第269話『決意』
「セリスティアさんっ! この人お願いします! 私、さがみん達を助けてきます!」
人工種ウサギ科レイパーを倒した後、その変身者の男をセリスティアに預ける雅。
「分かった! 俺はこいつを連れていったら、すぐに奴のところに向かう!」
「我々もそちらに!」
セリスティアと二人のバスターの視線が、遠くで暴れる巨大な化け物へと向けられる。
般若と姥のお面を着けた、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーである。
シャロンや四葉、希羅々達が何とか頑張って抑え込もうとしているが、敵の攻撃を凌ぐので精一杯な様子。
すぐにでも助けに行かねばならない状況だった。
***
街の中心部。
そこで、全長十五メートルもある、ラージ級の人工レイパーが咆哮を轟かせる。
黒い線が血管のように浮かび上がった緋色の鱗に、翼と尻尾。そして頭部には捻じれた角。
額と腹部には、二つのお面が貼り付いている。
まるで竜を人形にしたような相貌。
理性を感じさせないような動きで街を破壊するそいつは……ラージ級人工種ドラゴン科レイパー。
「はぁっ!」
全身銀色のプロテクター、装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を纏った浅見四葉が飛び上がり、敵の顎に拳を叩き込む。
が、
(ちぃっ! 硬いっ!)
元々硬い鱗だったが、サルモコカイアによってラージ級へと肥大化したことで、さらに頑丈になっており、殴った己の拳の方が痛い。
まるで効いた様子は無く、人工レイパーは頭を振り、捻じ曲がった角で四葉に反撃を仕掛けてくる。
襲い掛かるであろう衝撃に備え、身を強張らす四葉。
だがその瞬間、
「っ!」
どこからともなく十数人もの銀髪の少女……ライナが出現し、手に持った鎌を振るい、角の軌道を逸らしにかかった。
「ライナっ! 流石ねっ!」
このライナ達が、スキル『影絵』により創り出された分身達だと気が付いた四葉。
分身の攻撃では角の軌道を逸らしきれなかったものの、僅かに勢いが落ちたことで、四葉はさらに上へと飛翔し、回避に成功する。
さらなる追撃を試みようとする人工レイパーだが、刹那、その角に電流で出来た鞭が巻き付く。
元を辿れば、全長三メートルもの山吹色の竜、シャロンの腕へと伸びていた。雷球型アーツ『誘引迅雷』により創り出した鞭である。
「今じゃぁっ!」
シャロンの声が響いた直後、人工レイパーの足に衝撃が掛かる。
希羅々、真衣華、ライナ、さらに槍使いのバスターが、人工レイパーの右足へと同時に攻撃をしたのだ。
四人が一斉に攻撃を当てた瞬間、シャロンが鞭を操り、角を引っ張って、敵の体勢を崩した。
その時。
「はっ!」
人工レイパーの首の辺りから、分身ライナに担がれた三つ編みの少女、愛理が右眼へと向かう。
手には、メカメカしい刀。愛理のアーツ『朧月下』だ。
皮膚は硬くとも、眼までは頑丈では無いはず。そう思い、攻めに行ったのである。
さらに十人の分身ライナと、上空から四葉も足を振り上げ、眼へと攻撃を仕掛けようとしていた。
しかし、
「何っ?」
「この……っ!」
彼女達の攻撃が当たる直前で、人工レイパーが瞼を閉じたことで、阻まれてしまう。
そしてその瞼も、恐ろしく硬い。刃は突き刺さらず、踵落としも空しい音を鳴らすのみ。
「っ?」
「しまったっ!」
それでも若干の痛みはあったのかもしれない。人工レイパーは苛立たし気に首を振り回し、愛理達を振り落としてしまう。
