表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
338/669

第263話『焦戦』

「ヤバい! あいつ、こっちに向かってくる!」

「急いで離れるっすよ! ノルンちゃん、足止め、頼むっす!」

「わ、分かりましたっ!」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーから、五百メートル程離れたところに、三人の人影がある。


 黒髪サイドテールの少女、相模原優。


 優より幼い少女……前髪にクセ毛のある、緑髪ロングの娘は、ノルン・アプリカッツァ。


 二人よりもずっと大人な、目つきの悪い、おかっぱの女性は冴場伊織だ。


 突如、十メートル以上に巨大化した人工レイパー。三人は遠距離から攻撃していた。


 攻撃はそこまで効いていた様子は無かったが、敵も流石に鬱陶しくなって来たのだろう。


 近くのミカエル達を無視し、建物を踏み砕きながら向かってきたのである。


 ノルンが、節くれだった黒い杖『無限の明日』を振るい、風の球体を放つ。


 弓なりに飛んでいった球体は、人工レイパーの足元に着弾。クレーターが出来上がり、そこに足を取られている隙に、三人は急いで場所を移動する。


 ブレスでも放たれてしまえば一巻の終わりだが、幸い、そのようなことをしてくる様子は無い。


 巨体になったため、ブレスを撃つために必要なエネルギーも増えたからだ。ティップラウラの出入口を破壊した際にエネルギーを全て使い果たしてしまったため、再び撃てるようになるまでには、まだ少し時間が掛かる。


 さらに彼女達にとって幸運なのは、あの巨大な人工レイパーが、空を飛ばないことだろう。


 いや、飛べない、と言うべきか。


 大きくなった体は、重量も増えている。それを羽で浮かせることが出来ないのだ。


 だが、それを抜きにしても――敵の力は強大。


「ヤベーっす……ありゃどうするんすかっ?」

「攻撃が効いている様子がまるでありません!」

「あの変なお面と、注入された薬のせいよ……!」



 伊織とノルンが、走りつつも揃って泣き言を言うが、優も顔を強張らせ、そう言うことしか出来なかった。


 ラージ級のレイパーとは、過去に二度戦った――どちらも魔獣種レイパーだ――ことがあるが、そのどちらも、敵を撃破したという訳では無い。一度目は見逃され、二度目は倒す前に魔神種レイパーへと変身されたからだ。


 そしてその二回の戦いで、大きなダメージを与えたと言えるのはただ一つ。雅との合体アーツによる一斉攻撃だけ。それ以外は、まともなダメージを与えられた記憶がない。


 巨体というのは、それだけタフで頑丈なのである。それを知っているから、優は内心では、二人以上に敵にビビっていた。


 近くにいる仲間達もラージ級の人工レイパーに攻撃を仕掛けているものの、その体には傷すらつかない。


「愛理の話じゃ、カバみたいな奴が、あいつにまだ薬を注入しようとしているって話だけど……一体どこを探せって言うのっ?」


 ラージ級の人工レイパーに注意しつつ、どこかに潜んでいる別の人工レイパーを探すのは困難を極める。


 倒すどころか見つけることすら出来ず、優は頭を抱えた。


 すると、


「一度は逃げたけど、またチャンスを伺っているなら……きっとどこかのタイミングで、葛城に近づくはずっす! もしかすると、もう皆の近くに潜んでいる可能性もたけーんじゃねーっすかっ?」


 伊織が眉を寄せながら、そう推理する。


 それを聞いた優は、さらに顔を強張らせ、口を開いた。


「いや、それヤバくないっ? 愛理曰く、そいつは顎の力が凄いって話だよっ?」

「とにかく皆に連絡っす! ノルンちゃんはミカエルさん達に! うちらは真衣華ちゃん達に! 気が付かねーうちに近づかれていた、っつーのだけでも防がねーと!」

「わ、分かりましたっ!」




 ***




「くっ……」

「アストラムさんっ?」


 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーのすぐ近くにて。


 鍔の広いエナン帽を被り、白衣のようなローブを纏った金髪ロングの女性、ミカエル・アストラムが、白い杖型アーツ『限界無き夢』を構えながら、呻き声を上げて肩で息をする。


 そんな彼女に駆け寄ったのは、茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々。いつもはゆるふわな髪は、雨のせいで見る影もなくなっている。


