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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第29章 ティップラウラ
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第251話『引受』

 雅達が人工種ウサギ科レイパーと戦っているのと、時を同じくして、ティップラウラの空を北西へと向かって飛ぶ、人と竜の姿があった。


 山吹色の鱗の、全長三メートル程の竜はシャロン・ガルディアル。


 シャロンの背中に乗っているのは、黒髪サイドテールの女子高生、相模原優。


 銀色のプロテクター……装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を纏う少女は浅見四葉。


 四葉に抱えられている、前髪が跳ねた緑色の髪の娘は、ノルン・アプリカッツァ。


 白翼のアーツ『シェル・リヴァーティス』で空を飛ぶ、ウェーブ掛かった紫色の髪の娘はファム・パトリオーラ。


 ファムの手にぶら下がっている、二十代くらいの女性……白衣のようなローブを纏い、ツバの広いエナン帽をかぶった金髪の女性は、ミカエル・アストラム。


 以上六名は、北西でバスター五人と交戦中の人工種ドラゴン科レイパー……般若のお面に憑りつかれた、葛城裕司のところへと向かっていた。


 すると、


「……っ! 皆さん! 散って!」


 ノルンが突如、顔を青くしてそう叫ぶ。


 彼女のスキル『未来視』が、敵の奇襲を教えたのだ。


 ノルンの言葉で、四葉とファム、シャロンが慌てて横に逸れると、刹那、空気が熱くなったと思ったら、今まで彼女達がいたところを、炎が通り過ぎた。


 あのままそこにいたら、焼き尽くされていた……そんな勢いの炎だ。


「あれは……ノストラウラの時の人工レイパーだわ!」


 何者が攻撃してきたのかと、地上に目を向けたミカエルの声が響く。


 そこにいたのは、全身を黒いタイツで覆われたような、人型の化け物。顔には、ほっかむりを被り、口を窄めた男のお面……火男のお面が貼り付いている。


 そのお面の後ろには、顔が無い。人工種のっぺらぼう科レイパーだ。


「なんであいつがっ?」

「クズシロを追う私達の足止めってところかしら? まずいわね……あんなの相手にしている余裕、私達にないわよ!」


 のっぺらぼうの人工レイパーの力を実際に自分の目で見たことのあるミカエルは、眉を傾ける。


 六人で戦えば勝てないとは思わないが、苦戦させられるのは必須。後ろに大きな戦いが控えているこの状況で、強敵との交戦は可能な限り避けたい。


 だが、さりとて完全無視も出来ないのだ。ミカエルが困るのも、無理は無い。


 すると、


「こいつは私が引き受ける! あなた達は先に行きなさい! アプリカッツァは任せるわ」

「い、いやアサミ! 良いのかっ?」


 思わぬ提案に、シャロンは驚いた声を上げた。


 そんな彼女をギロリと睨む四葉。


 良い訳がない。自分がウラに来たのは、葛城の不始末の責任を取りに来たのだ。本来であれば、関係のない敵に構っている場合ではない。あののっぺらぼうの人工レイパーの相手を他の人に押し付けるのが、四葉にとってはベストな選択だろう。


 あの黒い体から迸る、微かな殺気。それだけで、奴が只者ではないのは分かる。どう考えても、引き受けるのは得策では無いだろう。


 だが、この人工レイパーを無視することが、四葉には出来なかった。


 敵の戦闘力的にも……そして、四葉の心情的にも。


 何故だかは分からないが、この人工レイパーを、四葉は無視したくなかった。


 自分でも分からない気持ちに、どこか燻るような気持ち悪さを覚えながらも、それでも四葉は、こののっぺらぼうの人工レイパーと戦うことを選ぶ。


「黙って言う通りにしなさい! 誰かが何とかしなきゃ駄目でしょう!」

「ヨツバさん! 私も――」

「いらない! 葛城の方が、人手が必要でしょう!」


 怒鳴りつけるように言いながら、四葉はシャロンの背中に、ノルンを座らせた後、四葉はのっぺらぼうの人工レイパーの方へと体を向ける。


 あの黒い体から迸る、微かな殺気。それだけで、四葉は奴がただものではないと、本能的に理解する。


 ミカエルの先の発言からも、それは間違いでないことは、容易に理解出来た。


「さぁ、早く行きなさい! モタモタするんじゃないわよ!」

「ぐ……ごめんなさい! シャロンさん、行きましょう!」

「ぬぅ……致仕方ない! アサミ、頼むぞ!」


 ノルンとシャロンは少し躊躇ったものの、悠長にしている場合ではないというのは理解していた。


 故に、四葉の言う通りに、葛城の方へと向かう。


 人工レイパーは彼女達を追おうとしたが、


「あなたの相手は私よ!」


 人工レイパーへと、勢いよく急降下しながら、敵に向かって衝撃波を放つ四葉。


 横っ跳びし、難なくその攻撃を躱す人工レイパーだが、衝撃波が地面に命中して、爆煙を発生させる。


 敵の視界を封じたうえで、四葉は空中から勢いよくドロップキックを決めにいく。


 だが――


「――っ?」


 キックは空しく空を切り、地面に命中し、小さなクレーターを作る。


 そして、次の瞬間、


「っ!」


 左後方から強い殺気を感じとり、咄嗟に左腕を上げた瞬間、そこに衝撃が襲い掛かる。


 人工レイパーが、蹴りを繰り出し、それを防いだという構図だ。


 お返しに回し蹴りを放つ四葉。


 人工レイパーはそれを、バク転で回避。


 四葉が左手にエネルギーを集め、のっぺらぼうがバックステップで四葉と距離を取ると、顔に付いた火男の口が、熱を帯びる。


 衝撃波と火炎放射が空中で激突して相殺され、辺り一面を煙が埋め尽くした。


「――っ!」


 不意に、四葉が左側に気配を察知した瞬間、人工レイパーが、煙の中からぬぅっと現れる。


 そして四葉の腹部へと掌底が放たれるも、四葉は腕をクロスさせてそれをガード。


 軽く吹っ飛ばされてしまうも、四葉に大きなダメージは無い。


 攻撃を防いだ腕が若干痺れているが、それくらいだ。


 思っていた程、強敵では無い。四葉はそう直感する。


(戦ったアストラム達の過小評価……では無いわね。全力が出せないのかしら?)


 そう思いながら、四葉の視線が、敵の頭の上から、つま先まで滑る。


 どこかを怪我している訳ではなさそうだ。どちらかというと、精神的な理由から、攻撃を渋っている雰囲気である。


 となると、全身をプロテクターに覆われた相手と戦うのは初めてなのだろうか?


(……何にせよ、好都合だわ。一気に攻め立てて、さっさと片付ける!)


 四葉は軽く深呼吸して――勢いよく、地面を蹴って人工レイパーへと迫るのであった。

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