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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第31章 ティップラウラ~ノストラウラ
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第271話『復旧』

 ティップラウラで巨大な人工レイパーを倒してから、一夜明けた八月二十八日火曜日。


 時刻は昼の十二時十一分。昨日までの雨が嘘のように、今日は快晴だ。


 ティップラウラで台車を引いて歩く、一人の少女の姿があった。


 桃色のボブカットに、白いムスカリ型のヘアピン。黒いブレザーにスカート姿の彼女は、束音雅。


 痛々しく崩壊した街だが、昨日の内に大きな瓦礫は粗方どけられており、台車が通るのにはあまり支障がない。あちこちでは屈強な男達やバスターの人達が、慌ただしく復旧作業に勤しんでいるのも見える。


 雅はそんな彼らに弁当を配って回っていた。いや、雅だけではない。別の場所では愛理やライナ達も同じように弁当の配布を行っており、セリスティアやシャロン、希羅々達は復旧作業の手伝いをしている。因みにこのお弁当は、ティップラウラのバスター署で伊織や優、ラティアが作ったものだ。


 ぬかるんだ地面に何度か足や車輪をとられそうになりながらも、現場に着いた雅が弁当を届けに来た旨を告げれば、多くの人が作業を中断し、雅のところへと集まって来た。


 作業していた人達にお礼を言われながらも、笑顔で弁当を渡していく雅。


 しかし人が多く、一人では捌ききれなくなってくる。


 雅の手際は良い方だが、それにしたって一人でどうこう出来る人数では無い。


(こ、困りましたねぇ。パッと見た時は、こんなにいた感じじゃなかったんですけど……。数、足りますかね?)


 笑顔は崩さないまでも、内心はアワアワする雅。彼女は知らないことだったが、実は弁当が届いた話がすぐに広まり、あちこちからも人が来ていたのだ。


 元よりここの人達に配り終わったら別のところへと向かう予定だったので、弁当は多めに持ってきているが、この分では途中で補充に戻らないといけないかもしれない。


 そもそもこの人数を一人で捌けるのだろうか? 現に人でごった返しており、誰に弁当を渡したのかも分からなくなりそうだ。


 そう思っていると、


「大変そうだな。我々も手伝おう」

「お弁当、半分こっちに持っていくねー」


 そんな声が聞こえて目を向けて、雅は「あっ」と声を上げた。


 そこにいたのは、二人の女性。片方は、深緑色のクラウンブレイド――編んだ髪の毛を王冠のように頭に巻き付けた髪型だ――の長身の女性で、もう片方の人は金髪のパイナップルヘアーの、やや背の低い女性である。


 先日、雅とセリスティアと一緒に戦ってくれたバスターだった。


「すみません! 助かります!」

「うむ。――ほら、押すな! 慌てなくても弁当は逃げない!」

「一列に並んでくださーい! こっちにズラ―っとですよー!」


 一人が人々を整理し、二人が弁当を配布する。


 そんな役割分担で、上手く列を捌いていき、気が付けば弁当はあっという間に全員に行き渡った。


 台車に残った弁当は、数える程しかない。ギリギリ足りたようで、雅はホッと息を吐いてから、二人のバスターに向かって頭を下げる。


「いやぁ、本当にありがとうございました! 私だけじゃパンクしちゃって……」

「こちらこそ、こんなことまでしてもらって……。昨日もとても助かったし、心強かった。ありがとう。……ええっと」


 深緑色の女性――こちらはブロードソード型のアーツを使う人だ――が、お礼を言う途中で困った顔になる。


「そう言えば私達、自己紹介もしていませんでしたねー」


 そう言ったのは、金髪の女性。こちらはチャクラム型のアーツを使う人だ。


「そんな暇もありませんでしたしねぇ」


 雅の言葉に、照れ臭そうに笑う三者。雅も二人の名前を知らなかったから、今度会ったら聞こうと思っていたところだった。


「私、束音雅って言います。こんな髪色ですけど、日本人です。あ、雅って呼んでください」

「ルーナ・モラルタだ。ミヤビ、よろしく」

「パフェ・ザレフシアでーす。昨日はありがとうございましたー、ミヤビさん」

「ところで、もう一人の赤髪の女性はどこだろうか? 彼女にもお礼を言いたいのだが……」

「セリスティアさんなら、東地区で復旧作業のお手伝いをしていますね。こういった体力仕事は得意な人ですから」

「あらら、パワフルな人なんですねー。後で伺いましょー」


 キリっとしたしっかり者そうなルーナに、どこか柔らかい雰囲気を醸し出すのんびり屋っぽいパフェ。特にパフェの方は、戦闘中の雰囲気とかなり違い、雅を驚かせた。服装の汚れ具合から、彼女達も復旧作業中なのが分かる。