さらに人工レイパーは長い鉤爪を振り回し、空中に投げ出された彼女達を殺しにかかった。
分身ライナ達はあっという間に斬り裂かれるが、四葉は敵の大振りの隙を突いて空へと逃げることに成功。
だが……愛理はそういう訳にはいかない。
ライナが慌てて分身で助けようとするが、振り回される鉤爪の前に阻まれてしまう。
雨を振り払い、愛理の体へと迫る鉤爪。
「――っ?」
もう駄目かと愛理が顔を強張らせ、目を閉じようとした、その時。
「うぉらぁぁぁあっ!」
赤髪の女性が、必死な声を上げ、人間離れした跳躍で、下から愛理に向かってきた。
セリスティアだ。人工種ウサギ科レイパーを倒した後、こちらへと助けに来ていたのである。
鉤爪が当たる直前……間一髪のところで愛理を掴み、抱える。
それでも、爪の攻撃範囲からは逃れられない。
それでも、
「ファルトさん! 私と一緒に!」
「おうっ!」
咄嗟に愛理とセリスティアが、自分達のアーツを構え、盾にする。
一人ではアーツごと体を斬り裂かれるが、二人なら別。
愛理は朧月下の刃で、セリスティアは爪型アーツ『アングリウス』で、敵の攻撃を受ければ、甲高い音と共に、彼女達は大きく吹っ飛ばされ――
「ぬぅ!」
「わりぃ、シャロン!」
別の建物に激突させられる前に、シャロンに受け止められて事無きを得る。
刹那、
「化け物っ! こっちよ!」
そんな声と共に、チャクラム型のアーツが人工レイパーに飛んでくる。
セリスティアと一緒に駆け付けたバスターの一人が、投げつけたのだ。
チャクラムは人工レイパーの額へと正確に飛んでいき、般若のお面へと命中。
だが、
「くっ、剥がれないっ?」
バスターの想像以上にしっかりとお面が貼り付いており、ビクともしない。
ラージ級の人工レイパーはバスターに気が付くと、鉤爪を振り上げ、彼女を貫きにかかる。
しかし、
「おぉぉぉおっ!」
チャクラム使いのバスターと一緒に来ていた、ブロードソード使いのバスターが、アーツで爪を受け止め、上方向に流そうと試みる。
さらに、
「はぁっ!」
「わわわわわっ!」
希羅々と真衣華が、やや遅れて彼女達の元へと駆け寄り、レイピアと斧で、一緒になって攻撃を逸らしにかかったことで、ようやく鉤爪を跳ね上げられた。
その直後、
「ッ?」
ラージ級人工種ドラゴン科レイパーの胴体に、雷のブレスが直撃する。
雨で濡れた体に命中したブレスは、激しくスパーク。その衝撃で、流石の人工レイパーも三歩後退。
その先に見えるのは、崖。
敵と戦いながら、彼女達はこの巨大な化け物を、そこへと落とそうと画策していたのだ。
「ふん……やっと効きおったか……!」
敵が隙を見せたところにブレスを当てねば、軽々と受け止められてしまう。
シャロンの体力的にも、ブレスは何発も放てない。
必死に敵に喰らいつき、少しずつ崖へと誘導する
長い戦いになるのも覚悟で、全員は一丸となって戦っていた。
が、しかし……次の人工レイパーの行動で、戦線が一気に崩壊することとなる。
人工レイパーは大きくジャンプすると、着地の衝撃で希羅々達を吹っ飛ばし、
羽を羽ばたかせ、空中にいる四葉を地面に叩き落すと、
大きな尻尾を振り回し、建物を破壊して彼女達を薙ぎ払おうとする。
「皆の者! 儂の後ろに――ぐぅっ?」
シャロンが全身で尻尾を受け止めにかかるが、そのパワーを受け止め切れず、守るべきもの達ごと、大きく吹っ飛ばされてしまった。
そして――
「ぅ……っ!」
「こ、この……」
