表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
346/669

第30章幕間

「ぅぐ……はぁ、はぁ……」


 レーゼ達が、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーを倒し終わってから数分後。


 岩壁に手を這わせ、瓦礫に隠れるようにして走る男がいた。


 生き物で言うなら、蛇のような顔をした中年の男。


 葛城裕司だ。


 人工レイパーの性能を他の人間よりも引き出している葛城は、倒されて人間になった後も、意識を保っていた。


 だがレーゼ達は葛城を拘束しないままお面を探しにいったため、葛城はその隙に逃げようと動いたという訳である。


 息を切らしながら、頻りに後ろを振り返りながらも、レーゼ達から離れていく葛城。


 だが、




「どこへ行くつもり?」




 葛城の行く手を塞ぐように、空から降り立ったのは……全身銀色のプロテクターに覆われ、バイザーを被った少女、装甲服アーツ『マグアン・エンプレス』を纏った、浅見四葉である。


「よ、四葉嬢……っ?」


 突然のことに、体を硬直させる葛城。


 すぐに逃げようと後退るが、彼が背を向けるより先に、四葉の手が葛城の首を捕らえた。


「ぐぉっ……」

「ふん……!」


 葛城への苛立ちから、四葉の手に力が籠る。


 しかし、殺す訳にはいかない。


 己に課せられた役目を思い出し、それでもこの男の顔を見ていると頭に血が上り……ある種仕方なく、葛城を岩壁に叩きつける。


 くぐもった声と共に、床に崩れ落ちる葛城。


 呻きながらも、四葉を見上げると……せめてもの抵抗なのか、殴りかかる。


 しかし、人工レイパーの力を失った葛城では、四葉に勝てるはずも無い。


 飛んでくる拳を手の平で軽く受け止めると、四葉は葛城を張り倒す。


 倒れた葛城は、少しの間そのままピクリとも動かなかったが、やがてむくりと起き上がると、観念したように口を開いた。


「ふ、ははは……私もこのザマ……もう、終わりですねぇ……。しかし何故、あなたがここに……奴らと一緒に行ったのでは……?」

「私の役目は、あなたを捕らえることよ。縛り上げて、日本の警察に突き出すまでが仕事。勿論、お面も気になるけどね。……それにしても」

「……何ですか?」


 葛城の質問に、四葉は沈黙する。


 何となく葛城に抱いた、違和感。


 殴りかかって来た割には、どうにも怒りを覚えているように感じない。


 捕まったことに関しても、それを悲しいと思っているのは間違いないのだろうが、それにしては表情が薄い。


(……感情が分かり辛いわね。こいつ、こんなだったかしら?)


 一瞬そんなことを考えた四葉は、小さく溜息を吐く。


 盛大にやられたことで、葛城も疲れているのだろう。そう思った。


「……いえ、何でもないわ。行くわよ。性懲りも無く暴れ出したら、分かっているわね?」

「……好きにしなさい」


 観念したことで力が抜けたのか、眠るようにスゥーっと意識を手放した葛城。そんな彼を抱えると、四葉はその場を飛び去るのだった。




 ***




 そして、お面を探すレーゼ達はというと、


「あっ! ありました! レーゼさん! 皆! こっちです! ――っ?」


 泣いたお婆さん……姥のお面と、二本の角を生やした白い夜叉……般若のお面。


 葛城に憑りついていた二枚のお面を見つけた雅だが、同時に、険しい顔になる。


 見つけたのは、お面だけでは無かった。


 雅の声で駆け付けたレーゼ、シャロン、優、ミカエルの四人も、顔を強張らせる。


 無理も無い。




 全身黒いタイツを着た、頭部が歪なのっぺらぼうが、二枚のお面を拾い上げていたのだから。




 人工種のっぺらぼう科レイパー……このティップラウラの戦いで、唯一撃破されていなかった人工レイパーである。


 刹那、「あっ」と声を上げる一行。




 二枚のお面を、人工レイパーは被ってしまったのだ。




 それを止める暇は、雅達には無かった。


 雅達が様々な疑問を浮かべる中、ミカエルだけはその理由を悟り、悔しそうに顔を歪めて口を開く。


「そうか……あなた、最初から、そのお面が目的で――」




「ほう、察しが良いな」




 ミカエルの言葉を遮るように、空から降ってくる男の声。


 雅達全員が見上げ、目を見開く。


 スーツ姿の、五十代くらいの男性。


 久世浩一郎が、そこにいた。


「あんたっ……何をしに来たっ?」


 優がそう叫びながらも、白いスナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』の銃口を久世へと向け、白いエネルギー弾を放つ――が、その攻撃は彼の体を通り過ぎてしまう。


