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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第269話『決意』

「セリスティアさんっ! この人お願いします! 私、さがみん達を助けてきます!」


 人工種ウサギ科レイパーを倒した後、その変身者の男をセリスティアに預ける雅。


「分かった! 俺はこいつを連れていったら、すぐに奴のところに向かう!」

「我々もそちらに!」


 セリスティアと二人のバスターの視線が、遠くで暴れる巨大な化け物へと向けられる。


 般若と姥のお面を着けた、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーである。


 シャロンや四葉、希羅々達が何とか頑張って抑え込もうとしているが、敵の攻撃を凌ぐので精一杯な様子。


 すぐにでも助けに行かねばならない状況だった。




 ***




 街の中心部。


 そこで、全長十五メートルもある、ラージ級の人工レイパーが咆哮を轟かせる。


 黒い線が血管のように浮かび上がった緋色の鱗に、翼と尻尾。そして頭部には捻じれた角。


 額と腹部には、二つのお面が貼り付いている。


 まるで竜を人形にしたような相貌。


 理性を感じさせないような動きで街を破壊するそいつは……ラージ級人工種ドラゴン科レイパー。


「はぁっ!」


 全身銀色のプロテクター、装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を纏った浅見四葉が飛び上がり、敵の顎に拳を叩き込む。


 が、


(ちぃっ! 硬いっ!)


