表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
336/669

第261話『避難』

 ラージ級人工種ドラゴン科レイパーのブレスで崩壊した、ティップラウラの出入口へと向かうシャロン。その背中には、愛理と志愛が乗っている。


 ラージ級のレイパーが出たとなれば、ティップラウラの街に残るのは大変危険だ。急いで街の外へと避難する人がいて当然だが、その出入口が瓦礫で塞がっている。それを三人でどかそうとしているという訳である。


 出入口まであと五百メートルといったところで、志愛が「ン……?」と声を上げた。


「あそこニ、誰かいル?」


 敵のブレスが直撃した辺りとなれば、人っ子一人いないかと思っていたが、何人かで出入口の瓦礫をどかしていた。


「いるのは男性が殆どのようだな。だが、あの量では……」


 瓦礫の数が多く、そのせいで、撤去作業は困難を極めているようだ。雨が降っているお蔭で、火が上がっていないのは不幸中の幸いか。


 それでも、辺りは白い煙が薄く立ち込めており、視界は若干悪い。


「二人とも、彼らを避難させてくれんか? 儂のブレスで一気に吹っ飛ばす!」


 そう言いながら、シャロンは地上スレスレまで高度を落とすと、愛理と志愛が飛び降りる。


 すると、彼女達の存在に気が付いた、一人の男性が近づいてきた。


「君達は、一体……?」


 空へと飛び上がったシャロンを見ながら、怪訝そうな顔をする男性。


 そんな彼に、志愛が街の出入口を指差して口を開く。


「そこの瓦礫ヲ、どかしに来ましタ!」

「我々の仲間のドラゴンが、ブレスで吹っ飛ばすそうです! 皆さん、急いで避難を!」

「なんだってっ? そ、そうか、分かった!」


 男性は表情を明るくすると、すぐに仲間達のところへと戻っていく。


 そして、数十秒後。


「ガルディアルさん! もう大丈夫です!」


 愛理がそう叫ぶと、既に顎門にエネルギーを集中させていたシャロンが、一気に雷のブレスを放ち、轟音と共に瓦礫を全て吹っ飛ばした。


 すると、


「おい! 何だ今の爆音はっ?」


 そう叫びながら、女性が近づいてきた。


 ウラのバスター達と同じ格好をしている。腰にノコギリのような武器を収めており、これが彼女のアーツなのだろうと志愛達は思う。


「いや、心配ない! 彼女達が、あの瓦礫をどかしてくれたんだ!」

「成程……! すまない! ご協力、感謝する!」


 男性から事情を聞いたバスターが、志愛達に敬礼をする。


「これで外に逃げられる……! ありがとう! 助かった!」

「まタ、あの巨大なレイパーのブレスが飛んでくるかもしれませン! 早く避難ヲッ!」

「ああ! ――おい、皆! 避難誘導だ! 女子供を、早くここに!」


 男性が、仲間達の方へと走りながら、そう指示を出す。


 最も、既に彼らは行動に移していたが。


「街の住民はどこに? 避難誘導、我々も手伝います!」

「助かる! 住民は少し離れたところにいるが、私の仲間に、こちらに連れてくるよう伝える! あの辺りから来るはずだ! 君達は来た人達を、出入口の方へと誘導してくれ! 私は街の外に出た人達を、安全なところまで避難させる!」


