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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第29章 ティップラウラ
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第252話『本能』

 葛城が暴れている、ティップラウラ北西へと向かうシャロン、優、ファム、ミカエル、ノルンの五人。


 単身で人工種のっぺらぼう科レイパーと戦う四葉のことを気にしながらも、先を急ぐ。


 そして、五分後。


「うわ……え? 何あれっ? 廃墟っ?」


 街を見た優が、悲痛な声を上げる。


 彼女の言葉は、まさしく的を射ていた。


 街は崩壊し、瓦礫が散乱。人の影も無い。ティップラウラのこの辺りのエリアは、景観が良いことで有名だったのだが、その面影はもう無い。


 すると、


「いたっ! クズシロです! 誰かがクズシロと戦っています!」


 ノルンは、壊れた建物と建物の隙間で、人型をした竜のような化け物が、誰かと交戦しているのを見つけ、指を差す。


 誰かとは言ったが、十中八九バスターだ。


 ノルンの顔は険しい。ちらりとしか見えなかったが、近くで何人か、力無く地面に倒れていた人がいたからだ。


 あれは、殺された人の倒れ方だった。


「急ぐぞ! しっかりと掴まっておれ!」

「ファムちゃん! 急いで!」

「分かっているよ!」


 速度を上げ、ノルンの指差した方向――崩壊した建物に囲まれた、広場だ――へと向かうシャロンとファム。


 近づいていくと、他の四人も、ノルンが見たものを目撃する。


 黒い線が血管のように浮かび上がった緋色の鱗に、翼。頭部からは捻じれた角、手から伸びた鉤爪。


 何より印象的なのは、顔に嵌められた、般若のお面だ。


 確かに、般若のお面に憑りつかれた、人工種ドラゴン科レイパー……葛城裕司である。


 しかし、


「あれがクズシロなのっ? 前戦った時より、酷くなってないっ?」

「本能的に暴れておるように見えるぞ……っ?」


 人工種ドラゴン科レイパーは二人のバスターと戦っているのだが、その動きが荒々しい。


 前に戦った時とは、明らかに動きが違う。あれは葛城の動きでは無かった。


「多分、お面の支配が進んだのよ! より強力になったみたいね……!」

「ちょ、そんな師匠っ? あれがさらに強くなったのなら、どうやって戦えばいいんですかっ?」


 以前、ミカエルの妹のカベルナが姥のお面に支配されたことがある。


 その時、彼女はお面に完全に操られていた。葛城も、カベルナと同じ状態になっているのだろうと、ミカエルは推測する。


「……まずは、バスターの人達を避難させましょ! どう戦うか考えるのは、その後よ! あの様子じゃ、少しもしない内に殺されてしまうわ! シャロンさん、背中良いかしら?」