 元々硬い鱗だったが、サルモコカイアによってラージ級へと肥大化したことで、さらに頑丈になっており、殴った己の拳の方が痛い。


 まるで効いた様子は無く、人工レイパーは頭を振り、捻じ曲がった角で四葉に反撃を仕掛けてくる。


 襲い掛かるであろう衝撃に備え、身を強張らす四葉。


 だがその瞬間、


「っ!」


 どこからともなく十数人もの銀髪の少女……ライナが出現し、手に持った鎌を振るい、角の軌道を逸らしにかかった。


「ライナっ! 流石ねっ!」


 このライナ達が、スキル『影絵』により創り出された分身達だと気が付いた四葉。


 分身の攻撃では角の軌道を逸らしきれなかったものの、僅かに勢いが落ちたことで、四葉はさらに上へと飛翔し、回避に成功する。


 さらなる追撃を試みようとする人工レイパーだが、刹那、その角に電流で出来た鞭が巻き付く。


 元を辿れば、全長三メートルもの山吹色の竜、シャロンの腕へと伸びていた。雷球型アーツ『誘引迅雷』により創り出した鞭である。


「今じゃぁっ!」


 シャロンの声が響いた直後、人工レイパーの足に衝撃が掛かる。


 希羅々、真衣華、ライナ、さらに槍使いのバスターが、人工レイパーの右足へと同時に攻撃をしたのだ。


 四人が一斉に攻撃を当てた瞬間、シャロンが鞭を操り、角を引っ張って、敵の体勢を崩した。


 その時。


「はっ!」


 人工レイパーの首の辺りから、分身ライナに担がれた三つ編みの少女、愛理が右眼へと向かう。


 手には、メカメカしい刀。愛理のアーツ『朧月下』だ。


 皮膚は硬くとも、眼までは頑丈では無いはず。そう思い、攻めに行ったのである。


 さらに十人の分身ライナと、上空から四葉も足を振り上げ、眼へと攻撃を仕掛けようとしていた。


 しかし、


「何っ?」

「この……っ!」


 彼女達の攻撃が当たる直前で、人工レイパーが瞼を閉じたことで、阻まれてしまう。


 そしてその瞼も、恐ろしく硬い。刃は突き刺さらず、踵落としも空しい音を鳴らすのみ。


「っ?」

「しまったっ!」


 それでも若干の痛みはあったのかもしれない。人工レイパーは苛立たし気に首を振り回し、愛理達を振り落としてしまう。


 さらに人工レイパーは長い鉤爪を振り回し、空中に投げ出された彼女達を殺しにかかった。


 分身ライナ達はあっという間に斬り裂かれるが、四葉は敵の大振りの隙を突いて空へと逃げることに成功。


 だが……愛理はそういう訳にはいかない。


 ライナが慌てて分身で助けようとするが、振り回される鉤爪の前に阻まれてしまう。


 雨を振り払い、愛理の体へと迫る鉤爪。


「――っ?」


 もう駄目かと愛理が顔を強張らせ、目を閉じようとした、その時。


「うぉらぁぁぁあっ!」


 赤髪の女性が、必死な声を上げ、人間離れした跳躍で、下から愛理に向かってきた。


 セリスティアだ。人工種ウサギ科レイパーを倒した後、こちらへと助けに来ていたのである。


 鉤爪が当たる直前……間一髪のところで愛理を掴み、抱える。


 それでも、爪の攻撃範囲からは逃れられない。


 それでも、


「ファルトさん! 私と一緒に!」

「おうっ!」


 咄嗟に愛理とセリスティアが、自分達のアーツを構え、盾にする。


 一人ではアーツごと体を斬り裂かれるが、二人なら別。


 愛理は朧月下の刃で、セリスティアは爪型アーツ『アングリウス』で、敵の攻撃を受ければ、甲高い音と共に、彼女達は大きく吹っ飛ばされ――


「ぬぅ!」

「わりぃ、シャロン!」


 別の建物に激突させられる前に、シャロンに受け止められて事無きを得る。


 刹那、


「化け物っ! こっちよ!」


 そんな声と共に、チャクラム型のアーツが人工レイパーに飛んでくる。


 セリスティアと一緒に駆け付けたバスターの一人が、投げつけたのだ。


 チャクラムは人工レイパーの額へと正確に飛んでいき、般若のお面へと命中。


 だが、


「くっ、剥がれないっ?」


 バスターの想像以上にしっかりとお面が貼り付いており、ビクともしない。


 ラージ級の人工レイパーはバスターに気が付くと、鉤爪を振り上げ、彼女を貫きにかかる。


 しかし、


「おぉぉぉおっ!」


 チャクラム使いのバスターと一緒に来ていた、ブロードソード使いのバスターが、アーツで爪を受け止め、上方向に流そうと試みる。


 さらに、


「はぁっ!」

「わわわわわっ!」


 希羅々と真衣華が、やや遅れて彼女達の元へと駆け寄り、レイピアと斧で、一緒になって攻撃を逸らしにかかったことで、ようやく鉤爪を跳ね上げられた。


 その直後、


「ッ?」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーの胴体に、雷のブレスが直撃する。


 雨で濡れた体に命中したブレスは、激しくスパーク。その衝撃で、流石の人工レイパーも三歩後退。


 その先に見えるのは、崖。


 敵と戦いながら、彼女達はこの巨大な化け物を、そこへと落とそうと画策していたのだ。


「ふん……やっと効きおったか……!」


 敵が隙を見せたところにブレスを当てねば、軽々と受け止められてしまう。


 シャロンの体力的にも、ブレスは何発も放てない。


 必死に敵に喰らいつき、少しずつ崖へと誘導する


 長い戦いになるのも覚悟で、全員は一丸となって戦っていた。


 が、しかし……次の人工レイパーの行動で、戦線が一気に崩壊することとなる。




 人工レイパーは大きくジャンプすると、着地の衝撃で希羅々達を吹っ飛ばし、




 羽を羽ばたかせ、空中にいる四葉を地面に叩き落すと、




 大きな尻尾を振り回し、建物を破壊して彼女達を薙ぎ払おうとする。




「皆の者! 儂の後ろに――ぐぅっ?」


 シャロンが全身で尻尾を受け止めにかかるが、そのパワーを受け止め切れず、守るべきもの達ごと、大きく吹っ飛ばされてしまった。


 そして――


「ぅ……っ!」

「こ、この……」


 倒れるシャロン達に向かって、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーは、大きく口を開き……エネルギーを集中させていくのであった。