倒れるシャロン達に向かって、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーは、大きく口を開き……エネルギーを集中させていくのであった。
***
時は十分程前に遡り、戦場から少し離れたところにある、小さな空き家にて。
ベッドの上で倒れているのは、青髪の少女、レーゼ・マーガロイス。
彼女は、人工種ドラゴン科レイパーのブレスを受け、大ダメージを負い、ここに運ばれていた。
その横で、彼女の手当をするのは、白髪の美しい娘、ラティアだ。
僅かな薬や道具で、せっせとレーゼを介抱し、丁度、包帯の交換を終えたところである。
ちらっと、窓の外へと目を向けるラティア。
雨のせいで、景色はよく見えない。ラージ級の人工レイパーが暴れているのが、辛うじて見えるくらいだ。
雅達は、果たして無事なのか……それが不安で不安で、ラティアはギュッと、拳を握りしめる。
すると、
「……嫌な天気ね」
ボソリとそんな声が聞こえたと思ったら、レーゼがむくりと起き上がった。
慌てて彼女に駆け寄るラティア。手当したばかりなのだ。まだ安静にしていなければならない。
だが、レーゼは「大丈夫よ」と言って、彼女の頭に手を乗せる。
体は痛む。それでもラティアを不安にさせたくなくて、レーゼは無理矢理笑みを浮かべた。
長々とそんな顔を作ったままには出来ず、すぐにラティアから顔を逸らし……そのまま、窓から空を見上げるレーゼ。
「私の故郷のノースベルグも、雅達の住む新潟も、曇りや雨の日は結構多いの。でもこれは……そう言った天気とは、毛色が違うわね」
窓にぶつかり、弾ける雫。
その音は、やけに重々しい。
悪い天気だ。雨が降っていることが悪いのではない。黒橡色の雲に、重い雨……誰もが気が滅入ってしまう、そんな天候。それを悪い天気と言うのだろう。
遠くで、ラージ級の人工レイパーが暴れているのが見える。
よく見えなくとも、分かる。皆が必死で戦って、あの人工レイパーから街を守ろうとしているのだと。
すぐに助けに行かなければならない。
「ラティア。ここで待っていなさい」
「……っ?」
無言で、レーゼの顔を見つめるラティア。
表情は薄いが、「その怪我で行くつもりなのか?」と問いかけているのは、レーゼにも伝わった。
だから、レーゼははっきりと告げる。「ええ、行くわよ」と。
「雅にも発破を掛けられちゃったし……何より私が皆を守りたいって思っているの。少し前に決意して、でも結局、皆を凄く危険な目に遭わせてしまったのだけど……。今度こそ、その決意を貫きたい」
そこまで言ったところで、レーゼは壁に掛けた己のアーツ……空色の西洋剣、『希望に描く虹』を手に取る。
すると、
「――ラティア?」
「…………」
まるでレーゼを引き留めるように、ラティアが背中から抱きついてきたのだ。
きっと、不安なのだろう。ラティアの手は震えていて……レーゼはその手を、ギュッと握った。
何か言おうとして口を開いたレーゼだが、言葉が見つからず、半開きのまま固まってしまう。
こんな時、雅なら何か上手い言葉が言えるのだろう。ラティアを安心させられる、そんな一言が。
だが、そんな考えが浮かんだところで、レーゼは心の中で首を横に振った。
雅の真似事をしたところで、ラティアは安心出来まい。
不器用でも何でも、必死で頭を捏ね繰り回し、自分の言葉で伝えなければならないのだ。
「正直に言えば……私だって怖いの」
少し考えて出てきたのは、そんな言葉。