 二人の特徴を頭にインプットしながら、雅は二人にもお弁当を渡しつつ、街を見渡し口を開く。


「皆、凄いですね。昨日あんなことがあったばかりなのに……」


 言いながら、チラリと横目で二人のことも見る雅。


 ルーナとパフェも、仲間を一人失っている。しかしそれを表に出さないようにふるまっているのは、何となくだが雰囲気で察せられた。


 悲しい気持ちを押し殺し、『今やるべきことに』向き合うのは、誰にでも出来るようなことでは無い。


「何を言っているんだい? 君だって、あの激しい戦闘の翌日だというのに、頑張ってくれているじゃないか」

「私達も負けていられませんねー。……あの、そう言えば昨日の犯人は、今もまだ?」

「ええ。目を覚ましません。呼吸はしているので、直に起きると思うんですけど」


 久世に反旗を翻そうと、ウラでサルモコカイアの廃液を集めてパワーアップを目論んでいた葛城裕司。


 しかしその全ては久世の手の平で転がされており、結果として、パワーアップのために使用したサルモコカイアの廃液のせいで、般若と姥の二枚のお面に憑りつかれ、暴走してしまった。


 最終的にラージ級の人工レイパーになり、この街の惨劇は彼が引き起こしたことだ。


 雅達に倒された後、こっそり逃げようとしていたところを四葉に捕えられ、気絶させられたのだが……その後のことは、雅が話した通りである。


「あの、私がこんなことを言うと変かもしれませんけど……日本の国の人が、申し訳ありませんでした」

「どこの国にも、悪い奴は一定数いるものさ。クズシロのような奴もいれば、君達のような人もいる」

「ミヤビさんが気に病むこと、ありませんよー」

「そう言って頂けると助かります。あ、そうだ。それで思い出した」

「ん?」

「私、『共感(シンパシー)』っていうスキルが使えるんですよ。これ、一日一回だけですけど、仲間のスキルを使える効果があるんです。それで、今日起きたら、二つ新しいスキルが使える感覚があって……これってもしかして、お二人のスキルなのかなって?」


 雅自身も上手く言えない感覚なのだが、新しくスキルが使えるようになったことは、直感的に分かるのだ。


 そしてそれが誰のスキルなのかも、何となくだが分かる。元々のスキルを使える本人を目の前にすると、覚えたスキルがそれを教えてくれる感覚があり、雅はこんな風に尋ねながらも確信を持っていた。


 すると思った通り、ルーナが頷く。


「そうだな。私達もスキルは使える。私は『バックアタッカー』と言って、敵の後方に回り込んだ時に、気配を消せる効果があるんだ」

「私は『重心看破』ですねー。敵の重心が今どこにあるか、分かるんですよー」

「あぁ、そっか。じゃあそれであの時の戦いで――」


 雅の脳裏に、昨日の戦いの光景が浮かび上がる。


 ルーナは敵の死角からの攻撃を頻繁に行い、人工種ウサギ科レイパーを転ばす際にパフェは「軸足を払え」と叫んでいた。あれは、二人がスキルを使っていたから、あのような行動や指示が出せたのだ。


「しかし、ミヤビのスキルは便利だな。一日一回とは言え、色々なスキルを使えるのだろう?」

「あ、じゃあティップラウラの他のバスターのスキルも使えたりするんですかー?」


 パフェの質問に、雅は「うーん」と唸りながら、首を横に振る。


「使えるのは、お二人のスキルだけっぽいです。槍のアーツを持っていたバスターの人や、他の人達のスキルは使える感じが無いですねぇ。何か理由があるのか、ただ単に『共感(シンパシー)』と相性が悪いのか、ちょっと分かんないんですけど……」

「そうか……色々と難しいところもあるんだな……」

「まぁ、使えるスキルが増えたのは素直に嬉しいです。……あ、それより一緒にお弁当食べましょう! どうせ私も次のところに行く前に、一度お弁当取りに行かないとですし、丁度良いのでここらで休憩です! あっちに座れそうな場所があるんですよー!」

「お、おう?」

「あららー、あっという間に腰に手がー」


 流れるような動作でエスコートする雅に、ルーナもパフェも苦笑いを禁じ得ない。


 あっという間に、雅に連れていかれるのであった。

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