 ***




 時は十分程前に遡り、戦場から少し離れたところにある、小さな空き家にて。


 ベッドの上で倒れているのは、青髪の少女、レーゼ・マーガロイス。


 彼女は、人工種ドラゴン科レイパーのブレスを受け、大ダメージを負い、ここに運ばれていた。


 その横で、彼女の手当をするのは、白髪の美しい娘、ラティアだ。


 僅かな薬や道具で、せっせとレーゼを介抱し、丁度、包帯の交換を終えたところである。


 ちらっと、窓の外へと目を向けるラティア。


 雨のせいで、景色はよく見えない。ラージ級の人工レイパーが暴れているのが、辛うじて見えるくらいだ。


 雅達は、果たして無事なのか……それが不安で不安で、ラティアはギュッと、拳を握りしめる。


 すると、


「……嫌な天気ね」


 ボソリとそんな声が聞こえたと思ったら、レーゼがむくりと起き上がった。


 慌てて彼女に駆け寄るラティア。手当したばかりなのだ。まだ安静にしていなければならない。


 だが、レーゼは「大丈夫よ」と言って、彼女の頭に手を乗せる。


 体は痛む。それでもラティアを不安にさせたくなくて、レーゼは無理矢理笑みを浮かべた。


 長々とそんな顔を作ったままには出来ず、すぐにラティアから顔を逸らし……そのまま、窓から空を見上げるレーゼ。


「私の故郷のノースベルグも、雅達の住む新潟も、曇りや雨の日は結構多いの。でもこれは……そう言った天気とは、毛色が違うわね」


 窓にぶつかり、弾ける雫。


 その音は、やけに重々しい。


 悪い天気だ。雨が降っていることが悪いのではない。黒橡(くろつるばみ)色の雲に、重い雨……誰もが気が滅入ってしまう、そんな天候。それを悪い天気と言うのだろう。


 遠くで、ラージ級の人工レイパーが暴れているのが見える。


 よく見えなくとも、分かる。皆が必死で戦って、あの人工レイパーから街を守ろうとしているのだと。


 すぐに助けに行かなければならない。


「ラティア。ここで待っていなさい」

「……っ?」


 無言で、レーゼの顔を見つめるラティア。


 表情は薄いが、「その怪我で行くつもりなのか?」と問いかけているのは、レーゼにも伝わった。


 だから、レーゼははっきりと告げる。「ええ、行くわよ」と。


「雅にも発破を掛けられちゃったし……何より私が皆を守りたいって思っているの。少し前に決意して、でも結局、皆を凄く危険な目に遭わせてしまったのだけど……。今度こそ、その決意を貫きたい」


 そこまで言ったところで、レーゼは壁に掛けた己のアーツ……空色の西洋剣、『希望に描く虹』を手に取る。


 すると、


「――ラティア?」

「…………」


 まるでレーゼを引き留めるように、ラティアが背中から抱きついてきたのだ。


 きっと、不安なのだろう。ラティアの手は震えていて……レーゼはその手を、ギュッと握った。


 何か言おうとして口を開いたレーゼだが、言葉が見つからず、半開きのまま固まってしまう。


 こんな時、雅なら何か上手い言葉が言えるのだろう。ラティアを安心させられる、そんな一言が。


 だが、そんな考えが浮かんだところで、レーゼは心の中で首を横に振った。


 雅の真似事をしたところで、ラティアは安心出来まい。


 不器用でも何でも、必死で頭を捏ね繰り回し、自分の言葉で伝えなければならないのだ。


「正直に言えば……私だって怖いの」


 少し考えて出てきたのは、そんな言葉。


 あの巨大な人工レイパーに勝てるビジョンは、まるで見えない。自分が行って、何か変わるのか……何が出来るのか、レーゼには分からない。


 しかし、


「ラティアは、あなたに出来る精一杯をやろうと動いたわね。自分の命を顧みず、親子を守ろうとした。なら、私が『怖い』だなんて言っていられない。今度は私の番よ。私が、皆を守る番なの」

