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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第270話『空虹』

「レーゼさぁぁぁんっ!」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーがブレスを放ったところを、雅、優、ミカエルの三人も目撃していた。


 そしてそれを、レーゼが剣で迎え撃ったところも。


 今の悲痛な叫び声は、雅のものだ。


 しかし、


「ね、ねぇ。何か今の、変じゃ無かった?」

「え、ええ。ブレスが命中したにしては、爆発が変なところで起きたような……」

「……えっ?」


 言われて、雅もハッとした。


 衝撃的な光景に焦ったが、確かにミカエルの言う通り、ブレスが直撃したところから、少し離れたところで爆発が起きた気がする。


 優がULフォンを起動させ、カメラアプリを使い、レーゼ達がいるところにズームすると……ホッと息を吐く。


 煙でよく見えないが、レーゼの頭が少し見えた。後ろには、シャロン達の姿もある。


 ブレスをモロに受けたのなら、消し炭になっているはず。そうなっていないということは、無事だということだ。


 しかし、一体何故?


 そんな疑問が浮かんだ、その時。


 ウィンドウを覗く三人の顔が、驚きの色に染まる――。




 ***




 何が起きたのか、レーゼもよく分かっていない。


 己の身を犠牲に攻撃の勢いを少しでも弱めようと、全力の斬撃をブレスに叩きつけたことは覚えている。


 死ぬことすら覚悟していた。ブレスに真っ向から向かっていったのだ。


 しかし、何故かレーゼは生きていた。


 空色の西洋剣……剣型アーツ『希望に描く虹』を振り下ろした体勢で、固まっていた。


(そう言えば……)


 肌を焼かれる痛みも、顔を焦がす熱も、特に感じなかったことをレーゼは思い出した。一体何が起きたのだろうか。


 すると、


「お、おい、レーゼ……お前、その格好……」

「えっ?」


 セリスティアに言われて、()()に気が付いたレーゼ口から、驚きの声が漏れる。


 今までの自分の格好が、ガラリと変わっていた。







 空色を基調とした、鎧や小手。







 まるで、西洋騎士のようなその姿。


 動くとガチャリと重い音がするが、鎧は羽のように軽い。


 姿は違えど、これはまるで――


(ミヤビの、あの力……音符の力みたい)


 心の奥底から伝わってくる、得も言われぬ温かい力。


 突然発現したもののはずなのに、不思議と嫌な感じがしない。


(心も落ち着く……。鎧を着ているからかしら?)


 と、そんな考えがふと頭を過った瞬間だ。


 上から唸り声が聞こえ、レーゼが見上げると、人工レイパーが大きな口を開いていた。


 突然現れたレーゼにブレスを防がれ、さらには異質な格好になっていた彼女に怯んでいたラージ級の人工レイパー。


 お面に操られ、我を忘れた人工レイパーでさえ悟っていた。レーゼをここで始末せねば、自らの身が危ない、と。


 故に、残ったエネルギーを集め、攻撃を仕掛けにいったのだ。


 人工レイパーが放ってきた火炎弾。


 小さいとは言え、直径三メートル程の大きさだ。


 本来なら、全力で避けるべき攻撃であるが……レーゼは不思議と、そんなことをする必要が無いと、直感する。


 ブレスにやった時と同じように、火炎弾に向かって、横に一閃を放つレーゼ。


 刃の軌跡には虹が架かる。


 だが、


「っ?」


 大きい。


 今までの倍以上もある、大きな虹が出来上がっていた。


 そしてアーツの刃が火炎弾に触れた瞬間……いや、もっと正しく言えば、()()()()()()()()()()()、火炎弾は大きく軌道を変え、明後日の場所に落ちる。


 後ろで息を呑む仲間達。


 レーゼは知る。


 今までは何も特殊な効果が無かった虹だが、今、この虹は、新しい力を持っていることに。




 触れたものの軌道を、大きく屈折させることが出来るのだ、ということに。




 先のブレスから皆を守れたのは、この虹が、ブレスを屈折させたからだ。


 その時だ。


「レーゼさんっ!」

「ミヤビっ! それにミカエルとユウも! それに、その姿――」


 遠くから駆けつけてくる雅達。


 雅の姿を見て、レーゼは一瞬だけ目を丸くし、しかしすぐに口角を上げた。


 そして視線を、負傷していた仲間達に向ける。


「あなた達、よくここまで持たせてくれたわね! 礼を言うわ! すぐにここから離れて! こいつの相手は……私達がやる!」

「ぐっ……すみません、お願いします!」

「街の北に崖があります! そこに奴を追い込めば、少しは戦いやすくなるはずよ!」

「君達、動けるかっ?」


 指示に真っ先に動いたのは、ティップラウラの三人のバスター。自らの体を庇いながらも、セリスティアや希羅々達を担ぎ、その場を離れていく。


 だが、そんな中、


「儂は残るぞ、マーガロイス! まだ動けるでのぉ!」

「私もやるわ! こいつの捕縛は、私の仕事よ!」


 そう叫び、気丈に前に進み出るのはシャロンと四葉。


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーに向かって構える二人は、どう言ったところで引きはしないと、レーゼに直感させるほどの気迫があった。