 ティップラウラを入ると、三方向に道が分かれている。一度に人が出ようとすると渋滞になるため、上手く人の流れをコントロールしなければならない。


 パニックになった人を誘導するのは難しいが、やらねばならないことだ。


「街の外ニ、避難民を受け入れられるところがあるんですカッ?」

「ああ! うちの署長が見つけてくれたんだ! ある程度避難民を誘導出来たら、君達も皆と一緒に来てくれ!」

「……お気持ちだけ、受け取ります。我々には、あいつを倒すという役目がありますので!」


 愛理が、遠くで暴れている、ラージ級人工種ドラゴン科レイパーを指差してそう言った。


 一瞬、何か言いかけたバスターだが……すぐに口を閉じて、小さく頷く。


「……すまない。よし、急ごう! 時間が無い!」




 ――そして、五分後。


 三つの道から来る人々を、愛理と志愛で地上から、シャロンが上空から誘導する。


 雨で視界が悪く、声もあまり響かない。


 それでも、三人は必死で人々を逃がす。


 しかし、


「……ン? なんダ? どうしたんダ?」


 逃げてくる人が多すぎて、ごった返してきた。


 人が増えたから……というのとは、また別の理由のようで、志愛は一人、そう呟いて首を傾げる。


「すみませン! 向こうで何かあったんですカ?」

「いや、分からない……。でも、何か騒いでいる人がいたみたいだけど……」


 近くの人に尋ねるも、原因がよく分からず、志愛は困惑。


 その時だ。


 辺りを劈くような悲鳴が、志愛の耳に飛び込んできた。


「なんダッ?」


 街の出入口の方からだ。


 嫌な予感がしてそちらに向かえば、血相を変えた愛理と合流する。


「権! 君も聞こえたのかっ?」

「あアッ! 何があったんダッ?」

「分からん! だがあれは……」


 レイパーに襲われた際の、女性の声……そう言いかけた時。


 二人の上空を、シャロンが飛んでいく。


「シャロンさんも聞こえたみたいだナ……。急ごウ!」


 言いながら、志愛は地面に落ちている木の棒を拾うと、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』に変化させるのだった。




 ***




「お、おい……なんだあいつはっ?」


 人混みを抜け、街の出入口を出て少ししたところにて。


 そこに、全身真っ黒な化け物がいた。


 見た目は高さおよそニメートル近い、巨大な蠍だ。一般的な蠍と大きく異なるのは、背中に翅が生えていることか。


 そんな化け物と、シャロンが対峙していた。


「シノダっ、クォンっ! 気を付けい! こやつ、フライスコーピオ型のレイパーじゃ! 毒を持っておる!」

「フ、フライスコーピオっ? 何ですか、そいつはっ?」

「エスティカ大陸全域の森に生息する生き物じゃ! 空も飛べるぞ! 普通は人間の手の平に乗る程度のサイズじゃし、こちらから危害を加えねば襲ってくることも無いがの!」

「空を飛べる蠍ッ?」


 シャロンの解説に、志愛の顔が強張る。


 毒を持った敵に空中を動かれれば、厄介なことこの上ない。


 敵の分類は、『フライスコーピオ種』レイパーだろう。


 レイパーの側には、何人かの女性が倒れている。その中には、先程会ったバスターもいた。腹部を貫かれており、打ち上げられた魚のように痙攣している。


 それを見た志愛の、跳烙印・躍櫛を握る手に力が籠る。


 彼女はもう、助からない……遠目でも、それが分かってしまった。


「ぐっ……今おる奴らだけで手一杯じゃというのに……!」


 怒りをぶちまけるように、シャロンは吠える。


「何故、このタイミングで……。はっ! そうか……これもあのサルモコカイアのせいじゃな!」

「あれは確カ、魔物を誘き寄せる効果があったんでしたネ……。成程、お面が葛城に誘き寄せられたのと同じようニ、こいつも匂いに釣られてやって来たという訳カ!」

「ええい! 納得はしたが、なんと面倒な……!」


 志愛と愛理は、アーツを構えながら顔を顰める。


 それを見たフライスコーピオ種レイパーは、鋏をガチガチと音を立てて鳴らしから、この大雨にも拘らず、羽を羽ばたかせて空へと舞い上がった。


「シノダ! クォン! こやつに時間をとられる訳にはいかぬ! 儂が奴を地面に叩き落すから、その後の処理は任せたぞ! 尻尾に気を付けよ」


 シャロンは二人にそう指示すると、翼を広げ、鋭い咆哮と共に飛翔するのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