 舌打ちをする優。この久世は、ただの立体映像だ。上空には小さなドローンが飛んでおり、そこから投影されているのだと分かる。きっと本人は、安全な場所にいるのだろう。


 久世は、今の優の攻撃に、呆れたように肩を竦めると、視線をミカエルへと向ける。


「話を遮ってしまってすまないな。ここから先は、答え合わせの時間だ。そこの魔女、続きを話すといい。答え合わせをしてやろう」

「……クズシロは、本当にただ利用されただけだったのね! 彼をパワーアップさせるつもりなんて、さらさら無かった……全ては、そこののっぺらぼうの人工レイパーをパワーアップさせるための策略だったのよ……!」

「その通り」


 そして、久世は語る。


 自分を裏切ろうとしている葛城を始末しようとしたこと。


 だがその前に、彼に、自分の求める『お面』を誘き寄せるための『餌』になってもらおうと考えたことを。


「サルモコカイアを使えば、奴の元にお面が集まる。お面に憑りつかれた葛城を始末してしまえば、労力を抑えつつ、効率的にお面を手中に出来ると考えたのだ」

「そうか……それで、あのカバみたいな人工レイパーは、私達を始末するよりも、クズシロにサルモコカイアを注入することを優先させていたのね!」

「ウサギみたいな人工レイパーは、バスター達に邪魔されないための露払い役ってわけですか……!」


 久世の言葉に、レーゼと雅がギリっと奥歯を鳴らしてから叫ぶ。


「左様。しかし、君達は随分役に立ってくれた」

「なんじゃと……?」

「シャロンさん。私達も利用されたのよ……! ラージ級になった人工レイパーは、彼らの手にも余る存在だったはずよ。だから……」

「儂らに始末させた、そういうことか……! おのれぇ……!」

「本音を言えば、同士討ちにでもなってくれれば良かったのだが……」


 言いながら、葛城は視線をレーゼへと向ける。


 否、レーゼというよりは、彼女の格好……つまり、纏っている鎧を見た、というべきか。


「パワーアップされるとは予想外だった。ふむ……随分妙な姿だ。一体、何がきっかけで変わったのやら……。まぁ、それは置いておこう。それより、良いのか?」

「――っ?」


 葛城がそう尋ねた直後、レーゼへと迫る黒い影。


 のっぺらぼうの人工レイパーだ。


 だがその風貌は、少し変わっていた。




 全体的に体ががっちりとして、鉤爪が生えていたのである。




 勢いよく振られる鉤爪を、スキル『衣服強化』で防御力を上げつつ、小手で受け止めるレーゼ。


 しかしその顔は、驚愕に染まっていた。


 あの強力なラージ級人工種ドラゴン科レイパーの攻撃でさえ、あまり痛みは無かった鉤爪の一撃。


 それよりもサイズの小さいこの人工レイパーの攻撃は、それよりも重く、骨に響く程に痛みを感じたのだ。


「レーゼさんっ! このぉっ!」


 雅がさかさず、剣銃両用アーツ『百花繚乱』で敵へと斬りかかるも、それを腕で受け止める人工レイパー。


「っ?」


 グッと腕に力を入れる雅だが、刃は切り込んでいかない。それどころか、人工レイパーの腕には傷一つ付かなかった。


 膠着する、雅と人工レイパー。


 不完全とは言え、音符の力を発現させた雅。当然、そのパワーも上がっている。


 にも拘らず、こののっぺらぼうの人工レイパーは、そのパワーと互角だ。


 人工レイパーは刃を跳ね除けると、後ろに大きく跳び退き、彼女達から距離を取る。


 それを見ていた久世は、満足そうに頷くと、


「取り込んだ直後で、このパワー……上々だ。小手調べは充分。戻ってこい」


 そう言うと、久世の立体映像がフッと消える。


 直後、のっぺらぼうの人工レイパーの顔に、火男のお面が出現。


「私の後ろに!」


 レーゼがそう叫んで前へ出るのと同時に、火炎放射を放つ人工レイパー。


 レーゼが横一閃を放ち、虹を出現させてその炎を屈折させようとしたが――炎は突如進路を変え、地面へと直撃。


 巻き上がる爆煙と土の破片。


 それが晴れたが、


「……しまった! 逃げられた!」




 人工種のっぺらぼう科レイパーの姿は、もうどこにも無かった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