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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第259話『雨水』

 空き家を飛び出した雅。


 いよいよ地面に叩きつけるように降って来た雨を浴びながら、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を手に、避難所の方まで戻っていく。


 しかし、走り出して間もなくして、


「……っ?」


 小さく戦闘音が聞こえて、雅はそっちを見る。


 真っ先に目に飛び込んできたのは、赤紙のミディアムウルフヘアーの女性だ。


「あれは……セリスティアさん達っ?」


 セリスティア・ファルトと、ティップラウラのバスター二人が、人型の化け物と交戦していた。


 化物は白い体毛に包まれ、歪な頭部をしており、そこから長い耳が伸びている。太腿は太く、足首からつま先までは長い。


 ウサギとカンガルーを足して、人型にしたその化け物は、人工レイパー。


 分類は『人工種ウサギ科』レイパーだ。


 雅達がティップラウラに来た時、東で暴れていた久世の部下である。


(あいつ、一度私達が逃がした奴……。そっか、セリスティアさん達、あいつを見つけられたんだ……!)


 雅は知らなかったことだが、セリスティアは雅と別れて数分後、人工種ウサギ科レイパーを見つけ、再度交戦していた。


 戦いながら移動し、ここに来ていたという訳である。


 雅は唸る。


 セリスティア達は、パッと見る限り苦戦している様子。人工レイパーは三人と戦いながらも、どうやら避難所――正確には、そこにいるであろうミドル級人工種ドラゴン科レイパーのところ――に向かっているようだ。


 向こうでは志愛とライナ、そして別のバスターがミドル級人工種ドラゴン科レイパーと戦っている。そこに別の人工レイパーが合流してしまうと厄介だ。


(葛城さんを倒す前に、あいつを何とかしなきゃ……! 急いで助けに……。ん? いや、待てよ……?)


 敵はまだ、自分に気が付いていない。ならば、上手く奇襲できないだろうか?


(私の気配も何もかも、この雨がかき消してくれる。チャンスは、今しかない!)


 そう思ったその時。


 遠くで戦っていたセリスティアが、雅の方を見た。


 その眼が、大きく見開かれようとして……敵に気が付かれまいと、セリスティアはそれを、グッと堪える。


 偶然だろう。それでも、雅に気が付いたのは、間違いない。


 雅がセリスティア達の近くにある瓦礫を指差せば、その意図を察するセリスティア。


 雅が動き出すと同時に、人工レイパーはセリスティアに向けて、蹴りを繰り出した。


「にゃろう!」


 大木を圧し折る程の威力がある、鋭い蹴り。まともに喰らえば、体の骨が砕けるだろう。


 セリスティアは自身のスキル『跳躍強化』を発動し、大きくジャンプして攻撃を回避し、敵の背後に着地。


 振り向き、追撃の蹴りを放とうとした人工レイパーだが、その瞬間――敵の背中に向かって、チャクラム型のアーツが投げつけられる。


 セリスティアと一緒に戦っていた、ティップラウラのバスターの攻撃だった。


 人工レイパーは体を後ろに反らしてそれを回避。


 しかし、その瞬間。


「こっちよ!」


 鋭い声と共に、人工レイパーの右側から敵に迫るのは、もう一人のバスターだ。ブロードソード型のアーツで、敵を斬りつけたのだ。


 そして二撃目を放とうとする――が、それより早く放たれた蹴りが、バスターをアーツごと吹っ飛ばしてしまった。


 水飛沫を上げながら地面を転がるバスターへと、飛び掛かろうとする人工レイパー。


 その時。


「こっちを見ろぉっ!」


 セリスティアの声が轟くと同時に、人工レイパーへと何かが襲い掛かる。


 銀色の爪……セリスティアの使う爪型アーツ『アングリウス』の爪だった。


 普段はあまり使わないが、アングリウスには爪を伸ばせる機能がある。それを使い、離れたところから攻撃を仕掛けたのだ。


 が、それが敵に命中する前に、人工レイパーは後ろに跳び退き、躱してしまった。


 刹那……セリスティアの口角が、僅かに上がる。


 それと同時に、人工レイパーの背後にある瓦礫から、誰かが飛び出してきた。


 桃色のボブカットに、メカメカしい見た目の剣。


 雅だった。


 雅がそこに隠れたことを、視界の端で見ていたセリスティア。


 雅が潜んでいる場所に敵を誘導するために、セリスティアは先の攻撃を、わざと避けさせたのである。


「はぁっ!」


 雅は声を張り上げながら、驚く人工レイパーの背中を思いっきり斬りつける。


 完璧に決まった奇襲攻撃。


 よろめいた敵へと、二発、三発と斬りつける雅。


 相手に反撃の暇は与えない。


 それは、セリスティアや二人のバスターが入り込めない程に、激しいものだった。


 ここが勝負。


 敵が怯んでいる隙に、一気に決める。


 この人工レイパーの足の力は強力だ。ここで決めなければ、いずれ犠牲者が出るのは明白。


 故に雅の腕にも、必然的に力が籠る。


 斬撃に体重を乗せるため、大きく踏み込んだ。


 が、しかし……


「っ?」


 雅の体勢が、急に崩れる。


 敵に攻撃された、という訳では無い。


 奇跡的に生み出せたチャンスに気が競って、雨水に足を取られてしまったのだ。


 同時に雅の脳裏に蘇る『雨で地面が滑りやすくなるから、充分注意せよ』というレーゼの言葉。


 ヤバい……そう思った時にはもう、遅かった。


 雅が滑って転びかけたところで、攻撃の嵐が止み、人工レイパーが反撃。


 放たれた回し蹴りが、雅の腹部へと命中し、彼女を大きく吹っ飛ばしてしまう。


「ミヤビっ?」

「ぐ……ぁ……」


 血を吐きながらも、雅はまだ生きていた。


 攻撃を受ける瞬間、咄嗟に『共感(シンパシー)』のスキルを使い、レーゼの『衣服強化』を発動したのだ。


 それでも、人工レイパーの蹴りは強烈だった。


 だが、雅は立ち上がる。


 百花繚乱を支えに、フラフラになりながらも立ち上がる。


 先程レーゼに『立ち上がれ』と言ったのだ。『あなたが戻って来るまで持ちこたえる』と言ったのだ。ここで倒れる訳にはいかない。


 雅は気合を入れるように、言葉にもならない叫び声を上げると、百花繚乱を振り上げ、人工種ウサギ科レイパーへと立ち向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンの描写が素晴らしい!戦いをしている時の絵が凄く臨場感が! 「そしてシュルリと消える敵の右足に、キックが飛んでくると直感した雅。」攻撃スピードがこんな風に表現されるのは初めて見た。…
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