「…………」

「あなたの勇気を、私にも分けて欲しい」

「…………」

「今は辛くて怖くて、不安かもしれない。でも、ここが頑張りどころなの。今を乗り越えたら、きっと明るい未来が待っている」


 レーゼは、首だけ振り向いて、再び窓から空を見た。


「こんな雨だって、すぐに止むわ。雲も晴れて、そしたら虹が架かる。これだけ降っていれば……きっと、凄く綺麗よ」


 レーゼの、アーツを握る手に力が籠る。


 理想的なフォームで剣を振るえば、刃が通った後に虹が架かるアーツ。それが、希望に描く虹だ。


 この虹に一体何の意味があるのか、レーゼは分からない。ずっと『そういうものだ』と思っていた。


 もしこれに意味があるのなら、それはきっと……鬱屈しきった皆の心に、希望という名の虹を架けるためだろう。


「行かせて頂戴、ラティア。……必ず、皆を助けてくる」

「…………」


 ラティアは少し渋ったが、やがて、レーゼの意思の強さを理解したのだろう。


 ゆっくりとだが、レーゼから離れていく。


 レーゼはホッと息を吐き、空き家の入口へと向かおうとしたが、


「あぁそうだ。一個だけ。――親子を守ったこと……よく頑張ったわね、ラティア。えらい、えらい」


 そう言って、レーゼはラティアの頭を撫でる。


 ラティアは何か言おうとして口を開き……しかし声が出せないことを思い出して、目を伏せ、拳をギュッと握る。


 レーゼは軽く深呼吸すると、


「じゃあ……行ってくる!」


 そう告げて、勢いよく家を飛び出す。


 ラティアはその背中を、ただ見つめることしか出来なかった。




 ***




 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーがいるところから、離れた場所にて。


「ぐっ……」

「ミカエルさんっ!」


 全身黒いタイツを着たような、顔の無い化け物……人工種のっぺらぼう科レイパーと戦う、ミカエルと優。


 苦手な接近戦に持ち込まれ、二人は大苦戦させられていたものの、何とか喰らいついていたのだが……ついに、ミカエルの魔力が尽き、膝を付いてしまう。


 隙だらけになってしまったミカエルを守るように優が前に出て、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』の引き金を引き、敵へとエネルギー弾を放つも、近距離では当てることも難しい。雨が降っているから、尚更だ。


 頭部や足、腹部を狙い、素早く四、五発放つも、人工レイパーは滑らかな動きでスルリと躱し、一気に接近してくる。


 万事休す――そう思った、その時。


「こっちです!」


 優の耳に届く、聞き慣れた親友の声。


 それと同時に建物の陰から、剣を持った桃色の髪の少女が飛び出し、のっぺらぼうの人工レイパーの背中に斬りかかった。


 雅だ。


 優もミカエルも顔を明るくすると同時に、雅の姿――制服の上に薄らと浮かび上がった、桃色の燕尾服姿だ――と、彼女の動きのキレに、驚きの表情を浮かべる。


 突然現れた雅に一瞬体を硬直させ、背中に一撃を受けて軽くよろめく人工レイパー。


 しかし、雅が繰り出した二発目の斬撃を横っ跳びして躱すと、すぐに地面を蹴って雅へと接近し、蹴りを放った。


 それを斬撃で迎え撃つ雅。


 蹴りと斬撃がぶつかる。


 だが、


(っ? 強い……っ!)


 不完全ながらも音符の力を発現させ、パワーアップした雅と互角のパワー。


 雅はそれに、戦慄の表情を浮かべた。


 一瞬膠着する雅と人工レイパーだが、すぐに互いに後ろに跳び退き、距離を取る。


 人工レイパーは雅と優、ミカエルを見渡し……彼女達に背中を向けた。


 状況が不利と判断したのだろう。逃げるつもりなのだ。


 しかし――人工レイパーの行く手に、誰かが立ち塞がる。


 雅だ。


 慌てて後ろを確認する人工レイパー。そこにも雅の姿があった。


 今出てきたこの雅は、分身。雅が『共感(シンパシー)』で、ライナのスキル『影絵』を使い、創り出した分身雅である。


 雅が二人いることに混乱した隙を突き、二人の雅が、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を手に人工レイパーへと襲い掛かる。