 バスターは最早、敵の攻撃を防ぐのに手一杯の様子。ふらついており、死は目前。


「さ、三人は中々辛いが……仕方あるまい!」

「ファムちゃんはバスターの人達の救助をお願い! ユウちゃん、敵の頭を狙い撃って!」

「あいよ!」

「ちょっと距離があるけど……やってみせる!」


 ミカエルの指示に、ファムと優は即答。


 シャロンの背中に降ろしてもらったミカエルは、赤い宝石の付いた、節くれだった白いスタッフを構える。杖型アーツ『限界無き夢』だ。


 優の左手の薬指に嵌った指輪が光を放ち、白いライフルが出現する。『ガーデンズ・ガーディア』である。


「っ、そうだ! ユウさん! その指輪、別の指に嵌めた方が良いです!」

「えっ? ……あぁ、そっか! 既婚者ばかり狙っているんだっけ?」


 優は未婚だが、左手の薬指に指輪を嵌めていては、既婚者と誤解されるかもしれない。


 敵はどうやら既婚者の女性を中心に殺して回っている、という情報は、優も聞かされていた。


 故に、優は指輪を一旦、右手の中指に嵌めなおす。


「何だか面白くない感触だけど……まぁ、四の五の言ってられないか。さぁ、やるわよ!」


 優はスコープを覗き……人工レイパーの頭部に狙いを定めると、引き金を放つ。


 優の放ったエネルギー弾は、人工種ドラゴン科レイパーに見事命中。


 しかし、僅かによろめかせたくらいのダメージしかない。何かしたのか、と言わんばかりに、人工レイパーはお面の付いた顔を、攻撃が来た方に向ける。


 その刹那、ミカエルは巨大な火球を創り出し、敵の奥側の地面目掛けて放った。


 真っ直ぐに飛んでいった火球は地面を砕き、土煙が発生。


 さらに、その衝撃で人工レイパーを吹っ飛ばし、バスターから離すことに成功する。


「よし、じゃあ行ってくる!」


 今が好機と、ファムはバスターの方へと向かい、シャロンが優とノルン、ミカエルの三人を地上に降ろした。


 ファムがバスターを助けている間は、四人で敵を食い止めなければならない。


「一か所に固まると、攻撃の的になるわ! でも離れすぎると、万が一の時にフォローが出来ない! バラバラに動きつつ、遠くに行きすぎないように! 瓦礫とかを上手く利用して、隠れ場所を移しながら、隙を見て攻撃していきましょう!」

「遠距離攻撃ばかりでは埒が明かん! 接近戦は、儂が引き受ける! 援護は頼んだぞ!」


 そう言うやいなや、シャロンの体が白い光に包まれる。


 防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動させたのだ。


 これと竜の鱗が組み合わされば、多少のダメージは気にせず、人工種ドラゴン科レイパーと取っ組み合える。


 シャロンは大きく吠えると、人工レイパーの方へと、弓なりに飛んでいく。


 そして拳を振り上げると、人工レイパーの頭上から、重力と体重を乗せた強烈な一撃を繰り出す。


 しかし――


「ッ!」


 迫るシャロンに気が付いていた人工レイパーは飛翔すると、シャロンの懐に入って拳を躱し、そのまま鉤爪を振り上げ、シャロンの体に命中させた。


 鱗と命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)のお蔭で、抉られることこそ無いが、強い衝撃が襲い掛かる。


 その威力は、先手で攻撃していたはずのシャロンの巨体を、十メートル近く吹っ飛ばしてしまう程。


「ぐぉ……!」


 吹っ飛ばされたシャロンは、瓦礫や建物の残骸を壊しながら、背中を地面に強く打ち付ける。


「ぐ……!」


 しかし、シャロンは腕を上げると、そこに六つの雷球が出現し、そこから放たれた電流が網目を作り、さながら鳥籠のような形状となって、シャロンごと人工レイパーを閉じ込めた。


 雷球型アーツ『誘引迅雷』で創り上げた、電流の檻。これを作ったのには、勿論理由がある。


 ちらりと、ファムがバスター達のところへと降り立つのが見えた。


 彼女のところには、行かせない。この檻は、そういう目的だ。




 ***




 一方、首尾よくバスターのところへと辿り着いたファム。


 人工レイパーと戦っていた二人のバスターは、満身創痍。互いに肩を貸し合わなければ、立つこともままならない様子だ。


 二人はやって来たファムを見て、一瞬怪訝そうな顔になるが、すぐに「あっ」と声を上げる。


「き、君は……もしかして、援軍かしら?」

「助けに来たんだ! 私の仲間があいつを引き付けているから、早く逃げよう! 私が避難所まで送るから!」

「いや……駄目よ!」


 ファムの提案に、バスターの女性は苦しそうな顔で首を横に振る。


「向こうにまだ、逃げ遅れた人がいるの! そっちを放ってはおけない!」

「えぇっ?」


 ファムは思わず、バスターが指差す方を見て声を上げる。


 曰く、瓦礫で逃げ道を失い、止む無く隠れることしか出来なかったのだそうだ。


「こっちはもう、仲間が三人も殺された……。私達も満身創痍。でも――今ここで、私達だけが逃げ出すわけにはいかない!」


 そう言ってバスターが目を向けた先には、三体の死体。


 バスターが悔しそうに唇を噛み締めるのを見て、ファムは小さく頷いた。


「分かった。二人は、逃げ遅れた人の救助をお願い! 私は向こうを引き受ける!」

「ごめんなさい……あなた達に、一番大変なことをさせてしまって……」


 そう言って、バスターが救助に向かった、その直後。


 雷の檻の中から、轟音が聞こえてくる。


 見れば、人工レイパーの攻撃で、シャロンが再び吹っ飛ばされたことによるものだった。


 直後、炎のレーザーや風で集めて作られたリング、エネルギー弾等が放たれる音が続けざまに聞こえるが、人工レイパーにクリーンヒットはしていない様子。


 そして――人工種ドラゴン科レイパーは大きく飛翔し、雷の檻を突き破ると、口を大きく開く。


(ヤバ……ブレスが来るっ! どうしようどうしようどうしよう!)


