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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第29章 ティップラウラ
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第254話『投薬』

「いないわね。あのカバみたいな人工レイパー、どこに隠れたのかしら?」

「……レーゼちゃん、一旦、あいつは後回しにするっす。今は葛城を追うのが先っすよ」


 葛城が逃げた方へと走りながら、悔しそうな顔で辺りを見回すレーゼに、伊織は遠慮がちにそう指示を出す。


 葛城を見かけた途端、彼を追うように逃げ出した人工種コビトカバ科レイパー。その跡を追い出したレーゼ達だが、敵の足が想像以上に早く、すぐに見失ってしまったのである。


 ちなみに、葛城の姿も、彼女達の視界の中には無い。


 最も、お面に操られ、本能的に暴れているだけの葛城の方が行動は読みやすいが。


「少し前に、相模原達から連絡が来ていました。どうも北の方で奴と交戦したみたいですが、逃げられたそうです……。彼女達もこっちへ向かっているとのことでした」

「成程、そういうことね……。優ちゃん達、無事なのかな?」


 愛理の報告に、真衣華が眉を寄せてそう尋ねると、愛理は首を縦に振る。


「大分負傷したみたいだが、戦える程度には無事なようだ。ただ、浅見は別のところで、のっぺらぼうの人工レイパーと戦闘中だから来られないとあったがな」

「あいつもこっちにいるのですかっ? ちぃ……面倒ですわね……」


 予想していなかった訳では無いが、いざそれが現実になると、そう言わずにはいられない希羅々。


「あっちもこっちも人工レイパーだらけっす。何とか数を減らさねーと、ジリ貧っすね……」


 街の東側で戦っているはずの雅とセリスティアから、特に連絡が無い。向こうも向こうで苦戦しているのだと思うと、伊織も頭を抱えたくなる。


 すると、


「おっと、相模原からまた連絡か……。っ! 彼女達、逃がした葛城を見つけたみたいです! こっちだ!」


 愛理が先頭になって、道案内をする。


 他の四人も、後に続くのだった。




 ***




「いた! あそこだ!」


 近くまで来ると、戦闘音が聞こえてくる。そちらに向かうと、体の大きいシャロンの姿が、すぐに見えてきた。


 彼女は何かの攻撃に耐えるような構えをしつつも、動きがどこかおぼつかない。


 攻撃の際の激しい衝撃で、フラフラになっているのだと、レーゼ達はすぐに悟る。


 そして、見た。シャロンを圧倒している、敵の姿を。


 黒い線が血管のように浮かび上がった緋色の鱗と、翼、蛇のようにうねる尻尾を持った化け物。人工レイパーにしては、珍しく整った形状の頭部からは、捻じれた角が生えており、手からは鉤爪が伸びている。


 そして顔に嵌められた、般若のお面。それが奴の不気味さを一層際立たせていた。


 般若のお面に憑りつかれた、人工種ドラゴン科レイパー。


 葛城裕司、その人である。


 すると、愛理の目に、杖を持った、金髪の女性の姿が見えた。


 彼女は、


「アストラムさんっ!」

「アイリちゃん! それに、皆も!」


 ミカエル・アストラムだ。離れたところから、魔法で人工レイパーに攻撃を仕掛けている様子。


 ミカエルの身に着けている衣服やエナン帽はボロボロで、体も傷だらけだ。魔法使いの彼女が、これだけダメージを受けているという事実は、それだけ激しい戦闘をしている何よりの証拠であった。


 彼女は愛理達の姿に気が付くと、ホッとしたような顔を浮かべる。


「遅くなってごめんなさい! 戦況はっ?」

「見ての通り、あいつが強すぎて、手が付けられないってところよ! 避難所に向かうのを阻止できたところまでは良かったんだけれども……」


 人工種ドラゴン科レイパーを追いかけていたシャロン達。ミカエルとノルンが魔法を上手く当てて敵を地面に叩き落し、そのまま地上に降りて交戦を始め、今に至るという訳だ。


 優やファム、ノルンは、ミカエルとは別の方向から、それぞれ遠距離攻撃で援護している。


「敵の攻撃を、シャロンさんが一手に受けているの! そろそろ限界なはずよ! 助太刀して欲しい!」

「分かりましたわ!」

「えぇっ? ちょ、でも、どうやって近づけばいいのっ?」


 ミカエルの頼みに、すぐに頷いた希羅々に、真衣華が顔を青くする。敵の動きは早く、迂闊に近づけば、あっという間にやられてしまいそうだった。


「うちのミサイルで何とか隙を作るっすから、その隙に近づくっす!」


 言いながら、ランチャー型アーツ『バースト・エデン』を右腕に装着する伊織。


 その眼は、少し不安そうに揺れていた。


 ミサイルの弾は、残り六発。それを撃ちきると、二十分の間、ミサイルの弾補充のために、攻撃が出来ない。上手く仕事が出来るか、伊織は不安だった。


 と、その時だ。


「っ……皆、見て!」


 レーゼが大きく目を見開いて、指を差した方向には――カバを人型にしたような化け物がいた。


 レーゼ達が逃がした、人工種コビトカバ科レイパーだ。


 瓦礫の影に隠れているが、その目はしっかりと、人工種ドラゴン科レイパーに向けられている。


 その手には……注射器。琥珀色の液体が充填されていた。


 真衣華が「あっ!」と声を上げる。あれには見覚えがあるからだ。


 葛城が自分をパワーアップさせるために使い、そして自身がお面に憑りつかれる原因にもなった、サルモコカイアの廃液だ。


 レーゼ達が何かをするより先に、人工種コビトカバ科レイパーは、人工種ドラゴン科レイパーへと、その注射器を投げる。


 真っ直ぐに飛んでいった注射器は、人工種ドラゴン科レイパーの緋色の鱗を貫き、首元へと突き刺さってしまう。


 刹那、


「グルァァァアッ!」


 人工種ドラゴン科レイパーが、レーゼ達のところまで届く程の雄叫びを上げ、全身から衝撃波が発生し、それによりシャロンを大きく吹っ飛ばしてしまう。


 そして、


「な、なぁ……奴の体、膨らんでいないかっ?」

「そ、そう見えるっす!」


 サルモコカイアが体内に注入され、全身が満遍なく肥大化していく、人工種ドラゴン科レイパー。


 全長は四メートルにも達し、これはつまり、


「ミ、ミドル級の、人工レイパーですってっ?」


 敵がより、強力になったということだった。

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