第266話『窮地』
一方その頃。街の中央にて、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーと戦う希羅々は、苦戦を強いられていた。
「ちぃっ!」
上から叩きつけられるように振り下ろされる鉤爪。それをスレスレのところで回避するのが精一杯。
ミカエルがいた時は、鉤爪を魔法で食い止めてくれたため、その隙に敵の腕等に攻撃を仕掛けられたのだが、一人になるとそれもままならない。
(一人で何とか出来る、と豪語しましたのに、これでは口先だけではありませんのっ!)
一体どうすれば……そう思っていた、その時。
ラージ級の人工レイパーの胸元に、雷のブレスが直撃する。
突如、攻撃を仕掛けたのは勿論……
「ガルディアルさんっ!」
体長三メートルの山吹色の竜、シャロン・ガルディアルである。
背中には、刀型アーツ『朧月下』を持った三つ編みの少女、篠田愛理と、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を持ったツーサイドアップのツリ目の少女、権志愛も乗っていた。
「ちぃ、あまり効かんか……!」
雨で濡れた体にも拘わらず、軽く仰け反っただけの人工レイパーに、シャロンの顔も渋くなる。
人工レイパーが鉤爪を振り回し、シャロンはそれを縦横無尽に飛び回って躱す。
が、
「ガ、ガルディアルさんっ! 危ない! 危ないです!」
「オ、降ろして下さイ!」
「そうしたいのは山々じゃがのぉっ!」
回避がスレスレで、背中に乗っているだけの愛理と志愛は生きた心地がしない。
シャロンも一人で飛ぶ方が動きやすいのだが、人工レイパーはその隙を与えぬよう、無茶苦茶に暴れ回る。
すると――
「こっちですわよっ!」
空中に巨大なレイピアが出現し、それが敵の腹部へと襲い掛かった。
希羅々のスキル、『グラシューク・エクラ』だ。
レイピアのポイントが、雨風を斬り裂き、重い音と共に敵の腹部へと直撃。
流石の人工レイパーも僅かに怯み、滅茶苦茶な攻撃の嵐が一瞬止まる。
そしてその隙を、シャロンは逃さない。
一気に急降下し、「今じゃ!」と叫べば、愛理と志愛は慌てて跳び下りた。
「桔梗院、ありがとウ!」
「すまん、助かった!」
「礼は後ですわ! ほら、来ますわよ!」
仲間が来てくれたことは心強いが、雄叫びを上げるラージ級人工種ドラゴン科レイパーを見て、希羅々は顔を険しくするのだった。
***
希羅々達がいるところの、反対側にて。
「っ! 来ます!」
「あわわわわ……!」
「二人とも、こっちです!」
ライナと真衣華、そして槍使いのバスター一人も奮戦中だ。
敵の踏みつけ攻撃にあたふたする真衣華を、ライナとバスターが引っ張り、避難する。
轟音と地響きに心臓を掴まれたような感覚に襲われながらも、なんとか踏みつけを回避しきった三人。
反撃と言わんばかりに、ライナが自身のスキル『影絵』を発動。ラージ級の人工レイパーの顔面へと、十人もの分身ライナを送り込む。
分身達は一斉に、額に貼り付いたお面へと鎌を突き立てようとするが……刃が当たる直前で、人工レイパーが鉤爪を振り回し、分身達を全て斬り裂いてしまった。
歯噛みするライナ。今の自分が創り出せる分身の性能では、逆立ちしたところでこいつには通用しないと分かってしまった。
だが、諦めるわけにはいかない。
一番防御力が弱そうなところ……人工レイパーの眼目掛け、分身を創り出そうとした瞬間、
「ライナちゃん、危ないっ!」
真衣華の警告が飛んできて、そこで気が付く。
敵の鉤爪が迫っていることに。
「くっ……!」
慌てて分身を出現させ、鉤爪を止めに行かせるも、空しく消し飛ばされるのみ。
それでも、
「やっ!」
「はっ!」
多少は勢いが落ちたことで、真衣華とバスターが、ライナを守る時間が出来た。
二人は斧と槍で鉤爪の軌道を上方向に逸らし、さらにバスターはさかさず、敵の腕を槍で突く。
が、ガキンという音が僅かに鳴るだけ。ラージ級の人工レイパーの鱗は、あまりにも硬かった。
「こんのぉっ!」
半ばヤケクソな声を上げながら、スキル『鏡映し』で二挺に増やした片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』で、敵の足元に斬りかかる真衣華。
授かったもう一つのスキル、『腕力強化』も発動させるが、やはりダメージを受けた様子は無い。
おまけに、反撃と言わんばかりに人工レイパーが再度踏みつけ攻撃の体勢に入り、三人は慌ててその場から逃げていく。
「わわっ?」
「マイカさんっ?」
地響きでこけそうになる真衣華を支えながら、近くの瓦礫の山に身を隠す三人。
肩で大きく息をしながら、真衣華はラージ級の人工レイパーの顔を見上げ、わなわなと口を開く。
「ど、どうすればいいの、こんなおっきいのっ! 攻撃だって全然効かないよっ?」
反対側ではシャロンがブレスを叩きつけた音も聞こえ、遠くからはノルンや伊織が魔法とミサイルで攻撃していたが、ダメージは薄いようだ。これでは自分態の攻撃なんて、もっと効くはずが無い。
「街の北に崖があります! そこに突き落とせれば……!」
「えぇっ? でも、どうやってそこまで誘導するのっ?」
「とにかく、皆で協力しないと! 彼女の言う通り、崖に落としましょう! マイカさん、キララさん達に指示を出して下さい! 私はミカエルさん達に連絡を――」
と、ライナがそこまで言った、その時だ。
三人の背後から、何かが砕けたりぶつかったり……まるで戦闘しているかのような音が聞こえてきた。
「えっ? 何っ?」
「向こうに誰かいます! 私の仲間に……ピンク色の髪の娘と、赤い髪の人……?」
「ミヤビさんとセリスティアさんです! 戦っているのは、ウサギみたいな人工レイパー?」
人工種ウサギ科レイパーと戦っていた雅達。遠くで、人工種ドラゴン科レイパーがラージ級へと肥大化した後、本人達も意図しない内に、こちらまで来てしまっていた。
人工種ウサギ科レイパーが放った鋭い蹴りを、バックステップで思いっきり退いて躱した雅。
丁度、三人がいる近くであり、そこで雅も彼女達がいることに気が付く。
「ライナさんっ? 真衣華ちゃんにバスターの人もっ? ――危ないっ!」
よもやライナ達がいるとは思っていなかった雅だが、近くにいるラージ級の人工レイパーが鉤爪を振り上げたのを見て、血相を変える。
慌ててその場を離れた四人。
直後、今まで彼女達がいたところ地面を、鉤爪が抉り取ってしまった。
さらに、
「ミヤビっ! 危ねぇっ!」
ラージ級の人工レイパーの攻撃に気を取られた雅へと、人工種ウサギ科レイパーが迫るのを見て、セリスティアが危険を知らせる。
「わわっ!」
放たれた蹴りを辛うじて躱す雅。
その背後で、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーが大きく口を開き、エネルギーを集中させ始めるのだった。
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