 口にエネルギーが溜まっていく様子に、一瞬体が膠着。


 しかし、すぐさま炎と風を集めて、空中に巨大な盾が出現したのを見て、ファムは考えも無しに飛び出した。


(どうするどうするどうするっ? ノルンを助けて……いや、一番ヤバいの、ユウじゃんっ!)


 防御魔法や、強靭な鱗を持つミカエルやノルン、シャロンと違い、優は生身。命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)があるとは言え、あれを一度受けているファムは、そのブレスの恐ろしさを知っている。


 ファムが全速力で飛んでいった先には、優の姿。


 彼女も、来たるブレスの威力がヤバそうだと直感しているのだろう。ブレスから逃れようと、全力で逃げていた。


「ユウ! 摑まって!」

「ファムっ? ありがとう!」


 何故ここに? バスター達はどうした?


 沸き上がった疑問は一旦脇にどかして、優はファムが伸ばす手に掴まる。


 優を引き寄せ、逃げるのと、人工レイパーがブレスを放つのは同時。


 赤黒いブレスは、空中に作られた炎と風の盾に激突。


 一瞬膠着するも、あっという間に突き破り、地面で爆発した。


「ノルーンっ! せんせぇ! シャローンっ!」

「いや……ファム! 見てあそこ! 無事っぽい!」

「ほんとだっ!」


 ブレスが地面に直撃した寸前で、シャロンが二人を懐に抱え、守ったのだろう。


 三人とも倒れてはいるが、起き上がろうと体を震わせていた。


「みんなっ! 大丈夫っ?」

「あ……ファム……! ごめん、何とか……!」


 起き上がりながらそう答えるノルン。


 しかし……人工種ドラゴン科レイパーが、その場を離れ、南東の方へと向かうのを見て、目を大きく見開いた。


「ど、どうしよう……向こうは確か、避難所があったはずですよね師匠っ?」

「お、追わないと……!」


 杖を支えに、立ち上がろうとするミカエル。その肩を、ノルンと優が左右から支える。


「ぐ……お主ら、背中に乗れ! 奴を追う……!」

「シャロンさんっ? 駄目です無茶ですよ!」

「こんなところで倒れておられるかっ? 儂はまだ戦える……!」


 悲鳴を上げる体。鱗の隙間から、僅かに血が滲み出る。


 満身創痍なのは明らかだ。


 そんなシャロンを見て、ファムは口をもごもごさせ、それでも意を決して口を開く。


「ミカエル先生! ユウ! 私に掴まって!」

「ファムちゃんっ? 二人同時になんて無理よ!」


 ファムは誰かを抱えて空を飛ぶことはあるが、余程のことが無ければ、一人しか運ばない。これが、空中を速く動け、さらに小回りもきかせられるギリギリの人数だからである。


 おまけに、ファムもある程度は体力を消耗している状態だ。ミカエルが止めるのも無理は無い。


 だが、ファムは首を横に振る。


「今のシャロンに、二人も運ばせられないよ! ほら、早く! ペチャクチャ喋っている余裕、無いでしょ!」


 気合だの根性だの、そんな暑苦しいことは大っ嫌いなファム。


 だが疲弊したシャロンに無理をさせて平気な顔は出来ない。『大事な事』以外はほどほどにする……これがファムのモットーだ。


 ここは頑張るべき時である。


「駄目なら、すぐに降ろして頂戴……!」

「う……ごめん、ファム!」


 苦しそうに、しかし素直に頷くミカエルと優。


 二人を抱え、飛び上がるファム。背中に装着された翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』を動かすと、背中に痛みが走るが……一瞬だけ顔を顰めて、すぐに平気そうな顔を作る。


 正直、キツイ。


 それでも、ファムは翼をはためかせ、人工種ドラゴン科レイパーの跡を追う。


 ノルンを背中に乗せたシャロンが、それに続くのであった。

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