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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第30章 ティップラウラ全域
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第257話『必死』

 動けない母娘を庇う、幼いラティア。


 彼女達に迫る、炎のブレス。


 その光景を見た時、スカイブルーの長髪に、翡翠の眼をした女性、レーゼ・マーガロイスは、自分の心臓が止まるかと思った。


 経験則から、レーゼは、あの盾では攻撃を防ぐことは不可能だとすぐに悟る。


 誰による攻撃なのか、一体どうして彼女達が襲われているのか、他の人達は何をしているのか。


 そんな疑問は全部頭の外へと追いやって、無我夢中でレーゼは走る。


 負傷した体が、悲鳴を上げていることも完全無視だ。


 一歩、一秒でも早く、とにかく彼女達を守るために動かなければ。


 そんな想いで、レーゼはラティア達と、ブレスの間に割り込んだ。


「はぁぁぁあっ!」


 レーゼは、空色の西洋剣――アーツ、『希望に描く虹』を振るう。


 狙うはブレス……では無く、地面。


 切っ先を大地に食い込ませ、てこの原理を利用して、まるで畳み返しのように、地面の表面を剥がし起こして、ブレスの盾にする。


 そして即座に、レーゼはラティア達を自分の体の後ろに隠す。


 直後――轟音が轟くと同時に、大地の盾が粉砕。


 ヤバい。これでは止めきれない。


 そう直感した時には、レーゼはブレスに背を向け、盾ごとラティア達を突き飛ばすと、スキル『衣服強化』を発動していた。


 自分の衣服を鎧並みにした瞬間、レーゼの背中に、ブレスが直撃する。


 防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』は使えない。少し前に使っており、再使用には後数十分かかる。


 爆音と同時に、吹っ飛ばされるレーゼ達。


 悲鳴を上げることすら出来ない。


 それでも、レーゼはラティア達に少しでもブレスが届かないように、全力でブレスを背中で受け止めていた。


 だから、届かない。


 吹っ飛ばされこそしたが、ブレスは殆ど、ラティア達には届いていない。


 彼女達は、ヨロヨロと上体を起こしていた。


(よ……よか……っ、た……)


 レーゼは朦朧とする意識を何とか保ちながらも、足腰に力を入れようとするも……入らない。


(こ……の……)


 ガサ、ガサッと足音を立てて、倒れた彼女達に近づく影。


 全長四メートルにもおよぶ巨大な化け物が、レーゼ達に向かって歩いてきていた。


 見た目は怪物でも、正体は人間。人工レイパーである。


 それも、ミドル級。


 黒い線が血管のように浮かび上がった緋色の鱗を纏い、翼と尻尾、捻じれた角を生やしており、まるで竜を人形にしたような相貌だ。


 手からは鋭い鉤爪が伸びている。


 分類は、ミドル級人工種ドラゴン科レイパーだ。変身者は、葛城(くずしろ)裕司(ゆうじ)


 先程ラティア達へとブレスを放ったのは、こいつだ。


 元々は久世の部下だったが、久世の策略により、今は本能的に暴れるだけの人工レイパーになっている。


 彼をそうさせているのは、顔と腹部に貼り付いた、二つのお面。


 般若と姥のお面だ。


 紆余曲折あり、葛城に憑りついて、操っているのである。


 そんなミドル級の人工レイパーが、倒れたレーゼ達に止めを刺そうと、近づいていた。


(うご、け……わた、し、の……からだ……う、ご、け……!)


 全身に残った力を右腕に集めるレーゼ。それでも、希望に描く虹の柄を握りしめるだけで精一杯だ。


 だが、人工レイパーは待ってくれない。


 ヤバい――そう思った、その時だ。


「こっちです!」


 鋭い声が轟いたと同時に、ミドル級人工種ドラゴン科レイパーの頭部に、桃色のエネルギー弾が直撃する。


 人工レイパーがそちらの方を見れば、そこにいたのは、メカメカしい剣の柄を曲げて、まるで銃のように構えた、白いムスカリ型のヘアピンを着けた、桃色のボブカットの少女。


 束音(たばね)(みやび)の姿があった。


 ミドル級の人工レイパーがここにいると聞いて、助けに来たのだ。


 剣銃両用アーツ『百花繚乱』をライフルモードにして、人工レイパーの頭部を狙撃したのである。


 すると――人工レイパーの周りに群がるように、十人以上もの、鎌を持った少女が出現する。


 全て同じ顔……銀髪の、フォローアイという髪型の少女だ。ライナ・システィアが自分のスキル『影絵』で創り出した分身である。


 手に持った鎌は、アーツ。ヴァイオラス・デスサイズだ。


「ミヤビさん! ここは私達が何とか食い止めます!」


 分身ライナ達が、人工レイパーの行く手を阻むように襲い掛かる中、本物のライナが雅へとそう叫ぶ。


 人工レイパーは爪や角、尻尾を振り回し、分身ライナ達を吹き飛ばしていく中……その合間を縫うように動いて人工レイパーへと近づく二つの影ある。


 ツリ目のツーサイドアップの少女、(クォン)志愛(シア)と、ティップラウラのバスターだ。


 志愛の手には、棍。紫の宝石を咥えた虎が、先端にあしらわれている。志愛の持つアーツ『跳烙印(ちょうらくいん)躍櫛(やくし)』だ。


 バスターの手にも、槍型のアーツが握られていた。


「雅ッ! レーゼさん達を連れテ、逃げロッ!」

「こっちは我々に任せて!」


 三人とも、満身創痍。


 それでも、レーゼ達を逃がすために、敵に立ち向かう。


 雅は迷う。葛城を止めるために、ここに来たのだから。


 だが、倒れるレーゼを放っておくことも、雅にはとても出来ない。ラティアや、あの親子も然りだ。


「早く行ケッ! 巻き添えになってしまウッ!」


 志愛の、怒声に近い声が、雅に刺さる。


 すると、


「こちらの二人は、私が! あなたは、彼女達を!」


 人工レイパーと戦っているバスターとは、別のバスターが、親子の方へと近づきながら、雅にそう声を掛ける。


 迷っている時間は無い。


「すみません、ありがとうございます!」


 雅は礼を言うと、親子をバスターに預け、レーゼの肩を、ラティアと一緒に担ぐ。


「ぅ……」

「レーゼさん、しっかり!」


 その時、雅の腕に、雫が落ちた。


 見上げた雅の顔が、険しくなる。


 鈍色だった雲は、より重苦しい、黒橡(くろつるばみ)色になっていた。


 ポツリ、ポツリと雫が落ちてくる間隔が短くなり、地面に染みを作っていく。


 空を仰ぐ雅は、少し口をもごつかせ……それでも、すぐに口を開いた。


「ラティアちゃん、どこかの建物に急ぎましょう! すぐに本降りになってきます!」

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