 鋭く、長い鉤爪の一撃を、ミカエルが炎の壁で何とか防ぎきったという状況だ。


 そして、


「ちっ……まずいですわよ! あいつ、また攻撃してきますわ!」

「キ……キララちゃん、ごめん!」


 希羅々がミカエルを抱えてその場を離れた直後、今まで二人がいたその場所に、鉤爪が突き刺さる。


「……ぅっ?」

「キララちゃんっ?」


 直撃は免れたものの、地面が砕けて飛んできた瓦礫が希羅々の側頭部にヒット。


 小さな瓦礫とは言え、つんのめってしまう希羅々。危うくミカエルを放り投げそうになってしまうが、それを意地で堪える。


「キララちゃんっ? 血が……っ!」

「平気ですわ! これくらいっ!」


 雨に交じり、希羅々のこめかみから頬を伝う赤い液体。


 アドレナリンが出まくっているからか、希羅々はあまり痛みを感じていなかった。


「とにかく、隠れましょう! あっちよ!」


 ミカエルが指差した方向へと向かう希羅々。瓦礫が山になり、その後ろなら身を隠せそうだった。


 滑り込むようにそこへと入り込むと、希羅々はミカエルを降ろし、瓦礫に背中を預ける。


「ちっ……埒が明きませんわ……! どうやって倒しますっ?」

「……分からないわ。ごめんなさい、キララちゃん……雨さえ無ければ、もうちょっと役に立てるんだけど……」


 空を仰ぎ、唇を噛み締めるミカエル。


 炎の魔法は、雨に弱い。先程の鉤爪の一撃も、雨さえ降っていなければ、もっとちゃんと防げたはずだった。


「……天気の神様も、意地が悪いですわね。まぁ、降ってしまったものは仕方ありませんわよ」

「あのお面さえなければ、もう少し何とかなると思うんだけど……」


 瓦礫の隙間から、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーを確認して、ミカエルは眉を顰めた。


 顔と腹部には、お面が貼り付いている。巨体になった今、米粒のように貼り付いている風にしか見えないが、あれが相当しっかり着いているのだ。ミカエルも魔法の攻撃で剥がせないか試みたが、びくともしない。


 すると、


「あいつは……っ!」


 ミカエルが視界の端に、とある『何か』を捉えたその時。


『師匠! 私です!』


 通話の魔法により、ミカエルの脳内にノルンの切羽詰まったような声が響く。


『そっちにカバみたいな人工レイパーがいるかもしれません! またサルモコカイアを注入しようとしているんです!』

「何ですってっ? 今見たわよ、そいつ!」

『ええっ?』


 ミカエルがたった今捉えたその『何か』とは、カバのようにずんぐりとした頭をした、人型の化け物。


 額には三十センチ程の大きさの三日月型の黒い角が生えており、頭は一部が大きく凹んでいた。


 優達が探している、人工種コビトカバ科レイパーで間違いない。


『し、師匠! お願いです! そいつを足止めしてください! ユウさんが狙撃します!』

「そ、狙撃するっ? だけど――」


 ミカエルの目が、希羅々へと向けられる。


 人工種コビトカバ科レイパーは、もうラージ級の人工レイパーの方へと向かっている。追いかけるのなら、ラージ級の人工レイパーの相手は希羅々一人に任せなければならない。


 そこで、ミカエルの視線に気が付いた希羅々が、小さく鼻を鳴らす。


 希羅々にも、伊織からメッセージが届いていた。内容は、今ノルンが話していたことと同じである。


「こちらは問題ありませんわ! 奴を放っておけば、葛城がさらに手に負えなくなる……それは何としても阻止しなければなりませんわよ!」

「で、でも……!」

「お行きなさい! こっちは(わたくし)で何とかしてみせますわ! アストラムさんは、奴を足止めなさい! 可愛い弟子からの頼みなのでしょう!」

「そ、それは……」


 言い淀むミカエル。他の仲間もいるとは言え、怪我をしている希羅々一人に任せるのは、あまりにも危険だった。


 それでも、希羅々は力強く頷いてみせる。


「相模原さんがどうやって奴を倒すのかは知りませんが……大丈夫ですわ! あれは生意気ですが、腕は確か! アーツも『StylishArts』製! アストラムさんがきっちり足止めすれば、後の始末は何とかなります! お急ぎなさい!」

「く……ごめんなさい! ――ノルン! 敵の居場所は何とか分かるようにする! ユウちゃんにそう伝えて!」

『わ、分かりました! 師匠、敵は顎の力が強いです! 気を付けて!』


 そう言って、通話の魔法が切れる。


 ミカエルは杖を握る手に力を込めると、人工種コビトカバ科レイパーの方へと走るのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