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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第29章 ティップラウラ
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第255話『創痍』

「はぁっ? ちょ、何が起こったのっ?」


 ミカエルとは別の位置で、シャロンの援護に回っていた優。


 ライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』を構えながらも、突然ミドル級へと肥大化した人工種ドラゴン科レイパーを見て、驚愕の声を上げる。


 すると、


「ユウっ! ここヤバい! 逃げよう!」


 背中に装着された翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』を羽ばたかせ、風を突っ切り、ファムがやって来た。


 ノルンの姿もある。ファムの右手に掴まり、視線はミドル級人工種ドラゴン科レイパーへと向けていた。


 慌ててやって来たのには、理由がある。ノルンが自分のスキル『未来視』が、敵がブレスを吐いてここら一帯を焼け野原にすることを教えたのだ。


 ファムが伸ばしてくる左手を、優が掴みかけた、その時。


「ファム! 急いで! ブレスが来る!」


 ノルンの切羽詰まった声が轟く。


 だが……人工レイパーが大きく口を開き、エネルギーを集中させているところを見た瞬間、ノルンは悟る。


 多分、間に合わない、と。


 ファムが全速力で逃げたところで、ブレスからは逃げきれない。


 現に、人工レイパーは口を大きく開き、エネルギーを集中させている。


 ならば、だ。


「二人とも! イージスを!」


 そう言いながら、ノルンは赤い宝石の付いた、黒い杖型アーツ『無限の明日』を持つ手に、力を込める。


 自身も含めた全員が防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動させ、体が白い光に包まれると同時に、ノルンは魔法で風を集め、巨大な盾を創り出す。


 刹那、ミドル級人工種ドラゴン科レイパーから放たれる、炎のブレス。


 ブレスはノルンの創った盾を容易に突き破り、三人へと襲い掛かる――。




 ***




「ね、ねぇ! あいつ、攻撃を始めたよ! あっちにブレスを放ったけど。もしかして――」

「真衣華っ! よしなさい!」


 空気を震わせるような爆音が響き、顔を青くする真衣華に、希羅々は一喝する。


 ミカエルの顔面は蒼白だ。


 適当にブレスを放った、という感じではない。ちらっとだが、魔力の気配も感じた。


 ノルンがやられたのでは……そんな不安が拭えない。


 魔法で連絡を取れば安否確認出来るのだが、もし連絡が付かなければ……そう思うと、ミカエルにはそれが出来なかった。


 すると、


「っ? 待って! 奴はどこっ? あの、カバみたいな人工レイパーはっ?」


 レーゼが、ハッとしたような顔で辺りを見回す。


「い、いねーっす! またどこかへ逃げたっす!」


 人工種コビトカバ科レイパーの姿が、どこにも無い。


「何の理由も無しに、葛城をパワーアップさせたはずがない……。姿を消したってことは、まさか、まだ何かしようっていうんじゃ……? だが、どうしますっ? 探している余裕はありませんよっ?」

「と、とにかく……奴の動きに気を付けながら、クズシロを何とかしましょう! イオリとミカエルは援護に回って! その隙に残りのメンバーで奴に近づき、一気に攻めるわよ!」


 慌てる愛理に、レーゼもそれ以上のことは何も言えない。


 一体ずつ撃破することに集中したいが、さりとてもう片方も無視出来ない。


 これが最善の策か分からないが、しかし動かないよりは幾分マシだ。


 だが……レーゼの指示は、少し遅かった。


「ぐるぁぁぁあっ?」


 シャロンの、くぐもった声が響き渡る。


 ミドル級人工種ドラゴン科レイパーを止めるために攻撃を仕掛けたのだが、パワーアップした人工レイパーに、返り討ちにされてしまったのだ。


 上手く懐に入り込まれ、尻尾による一撃で吹っ飛ばされたシャロン。


 揺れる視界で……見えた光景に、シャロンは戦慄する。


 吹っ飛ばされた先にいたのは、レーゼ達。


 このままでは、地面に激突する際に、彼女達を巻き込んでしまう。


 レーゼ達は目の前に迫る危険に目を見開くだけで、動けない様子。


「ぐぅ、ぁぁぁあっ!」


 シャロンは必死になって、雷球型アーツ『誘引迅雷』を操り、自分の後方に、電流で出来たネットを創り出す。


 電流のネットに体が触れた瞬間、痺れる感触と共に、飛んでいくシャロンの勢いが僅かに弱まる。


 だが、まだ足りない。


(せ、せめて、直撃だけは……!)


 諦めずに、何重にもネットを張り、勢いを殺していくシャロン。


 電流のネットの強度は、大したことは無い。敵を感電させて動きを止めることがメインの目的だからだ。


 それでも、シャロンの必死の頑張りで、何とか勢いを緩め、さらに飛んでいく方向を逸らし、激突する地点をずらすことに成功する。


 しかし、安心するのは早い。


 シャロンが地面に激突した衝撃で、建物が崩壊し、大量の瓦礫がレーゼ達に降り注いだからだ。


「皆! 私の側に!」


 ミカエルが、杖型アーツ『限界無き夢』を振りながら、金切り声に近い声で、そう叫ぶ。


 刹那、レーゼを中心に、炎で出来たドームが出現する。


 堕ちていく瓦礫は炎に溶かされ、消えていくが、その度に、ドームが薄くなっていく。


「が、頑張ってくださいましっ! アストラムさんっ!」

「分かっているわっ! け、けど……っ!」


 ミカエルは魔力を集中させ、ドームの上に、新たなドームを創り出すが、それでも降り注ぐ瓦礫が多すぎる。


「も……もうダメえぇぇえっ!」

「イージス使いなさい!」


 ミカエルの悲鳴と、レーゼの指示が轟くのは同時。


 直後、ドームが崩壊した。




 ***




 瓦礫がレーゼ達に降り注ぐのを見届けた、ミドル級人工種ドラゴン科レイパー。


 辺りを見回せば、倒れたシャロンに、優やノルン、ファムの姿が映る。


 最早、ここに用は無いと言わんばかりに、人工レイパーは避難所がある方へと飛んでいった。


 その直後。


 瓦礫がゴロンと転がり、中から人が這い出てくる。


「ぐ……」


 呻くような声を上げながら現れたのは、青髪ロングの少女、レーゼだ。


「み、みんな……!」


 後ろを振り返れば、そこには倒れた仲間達の姿。


 だが、レーゼの言葉に、ピクリと体を震わせたところを見るに、まだ息がある様子。


 命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)を使っていたお蔭で、何とか生きていた。


 ホッとすると同時に、レーゼは敵が向かっていった方向へと、目を向ける。


「に、逃がさないわよ……!」


 レーゼは力を振り絞ると、体を引きずるようにして、ミドル級人工種ドラゴン科レイパーを追いかけるのであった。

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