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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第267話『荒胆』

「ノルンちゃん! ヤベーっす! 来るっすよ!」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーがブレスを吐こうとする動作を見て、伊織は切羽詰まった声を上げた。


 人工レイパーの顔は自分達の方へと向いている。このままでは、ブレスの餌食になるのは明白だ。


「イオリさん! 私の後ろに! 何とかします!」


 赤い宝石の付いた、節くれだった黒い杖型アーツ『無限の明日』を人工レイパーの方へと向けながら、ノルンは歯を喰いしばる。


 雨の中でも伝わる、高温の熱気。それが二人に、命の危機を明確に知らせていた。


 ノルンは無限の明日を振り、風を集めて巨大な盾を創ると同時に、二人に向かってブレスが放たれる。


「盾……傾け……て……!」

「ノルンちゃん! 頑張るっす!」


 シャロンがやった時のように、ブレスを正面から受け止めるのではなく、受け流すように盾を操るノルン。


 だがブレスの勢いが想像以上に激しい。辛うじて、僅かにブレスを後ろに逸らしているが、それでもうまくいかない。盾を壊されないようにするので精一杯だ。


 伊織がランチャー型アーツ『バースト・エデン』でミサイルを放ち、ブレスの威力を少しでも殺そうと試みるが、焼け石に水。


「も、もう……駄目……」

「ヤベー……ヤベーっす! もう弾、無くなっちまったっす!」


 残り僅かな魔力を振り絞るも、未だブレスは衰えず。


 伊織のバースト・エデンによる援護も、二十分は使えない。


 もはや万事休す。


 せめてノルンへのダメージは最小限に抑えねばと、伊織がノルンを自分の背中へと隠した、その時。




「間に合えーっ!」

「手を伸ばしなさい!」




 二人の左側から、背中に翼を生やした、紫色のウェーブがかった髪の娘と、全身銀色のプロテクターを纏った少女が飛んでくる。


 ファムと四葉だ。


 ファムがノルンの手を、四葉が伊織の手を掴む。


 四人がその場を離れるのと、ノルンの盾が崩壊するのは同時。


 だが、


「駄目! ブレスが――」


 ノルンの盾を突き破ったブレスは、勢いそのままに、街を焼き尽くさんと進む。


 ノルンが青褪めるが、


「大丈夫よ!」


 四葉がそう叫んだ直後、ブレスの進路の先に炎の壁が出現。


 完璧な角度で創り出された炎の壁は、爆音と共にブレスを海の方へと逸らした。


 それを成したのは……


「師匠っ?」

「優ちゃんもいるっす!」


 離れたところに、ミカエルと優がいるのを見て、二人は歓喜の声を上げる。


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーへと向かっていた四人。しかし、ノルンと伊織の方へとブレスが吐かれたのを見て、四葉とファムはミカエルと優を降ろし、二人を助けに向かったという訳だ。


「パトリオーラ! 二人を安全なところに!」

「分かってるって! ノルンも良いよねっ?」

「ぅ……ごめん……!」


 魔力はほぼ無い。こんな状態で「まだ戦わせて欲しい」とは言えなかった。


「面目ねーっす……。四葉ちゃんはどうするっすか?」

「決まっているでしょう、葛城を叩きのめす……必ずよ!」


 そう叫ぶと、四葉は伊織をファムに渡し、怒りの形相で、人工種ドラゴン科レイパーへと飛んで行った。




 ***




「ノルン達、逃げられたかしら……?」

「ええ。ファムと四葉が連れて逃げるのが見えました。安心してください」

「……良かった」


 ホッと息を吐くと、ミカエルは鋭い視線を、巨大な人工レイパーの方へと向ける。


「私の弟子をよくも……。ユウちゃん、ここから援護を。私はあいつに近づいて、何とかやってみせるわ」


 弟子が頑張ったのだから、師匠である自分が根性を出さねばならない。


 軽く深呼吸して、ミカエルが走り出そうとした、その時。


 目の前の巨大な化け物に集中していた二人は、ふと背後から迫る殺気に気が付き、振り向く。


「何っ?」

「こいつ、さっきののっぺらぼうっ?」


 物陰から飛び出してきたのは、のっぺらぼうの人工レイパー。


 一度撤退したのは、自分達を油断させるためだったのだと、この瞬間でようやく気が付いた優とミカエル。


 狙撃手と魔法使いのでは、接近戦は不利。


 接近戦が得意な者は、近くにはいない。


 敵の奇襲が、完璧に決まった瞬間だった。


「ユウちゃん! 私の後ろに!」


 ミカエルが前に出て、無数の火球を繰り出すが、所詮は苦し紛れの抵抗。


 火球の合間を縫って人工レイパーが接近し、ミカエルは炎の壁で防御を試みるが、それを人工レイパーが繰り出した蹴りが破壊する。


「きゃっ!」

「この……っ!」


 炎の壁が突き破られた衝撃で吹っ飛ばされる二人。


 地面に背中を打ち付け、のたくるように苦しむ優とミカエルに、人工レイパーは止めを刺さんと近づいてきた。


「くっ……」


 優が痛みを堪え、上体を起こし、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』の引き金を引くも、人工レイパーは全て躱し、なおも迫ってくる。


 すると、


「――ッ?」


 のっぺらぼうの人工レイパーの膝に、ティースプーン程の長さの、炎の針が突き刺さった。


 ミカエルが魔力を集中させ、敵に気が付かれないよう、こっそり放っていたのだ。


 痛みに怯んだ直後、優の放ったエネルギー弾が人工レイパーの胸元に直撃し、大きく吹っ飛ばす。


「ユウちゃん! 大丈夫っ?」

「は、はいっ!」


 ラージ級の人工レイパーと、目の前にいるのっぺらぼうの人工レイパーを交互に見て、二人のアーツを持つ手に力が入る。


 こいつをどうにかしなければ、ラージ級の人工レイパーと戦うどころの話ではない。


 ここが踏ん張りどころだ。




 ***




「あいつ、逃げたんじゃなかったのっ?」


 優とミカエルの背後に姿を現した、のっぺらぼうの人工レイパーに、四葉も気が付いて目を見開いた。


 だがその刹那、ラージ級の人工レイパーが振り回す鉤爪が迫っていることに気が付き、慌てて急上昇。


「邪魔をするなっ!」


 鬼のような形相で、ラージ級の人工レイパーの顔面に衝撃波を放つが、大して効きもしない。


 寧ろ、却って怒りを買ってしまったかのように吠える人工レイパー。


 ビリビリと空気を震わせるその咆哮に、四葉は悟る。


 こいつを倒さねば、のっぺらぼうの方には行けない、と。


「この……!」


 奥歯をギリっと鳴らす四葉。


 自分の役目は、葛城を捕獲である。


 だが、のっぺらぼうを逃がしてしまったことは自分にも原因があり、それにより優とミカエルがピンチだ。二人は炎魔法とエネルギー弾で必死に抵抗しているが、ジリジリと追い込まれており、いずれやられるのは目に見えている。


 しかし……立ちはだかるラージ級の人工レイパーをすぐに倒すことは不可能。


(こ、このままじゃ……!)


 二人がやられれば、そこから戦線が崩壊し、全滅しかねない。


 そうなれば、どうなるか。


 四葉の脳裏に、ラティアの顔が浮かぶ。


「葛城……葛、城……葛城ぉぉぉおっ!」


 拳を握りしめ、瞳に闘志を燃やし、四葉は巨大な人工レイパーの顔面へと飛んでいった。

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