 しかし、関係無い。自分が守れば良いのだと、レーゼは覚悟を決める。


 ならば、だ。


「良いわ! なら……私とミヤビ、ミカエル、ユウ、シャロン、アサミ――」


 言いながら希望に描く虹の切っ先を敵に向けるレーゼ。


 気が付けば、雨が止み……黒橡(くろつるばみ)色の雲が晴れ、青空が顔を覗かせていた。




 そして空に架かるは、くっきり、はっきりとした大きな虹。




 柄を握り手に力を込め、レーゼは大きく口を開く。


「この六人で、こいつを倒すわよ!」


 その言葉に、雅達は大きく返事をするのであった。


 そんな彼女達を見つめる、巨大な人工レイパー。撤退していく者達の姿は、もう眼中には無かった。


 彼女達の殺気に気圧されたのか、僅かに後退ったが、すぐに威嚇するように咆哮を轟かせる。


 ビリビリと空気が震えるが、レーゼ達は怯まない。


 睨みあう両者。


 だが、それも一瞬のこと。


 レーゼだけがその場に残り、他の五人は散らばった、その瞬間。


 人工レイパーは、レーゼへと鉤爪を振るう。


 今までは避けるしかないその攻撃。


 だが、


(今なら……!)


 レーゼは腕をクロスさせ、自身のスキル『衣服強化』を発動。


 鉤爪が直撃し、甲高い音が響く。


 腕が痺れるような感覚と共に押し飛ばされるが……レーゼに怪我は無い。


 スキルで防御力を上げたこともあるが、それ以上に、この鎧は頑丈だった。


 人工レイパーは尻尾を振り上げ、レーゼへと叩きつける。


(これは流石に受け止められないわね。でも――)


 レーゼは、今度は希望に描く虹を振り、巨大な虹を創り出す。


 尻尾が虹へと触れた瞬間、横に軌道が逸れ、誰もいない地面に直撃。


 その刹那、レーゼの背後に雷が落ち、


「はぁっ!」


 その声と共に、素早く人工レイパーの背後に回り込み、尻尾を登って付け根へと走るのは、雅だ。


 体から溢れるように、電流が迸っている。先程の落雷は、雅が『帯電気質』のスキルを発動させるためのものだった。


 自身に電流を流すことで、身体能力を上げる効果……これで更にパワーアップした雅が、敵の尻尾の付け根に、剣銃両用アーツ『百花繚乱』の刃を叩きつける。


 しかし……やはり硬い。鈍い音が響くのみで、尻尾には僅かな傷しか付かなかった。パワーアップしようと、この尻尾を斬り落とすのは一筋縄ではいかない。


 それを理解した雅は、顔を強張らせる。


 その直後、


「ミヤビっ! 来るわよっ!」

「っ?」


 レーゼの警告が飛んできたと思ったら、人工レイパーが体を捩り、雅を振り落としてしまう。


 空中で身動きが出来ない雅へと、人工レイパーが右足を大きく振り上げ、踏みつけにきた。


 だが、それが雅に当たることは無い。


 ミカエルが、節くれだった白いスタッフ……杖型アーツ『限界無き夢』を振り、無数の赤い円盤を出現させ、雅がそれに着地し、別の足場へと飛び乗って逃げたからだ。


 ずっと雨が降っていて使えなかったが、晴れた今なら使えるミカエルの魔法である。


 そして、


「こっち見ろぉっ!」


 優が人工レイパーを引き付けるように叫びながら、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』で、敵の眼へと白いエネルギー弾を放つ。


