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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第31章 ティップラウラ~ノストラウラ
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第272話『不明』

 午後二時二十六分。


 ルーナとパフェと別れ、他のエリアにもお弁当を配り終わった雅だが、未だ台車を引き、街の西側へと向かっていた。


 台車には、たくさんのゴミ。


 砕けた木材や瓦礫等……先日の戦いで出たそれらを、雅は西のゴミ捨て場へと運んでいたのだ。


 すると、


「……ん?」


 途中、何やら騒がしい声が聞こえてくる。


 何となく気になって向かった先は――広場のある辺りだ。


 大きな広場をぐるりと囲むように店が並ぶ場所であり、ここも昨日の一件で被害を受けたところ。


 建物は半壊し、地面は抉れ、広場の中心にあったオブジェクトも粉々になっている。


 その一角を見て、雅は目を丸くした。


 木材等の資材が散らばっていたのだ。だが、昨日の戦闘でこうなったというよりは、誰かがうっかりぶちまけたようだった。


 その近くでは……


「あわわごめんなさいっ! すみませんっ!」


 金髪ロングの女性、ミカエル・アストラムが、色んな人にペコペコ頭を下げていた。


 その隣では、前髪がハネた緑色ロングヘアーの少女、ノルン・アプリカッツァも同じように周りの人に謝り倒している。


 普段は白衣のようなローブを身に着けている二人だが、今はティップラウラのバスター署で借りた動きやすい服装だ。


「お、ミヤビじゃん。何? 手伝いに来てくれたの?」


 横から声を掛けてきたのは、薄紫色のウェーブ掛かった髪の少女。白い翼を背中に生やし、気だるげに宙にプカプカ浮いている。ファム・パトリオーラだ。白翼は彼女のアーツ『シェル・リヴァーティス』である。


「いえ、騒ぎが聞こえたので何事かと……。これ、もしかしてあれですか?」

「そっそ。先生がまたやらかしてねー」


 やれやれという顔をするファム。資材箱をうっかり倒してしまったの犯人は、ミカエルである。


 周りの人達は苦笑いを浮かべているが、あまり険悪な雰囲気になっていないのが救いか。


 まぁ気にするな、とミカエルに声を掛けつつ、皆で散らばった資材を集めていく。


「そう言えば、ファムちゃんもノルンちゃんも体は大丈夫ですか? 結構激しい戦いでしたけど……」

「ぶっちゃけキツい。少なくとも私は」


 雅も片付けを手伝いながら尋ねれば、ファムが疲れ切った表情になる。


 しかし、チラっとミカエルとノルンの方を見ると、仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いた。


「……ノルンも先生も結構疲れているはずなんだけど、そんな様子を全然見せなくてさ。先生が『復旧作業手伝う』って言ったら、ノルンも速攻で『私もやります』だなんて言うんだよね。正直、偉いなって思うよ。そんで頑張る二人を見たらさ、やっぱ助けてやりたくなるじゃん? いや休みたいよ? 宿で一日中寝ていたいなってのはあるよ? でもまぁそれはそれとして――って、ミヤビ、なにさその顔」

「いえ、ファムちゃんも何だかんだ言って、ちゃんと手伝おうとするのは偉いなって」


 クスクスと笑いながらそんなことを言うと、ファムが口をもごつかせてそっぽを向いた。




 ***




「んー」


 ある程度片付けも終わり、大きく伸びをする雅。


 その時だ。


「ん? あれはもしや……?」


 銀色のプロテクターを身に着けた少女の姿が、目に飛び込んでくる。


 装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を纏った、浅見四葉だ。


 建物の屋根の上にいる男性に、下から大きな木箱を運んでいるところだった。


 雅が大きく手を振ると、四葉は雅に気が付き……眉をピクリと動かしてから、顎をくいっとさせて『こっち来なさい』とジェスチャーをする。


「四葉ちゃーん! お手伝いですかー?」

「見れば分かるでしょ。ちょっと待ってなさい。――すみません、知り合いです」


 地上から声を掛けてくる雅に、四葉は木箱を男性に渡しながら一言断りを入れると、屋根から降りてくる。


「全く、何をしに来たのよ、あなた」

「姿を見かけたので、ちょっと様子を見に。あ、私これからゴミ捨て場に行くんですよ。あの瓦礫の山とか、持っていきますね」


 道の脇に寄せられた瓦礫を指差す雅。


 しかし、四葉は雅を軽く睨んでから、首を横に振る。


「後で衝撃波でまとめて粉々にする。何もしなくて良いわ」

「あ、そっか。四葉ちゃんのアーツなら、それで何とかできますもんね。……もしかして、マグナ・エンプレスの実演会も兼ねていたり?」

「……まぁ、そんなところよ。葛城のせいで下がったうちの評判を取り戻さないと。異世界の人達は誰もがアーツを持っている訳ではないし、全身装備型のアーツはパワードスーツの役割もあるから、これを機に興味を持ってもらえれば――」


 と、そこまで言ったところで四葉は言葉を止める。


 雅とは特段仲が良い訳でもないのに、どうでも良いことをペラペラと喋ってしまったことに気が付いたのである。


「…………」

「あれ? どうしました?」

「……いえ、別に」


 よくよく考えてみれば、雅なんて無視しても良かったのに、何故自分は彼女と話を始めたのだろうか。


 自分の中で、雅への認識が変わり始めていることに、四葉は自覚させられる。


 そのきっかけは、やはり先日の戦いであろう。もっと言えば、ウラの荒野で葛城と戦う雅を見てから、少しずつ認識を改めるようになったかもしれない。


 半分とは言え、音符の力を発現させた雅。


 レーゼがパワーアップしたこともあり、自分の知らない世界に二人が足を踏み入れていることが、四葉は正直悔しいと思ってしまった。


 それにしても、


「ねぇ。あなた、昨日変な格好になったでしょ? あれは何?」


 あの力が何なのか、四葉も純粋に疑問を覚えていた。


 何が理由で、どうやってその力を得るに至ったのか……自分が今以上に強くなるヒントを求める四葉。


 だが、


「変な格好? あぁ、指揮者みたいなあれのことですか? うーん……私にもよく分からないんですよねぇ。凄くパワーアップするってことは分かるんですけど」

「はぁ? 何よそれ」


 役に立たない答えが返ってきて、四葉は盛大に嫌な顔をする。


 しかし雅はそれを気にした様子もなく、首を傾げる。


「自分でも、自由になれる姿じゃないんです。一度、もの凄く強いレイパーと戦った時になれた姿で、実は昨日、久しぶりにまた発現したんですよ」

「……自由になれるわけじゃないの?」

「ええ。何がきっかけなのか、自分でも分からないんです。昨日は、もうあの姿になるしかないくらい追い詰められて、滅茶苦茶『出ろ』って思ったらなれたんですけど……」

「はぁ」

「結局、またあの力が出せなくなっちゃいましたし……もうちょっと何か分かれば、自由にあの姿になれると思うんですけど……。まぁ、また何か分かったら教えますね」


 そう言ってお辞儀をしてから遠ざかっていく雅。


 その背中を見つめ、四葉は溜息を吐く。


「……私には、何が足りないって言うのよ」


 思えば、未だ『マグナ・エンプレス』からスキルを貰ってすらいない自分には、遠すぎる世界に思えた四葉。


 その言葉は、誰に聞かれることも無く、風に紛れて消えていった。

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