。恥ずかしいし……」

「ええい、いいから」


 半ば強引に話題を変え、ペーパーナプキンを持って、ファムの口元へと手を伸ばすのだった。

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