 だが……人工レイパーが咄嗟に閉じた瞼に阻まれ、霧散してしまうのを見て、優が奥歯をギリっと鳴らした。


 しかし、次の一発を放とうとスナイパーライフルを構えた瞬間、人工レイパーは空気を震わせるような咆哮を轟かせ、優へと向かって鉤爪を振り下ろしてくる。


 すぐにその場から逃げる優。だが、爪の一撃からから逃れるには、その行動に移すには遅すぎる。


 ヤバい……そう思った、その時。


「ふんっ!」

「この……っ!」


 人工レイパーの腕の側面へと、シャロンのテールスマッシュと、四葉の飛び蹴りが炸裂する。


 僅かに軌道が逸れたことで、優から若干離れたところへと爪が直撃し、その衝撃で優は「きゃっ!」という声と共に吹っ飛ばされてしまう。


 さらに、攻撃の邪魔をしたシャロンと四葉を腕で地面に叩き落すと、優へと踏みつけにかかる人工レイパー。


 しかし、


「させないっ!」


 優のところにレーゼが素早く駆け付けると、希望に描く虹で、敵の足を受け止めた。


「レーゼさんっ?」

「くっ……!」


 頑丈な鎧を纏ったとはいえ、敵の体重は三トンを超える。それを一人で支えるのはあまりにも無茶だ。


 だが、レーゼとて無策でそんな行動をした訳では無い。


 彼女は見ていた。


 ミカエルが最大魔法、炎のレーザーを放とうと準備していたことを。


 極太のレーザーが人工レイパーの足に直撃し、僅かによろめいた瞬間を狙い、レーゼは勢いよく敵の足を、剣で跳ね飛ばす。


 その瞬間、


「さがみん! これ!」


 足場を移動していた雅が、優へと百花繚乱を放り投げる。


 スキル『鏡映し』で複製したものだ。


 直後、雅が人工レイパーの頭を見上げたことで、優は雅の意図を知る。


 優がガーデンズ・ガーディアを掲げれば、飛んできた百花繚乱が刃の先から縦に割れて、銃身へと上下にはまり込む。


 グリップを優が持ち、重くなった銃身をレーゼが支えると同時に、銃口にエネルギーが収束していく。


「ミヤビちゃん! これ使って!」


 ミカエルが小さな火球を放り、それを火種に雅は『ウェポニカ・フレイム』を発動。アーツに炎を纏わせ、雅は百花繚乱をライフルモードへと変更。


 全身の電流と、銃身に纏う炎が、銃口へと吸い込まれていく。


 そして――


「やあっ!」

「喰らえっ!」


 雅と優の声が同時に響き、白と桃色のマーブル模様となったエネルギー弾と、炎と雷を纏ったエネルギー弾が放たれた。


 二つの強力なエネルギー弾は、人工レイパーの右眼へと向かい――瞼を貫いて、敵の眼の奥で爆発。


「ギャァァァァァアッ!」


 空気を劈くような、人工レイパーの悲鳴が轟く。


 初めて与えられた、明確なダメージ。


 流石の人工レイパーも、傷を負った眼を腕で覆い、激しくのたうち回る。


 そしてその隙を、ミカエルは見逃さない。


 杖を構え、敵の足元へと狙いを定めると、火球を放つ。


 地面に命中した火球は爆発し、その衝撃で、苦しみもがいていた人工レイパーの巨体をぐらつかせた。


 その刹那、


「やっ!」

「はっ!」


 バランスを崩した人工レイパーの胴体に、レーゼの斬撃と四葉の拳が同時にヒットし、敵を大きく後退させた。


 仰向けに倒れそうになる人工レイパーだが、地面がめり込むほどに踏ん張ることでそれを堪える。


 怒りの咆哮を轟かせ、爪を振り上げてレーゼ達に反撃をしようとした、その瞬間。


「――ッ!」


 人工レイパーの顔面スレスレを、優を乗せたシャロンが飛んでいく。


 攻撃することもなく、スーッと北へと飛んでいくシャロン。


 一見、何の意味もない行動のように思えたのだが……人工レイパーは、何故か怒り狂った唸り声を上げ、その後ろを追いかけ始めた。


「よし、上手くいった!」

「お、おいサガミハラ! 本当に大丈夫なんじゃろうなっ?」


 人工レイパーが自分に向かってくるのを見て硬い笑みを浮かべた優に、シャロンは冷や汗を流す。


 人工レイパーが妙な行動をとり始めたのは、奴が、優の左手の薬指に指輪を嵌めているのを見たからだ。


 般若のお面を被った人工種ドラゴン科レイパーは、主に既婚者を狙い、殺戮を行っていたという話は優も聞いていた。


 だから自分ばかりが狙われないよう、優はこの人工レイパーと戦う前に、元々左手の薬指に嵌っていたガーデンズ・ガーディアを収納する指輪を、敢えて右手の薬指に着け替えていたのだ。左手に指輪を着けていては、既婚者と間違われる可能性があったから。