あの巨大な人工レイパーに勝てるビジョンは、まるで見えない。自分が行って、何か変わるのか……何が出来るのか、レーゼには分からない。
しかし、
「ラティアは、あなたに出来る精一杯をやろうと動いたわね。自分の命を顧みず、親子を守ろうとした。なら、私が『怖い』だなんて言っていられない。今度は私の番よ。私が、皆を守る番なの」
「…………」
「あなたの勇気を、私にも分けて欲しい」
「…………」
「今は辛くて怖くて、不安かもしれない。でも、ここが頑張りどころなの。今を乗り越えたら、きっと明るい未来が待っている」
レーゼは、首だけ振り向いて、再び窓から空を見た。
「こんな雨だって、すぐに止むわ。雲も晴れて、そしたら虹が架かる。これだけ降っていれば……きっと、凄く綺麗よ」
レーゼの、アーツを握る手に力が籠る。
理想的なフォームで剣を振るえば、刃が通った後に虹が架かるアーツ。それが、希望に描く虹だ。
この虹に一体何の意味があるのか、レーゼは分からない。ずっと『そういうものだ』と思っていた。
もしこれに意味があるのなら、それはきっと……鬱屈しきった皆の心に、希望という名の虹を架けるためだろう。
「行かせて頂戴、ラティア。……必ず、皆を助けてくる」
「…………」
ラティアは少し渋ったが、やがて、レーゼの意思の強さを理解したのだろう。
ゆっくりとだが、レーゼから離れていく。
レーゼはホッと息を吐き、空き家の入口へと向かおうとしたが、
「あぁそうだ。一個だけ。――親子を守ったこと……よく頑張ったわね、ラティア。えらい、えらい」
そう言って、レーゼはラティアの頭を撫でる。
ラティアは何か言おうとして口を開き……しかし声が出せないことを思い出して、目を伏せ、拳をギュッと握る。
レーゼは軽く深呼吸すると、
「じゃあ……行ってくる!」
そう告げて、勢いよく家を飛び出す。
ラティアはその背中を、ただ見つめることしか出来なかった。
***
ラージ級人工種ドラゴン科レイパーがいるところから、離れた場所にて。
「ぐっ……」
「ミカエルさんっ!」
全身黒いタイツを着たような、顔の無い化け物……人工種のっぺらぼう科レイパーと戦う、ミカエルと優。
苦手な接近戦に持ち込まれ、二人は大苦戦させられていたものの、何とか喰らいついていたのだが……ついに、ミカエルの魔力が尽き、膝を付いてしまう。
隙だらけになってしまったミカエルを守るように優が前に出て、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』の引き金を引き、敵へとエネルギー弾を放つも、近距離では当てることも難しい。雨が降っているから、尚更だ。
頭部や足、腹部を狙い、素早く四、五発放つも、人工レイパーは滑らかな動きでスルリと躱し、一気に接近してくる。
万事休す――そう思った、その時。
「こっちです!」
優の耳に届く、聞き慣れた親友の声。
それと同時に建物の陰から、剣を持った桃色の髪の少女が飛び出し、のっぺらぼうの人工レイパーの背中に斬りかかった。
雅だ。
優もミカエルも顔を明るくすると同時に、雅の姿――制服の上に薄らと浮かび上がった、桃色の燕尾服姿だ――と、彼女の動きのキレに、驚きの表情を浮かべる。
突然現れた雅に一瞬体を硬直させ、背中に一撃を受けて軽くよろめく人工レイパー。
しかし、雅が繰り出した二発目の斬撃を横っ跳びして躱すと、すぐに地面を蹴って雅へと接近し、蹴りを放った。
それを斬撃で迎え撃つ雅。
蹴りと斬撃がぶつかる。
だが、
(っ? 強い……っ!)