 本体の雅が横に一閃を繰り出し、少し遅れて、分身雅が縦に斬撃を放つ。時間差攻撃だ。


 人工レイパーは横一閃の斬撃は跳んで避けるが、直後、分身の斬撃をモロに受けてしまい、吹っ飛ばされてしまう。


 地面を転がっていく人工レイパーに、二人の雅は一気に勝負を決めようと接近していく。


 が、しかし。


「――っ!」


 人工レイパーは顔に、ほっかむりを被って口を窄めた男のお面、火男のお面を出現させると、倒れたままの状態で、二人に向かって火炎放射を放った。


 雨を蒸発させながら迫る火炎。ここがチャンスと踏んでいた二人の雅に、回避は出来ない。


 やむを得ないと、分身雅が、本体の雅を突き飛ばす。


「うぁあっ……!」


 分身が消し飛び、本体へとダメージがフィードバックし、雅は大きく悲鳴を上げた。


 人工レイパーの眼前で、大きな隙を見せてしまった雅。


 だが、人工レイパーが雅を攻撃しようと立ち上がった、その瞬間。


「ッ?」


 人工レイパーの胸元に、白いエネルギー弾がヒット。その直後、小さな火球が腹部に命中して爆発し、人工レイパーはよろめかされる。


「ぅ……さがみんっ! ミカエルさんっ!」


 攻撃が飛んできた方向にいた二人を見て、そう叫ぶ雅。


 ミカエルは全身の魔力をかき集め、優が隙を作ったところに、精一杯の火球を放ったのだ。


 その間に体勢を整えた雅に、人工レイパーは今度こそ観念したのだろう。


 すぐさま、その場を逃げ去るのだった。


「くっ……」


 一瞬追いかけようとしたが、思い留まる雅。


 やっつけたいのは山々だが、今はそれより優先しなければならないことがある。


「二人とも、大丈夫ですかっ?」

「うん、何とか!」

「ごめん、ありがとう……!」


 雅は二人に駆け寄り、心配の声を掛けながらも、ミカエルに手を差し出して『共感(シンパシー)』のスキルで『マナ・イマージェンス』を発動させる。


 これはミカエルのスキルだ。雅が彼女のスキルを使うと、触れた人の魔力を回復させる効果がある。


 同じスキルをミカエル本人も使えるが、このスキルは一度使うと、再使用出来るようになるまで三十分の時間を要する。彼女は少し前に既に使用し、自分の魔力を増やしていたが、激しい戦闘が続き、あっという間に魔力がすっからかんになってしまっていた。


 そんなミカエルには、まさに救いの手だ。


「よし! じゃあ今度は……!」


 ミカエルの魔力を回復させ終わり、そう言いながら後ろを振り向いた瞬間、重々しい音が轟いた。


 向こうにいる、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが尻尾を振るった音だ。


「ヤバい、早くあいつを――」


 雅が走り出した、その直後。


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが、ブレスを放つ体勢に入ってしまう――。




 ***




 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが口を大きく開け、エネルギーを収束させるのを見たレーゼ。


 人工レイパーの視線の先に、シャロンや希羅々達がいるのが見える。


 誰もが満身創痍で、今ブレスを放たれたら全滅するのは明らかだ。


 レーゼは奥歯を噛み締める。


 あの攻撃は、自分が行ってどうこうなるものでは無い。そう悟った。


 だが、ここで足を止めるわけにはいかない。


(ごめん、ラティア……ミヤビ……皆……!)


 レーゼはこの時、覚悟した。


 命を捨てて、皆を守ることを。


 ブレスを完全に止めることは出来ない。あの人工レイパーがミドル級だった時のブレスすら、止められなかったのだから。


 だが、自分の身を犠牲にすれば、多少は威力を殺せるはずだということも、あの時のことから分かっていた。


 希望に描く虹を振り上げると同時に放たれてしまう、人工レイパーのブレス。


 タイミングは絶妙だ。


 人工レイパーは、シャロン達が反撃出来ない体勢を狙い、放ったのである。


 防御を試みようとするシャロン達だが、防御は間に合わないと、レーゼにははっきりと分かった。


「はぁぁぁぁぁあっ!」


 レーゼに迷いは無い。


 皆とブレスの間に素早く割り込む。


 背後で響く、誰もが驚く声。


 それを遠くのように聞きながら、レーゼはブレスに向かって、大きく斬撃を放つ。


 虹の軌跡を描きながら、ブレスに吸い込まれるように向かっていく刃。







 直後、大爆発が起こった。

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