 それをついさっき、元々嵌めていた左手の薬指に着け直した。


 般若と姥、二枚のお面に憑りつかれた人工レイパーは、自我を失い、気の向くまま、本能のままに暴れている。怒りの矛先をコロコロと変え、手あたり次第に攻撃して回っていた今までの様子を見れば、それは明らか。


 だがそれは、今まで交戦していた相手に、目的としていた『既婚者』がいなかったからだ。この人工レイパーからすれば、優達のこと等、既婚者を見つけるまでの暇潰しの相手でしかない。


 ならば、だ。


 これ見よがしに既婚者であることをアピールしながら、敵の視界を通り過ぎれば、敵の気を引けるのではないか。


 そう思った優は、左手の薬指に指輪を嵌め、既婚者のフリをして、シャロンに乗って人工レイパーの視界を横切ったのだ。


 敵の意識を強く引き受ける、非常に危険な行動。


 それでも、優がその行動に出たのは――この巨大な人工レイパーを、北の崖へと誘導するため。


「危険なのは分かってる! だから……シャロンさん、フォローお願い!」

「……仕方ないのぉっ!」


 以前、火男のお面を着けたピエロ種レイパーから、優を守り切ることが出来なかったシャロン。


 今度は、守りきって見せる。


 背後から襲い来る鉤爪や角の嵐。


 それらを、シャロンはギリギリのところで躱したり、誘引迅雷で電流の盾を創ってそれで受け流したりしながら、北の崖へと向かっていく。


 敵の気が逸れないよう、遠くへ逃げ過ぎず、されど近づき過ぎない位置をキープ。


 振り落とされないように、しっかりと背中にしがみついている優も、隙を見て挑発するように指輪を見せびらかし、さらに敵の意識を引き付ける為、百花繚乱と合体したガーデンズ・ガーディアで顔面を狙撃。