不完全ながらも音符の力を発現させ、パワーアップした雅と互角のパワー。
雅はそれに、戦慄の表情を浮かべた。
一瞬膠着する雅と人工レイパーだが、すぐに互いに後ろに跳び退き、距離を取る。
人工レイパーは雅と優、ミカエルを見渡し……彼女達に背中を向けた。
状況が不利と判断したのだろう。逃げるつもりなのだ。
しかし――人工レイパーの行く手に、誰かが立ち塞がる。
雅だ。
慌てて後ろを確認する人工レイパー。そこにも雅の姿があった。
今出てきたこの雅は、分身。雅が『共感』で、ライナのスキル『影絵』を使い、創り出した分身雅である。
雅が二人いることに混乱した隙を突き、二人の雅が、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を手に人工レイパーへと襲い掛かる。
本体の雅が横に一閃を繰り出し、少し遅れて、分身雅が縦に斬撃を放つ。時間差攻撃だ。
人工レイパーは横一閃の斬撃は跳んで避けるが、直後、分身の斬撃をモロに受けてしまい、吹っ飛ばされてしまう。
地面を転がっていく人工レイパーに、二人の雅は一気に勝負を決めようと接近していく。
が、しかし。
「――っ!」
人工レイパーは顔に、ほっかむりを被って口を窄めた男のお面、火男のお面を出現させると、倒れたままの状態で、二人に向かって火炎放射を放った。
雨を蒸発させながら迫る火炎。ここがチャンスと踏んでいた二人の雅に、回避は出来ない。
やむを得ないと、分身雅が、本体の雅を突き飛ばす。
「うぁあっ……!」
分身が消し飛び、本体へとダメージがフィードバックし、雅は大きく悲鳴を上げた。
人工レイパーの眼前で、大きな隙を見せてしまった雅。
だが、人工レイパーが雅を攻撃しようと立ち上がった、その瞬間。
「ッ?」
人工レイパーの胸元に、白いエネルギー弾がヒット。その直後、小さな火球が腹部に命中して爆発し、人工レイパーはよろめかされる。
「ぅ……さがみんっ! ミカエルさんっ!」
攻撃が飛んできた方向にいた二人を見て、そう叫ぶ雅。
ミカエルは全身の魔力をかき集め、優が隙を作ったところに、精一杯の火球を放ったのだ。
その間に体勢を整えた雅に、人工レイパーは今度こそ観念したのだろう。
すぐさま、その場を逃げ去るのだった。
「くっ……」
一瞬追いかけようとしたが、思い留まる雅。
やっつけたいのは山々だが、今はそれより優先しなければならないことがある。
「二人とも、大丈夫ですかっ?」
「うん、何とか!」
「ごめん、ありがとう……!」
雅は二人に駆け寄り、心配の声を掛けながらも、ミカエルに手を差し出して『共感』のスキルで『マナ・イマージェンス』を発動させる。
これはミカエルのスキルだ。雅が彼女のスキルを使うと、触れた人の魔力を回復させる効果がある。
同じスキルをミカエル本人も使えるが、このスキルは一度使うと、再使用出来るようになるまで三十分の時間を要する。彼女は少し前に既に使用し、自分の魔力を増やしていたが、激しい戦闘が続き、あっという間に魔力がすっからかんになってしまっていた。
そんなミカエルには、まさに救いの手だ。
「よし! じゃあ今度は……!」
ミカエルの魔力を回復させ終わり、そう言いながら後ろを振り向いた瞬間、重々しい音が轟いた。
向こうにいる、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが尻尾を振るった音だ。
「ヤバい、早くあいつを――」
雅が走り出した、その直後。
ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが、ブレスを放つ体勢に入ってしまう――。
***
ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが口を大きく開け、エネルギーを収束させるのを見たレーゼ。
人工レイパーの視線の先に、シャロンや希羅々達がいるのが見える。
誰もが満身創痍で、今ブレスを放たれたら全滅するのは明らかだ。
レーゼは奥歯を噛み締める。
あの攻撃は、自分が行ってどうこうなるものでは無い。そう悟った。
だが、ここで足を止めるわけにはいかない。
(ごめん、ラティア……ミヤビ……皆……!)
レーゼはこの時、覚悟した。
命を捨てて、皆を守ることを。
ブレスを完全に止めることは出来ない。あの人工レイパーがミドル級だった時のブレスすら、止められなかったのだから。
だが、自分の身を犠牲にすれば、多少は威力を殺せるはずだということも、あの時のことから分かっていた。
希望に描く虹を振り上げると同時に放たれてしまう、人工レイパーのブレス。
タイミングは絶妙だ。
人工レイパーは、シャロン達が反撃出来ない体勢を狙い、放ったのである。
防御を試みようとするシャロン達だが、防御は間に合わないと、レーゼにははっきりと分かった。
「はぁぁぁぁぁあっ!」
レーゼに迷いは無い。
皆とブレスの間に素早く割り込む。
背後で響く、誰もが驚く声。
それを遠くのように聞きながら、レーゼはブレスに向かって、大きく斬撃を放つ。
虹の軌跡を描きながら、ブレスに吸い込まれるように向かっていく刃。
直後、大爆発が起こった。
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