 それにより更に激昂した人工レイパーは、もう二人のことしか見えていない。


 だから気が付かない。


「――ッ?」


 目の前に、向こう岸まで二十メートル以上もある、深さ五メートル近い崖が現れたことに。


 優とシャロンを追いかけていた人工レイパーが、落ちるギリギリのところで崖に気が付き、慌ててその場で立ち止まった、その直後。


 突如、足元が崩壊した。


 崖へと落ちながらも、咄嗟に後ろを振り返ると、そこにはミカエル達の姿が。


 優とシャロンの狙いは、当然彼女達も知っていた。二人が敵をここへと誘導してくれると信じて追いかけて来たのだ。


 足場を破壊したのは、ミカエルの放った火球。


 さらに、


「はぁっ!」

「はっ!」

「やっ!」


 駄目押しと言わんばかりに、レーゼ、雅、四葉の三人の斬撃や跳び蹴りが敵に命中。


 人工レイパーは何とか足から崖の底へと着地するも、空中からはシャロンと優が、ブレスやエネルギー弾で岩肌を破壊。


 瓦礫が敵に降り注ぎ、人工レイパーは腕や翅をばたつかせ、大暴れするも……あっという間に、下半身が瓦礫で埋まってしまう。


 さらにシャロンが誘引迅雷を操り、電流のネットを創って敵を拘束したことで、最早奴は自由に動けない状態だ。


 ここだ。


 ここが、このラージ級の人工レイパーを倒す、またとないチャンスだ。


 誰もがそう思い、レーゼがすぐさま口を開く。


「皆! あいつを確実に倒したい! 鉤爪が厄介だから、まずはお面を剥ぐ! やり方は、ミヤビから聞いているわねっ?」


 その言葉に、無言で頷く一行。


 お面は、あの巨大な人工レイパーの体に頑丈に貼り付いている。


 しかし、手が無い訳では無い。


 優とシャロンが敵を誘導している時、雅は『共感(シンパシー)』で、ファムの『リベレーション』のスキルを発動していた。


 ファムのスキル『リベレーション』を雅が使うと、自分や他の人間にかけられた拘束の解き方を知ることが出来る。


 かつて、ワルトリア峡谷でミカエルの妹、カベルナがお面に憑りつかれた時も、このスキルでお面を剥がせば良いことを知った雅。


 目の前のこの怪物は、レイパーと同じ存在とは言え、人間が変身したものだ。


 今はお面に憑りつかれ、我を忘れて暴れているが、それでも元は人間。


 ならば、このスキルの対象になるはずだ。そう考えたのだ。


 どこまで具体的に知ることが出来るかは分からなかったが……それでも雅はファムのスキルに頼り、そして知る。


 上、右下、左下の三ヶ所に、同時に強い衝撃を加えれば、お面は剥がれるということを。


 それをレーゼ、ミカエル、四葉には口頭で、優にはULフォンのメッセージで、そしてシャロンには優経由で伝えてもらった。


 いざ、実行に移す――そう思った、その瞬間。


「グォォォォォォォオッ!」


 身動きが取れなくなったことへの苛立ちがピークに達した人工レイパーが、ついに電流のネットを破き、下半身の瓦礫を粉砕。


 そして翼を大きく広げ、口を大きく開き、エネルギーを集中させる。


 抵抗するように、放たれるブレス。


 それは今までで、一番巨大なものだった。文字通り、己の全てを費やして放った一撃だ。


 地面を焦がし、六人に迫る炎。


 だが、


「皆、私の後ろに!」


 そう叫びながら前へ出たレーゼは、希望に描く虹で横に一閃すると、斬撃の軌跡に虹が架かる。


 ぶつかり合う、ブレスと虹。


 だが、それも一瞬。


 ブレスは虹に屈折させられ、バラバラに拡散し、その全てが人や民家の無いところへと落ちていく。


 唖然とする人工レイパー。


 それでも諦めず、鉤爪をレーゼへと振り下ろす。


 しかし、


「あなたの攻撃は、もう効かない……もう、誰も傷つけさせない!」


 頭の上で腕をクロスさせ、スキル『衣服強化』を発動。


 直後、轟音と共に鉤爪が直撃し、レーゼは跪く。


 衝撃を地面に逃がし、彼女を中心に大地に罅が入るも、レーゼにダメージは殆ど無い。


 そして――


「ミカエル! 今よ!」

「ええ!」


 鉤爪を跳ね除けたレーゼの合図と共に、ミカエルが限界無き夢を掲げると、空中に大量の赤い足場が展開され、同時に白い煙が大量に噴出し、彼女達の姿を消してしまう。


 刹那、六人は動き出す。


 ブレスも鉤爪の攻撃も防がれ、片目が潰れ、頭に血が上っていた人工レイパーに、彼女達がどこにいるかなど捕捉しようも無い。


 ただ腕を振り、鬱陶しい足場や煙を払うことが精一杯。


 レーゼ達からすれば、隙だらけもいいところだ。


 人工レイパーが気付くより早く、六人は攻撃を開始。


 腹部に貼り付く姥のお面には、左下から優が合体アーツで、右下からはミカエルが自身の最大魔法である炎のレーザーで、上からシャロンが雷のブレスで、それぞれ攻撃。


 額に貼り付いた般若のお面には、左下から四葉が飛び蹴りで、右下からは雅が百花繚乱の斬撃で、そして上から、レーゼが希望に描く虹による突き攻撃をお見舞い。


 三方向から同時に攻撃されたお面は、僅かな抵抗感こそあれど、驚く程にあっさりと、その体から剥がれ、地面に落ちていく。


 地上に降り立つ、レーゼ達。


 その瞬間、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーの体が硬直したと思ったら、その姿がみるみる変わっていった。


 鋭く、長い鉤爪は縮んでいき、血管のように鱗に浮かび上がっていた黒い線も消えていく。


 さらに、


「……ぅ?」


 人工レイパーの口から僅かに漏れ出る、変身者の葛城裕司の声。


 お面の支配から、完全に解き放たれた瞬間だった。


「レーゼさんっ! 今ですっ!」

「ミヤビっ! 一緒にやるわよ!」

「はいっ!」


 呆然としている、巨大な怪物。


 それに止めを刺すため、雅はレーゼを背負うと空中の赤い足場を使って空へと昇る。


 さらに『共感(シンパシー)』でセリスティアの『跳躍強化』を発動し――向かう先は、人工レイパーの遥か頭上。


「はぁぁぁぁあっ!」

「せやぁぁぁあっ!」


 声を重ね、希望に描く虹と、百花繚乱を構えるレーゼと雅。


 狙うは、敵の額。


 お面の力が抜けた今、鱗も前ほど硬くない。


 虹の軌跡を描きながら、二人の斬撃は狙ったところに同時に命中。


 そして、パワーアップした二人の力の前に、鱗はあっという間に罅が入り、その内部へと刃が抉り込んでいく。


 僅かな抵抗と共に、肉体を斬り裂きながら落ちていくレーゼと雅。


 血飛沫を撒き散らしながら、くぐもった声を上げる葛城。


 そして――二人の剣が、敵を真っ二つにした、その瞬間。




 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーは、小さな呻き声を上げ、爆発するのだった。

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